恋愛多色
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屋上Times
「帰りてー」
屋上で寝っ転がり、俺は一言声に出した。微かに始業のチャイムが聞こえる。
「フア~」
気分が悪いと言ってバッくれた授業、保健室に行かなくてもばれやしないだろう。
青い空、流れる雲、気もちい風、誰もいない屋上。誰かが入ってくるなんてないだろう。屋上の鍵を開けたのは、紛れもない俺なのだからな。近所にいたおじさんが教えてくれたピッキング、そういえば最近見ないけどどうしたんだろうか…
「あれ?開いてる」
予想もしていなかった人の声、俺は勢いよく体を起こし、入り口を見る。しまった、鍵をかけ忘れてた。
固まる二人。よかった、先生じゃなかった。
「あなたが…開けたんですか?」
恐る恐る(怖がられる要素一つもないと思うけど…)彼女は俺に訊く。
「うん」
俺は頷く。言葉遣いから察するに、3年生ではないのが分かった。
「来なよ」
「え?」
少し怯えすぎじゃねーか?
「大丈夫、なんもしねーよ」
そう言いながら、俺はまた横になる。彼女も授業を抜け出してここに来たんだ、無下に追い返すわけにもいかない。
「お邪魔します」
おいおい、ここは俺の家じゃねーっつーの、庭みてーなもんだけど。ん、ということはお邪魔しますは間違ってない…って何考えてんだ。
彼女は俺の隣に座った、あんなに警戒してたのに何で…
「優しいんですね」
「え?」
俺は彼女に顔を向け、訊く。
「私、男の人ちょっと苦手で…」
なるほど、だからあんな感じだったのか。
「隣にいて大丈夫?」
俺は少し心配になり、訊いてみる。そういうのって、重傷なほど気分が悪くなるんじゃないかって思ったからだ。
「大丈夫です」
彼女はそう言う。声が若干明るくなったから笑っているのだろうか、まだ目を合わせるのは難しいようだ。
「私がビビりすぎてたんですよ」
「え?」
誰だ、この作者の話に「え?」が多いとか言った奴は。
じゃなくて、ビビりすぎって…
「私のお父さん、すっごい厳しい人で、去年単身赴任するまで怒られた記憶しかなくって…楽しい記憶もあったはずなんですけど、それが思い出せないっていうか…だから私、どうも男の人苦手なんです」
なるほど、彼女の中では男の人=怒られる人、という解釈になるわけだな。怒られた記憶が多いってことは、怒られることに対し、どうにかしてでもそれから逃げようとする。そうすると自然と男子との会話も減る、固定概念がぬぐえないのも無理はないか。
「けど…よくわからないんですけど…」
彼女は言葉を探すように、と言うより、緊張しながら言った。
「あなたにはそれがないんです」
おう。なんだこれ、なんだこの感覚。まるで告白されたみたいな…いやいや待て待て待て、そんなことを告げたわけじゃねーって彼女は、とりあえず落ち着け、俺!
「じゃあ…」
「ひっ!」
彼女は声を上げ、小刻みに震えた。
「だっ大丈夫?」
さすがに起き上り、彼女のに声をかける。
「ごっ…ごめんなさい…」
自分を抱くようんして震える彼女、俺は咄嗟に背中を擦る。
「ゆっくりでいい、落ち着いて」
一体どうしたのだろうか…もしかして言葉のチョイス間違えた?何かいけないこと言っただろうか…
徐々に震えも止まっていき、肩で大きく呼吸する彼女。
「すみません」
全力疾走の後のような声で、彼女は言った。
「謝んなくていいって」
俺は笑顔で答える。少しでも不安を取り除けるなら、それでいい。
「父の口癖で…」
さっきよりははっきりと、彼女は言った。
「あの言葉?」
俺は訊く。それに対し彼女は、ゆっくり頷いた。
「私が意見を言った後、その言葉の後に、これはどうなんだ、ここはどうなる、と続いて…」
めんどくせー、それが俺の素直な意見だった。あちらを立てればこちらが立たず、メリットデメリット。そんな当たり前なことを根掘り葉掘り訊いて、一体何になるっていうんだ。デメリットがあろうとも、自分が望んだメリット、つまり結果が得られればいいんじゃないのか?安全策しか通っちゃいけないのか?
「ごめん…」
俺は素直に謝る。
「いや…そんな…」
彼女は恐縮したように言う。
しばしの沈黙。
「あのさー」
とりあえず、とりあえずこれだけは、彼女に提案しておかなければいけない。
「俺で慣らしていったら?」
「え?」
彼女は不思議そうに言う。
「俺大体暇だし、こうやってサボってることも多いし、俺でよかったら手伝うよ」
世話焼き男、学年の中でそんな異名を持つ男。確かに、今もその世話焼き精神が出てるだけかもしれない。だがそれでいい、別に嫌々やってるわけではないから。
「いいんですか…?」
驚いたように言う彼女。俺は笑顔を作り
「もちろん!」
グッドサインを出していった。彼女はグッドサインを見て、次に俺の顔を見る。ようやく目が合った。
「お願いします!」
笑顔で言った。
何だ、可愛いじゃねーか。
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