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英雄は誰がために立つ

作者:昼猫
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Life2 ケルベロス

 
前書き
地獄の番犬が出てくるわけではありません。単なる比喩表現です。 

 
 午後7時前、士郎は漸く帰宅した。

 「ふー、ただいまー・・・・・・!?」

 玄関から家に入るとそこには、エプロン姿の椿姫がまるで大黒柱たる家の長を労う恭しい妻の様に正座をして待っていた。

 「お帰りなさいませ、士郎君」
「な、何を・・・・・・・・・してるんだ?」
「何って、旦那様(士郎君)のご帰宅を迎えるのは(新参者)の務めでしょう?」

 何が可笑しいんですか?と、素で聞きたそうに首をひねる椿姫。f

 「いやいや、おかし「士郎さん、帰って来てたんです・・・n」ゼノヴィア?」

 士郎の帰宅時の声を呼び水に、玄関に急いできたゼノヴィアの眼前に移った光景は到底信じられるものでは無かった。
 私の男(士郎さん)泥棒猫(新参者)NTRカウントダウン開始(夫婦の真似ごと)をしていると言う受け入れがたい光景だった――――と、ゼノヴィアは勝手な解釈と理解により、そう感じた。

 「如何したんですか?ゼノヴィアさん」

 そんなゼノヴィアの心情を察知したのかは不明だが、椿姫からゼノヴィアに声を掛けた。
 それはまるで、先制攻撃のようだ。

 「っ・・・・・・い、いえ、何でもありません。それより、夕食が出来ているそうなので、行きましょう。それと荷物お持ちしますよ、士郎さん」

 それに対して、一瞬だけ唇を噛んだように悔しげな態度をするゼノヴィアだったが、この状況では不利と感じたのか腸が煮えくり返りそうな思いを押し殺した上で、士郎達を居間へと促す。
 しかし、チャッカリと士郎の荷物を運ぶと言う行動は忘れない。

 「ありがとうな、ゼノヴィア」

 お礼を言われたゼノヴィアは僅かに頬を赤らめる。
 それだけでも嬉しそうな顔をして、椿姫を見やる。まるでしてやったりなどと言った感じで。
 しかし当の椿姫は平気そうだ。

 そうして居間に付き、座るとそこには祐斗とギャスパーが居た。

 「おっ、体大丈夫か?」
 「は・・・・・・・・・はい、お世話掛けましてすいません。絶対に着いて行くなどと言う大言をはたいといて、士郎さんに此処まで運んでもらって」

 士郎の気づかいに、詫びと礼で返す祐斗。

 「まぁ、そこは仕方ない。男ってのは時に無茶をしたくなるもんさ。けどこのままじゃ同じことの繰り返しだからな、祐斗の体力は把握したからメニューを組んでおいたよ。明日からはそれで始めてくれ」

 それをお礼を言いながら受け取る祐斗。
 因みに祐斗は昼前には起きたらしい。

 そんな彼らの前に女性陣が料理を運んできた。
 なかなかの出来栄えだったので、実母が腕を上げたのかと思い褒めようとしたが、本人はそれを否定する。

 「今晩の夕食は椿姫さんが作って下さったのよ!」
 『えぇええ~~!!?』

 アイリスフィールの言葉に誰よりも早く、イリヤとゼノヴィアが言葉をハモらせて驚く。

 「はい、大した腕ではありませんが、お気に召してもらえれば幸いです」

 その言葉と共に、それぞれ個々に別々に頂ますを口にしてから、眼前の料理を頬張る。

 『!』
 「あら?おいしいわ!」
 「ホントだね、これ位の腕が有れば何時でも士郎を任せられるよ」
 『!?』

 椿姫の作った料理は士郎には及ばないものの、現時点で第2位のイイの料理の腕を持つものに加えられた。
 そんな料理の美味しさに、驚きを隠せなかったイリヤとゼノヴィア(2人)は、切嗣の何気ない一言に別の意味で驚く。

 (そ・・・・・・そんな!?)
 (士郎を持ってかれちゃう!!?)
 「何言ってるんだよ?父さん。彼女に失礼だろ?」
 (士郎さん!)
 (全くだわ、切嗣は後で折檻ね!)

