大晦日のスノードロップ
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6部分:第六章
第六章
その人が持って来たのはスノードロップだった。マーシャ達が作ったあのスノードロップだ。それを持ってきたのである。
役人は女の人にそれを手渡した。女人はそれを受けてからマーシャにまた顔を向けてきた。
「それでね」
「あの」
マーシャはここであることに気付いた。
「お外、寒いですよね」
「えっ」
その人はマーシャにいきなり言われて少し目を大きくさせた。
「ですから。中に入りませんか」
「貴女のおうちにかしら」
「はい、宜しければ」
マーシャは言った。
「どうでしょうか」
「いいのかしら」
女の人はそれを受けてまた尋ねてきた。
「私が中に入っても」
「ええ、寒いでしょうから」
マーシャは優しい声でこう言った。
「よかったら。どうぞ」
「じゃあ御言葉に甘えて」
その人はそれを聞くとまずはにこりと笑った。そしてこう述べた。
「お邪魔させてもらうわ」
「はい」
「あの」
「いいのですよ」
その人は止めようとする役人に顔を向けて言った。
「この子が折角案内してくれたのですから。好意は受けるべきです」
「そう仰るのならいいですが」
「ではアレクサンドル」
「はい」
今度は傍らにいる黄金色の髪の少年に声をかけた。着飾った服も立派な美しい少年であった。何処か少女を思わせる容貌であった。
「貴方も来るかしら」
「宜しいのですか、御祖母様」
「ええ、いいわよ」
彼女はにこりと笑って孫に応えた。
「貴方のおかげでここに来ることになったのだから」
「わかりました。では」
「ええ」
二人はマーシャの家の中に入った。粗末な部屋の中でマーシャとリーザが並んで立って二人を迎えていた。
「ようこそいらっしゃいました」
まずはマーシャがぺこりと挨拶をした。リーザもそれに続く。
「何もないおうちですけど」
「よかったらお座り下さい」
「それでは御言葉に甘えて」
女の人がテーブルに座った。アレクサンドルはその横に立った。そしてまずはテーブルの上で刺繍とアクセサリーを広げた。
「それは」
「これを作った人だけれど」
女の人は二人を見上げながら尋ねてきた。
「貴女達かしら」
「は、はい」
二人は戸惑いながらもそれに答えた。
「そうです」
「けれどこれをどうして」
二人にはこの人がどうして自分が女帝に献上したこのスノードロップを持っているのかわからなかった。まさか女帝が自ら来ているとは夢にも思わなかった。
「そう、やっぱりね」
女の人はそれを聞いてあらためて微笑んだ。
「アレクサンドル」
そして孫に顔を向けた。
「この娘達よ、私にこれをくれたのは」
「私って」
「まさか」
「うん、そうだよ」
アレクサンドルが二人に答えた。
「この方はこのロシアの主エカテリーナ陛下なんだよ」
にこりと笑ってこう述べた。それを聞いた二人は思いきり驚いた。
「ええっ!?」
「まさか」
流石にこれは信じられない。嘘だと一瞬思った。だが。アレクサンドルもその横に座るこの人も嘘を言っている顔ではなかった。二人はこれもわかった。
「そのまさかよ」
その女の人エカテリーナはまたにこりと笑ってきた。
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