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戦国異伝

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第二百八話 小田原開城その十

「まだじゃ」
「では」
「まだ」
「そうしてもらう」 
 こう言うばかりだった、やはり。
 そしてここまで話してだ、松永は彼だけが陽気な中でだ。そうしてこうしたことも言った。
「それでじゃが」
「はい、今度は」
「何でしょうか」
「茶を飲むか」
「丁渡休みだからですか」
「それで、ですか」
「うむ、飲むか」
 やはり陽気に言うのだった。
「そうするか」
「殿は茶が好きですな」
「何かと飲まれていますな」
「茶器もお好きですし」
「何かと」
「特に平蜘蛛が」
「ははは、あれはよい茶器じゃ」
 平蜘蛛の話になるとだ、笑って返す松永だった。これまで以上に。
「わしは宝を多く持っているが」
「その中でもですな」
「あの平蜘蛛は第一の宝」
「そうなのですな」
「うむ」
 まさにそうだというのだ。
「あれはな」
「そしてその宝で」
「茶を淹れられて飲まれていますな」
「今は持って来ておらぬがな」
 それでもというのだ。
「あの茶器はじゃ」
「まさにですな」
「殿の最高の宝」
「それでありますな」
「あれだけはな」
 まさにだ、平蜘蛛だけはというのだ。
「持って行くぞ」
「持って行くとは」
「どちらに」
「地獄にじゃ」
 ここでもだ、松永は笑って言ったのだった。
「持って行くつもりじゃ」
「?地獄に」
「地獄にとは」
「殿、それは幾ら何でも」
「不吉でな」
「いやいや、人は必ず死ぬ」
 このことからだ、松永は己の言葉にいぶかしむ彼等に返した。
「だからな」
「それで、ですか」
「人は必ず死ぬからこそ」
「その時にはですか」
「地獄に」
「わしはいい死に方をせぬな」
 こうも言う、己の口から。
「しかしじゃ。その時にな」
「その、ですか」
「平蜘蛛を地獄まで、ですか」
「持って行かれますか」
「他の宝は。まあ適当でよい」
 そういったものには執着を見せなかった。松永が多く持っている他の宝達については。
「しかしじゃ」
「他の宝には」
「そちらには」
「一行に、ですか」
「構いませぬか」
「誰にやってもよい、死ぬ時はな」
 こうも言う、しかしだった。
「平蜘蛛は違う」
「どうしても、ですか」
「地獄まで」
「一緒じゃ、ああ御主達もな」
 軽く笑ってだ、松永は今度は彼等にも言ったのだった。 
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