 士郎の言葉に喜びの言葉を心の底で浮かべる2人。

 「おや?士郎は嫌なのか?」
 「そ、そんなわけないだろ?そりゃ、椿姫程の美人とそんな仲になれたら俺だって嬉しいさ!」
 『!!?』
 「し、士郎君・・・!」

 思いもしなかった会話の流れから生まれた士郎の言葉に、椿姫は嬉しさのあまりに顔全体を真っ赤にし、問題の2人はと言うと――――。

 (嘘だウソだ鷽だうそだ鷽だ嘘だウソだ鷽だうそだ嘘だウソだ鷽だうそだ――――)
 (・・・・・・・・・士郎は渡さないっ・・・!絶対に渡すもんですか!)

 予想通り、それぞれショックを受けていた。

 「クァルタ先輩・・・」
 「だ、大丈夫?ゼノヴィア・・・」

 祐斗とギャスパーは、気遣うも当のゼノヴィアは聞いていなかった。
 料理はなかなか美味しかったようだが、士郎を中心にカオスな夕食だったそうな。

 因みに、予告通り切嗣は折檻された。


 -Interlude-


 あれから、無事?に夕食をすまして女性から順にバスタイム終えたようで、椿姫は試験勉強に勤しんでいた。
 そこで小休憩を挿んでいると、携帯に着信が有り出る。

 ピッ。

 「はい、会長ですか?こんな夜分に何のご用でしょう?」
 『いえ、貴女の事ですから心配はないと思いましたが、一応気になったので様子の確認です。ですが、その分でしたら余計なお世話の様でしたね』
 「いえ、お気遣い感謝します、会長。私はちゃんと務めを果たしていますので、安心してください。リアスさんの大事な眷族の御三方は勿論、士郎君の事も含めて」

 最後の士郎と言うキーワードを強調する椿姫。

『・・・どう言う意味ですか?椿姫』
 「会長、私は会長の眷属の長として、会長を支えていくつもりです。ですが、士郎君の事は別です」
 『・・・・・・・・・・・・・・・』
 「言うまでも無く、士郎君は女誑しです。そして私は見事に引っかかってしまったんですよ、会長。今の私はもう、士郎君無しで生きていける気がしません」
 『つまりこれは、私に対する宣戦布告ですか?』
 「はい、これだけは会長に譲る気はありません!」
 『貴女の意思は判りました。この件については今日から完全に敵同士ですね』

 譲るも何も、未だ士郎は誰の(モノ)でもないのだが、彼女達からすれば些細な問題のようだ。

 「それでは会長、おやすみなさい」
 『ええ、おやすみなさい。士郎君は一筋縄ではいかないでしょうが』

 最後にそう言い残して電話が切られた。

 「判っていますよ会長。誰よりも、廻りが悪いくらい鈍感な士郎君自身が強敵と言う事は・・・」

 先程までの通話相手はもう、返さないのを理解していながら携帯に対して呟く。

 「ッ・・・・・・・・・駄目ね、士郎君と同じ屋根の下に居ると思うと、気の高ぶりを抑えられない・・・。今日も自分でこの高ぶりを静めないと」

 いつか、士郎に自分の高ぶりを静めて欲しいと夢見ながら寝床に転がりつつ、気を静める応急処置をする椿姫。
 こうして今日も夜は更けていった。

 因みに、夕食時のショックがあまりに強すぎたのか、それぞれ別の時間に破れかぶれで士郎の寝こみに夜這いを掛けようとしたゼノヴィアとイリヤ(2人)は、当然の様に返り討ちに遭った。


 -Interlude-


 日曜日の早朝。
 ゼノヴィアと祐斗は、士郎から貰ったトレーニングメニューに従ってランニングに出て行っていた。
 ギャスパーは人見知り克服のため、藤村夫婦と朝食づくりの手伝いをしていた――――というより、ギャスパーを気に入ったアイリによって一方的に可愛がられていており、当人も克服のため我慢していた。

 そして椿姫は、自分で組んでいる朝のトレーニングメニューを一通り終えて、離れの一つである道場に来ていた。
 空気を切る物音に釣られて見に来ればそこには、士郎が二刀の短剣を流れるような動きで振るっていた。だがその動きは、攻勢には出ていなかった。

 (士郎君が防戦一方だなんて、イメージ上の仮想敵は一体どれほどの使い手なのかしら?)

