藤崎京之介怪異譚
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case.1 「廃病院の陰影」
Ⅷ 不明
俺が気付いた時、そこは白くぼやけた空間だった。
「ここは…?」
辺りには白衣を着た人が行き交っているが、どうやら俺は見えてない様だった。その上、音が壊れたラジオのようにハッキリとは聞き取れない…。
ここは随分と広い部屋で、ベッドが幾つも並んでいる。
「病院…なのか?」
俺は室内を見回しながら、記憶を辿り考察を重ねていた。
何でこんな場所にいるのか?一体ここは…どこなのかと…。
大体、こんな来たこともない場所になんで俺が…。
「ん?でも…。」
俺から見て正面、見覚えのある扉があるのだ…。
「そんな…有り得ない!」
だが間違いなかった。
その扉には“204”と書かれていたのだから…。
俺はそれらを考え併せ、ある結論に至った。
「空間記録か…?」
恐らく、これは空間に残された記録の断片なのかも知れない。
それにしても…鮮明なものだ。音は別としても、映像はまるで、そこにいると錯覚してしまうほどだった。
「これは…知るチャンスか…。」
俺は待つことにした。この空間が、何か見せたいのだと思えたからだ。
暫くすると、入り口から一人の男性が姿を見せた。名札には“今井”と書かれており、団員と見た壁の写真に写っていた人物とそっくりだったため、自ずと彼だと分かった。
―…君……は…どうかね……吉野……容体は…だが………私……―
やはりよくは聞き取れない。だが、“吉野”と言わなかったか?
「どういうことだ?トメは今井と面識があったのか…?」
その答えは、切り替わった次の場面にあったのだ。
今井が、そこから例の扉の中へと姿を消した時、俺の意思に関係なく、俺は扉の内側に移動していた。
その中もかなり広く、やはりベッドが幾つも並んでいたが、患者は一名しかいなかった。
そこにいたのは、若い頃の吉野トメだと見て分かった。
そのトメに、今井が何か話している。
―……さん、具合は…すか……必ず治…から……僕と結婚………さい…………ですよ……早く一緒になっ……幸せ…………私は…ずっと………―
次の瞬間、俺は自分の目を疑ってしまった。
二人が抱きしめ合ってるのだ。まるで将来を誓い合うかのように…。
その光景を見た俺は、思い違いをしていたのだと気付いた。
「まさか…この研究は、トメのためだったのか…!?」
そう俺が呟いた時だった。今度は何かに引っ張られるかのように、俺は闇の中へと引き戻されて行ったのだ。
あの深い闇の中へと…。
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