英雄は誰がために立つ
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Life3 ついでに、アザゼル再臨
前書き
敵オリジナルサーヴァント登場です・・・・・・が、士郎達の前に現れるのはいつになる事か・・・。
人間界、某所。
「――――と言う事で、当て馬のスパルタクスは敗れ去って行ったが気分は如何だ?」
とある広々とした空間にある2人の人物が居た。
1人は、黒いフードに模様どころか穴ひとつも開いていない仮面を付けた怪人、Kraだった。
「興味ありませんな」
Kraの質問に、素っ気なく答えるもう1人の人物。
黒髪にスーツの上から白衣を着ている男性だ。
「相変わらず、――――の虫か」
「そんな私を見込んで召喚のでしょう?」
Kraの皮肉に対して、背中を向けたまま答える男性。
「話をしているんだ。そんな時位こっちを向け」
「そんな事を一々気にするような性格では無かったと、認識していましたが?」
「・・・・・・・・・・・・・・・」
皮肉に近い図星を突かれるKra。しかし、そんな事で嫌悪感を出す程子供でもない上、人間らしい感情を持ちえていなかった。
「ずいぶんと性格が悪いものだ」
「そこはさすがに否定させて頂きますよ」
Kraの言葉に、漸く振り返る男性。
「私の元の性格のまま召喚したとしても、協力しないだろうと予測して特殊な術式――――M2――960でしたか。人格改変術式と共にバーサーカーのクラスに無理矢理あてはめたのでしょう?たいして狂気に堕ちた逸話など無かったはずですが」
自身に施したKraの仲間の行動を、まるで他人事のように語る男性。
「確かに有名どころは無かったが、全くないワケでは無いだろう?」
「あんなものは誰にでも起きうることでしょうに。まぁ、今此処で、貴方と言い争っても何の解決にもなりませんし、何より召喚して頂いた事で私にも多くの利点がありますから、良しとしましょう」
そうして、作業に戻る様にKraに背を向ける。
「進捗率はどの程度だ?」
「漸く3割を超えた所ですな。完成の目途と言うのであれば、遅くとも約一年後かと。オーダーには間に合わせますのでご安心を」
目の前の英霊を、召喚したのも依頼したのもKraではないので、要らぬ心配だ。
それに、間に合わなければ別の手を打つ――――と言う、単にそれだけの事だったが、心は籠められないが一応労う事にした。皮肉を添付して。
「そうか。だが、その割には余計な事にまで手を出している様だが?」
「文句を言われ素筋合いはないですな。合間にしているお遊び的なモノですし、被験者たちには殆ど心身ともに害はない筈です。あくまでも限定的な実験ですから」
このお遊びと言うのは、何所かで召喚中の英霊の記憶に、本体から限定的に記憶を引き継がせる様に割り込みを掛けると言うモノと、この世界のある人物に平行世界の同一人物の記憶を、夢を見る形として頭の中に投影すると言うモノだ。
「・・・・・・・・・」
男性の言葉に釣られたワケではないが、彼の背中を見据える。
この英霊は強力な宝具を持っているワケでは無い。
ステータスもバーサーカークラスとして無理矢理当て嵌めた事で、漸く一流の魔術師でも苦戦する程度に上がったほどだ。やり様によっては負けるであろうが。
故に、当て馬と評するならスパルタクスよりも、この英霊であろうに。
では何故重宝しているかと言うと、彼の逸話から成る宝具と固有スキルの両方の特殊さにあった。
キャスタークラスでもないのに時間を掛ければ、EXランクの宝具を持つ破格の英霊達をも圧倒出来る“力”を得られるだろう。
それどころか、――――の―――を打倒する事を前提の――――の――――が進められていた。
そして現在はその作業中だった。