 椿姫は、士郎が闘っている仮想敵が想像だけのモノでは無いと瞬時に理解できた。
 そうでなければ、これほどの気迫が外野である自分にまで伝わってくるはずがないからだ。
 そして激しい仮想敵との戦いの末、士郎は押し切られて負けた様だ。

 「ふぅ・・・。それにしても、見てて楽しいのか?」
 「!?何時から気づいてたんですか?」

 士郎の後方から見ていた椿姫は、背中に眼でもついていたんじゃないかと驚きを見せる。

 「道場(此処)に入ってきた時からだ。この道場位楽なもんだぞ?というか、会談前の白龍皇の突然訪問の時に、みせたじゃないか?」
 「そう言えば、そうでしたね・・・。それにしても先程の仮想敵はどれほどに強いのですか?士郎君が負けるなんて」
 「・・・・・・・・・以前から思っていたんだが、椿姫やゼノヴィア達の中では俺はどれだけの無敵超人なんだ?俺なんて大したことは無いんだぞ?」

 何時もの様に謙遜する士郎。
 しかし、椿姫の主観は違うようだ。

 「我々以上の人外を圧倒、または討伐できる人間は十分過ぎる程に大した事が有りますよ!」
 「そ、そうか?」

 椿姫の圧力に怖がる様に腰を引く士郎。
 白龍皇にはあれだけ強気な姿勢を見せられるのに、本当に女に弱い男だった。

 「それで、私の質問には答えて下さらないのですか?士郎君」
 「あ、ああ、答えるよ。・・・・・・・・・実際はやってみないと分からないが、恐らくサーゼクスさんより強いだろうな。それに加えて、俺が知る中では最速だ。あいつに純粋な速度で追いつける者が世に果しているかどうか、と言うクラスだな」

 この事に椿姫は大げさではと言いそうになった言葉を飲み込んだ。
 士郎は過度な程自分を低く見ているが、他者に対する評価は基本的に正しい。
 そして、今迄見聞きした士郎の強さは化け物級。人間で言えば確実に英雄と言う名の人種だ。
 そんな士郎が行き過ぎた評価をする可能性は極めて低いのではないか、と言うのが椿姫の考察だった。

 「それは士郎君がかつて戦った事のある敵ですか?」
 「あんなのが敵として立ちはだかられていたら、今頃俺はあの世行きだよ。こっち側の事も知っている俺の知り合いさ。気の良い奴でな、アイツの事を所謂大英雄って言うんだ」

 椿姫は悪魔に転生した自分が言うのも何だが、士郎の知り合いは人外だらけなのかと思ったが、気の良い友人を侮辱されれば流石の士郎も自分への心証を悪くするのではないか、と考えて言うのを辞めた。

 「さて、話はその辺にしてそろそろ朝食のようだし行くか」
 「気配ですか?」
 「いや、朝食を催促しに来た奴が椿姫の後ろにきてるからな」
 「!?」

 真後ろの気配を感じ取るくらいであれば、椿姫にもできる芸当だったがので、士郎の言葉にすぐさま振り向いた処には、藤村家の飼い犬?のミッツが居た。

 「・・・・・・・・・・・・」
 「・・・・・・・・・っ」

 ミッツは、まるで椿姫を観察するかのように見ていた。
 その視線に、何か言い寄れぬ恐怖を感じる椿姫。

 「呼び出し人が来た様だし、行くか」
 「え?あ・・・・・・」

 そんな両者の間に入ると同時に椿姫の手を取り、居間に向かって歩き出す士郎。
 椿姫は、士郎の方から手を取って来られたことに動揺し、意のままに着いて行った。

 (からかってやるなよ?大人げない)
 【確かに少々過ぎたか。しかしな、我の寝床に突然異物が増えたのだ。警戒するのは当然だろ?】
 (お前がそんな玉か?それに、お前にとっては地球上であれば全てが(・・・)寝床・住処だろうに)
 【クク、如何だかな】

