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藤崎京之介怪異譚

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case.1 「廃病院の陰影」
  Ⅵ 7.21.am10:23



 俺は一足早く、あの廃病院へ向かうためにホテルを後にした。
 団員達にはバスを頼んであり、午後1時に現地に来てもらうことになっている。
 今日も快晴の青空が広がり、誰がこの空の下で事件が起こることを想像できるのだろう。
 きっと、あの事件があった時も、この空は変わらずにあったことだろう…。
 そんな風に考えると、無性に虚しくなるのはなぜだろう…?
 俺はそんなことを考えながら、車で廃病院へ向かっていた。
 少しすると、あの廃病院が見え始めた。が、何だが様子が…というか、景色が違うのだが…。
 俺は訝しく思い、速度を上げて急いだんだが、目的地へと無事到着した俺は、何とも異様な光景を目にする羽目になった…。
「何じゃこりゃ…。」
 車を降りてそれを見ていると、向こうから田邊がやってきた。
「お早いお着きですね。あと2~30分程で完成しますから、一先ずはこちらへお願いします。」
 周囲には、作業服を着た人達が五十人程で作業をしていて、大型の作業機器まである。まさに建設現場さながらだ…。
 その中で、俺はテントを張ってある場所へ案内され、パイプ椅子に腰を落ち着けた。
「田邊君…、あれは一体何なんだ?」
 俺は、少し離れた所にある建物を指差し、田邊に尋ねてみた。
 恐らく、あれが「あるもの」なんだろうが…。
「あれですか?あれは即席ステージですよ。室温・湿度、共に調節可能な優れ物です。」
 田邊は何とも思ってないようだが、俺は顔を引き攣らせてしまった。何でこんなもんがここへあるんだ…?それ以前に、こんな建物がなぜ、この世の中に存在するのか疑問なんだが…。
 俺がそれらについて口を開こうとした時、先に田邊が話始めた。
「これは実家に頼んで作っておいてもらったんです。先生が厄介事に巻き込まれると、大抵は屋外で演奏することになりますからねぇ。僕が設計したんですが、中々の出来栄えだと思いませんか?」
 信じられん…。こいつ、なんちゅうもんを…。
 俺が冷や汗を流していると、何やら設置が完了したとかで、一人の男性が田邊を呼びに着た。
 俺達は彼の案内で、建物の正面にやって来たが…。
「田邊君…?前、硝子張りなんだけど…。」
 こいつの予測不能さは霊にも匹敵する。
「良いでしょう?特注で作ってもらった強化硝子ですよ!周囲にはラテン文字を入れて装飾代わりにしたんですけど、いかがですか?」
 あまりの凄さに、俺は言葉も出なかった。
 硝子に刻み込まれた文言は、ミサ通常文のグローリアからのもので、まるで神を讃える箱と言った具合に、堂々とした風格さえ感じさせた。
「なぁ…田邊君、聞きたくないんだ。聞きたくはないんだが…、費用はどれくらいしたんだ?」
「これですか?まぁ、殆んどが特注でしたから、ザッと一億ちょいってとこです。」
 聞かなきゃよかったよ!俺はどうやら、とんでもないやつを知り合いに持っちまったらしい…!
 天宮氏だってそうだが、俺にはどうも不釣り合いな気がしてならないんだよな…。
 俺が自分について考察している時、近くに一台の外車が停まった。
「やぁ藤崎君、準備は順調かね?」
 それは天宮氏だった。
「天宮さん、ご無沙汰してます。」
 俺が挨拶しようとした矢先に、なぜか田邊が挨拶をした。
 俺はビックリして田邊に聞いてみた。
「田邊君、天宮氏と面識があるのか?」
 今まで俺は、彼らに面識があるとは考えもしなかった。その質問に答えたのは田邊ではなく、天宮氏だったのだが。
「藤崎君、隠すつもりはなかったんだがね。田邊建設とうちとは爺さんの代からの付き合いでね、彼のことも子供の頃から知っているんだ。」
 全く持って初耳だった。だが、天宮氏も田邊も、あまり自分については語らない性格だ。こちらから聞けば答えるが、そうでない限りは口にしないのだ。
 まぁ、他人に対して距離を置いているように見えるが、それが返って人間関係に良い結果を出しているようにも思う。
 人徳なのか才能なのか…。彼らだからできる芸当なのかも知れないな。



むんですよね…。
 この二首は、そこを通る時にふと詠んだもの。

 
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