この広々とした空間に、所狭しと置かれている――――や――――の数々は、全世界全存在の幸福のためになる――――と言う事の反対であろう事は確信できる。こんな薄暗く、胡散臭い人物たちが何かしらの企みをしているような場所なのだから。
-Interlude-
「――――って事で、今日から世話になるぜ。それと、神器の方では世話してやるよ」
体育館で終業式を終えて、各クラスにて通信簿を受け取り終えてから帰宅――――では無く、とある3人を除いたリアス及びその眷属らは、旧校舎のオカルト研究部の部室に来ていた。
そこで、駒王協定締結から確実に二週間以上経過しているにも拘らず漸く来たアザゼルが、その場開口一番に告げて来た。
「人を驚かせるのは貴方の趣味なの?アザゼル」
「趣味か否かっつたら、趣味だな。悪趣味にまで興じるつもりは無いが、少なくとも今回は驚かせる気は無かったんだがな」
リアスの嫌味に、相変わらず悪びれる様子も無いアザゼル。
「それにしても、ずいぶん遅かったわね?協定締結のあの日、一週間前後とか言ってなかったかしら?」
「俺もそのつもりだったんだが、時期的に中途半端って事で突っぱねられたのよ。サーゼクスにな」
「お兄様に?」
アザゼルの言葉に訝しげな目線を送るリアス。
「――――つっても、サーゼクスを経由しての『藤村士郎』からのものだがな。いざとなれば認識操作でいいじゃねぇかとも言ったんだが反対されてな。シェムハザにも相談したんだが自重しろって言われてよ、メフィストフェレス経由でシェムハザに先に根回ししてやがったのさ!あの奴は」
感心と呆れの両方を混ぜたような感情が、声音から伝わってくるリアス達。
「なるほど。お兄様から聞いた話だけれど、士郎は極力一般人に認識魔法・魔術を使うのを嫌ってるから、緊急時位は仕方がないと割り切るらしいけど、それ以外は厳しいわよ?」
「お堅いねぇ~。そういうの嫌いじゃねぇけどよ・・・」
そこでリアスの眷属が半分くらいしかいない事に気付く。
「ありゃ?もう半分は?」
「あの子たちは士郎の家に帰ったわ。冥界に行くために“説得”をしなければならないのよ」
「誰を?」
何故とは聞かないアザゼル。
「士郎のお母さん、アイリさんをよ」
-Interlude-
藤村家は今、何とも言えない重い空気の中にあった。
士郎達5人が帰宅してからは、通信簿を親に見せるなどのイベントもあり和やかな雰囲気だったが、相応の覚悟をして夏休みのの大半をオカルト研究部メンバーは全員、ある避暑地に行くと告げてからと言うモノ、重苦しい空気と唯ならぬプレッシャーを、アイリスフィールは放っていた。
大黒柱たる切嗣は、仕事があると言う言い訳から逃げ出していた。
「どうしても行っちゃうの?ギャスパー・・・」
アイリの目線は向かいでも斜めでもなく、真横に居たギャスパー本人に向けられていた。
「は、はいぃぃ・・・。ごめんなさいですぅぅ」
弱弱しく申し訳なさそうに答える。
「リアスさんの事情も理解しているけど・・・・・・」
ギャスパーの髪を優しくかき分けながら、いじける様に考え込むアイリ。
「そうだわ!私も一緒に着いて行く「駄目だ」士郎!?」
アイリの突飛過ぎる提案を即座に切り捨てる士郎。
「子供を大切にするのは母さんの良いところだが、過保護過ぎる!だいたい、父さんの補佐は誰がするんだ?」
「う゛っ」
士郎に現実を突きつけられて黙るアイリは、溜息をついてからギャスパーに向き直る。
「・・・・・・わかったわ。私の降参だけど、条件があります」
「じょ、条件ですかぁぁぁ?」
「そう♪今日から出発する日まで、私と一緒におねんねしましょうね♪」
「ぇえぇぇえええぇえええ!!?」
驚くと同時に助けを求めようと周りを見渡すと、既に誰も居なくなっていた。