 すぐ近くに居る椿姫にもばれない様な高度な念話をする1人と一体。
 だがこれはどちらかと言うと、ミッツの方から士郎に繋げているからできる芸当で、士郎にはこれ程の盗聴不能な念話はまだ・・・その内・・・きっと・・・何とか・・・いつかは・・・―――――。

 兎に角!含んだ言い分をあっさり躱される士郎。
 一万年度頃の話じゃない位の、気が遠くなる程の年月を存在して来た彼の者にとっては、それが人間は勿論大体の人外達も赤子扱いされても当然なのだろう。

 そんな2人と一体は朝食のために今を目指すのだった。


 -Interlude-


 同日、午前10時ごろ。
 
 明日は期末試験1日目なので、そのための練習として才女であるリアスと朱乃による問題を一誠達に出していた。
 結果、小猫とアーシアは悪くないモノだった。
 しかし、一誠はと言うと・・・。

 「ど、如何いう事なの?イッセー・・・。この結果は!?」
 「いや、それはその・・・」
 「今日までちゃんと勉強してきましたのに、この結果はいくらなんでもおかしいですわよ?」
 「それがですね、実はかくかくしかじかで――――」

 2人に問い詰められた一誠は、素直に事情を白状した。
 何でも2人の隙だらけの服装に、今日までのテスト勉強の間、ずっと集中できずにいたらしい。
 蓋を開けてみれば何とも下らない理由だ。

 「・・・・・・・・・」
 「・・・・・・・・・」

 しかし、結果として原因となった2人共思うところがあったのか、一誠を責めることが出来ない様だった。

 「困った・・・わね?」
 「そ、そうですわ・・・ね?」
 「でも如何します?このままじゃ、イッセーさんは・・・」

 アーシアの指摘は尤もだった。
 そこでリアスはある決断を下す。

 「こうなったら最終手段(あの手)を使うしかない様ね・・・」

 決意を表すような表情で片手を握り拳の様にする。
 その様はまるで、背水の陣を敷く武将の様だった・・・・・・とか。


 -Interlude-


 藤村邸の庭で、剣と剣同士が交差しあい鳴り響く剣戟があった。

 「ハッ!」
 「このっ!」
 「これでぇ!」

 気合を持って攻めているのは長刀の椿姫に聖魔剣の祐斗、それに絶世の名剣(デュランダル)のゼノヴィア達が各々の得物で果敢に切り結ぶように立ち向かって行た。

 「まだまだ」

 それらの攻撃を、堅実な防御により捌き上手く受け流す士郎。
 得物はまだ衛宮士郎だった頃に重宝していた、干将莫邪だ。
 つまり、今の状況は3対1で行われていた。
 因みに、ハラハラドキドキしながら観戦するギャスパー。

 テスト前日にも拘らず昼食後の息抜きとは言え、ずいぶんと余裕の3人――――と言うワケでは無いが、勉強だけでは煮詰まってくると考えたのと、以前からの椿姫と祐斗とゼノヴィア(3人)の希望に添おうと思い受けたのだった。
 とは言え、1人ずつではあまりに時間がかかり過ぎるので、3人同時に相手をすると言う事にしたようだ。
 しかし流石に3対1など舐められていると不満げな3人――――正確にはゼノヴィア1人だけだったが、士郎のある挑発的な発言により決行されていたのだ。

 『大丈夫、例え今のお前たち3人が連携を組んだ上で殺す気で来たとしても、掠り傷すら喰らわない自信が有るぞ』

 この言葉に腹を立てつつも、士郎との戦闘力が自分よりも遥か上に居る事は認識しているゼノヴィアだが、彼女とって兄であり、簡単には肩を並べぬ英雄であり、大好きな人でもある士郎から良い評価を貰えなかったと言う感情論を自制できていない故だった。

