恋愛多色
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恋なんかじゃない
「それ取って」
「はい」
機械作業のように、僕は優実に消しゴムを渡す。消しゴムと優実の距離、およそ10㎝。
甘やかし過ぎだ、何て周りには言われるけど、僕はこれでいい。彼女のために何かをしてあげられる、これが唯一、僕が生きていると実感できることだ。だから何と言われようと、僕はやめない。
「じゃー篠原、ここ読んでくれるか?」
国語教科担任、朝山俊介が言う。
「今どこ?」
やっぱり来た。
「214ページ」
授業なんか聞いちゃいない、いつものことだ。そして僕はそこに優しくフォローを入れる。聞いてないのを注意すればいいじゃないか、何て言うのかもしれないが、よく考えてくれ。
例えば、好きなゲームの話だとしよう。するとどうだ?聞けと言われなくても聞くだろう?じゃあ反対に、という言葉が正しいのかわからないが、反対に何の知識もない、ましては興味もない科学の論文の話だとどうだろうか?聞くかい?答えはノーだ。つまり僕はこれを当てはめている。人にやられて嫌なことはしない、物は言いよう考えようだ。
「白鳥、続き読んでくれ」
おっと
「今どこ?」
「白鳥君」
後ろを振り返ると、学級委員長の澤田がいた。
「ちょっといい?」
「え?あー…」
僕は困りながら優実を見る。今から帰ろうという時に何なんだ。
「いいわよね?篠原さん?」
澤田は優実を見て言う。何で澤田は男女どちらも名字で呼ぶのだろうか。
「え、だめ…」
「いいわよね?」
「…はい」
おいおい、力任せかよ。由美はしぶしぶ承諾した。
「来て」
澤田はそう言うと回れ右をし、廊下へと出ていった。俺もそれに続き
「ちょっと待ってて」
と優実に居ながら教室を後にした。
「いつまでやってるつもり?」
「はぁ?」
話の意図がつかめない。
「いつまであんな奴と恋人ごっこしてるつもり?!」
「恋人ごっこ?!」
何を言ってるんだこいつは。
「召使い用にこき使われて」
「召使いなんかじゃ…」
「じゃないって思ってるだけよ」
バッサリ僕の言葉を遮った。
「いいようにあしらわれて、文句言わずに遂行して、あの子、ダメ人間になるわよ?」
「ダメ人間って…」
なるわけないじゃん。
「甘やかしすぎっ!」
ビシッ!指はまっすぐこちらを向いている。またそのセリフですか…
「言いたいことそれだけ?」
早いとこ帰りたい。
「えっあの…」
ないな。
「それじゃ」
「あっ待ちなさいよ!」
待つ気はない。僕は教室へと歩を進める。なぜか澤田は追ってこなかった。
やばい。
具体的に何がやばいって、それは…
「大丈夫なの?」
横を向くと澤田がいた。体調が悪いのがばれたらしい。
「おう」
僕はそう言って右手を挙げる。
「嘘つき」
そう言って澤田は、自分の手を僕と自分のでこに当てた。
「熱はないみたいね」
由美に見つかったら殺される。
「保健室いこ?」
澤田よ、心配してくれるのはありがたいが、これでは俺が徹夜した意味が…あれ…
目が覚めると天井があった。倒れたのだろうか。感触的にはベッド…
「よかった!」
がバッ!突然抱き着かれる。優実かと思ったが、どうやら澤田らしい。
「ちょっ…おまっ…離せって…」
今はいないが、優実が来たら一気に修羅場になる。
「あんた、あいつのために徹夜したんだって?」
「え?」
何でばれてるんだ?
「ごめん、カバンから出てきたもろもろ見ちゃった」
ああ、落ちた時に中身が散乱したのか。壊れてないかな、スパンコール。
「あんたが体壊しちゃ意味ないじゃん…」
泣いてる?でもこれが僕がやれること、生きている実感を持てるもの。
「私はあんなのいらない」
それ以外に僕がいる理由なんて…
「私はあんたがいればいい」
………
「あんたがいなくなるのは…やだよ…」
僕が…?僕がいればいい…?そんな…
「あんな女、捨てちゃいなよ」
僕の心は、自問を繰り返すばかりだった。
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