『条件』と言う言葉を耳に捉えた瞬間に、士郎は両隣に居た祐斗とゼノヴィアの首根っこを掴み瞬時に廊下へ移動したのだ。ギャスパーを生贄にして。
「ふえぇええええええぇええ!!?」
「あら?士郎も気が利くじゃない!さぁ、御着替えしましょうね~♪」
そんな会話が廊下に行った3人の耳を打った。
「大丈夫なんですか?」
「多分な。何時もの猫可愛がりが始まっただけだろ?」
ギャスパーがこの家の世話になる時、リアス達の着せ替え人形になりながら男の子らしい服装で行ったのだが、『こんなに可愛い男の子なら、女の子の服の方が絶対似合うわよ』と言うアイリの暴論により、家の中ではギャスパーの服は今まで通り女の子の服装になった。
「それに今戻っても巻き込まれるぞ?」
『う゛っ』
それに端を発し、つい最近ではゼノヴィアや椿姫は勿論、祐斗まで着せ替えさせようとする始末だった。
「それにギャスパーはなんだかんだ言っても、母さんに可愛がられるのは嫌そうじゃないだろ?」
「それは、まぁ・・・」
「そうですね」
ギャスパーはリアスの元に流れてくるまで、父親や周りからも冷遇されて、母親の顔も知らずに育ったのだ。
そのため、アイリに可愛がられている時、『お母さんって、こんな感じなんだぁ』と内心では喜んでいる時がよくあったのだ。
まぁ、幼いころの環境が決して人並みの幸せを感じられ無かったのは、祐斗もゼノヴィアも、今は居ない椿姫も同じだったが。
「羨ましいって思うなら混ざってくればいいんじゃないか?」
「いえ!遠慮します!!」
「木場?」
士郎の皮肉に全力で拒絶の意思を見せる祐斗。
それもそのはず、祐斗が着せ返されるのは男物だけでは無く、ギャスパーと同じ女子向けの服装まで着せ替えさせられるのだった。
本人としては全力で抵抗すれば余裕でアイリを振り切る事も可能であったが、形式上とは言え、人質役としてこの家に御厄介になっている身分だし、アイリに怪我をさせる可能性もあるので、捕まったら最後まで成すがままだったらしい。
しかも無抵抗なのを良い事に、最後辺りには『ハァ、ハァ』と、危ない息をしながら着せ替えさせるものだから、流石に同席していたイリヤが突っ込みを入れて中断させたとの話だ。
イリヤ曰く――――。
『母様の頭に初めてチョップしたわ』
――――と言う事らしい。
「そ、それよりも、士郎さん!この後時間開いてますか!?」
この話題を続けたくない様なのか、無理矢理な話題変更のためか最初から考えていたのかは定かではないが、士郎に向けて焦った声で話を振る。
「ん?稽古か?」
「はい!付き合ってもらえると有り難いんですが・・・」
祐斗は、士郎に稽古を付けてもらった日から、暇があればよく頼んでいた。
「悪いが直には無理だ。これからゼノヴィアの夏休みの宿題のテキスト帳を借りて、ゼノヴィアとアーシアのために翻訳せにゃならん」
「そ、そうですか」
仕方がないとはいえ、落ち込む祐斗。
「なに落ち込んでるんだ?直にはって言ったんだぞ?」
「はい?」
士郎の言葉がイマイチ理解しきれていない祐斗。
「あの程度の量、長くなっても2時間で終わるから、それから付き合ってやるから待っててくれって言ったんだぞ?」
士郎の言葉が信じられなくて、目を白黒させながらゼノヴィアに向くと、彼女は肩をすくめる仕草を見せた。
そんな2人の返答を待つこと無く士郎は、翻訳のために自分の部屋へ向かった。
それから2時間後、約束通りに士郎との稽古が始まる様になったが、それまでの時間に居間からギャスパーの呻き声が3、4回聞こえた。
しかし祐斗は己の貞操――――保身のために、いずれも聞こえなかった振りをし続けた。
そんな一時を、まるでただの犬のように欠伸をし、尾を振り続けるミッツは眺めているだけだった。