 その点で言えば椿姫は自制出来ている方だ。
 それよりも、自身の戦闘力の評価より、魅力ある異性()として見られたいので、その点を改善さえしてもらえれば良かったのだが、如何やらそちらもまだまだ望み薄の様で椿姫も不満であること自体は変わらなかった。ただ表情に出さないだけで。

 そして、祐斗は説明するまでも無く不満など一切なかった。
 現に祐斗自身は、士郎の毎朝熟している基礎トレにすらついていけなかった。
 この事だけでも、士郎が自分よりも遥か上の戦闘者として認識できるものだった。
 しかし、士郎から言わせれば『他もそうだが、祐斗は悪魔のポテンシャルに甘え過ぎて歩法を始めとする身体運用法が荒すぎるだけだろ?』との事だった。実際の所は如何かは知らないが。

 閑話休題。

 即席とは言え、その連携はかなりのモノ。
 スピードで敵を翻弄できる祐斗、パワーで敵を圧殺するゼノヴィア、テクニックで敵を苛立たせる椿姫。
 これが手練れとは言え人間なら敵う通りなど存在しはしないのだが、士郎はそれら全てを完封しつくす。

 「ハッ!」

 軽やかな動きで折結ぶような手数手責める椿姫。

 「ハァアアアアアア!」

 そのチャンスを逃すまいと、唐竹割りで圧殺しようとするゼノヴィア。

 (ここだ!)

 そんな2人の対応に、両手が塞がっただろうと判断した祐斗は、士郎の背後から横一文字切りで斬りかかった。
 しかしそれは叶わぬ。
 祐斗の剣が士郎の背中に届く数瞬前に、椿姫の長刀を弾き片腕を取ると同時に引っ張る。

 「くっ!?」

 ゼノヴィアの力をてこの原理の如く受け流し、剣を奪い去り押し倒す。

 「ひゃ♪」

 それらを一瞬の内に熟して何時の間にか祐斗の懐に入ると、一本背負いで無力化する。

 「っ!?」

 最後に、3人の顔の真横に剣を突き刺し止めとする。

 「チェックだ、何か異論はあるか?」
 「無いです」
 「完敗です」
 「ある!」
 『は?』

 最後のゼノヴィアの言葉に呆気にとられる3人。

 「如何してあのまま凌〇プ〇イ(続行)してくれないんですか!あんなのが度々続けば欲求不満になり過ぎて、気が狂ってしまいます!」

 ――――と、何ともおかしい発言をするゼノヴィアだが、士郎にとって彼女の暴走発言は日常化しつつあった。

 「あのなぁ、ゼノヴィ「ごめんくださーい!」ん?」

 玄関の方を見やると、リアス達が居た。

 「如何したんだ?リアス」
 「あのね士郎、貴方に折り入ってお願いが有るの・・・」


 -Interlude-


 リアス達は士郎達と共に居間に来ていた。

 「なるほど、また何というか下らない話だな」
 「下らないって!そりゃ、士郎さんからすりゃそうかもしれませんけど、俺は冥界行きがかかってるんですよ!」

 士郎の言葉にいきり立つ一誠。
 しかし、士郎はその反論を許さない。

 「下らないものは下らないだろう。どうせお前の事だ、リアスや朱乃と楽しくヤル空間を壊したくなかったんだろ?」
 「うぐっ」
 「し、士郎!一誠を責めるのはやめて!」
 「勿論一誠だけのせいじゃない、リアスも朱乃もだ!今のままじゃ一誠の勉強が捗らないと理解しつつも、一誠の取り合い競争を辞められないで見て見ぬふりをし続けて来たんだろ?」
 『うぐっ』

