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戦国異伝

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第二百九話 もう一人の龍その十

「そこで布陣しておりますが」
「わかった、そうか」
「では殿、ここは」
「どうされますか」
 細面の片倉と大柄な成実が政宗に問うた。
「攻められますか、それとも」
「籠城ですか」
「そうじゃな、ここはな」
 政宗は己の左右に控えたうえで言う二人に応えた。
「磨上原に向かう」
「磨上原ですか」
「あちらにですか」
「行かれるのですか」
「ここから」
「そうじゃ」
 そうするというのだ。
「よいな」
「ではそこにですか」
「織田の軍勢を誘き寄せ」
「そしてそのうえで」
「戦じゃ」 
 今まさに言った。
「よいな」
「はっ、それでは」
「これよりです」
「全軍で磨上原に向かい」
「そこで」
「戦じゃ」
 またこう言うのだった。
「わかったな」
「まさか磨上原とは」
「あの地での戦とは」
「あの地のことはよく知っておる」 
 政宗は片倉と成実ににやりと笑って述べた。
「だからこそじゃ」
「あの地に織田家を誘き寄せ」
「そしてそのうえで」
「あの地で織田家を破り」
「我等の領地を守りますか」
「いや、守るのではない」
 政宗はそれはj否定した。
「磨上原で破りじゃ」
「さらにですか」
「さらに前に進み」
「そして、ですか」
「天下を」
「天下は織田家のものとなりつつある」
 最早関東まで掌握した、そうなることは最早誰が見ても明らかだ。しかし政宗はその信長を見てあえて言うのである。
「その織田家を倒せばじゃ」
「天下は我等のものとなる」
「伊達家の」
「そうじゃ、天下はわしのものじゃ」
 その野心も見せる政宗だった。
「織田信長を倒してな」
「では」
「織田信長を倒し」
「そうしてですな」
「その全てを手に入れますか」
「織田信長は。そうじゃな」
 にやりとだ、狼を思わせる笑みになりだ。政宗は言った。
「御主達と共にじゃ」
「殿の傍らにですか」
「置かれますか」
「御主達がわしの両腕でじゃ」
 それぞれだ、それでというのだ。
「そしてじゃ」
「織田信長は何になりますか」
「殿の」
「頭じゃ」
 片倉と成実がそれぞれ両腕でだ、信長はそれになるというのだ。
「わしのな」
「何と、頭ですか」
「殿のそれになるというのですか」
「織田信長は」
「そこまでの者ですか」
「そうじゃ、織田信長はわしの頭となる」
 そこまで買っているのだ、信長をだ。 
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