-Interlude-
翌日。
リアス達は、ギャスパーを除いた自分の眷属らと、ソーナ及びソーナ・シトリー眷属らで水着を買いに来ていた。
ギャスパーが居ないのは、未だ人混みが不慣れと言う理由もあるが、アイリのよって猫可愛がり状態だからだ(ギャスパーが旅立つまで仕事をボイコット中)。
ギャスパーの分は請け負っているが、ちゃんとした男用の水着だ――――と言うか、これで女ものの水着を着たら、紛うことなき変態だ。女装で済まされるレベルではない。
それと、同行中の男である一誠と祐斗、それに元士郎は、男の水着など女性に比べればすぐに終わるので、当然のごとく荷物持ちに駆り出される予定だ。
「藤村組としての仕事・・・・・・ですか」
その集団の中で、どうせなら士郎にも同行させればよかったのでは?と言う声が出たので、ゼノヴィアが事の次第を説明した。
藤村家で暮らすようになって約1ヵ月ほど経過しているゼノヴィアには、後から来た3人に伝えといて欲しいと言う事で、1人だけ事前に聞かされることが多く、藤村家の居候の中でリードしている(と、ゼノヴィアは思っている)。
この事に、ゼノヴィアは嬉しく思っていた。新入りの1人であり、自分と同じく士郎に恋をしている椿姫には料理面で劣っているからだ。
「相変わらず士郎も大変ね。夏休みに入ったのに、早速仕事だなんて」
「ああ。だが、自分んことは気にせずに楽しんで来いって行ったぞ?部長」
「まるで、父親のセリフですわね。精神年齢が高すぎます!本当に士郎君は、年齢誤魔化しているんじゃないかしら?」
「まったくです」
そんな1人の男を話題に、夏休みだからも相まって、話題に盛り上がりを見せている駒王学園お姉様達。
傍から見ても彼女たちは浮かれていた。それが町中のど真ん中で起こしていると言うのだから、直の事である。それを、美少女の群れが起こしているのだから尚更目立つ。
そんな彼女たちを狙っているナンパ野郎どもが周りを取り囲んでいて、更に町の路地でそれらの光景を盗み見ている人物がチラホラいるのも知らずに。
-Interlude-
ここは、東京千代田区にある公式組織の建物の中のある一室だ。
「お早う御座います、藤村切嗣様」
「お早う御座います、塚田警視監。本日もよろしくお願いします」
お互いに、恭しくお辞儀をし合う。
「塚田警視監、今回は愚息の士郎にも席を用意して頂き、ありがとうございます」
「なんのなんの、藤村組のご子息ともなれば後継者でしょう。この様な機会でもなければ、顔を合わせる事など有りませんからな。これからの事を考えれば当然の事ですよ。ですので、これからはよろしくお願いします。藤村士郎殿」
「恐縮です、塚田警視監殿。しかし、今の私は父の付添い人――――肩書きなどない身ですから、如何か、呼び捨てにして下さい」
当然のように、敢えて下手にでる士郎。
「ハハハ、ずいぶんとしっかりしているのですね?御子息は。しかしながら此処は公の場、流石にその様には往きませんので、如何かご理解いただきたい」
「そうですか?いえ、そうですね。無理を言って申し訳ありませんでした。未だ若輩の身故の先程の失言、如何かご容赦いただければ幸いです」
この様に、あくまでも世間体を考えた社交辞令を続ける両者。
そのやり取りをもう少し続けてから、譲り合い席に着く藤村組代表の2人。
そもそも今回の仕事は、小中高の夏休み中の行動の押さえに対する確認の会議だ。
夏休み中の押さえなので、本来の対策会議は既に切嗣とアイリが御呼ばれした場で、行われている。
つまり、士郎が今日出席しているのは、本当に顔見せの様なモノだった。
『――――お集りの皆様、本日の議題に入りたいと思います』
会議が始まった。
-Interlude-
時刻は昼過ぎ頃。