 ぐうの音も出ないほど、容赦なく3人を断罪する士郎。

 「それで?そんなやりたい放題し放題の勉強ともいえない努力の欠片も無かったから、冥界行きのために俺を頼ってきたと?」
 「そ、そうy「ん?」・・・です」

 幼馴染の眼光に小さくなるリアス。

 「貴方は以前、部活の後輩である男子生徒を一日前で付け焼刃とは言え、赤点回避どころか平均点以上の点数を取らせるような勉強法を授けたと、聞いたのですけど?」
 「あー、あれか!確かに蛭田は、あれから赤点を取らなくなったな」

 蛭田と言う学生を始め、弓道部に居る士郎の後輩たちは士郎のおかげで全員赤点を取らなくなったが、実際は士郎が直接下した勉強時間の恐怖が今も彼かの記憶に残っており、そのトラウマ的恐怖よりもいい点数を取れと言う強迫観念の方へと天秤が傾いたからに他ならない。
 知らぬは本人ばかりとはよく言ったものだ。

 「解った。一誠は今日からテスト終了まで、俺が責任をもって教えよう」
 「し、士郎、その事なんだけれど、貴方のその勉強の指導法を教えてくれない?そうすれば家で私たちが一誠に指導できるから・・・」
 「それでもし赤点になっても、俺の指導法が悪かったから言い訳が立ち、催眠術などで無理矢理赤点を無かった事で許してもらおうと言う算段か?」
 『!?』

 士郎の言葉に企みをばらされたリアスと朱乃が驚くと同時に、ある1人を除いてそれ以外も別の意味で驚く。

 「お前たちの考えなんてお見通しだ。ゼノヴィアから、お前たちの勉強風景も聞いていたからな。だがそんなものは通用しない、既にお前たちの企んでいそうなことはグレイフィアさんに伝達済みだ」
 「そ、そんな!?」
 「ちょっとリアス!」
 「あっ!」
 「やっぱりか・・・」

 士郎はリアスと朱乃が来た時からの雰囲気で、何かを企んでいることに気付いていた。
 そこで鎌をかけてみればご覧のありさまだった。

 「ひっ、引っ掻けたのね!?」
 「黙っているよりマシだ。後、言質は取ったな椿姫?」
 「はい、これを実行した場合、会長には勿論の事、グレイフィア様にも伝えておきます」

 この言葉に、リアスと朱乃は頭を垂れる(さま)を見せた。
 それを見下ろすように立ち上がる士郎。
 そんな士郎に気付いたのか、親の仇を見る如く睨見上げるリアス。

 「そんな目で見られる筋合いはないぞ?リアス」
 「・・・・・・・・・っ」
 「そもそもリアス、お前はお嬢様の様に何もできないと見られるのも、イコール我儘娘と思われるのも嫌っていた筈だな?」
 「そ、それが何?」
 「だが今の企みは何だ?お前が嫌っていた我儘お嬢様のそれじゃないか」
 「っ!」

 改めて断罪されたリアスは今度こそしょげる。
 それを庇うように一誠が遮る。

 「やめて下さい、士郎さん!俺が悪いんです、だから部長と朱乃さんを責めないで下さい!」
 「イッセー・・・」
 「イッセー君・・・」
 「俺は事実を言ったまでだ。だが、そうまで言うなら、俺の下でちゃんと勉強するんだな?」
 「当たり前です!それで御2人が責められなくなるなら・・・!」
 「だ、駄目よ!イッセー!!」

 一誠の言葉に、大げさすぎる程に一誠を制止しようとするリアス。

 「大げさすぎですよ?部長。なにも喰われる訳じゃ無しに・・・」
 「それがそうでもないのよ・・・」
 『え!?』

 リアスの言葉に反応する一誠・・・・・・だけでは無く、ゼノヴィアも何故か反応した。
 恐らく士郎に喰われると言う部分に反応したのだろう。

 「士郎が直々に教えを受けた生徒達が震えながら漏らしていたらしいわ・・・!『俺はもう二度と赤点を取らない!』とか『思い出すなんてしたくないわ!』とかね」

 リアスの言葉を聞いている一誠は、だんだんと顔を青ざめていく。

 「止めは皆その日を境に性格――――いえ、人格が変貌したそうなのよ・・・。だから・・・だから・・・」

 涙ながらに語るリアスの言葉に悪寒を走らせる一誠だが、もう遅い。

 がしっ!