リアス達は、混雑に巻き込まれない様に、比較的早めに昼食をとってからショッピングモールにて買い物をし始めた。
『・・・・・・・・・・・・』
それを、荷物持ち同然の男子たちは店の外で待っていた。
ベンチに座りながらスマホをいじる元士郎。
柱に寄り掛かりながらリアス達に時折視線を向ける祐斗。
水分補給のためにか、コーラを飲みながら周りに視線を泳がせる一誠。
ようするに暇を持て余していた。
そんな空気に耐えかねたのか――――どうかは判らないが、元士郎が話を切り出す。
「そう言えば、木場。藤村先輩の家での生活は如何なんだ?」
「うん?結構よくしてもらっているよ。皆いい人ばかりで、既にアイリさんからは壁を突破られて呼び捨て状態だしね」
これは人によるだろうが、幼少時代につらい体験をしてきた祐斗にとっては、別にリアスの家が居心地悪いワケでは無いのだろうが、グレモリー公爵家に比べれば親しみやすく、非常に好感を持てる接し方をされ、とても居心地が良い様だった。
「そうか~。それで藤村先輩とはどうなんだ?未だに信じられないんだが、コカビエルを倒した時みたいに、やっぱり強いのか?」
協定締結の日から、椿姫を除いたソーナ・シトリー眷属の皆が、元士郎と同じ思いのようだ。
「強いなんてものじゃないよ?士郎さんは規格外も良い所さ。悪魔に転生してからも鍛えてきた僕でも、追いつくまでに最低でもあと10年以上はかかる。同じ人間の体だったら、どれくらいの差になってたか知れたものじゃないよ」
「そんなにか~。会長も副会長もべた褒めだったし、すごいな・・・!」
「・・・・・・・・・・・・」
そんな2人の会話をよそに、1人面白くなさそうにする一誠。
「如何した?兵藤」
「いや、別に――――」
「あー、やっぱりか。イッセー君は士郎さんの事が気に入らないんだね?」
最近、一誠の様子が自分に対してよそよそしいと士郎から聞いていた祐斗は、今迄人知れず観察していた結果をぶっちゃける(観察していた事は言わないが)。
「気に入らないってワケじゃ無いんだが・・・」
何とも歯切れの悪い返答に、祐斗はさらに踏み込む。
「と言うか、僻み?」
「・・・・・・木場、もう少しオブラートに包んでくれてもいいんじゃねぇか?」
如何やら、図星だったようだ。
一誠としては、士郎が昔の知り合いだったことを思い出してから、心の淵で優越感が幾つかだけ出来たことに喜んでいた。
『俺はリアス・グレモリーの全部を知っている。ただの幼馴染に士郎さんと違って』
『悪魔に転生した今の俺なら、士郎さんに勝てるんじゃないか?』
しかし蓋を開けてみれば、名を馳せた凄腕の魔術師で、コカビエルや謎の巨漢、ひいては辛勝――――いや、まだ奥の手を隠していた白龍皇ヴァ―リを圧倒する規格外の戦闘力を有している上、リアスの実兄サーゼクス・ルシファーと“契約”こそしていないモノの、魔王と魔術師であることを前提とした関係だった。
これらの事実を次々に突き付けられた一誠は、祐斗の言う通り僻み妬んだのだ。
表の方で負けているのは当然であり、裏の方でも負けていたので、これでは自分に何があるんだのだと心の中でふて腐れていたのだった。
「――――けど、部長達の前でそんな格好のワリィ事言えるワケないだろ?」
「まぁ、あれだけ強くて完璧人間なら、兵藤じゃなくても少しくらいは僻むはな~?木場は其処ら辺、如何なんだ?」
「僕は何とも、寧ろ尊敬してるくらいだしね」
あっけらかんと受け止める祐斗に対して、2人は何とも微妙な気分に陥った。
「――――と言っても才能がじゃない・・・。その姿勢がだよ?」
「は?」
「姿勢?」
祐斗の言っている姿勢と言う言葉の意味を、よく解らなそうにする2人。
「そもそも、士郎さんが今まで獲得したほぼ9割以上が、才能面は無かったものなんだよ」
「何言ってんだよ?」
「オイオイ・・・」
2人は祐斗の話に訝しむ。
「会談襲撃の日に見せたり、僕と真羅副会長とゼノヴィアの3対1の時にも見せた剣術だって、才能が無いんだよ?剣の師にも『シロウは筋はいいですが、才能はありません』って、太鼓判を押されたぐらいなんだから」
「・・・・・・冗談・・・だろ?」
「作り話にしては綺麗すぎじゃね?」
「作り話でも冗談でもないよ?でも僕も如何して?って聞いた事があるんだ。そうしたら――――」
『才能が無いからって、如何して辞めなきゃならないんだ?それとも祐斗は、剣の才能が無いって言われてたら辞めるのか?』
「――――ってね」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
2人は口を挿まずに黙り込んだ。
「それと――――」
『例え、才能がなかろうと無茶無謀であろうと、夢に向かう姿勢は決して間違いなんかじゃないんだから』
「――――とも言ってたよ?」
『・・・・・・・・・』
最早、何も言えなくなる2人。
「勿論、才能もあるモノはあるけど、士郎さんは基本的に『努力の人』さ。僕は尊敬できると思うけど?と言っても、前を向きすぎてる所とか、眩しく思える時もあるけどね?」
祐斗の言葉に、嘘偽りが無い事を漸く悟った2人は、溜息を吐いた。
「何と言うか、すごすぎるな。確かに会長が言う通り精神年齢が高すぎる」
「――――と言うか、、カッコイイって思っちまったよ」
「僕からすれば、イッセー君だって十分カッコイイよ?勝ち目が薄いコカビエルにも白龍皇ヴァ―リにも挑んでいこうとする姿勢とか!僕にとっては士郎と一誠ともヒーローに思えるけど」
士郎同様に、駒王学園の女子生徒達を魅了するイケメンスマイルで、一誠を褒める祐斗。
「褒めてくれるのは嬉しいんだけどよ、キモイぞ?木場」
「そ、そんなぁ!?酷いや!イッセー君!?」
祐斗は本音を語っただけなのに、酷評された事に落ち込む。
そんな2人を見ていた元士郎は、微妙な感情を内心で溜めこみながら見ていた。
(俺からすれば、木場だってカッコイイさ。それに比べて俺は・・・!)
右手を2人の視界から外すように握り拳を作る。
2人に悟られないように、そんな葛藤をする元士郎だった。
「君たち、ちょっといいかな?」
そんな時、見知らぬ男性が3人に声を掛けて来た。
「はい?」
「ん?」
「なんですか?」
「私は所謂、私服刑事何だが、話を聞いて欲しい。“彼ら”の視線が、君たちのお連れさんに向いている今がチャンスなんだ・・・!」
いきなり警察手帳を背広の内ポケットから取り出した男性は、少々焦りながら3人に向けて話し出した。
-Interlude-
時刻は14時ごろ、士郎と切嗣は会議を終えて挨拶を一通りに済ませた後に帰宅するところだった。
「すまなかったね、士郎。お前もみんなの買い物に、付き合いたかっただろうに」
「構わないさ。それに、いずれは通る道なんだ。早い事に越したことはない」
「すいません、切嗣殿!士郎君!少し、お時間頂けませんか?」
そんな時、階段で二階まで下りてきた処で塚田警視監に呼び止められた。
「塚田警視監?如何したんですか?」
「少々、込み合った話があるんですが、そちらの部屋でお話しできませんか?」
2人は最低限の警戒をしながら、誘導された部屋に入ると、込み合った話だと言うのに5人ほどの警察官がいた。
「これは如何いう事ですか?」
「まっ、待ってください!我々は別に、藤村組と争う気は無いんですから!」
切嗣の訝しむ瞳に気圧されながらも、ワケを説明しだす塚田警視監。
「藤村組・・・・・・・・・と言う事は、身内の恥・・・と言った処ですか?」
「士郎、何を?」
塚田警視監の言葉の一部から、瞬時に事態を予想出来た士郎。
「士郎君は、まだ学生の身だというのに、恐ろしい程の洞察力を持っているんだね?」
「褒めても何も出ませんよ?それより、身内の恥なんですね?」
「ああ。お察しの通り、未だに君たち藤村組を目の敵にしている警察官が居る事は予想出来ていてだろ?しかし、“相応の処分を受けた元警察官たち”の二の舞になるまいと鳴りを潜めていた様なんだが、また彼らが行動を起こそうとしていたのさ」
「それを事前に察知した塚田警視監が、信頼できる刑事さん方を集めて対応をしてきたと言う事なんですね?」
その通りですと、切嗣に頷く塚田警視監。
警察と言う職種は治安維持のための組織故、人によっては傲慢になりやすく、市民からは嫌われやすくもある公務員だ。
そのため、人気だけを掻っ攫うような藤村組をよく思っていない警察官は、多かれ少なかれ存在していた。
しかし、それを実行に移そうと考えるものなど皆無だったし、その様な事を気にせずに職務に励む警察官も大勢いた。昨今では、一部の犯罪に手を染めた元警察官のせいで、厳しい声も上がっているが。
だがしかし、何かのはずみで着いた火種は燻り続けて、それが大火となって数年前の事件を起こしたのだ。
「そして彼らは今日、実行する気です。あなた方の身内及び、ご友人さん方との買い物中を狙っています」
「・・・・・・泳がせたんですか?」
「誹りならいくらでもお受けします。しかし、現場を抑えない限り同じ刑事なら直の事、処分に追い込むことが出来ませんでしたから」
士郎の責めるような瞳にも臆することなく、塚田警視監に代わり刑事の1人が淡々に説明する。
「判りました。取りあえず、責任の所在は一旦置いておきます。しかし、こんな話を切り出したと言う事は監視の目が当然ついているんですよね?」
「重ね重ねお察しの通りです。今は“彼ら”の監視の目が、買い物中のお嬢さんたちだけに向いているので、現場に居る我々の仲間が、離れた所で休憩中の少年たちに事情を説明させている処です」
「では今から現場に?」
「いえ、“彼ら”は実行犯に過ぎませんし、そのバックである蛭田警視監を押さえます!」
また別の刑事が、藤村組を潰そうと躍起になっている中心人物の名をばらす。
「蛭田警視監は表沙汰にこそなっていませんが、少々やらかしまして、発言力の低下はおろか降格処分になりそうなので手柄を焦っていた所で“彼ら”のバックに名乗り上げた、地位に固執している俗物です」
同じ地位を預かる身からなのか、責任を放棄した上に私欲に走り、性根が腐った蛭田警視監を吐き捨てるように呟く塚田警視監。
「判りました。私が同行しましょう。士郎は一応、リアスちゃん達の下に行ってやるんだ」
わかったと、二つ返事で頷く士郎。
塚田警視監を信用していないワケでは無かったが、一応の措置として藤村組組長としての判断だった。
そうして、藤村親子は互いに背を向けてお互いにやるべき事のために、刑事と共に駆けて行った。
-Interlude-
士郎が駆けつけてきた時には既に、事態は収束に向かっていた。
周りの一般市民に迷惑を掛けないように迅速に行動した結果なのだろう。
パトカー以外の警察がよく使用していそうな乗用車の何台かの後ろの席には、仕掛け人と実行犯合わせて10名ほどの男女が仲良く手錠を掛けられていた。
それにしても、辺りでは乱闘騒ぎなど微塵も無かった様だ。
理由としては、例えチンピラやそこらのナンパ共がしつこく食い下がってきた時には、暴力には極力訴えずに藤村組の名を出せばいいと幼馴染のリアスを始め、同じ屋根の下で暮らすようになったここには居ないギャスパーを入れた4人にも言い含めていたのだ。
そして士郎は現在、ゼノヴィア達に事の事情を自分の口からも説明し終えた。
「すまなかった。藤村組の事情で、折角気分を良くしていただろう買い物を台無しにして」
「大丈夫よ、士郎。イッセー達男の子達は勿論、私たちも2人以外は買い物を終えてるから」
そうかと、ほっと息を吐くが、その2人と言うのが気になった士郎。
「私です、士郎君」
「私もですよ?士郎君」
「蒼那と椿姫?」
「ええ。ですから、気にはしていないのですが・・・」
「士郎君が良ければ、明日に私たちの買い物に付き合ってもらえませんか?」
「ああ、別に良いぞ。そんな事でよければ・・・」
士郎の快諾に、僅かに頬を朱に染めて笑みを浮かべるソーナと椿姫。
そんな3人を後ろから憎々しく見つめる1人の視線が合った。
無論、ゼノヴィアだ。
ゼノヴィアからすれば、士郎に極力迷惑を掛けぬ様にと例え水着を迷っても、先延ばしにせずに買ったのだが裏目に出たようだった。
ソーナと椿姫は、ゼノヴィアの視線にも言いたい事にも気づいていたのだが、基本的にクールな2人は憎悪が籠った視線をそよ風のように受け流して、しれっとしている。
そして士郎は、ゼノヴィアの視線に気づいていたのだが、彼女の視線を黙殺していたソーナと椿姫に引き止められるような会話に足止めを喰らい、この場が完全に収まるまで駆けつけてやれなかった。
-Interlude-
蛭田警視監の拘束を終えた切嗣と塚田警視監は、一息ついてから並んで廊下を歩いていた。
「ありがとうございました。我々の身内の恥に、付き合わせてしまいまして」
「大丈夫ですよ。しかし代わりと言っては何ですが、聞かせて下さい。塚田警視監はずばり、穏健派と言うより中立派ですね?」
切嗣の指摘に苦笑いする塚田警視監。
「元々我々には、そんな派閥を作ってはいないんですが、その様にモノです」
「つまり、藤村組が道を踏み外せば・・・」
「無論、しかるべき対処をさせて頂きますよ?しかし、現時点ではそれも杞憂でしょう?私も冬木市出身で、先代の雷画殿に幼少時代から御世話になった身ですから、藤村組の安全性も必要性も判っていますよ」
全てを語ったワケでは無いだろうと切嗣は思ったが、嘘では無い事も理解出来たので追及する気は無かった。
「そのお言葉、確かに肝に銘じておきましょう。そしてこれからもお互いに――――」
「――――よき関係では無く、何より一般市民の安全のために協力していきましょう」
そこで足を止めて向き合いながら手を握り合う2人。
未だ互いに隠している事もあったが、『一般市民の安全の第一』と言う共通項は少なくとも嘘偽りのない本音であると言う事は確認できたため、2人は協力し合う事を誓い合った。
-Interlude-
此処は、神の子を見張る者の研究施設だ。
そこへ、転移陣からアザゼルが帰還して来た。
「おや?」
「がっはっはっはっ!如何したんだアザゼル?」
そんなアザゼルを出迎えたのは、副総督のシェムハザに、特撮ヒーローに魅入られて年中その衣装に身を纏ったアルマロスだ。
「俺、久々の登場なのに出番少なかった」
アザゼルの言葉にお互いに顔を向けあった後に、シェムハザとアルマロスが口を開く。
「久々なのは知っているが――――」
「登場と言うのが誰に向けて行っているのかは、イマイチ理解できませんが――――」
『何時もの悪戯(では・だろ)?』
「・・・・・・・・・・・・・・・」
笑い続けるアルマロスと冷静なシェムハザの皮肉に対して、苦虫を噛み潰したような表情を作るも、心当たりがあり過ぎて何も言えなかったアザゼルだった。
後書き
最後の要らなかったんですが、オチつけてみました!
ソーナ×士郎×椿姫のデートについてはぶっちゃけ、なーーーんにも考えてないんですが頑張ります!
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