 「うぐっ!?」

 自分の頭を掴む人物を見やるとその人物――――いや、鬼は確かに言っていた。

 「に」「が」「さ」「ん」

 それを眼にした瞬間一誠は、潜在的恐怖を感じた。

 「助けて下さい、部長ぉーーー!!?嫌だぁあーーー!!?俺が俺じゃなくなるだなんて嫌だぁあーーー!!」

 助けを求めて喚きだす一誠。

 「失礼だな、人格が変わったのは確かに事実だが、長くても十日前後で治ったぞ?それに・・・」
 「そ、それに・・・?」

 涙目のまま恐る恐る聞き返す一誠。

 「廃人にも、パァアには成らない」
 (多分、恐らく・・・)
 「慰めになってねぇ―――!!?」

 そのまま士郎に掴まれながら部屋に引きずり込まれる一誠。
 その日、藤村邸では誰も一誠の姿を見た者はいなかったが、時折士郎の部屋から悲鳴が聞こえたそうな・・・。


 -Interlude-


 第一学期、期末試験初日。

 椿姫と士郎は共に来ていた。これも、同じ屋根の下で暮らすようになった恩恵だ。
 そこへ心配そうにリアスと朱乃が近づいてきた。

 「あ、あの士郎?イッセー・・・は?」
 「大丈夫だ、赤点回避どころか高得点を取らせるように仕込んだからな」
 「そ、そんな!?それではイッセー君は!」
 「お悔やみ申し上げます」

 椿姫の言葉に2人ともショックを受ける。
 この事が原因により、2人とも何時もよりも点数が低かったそうな・・・。


 -Interlude-


 同時刻、ゼノヴィアも教室に登校していた。
 そこにアーシアが恐る恐る近づいて来る。

 「あ、あのゼノヴィアさん?イッセーさん・・・は?」
 「ん?あー、イッセーならもうすぐ・・・」
 「皆さん、お早う御座います!!」
 「ほら、来たよ」

 廊下と教室の境目で元気良く挨拶する一誠・・・・・・・・・・・・?がいた。
 そこに居た人物はとても兵藤一誠とは見えなかった。
 お坊ちゃま風の髪形に何故か眼鏡、そして服装も何時ものだらしない格好の欠片も無く、ピシッとしていた。
 そんの一誠の姿に、クラスメイト達は誰もがそれぞれ戸惑っていた。
 しかし、当の本人は気にした様子も無く、自分の席に着いた。
 そこに、何時もの親友2人が近づいてきた。

 「オイオイ、イッセー?如何したんだよその格好?」
 「何かの洒落か?それより見ろよ!お前が前から欲しがっていたエ〇本、手に入れたんだぜ!」

 元浜が一誠に向けて嬉々として見せつけて来る。
 しかし、一誠の親友たる2人にとっては予想外の行動に驚く。

 「やめて下さい、元浜君!松田君も一緒になってないで、勉強をしなくていいんですか?」

 一誠にとってはエ〇本とは大好物――――と言うのが親友2人の共通の認識だったにも拘らず、それを押しのけたのだ。相当な驚きだったようだ。
 そんな光景を、桐生が加わったゼノヴィアとアーシアの3人も見ていた。

 「あ、あれが、部長さん達が言っていた結果ですか?」
 「心配する事は無いぞ?アーシア。士郎さんの話では、テスト終了後から遅くとも1週間位で元のイッセーに戻るそうだ・・・・・・多分」
 「た、多分って如何いう事ですか!?」
 「ちょっと?2人だけで判る会話していないで、如何いう事か説明してよ?」
 「ああ、実は――――」

 桐生の要望に応えて説明しだすゼノヴィア。
 彼女の声は、特に大きすぎるワケでは無いが、クラス内によく響いたようで何名かが動揺して席から立ち上がったり尻もちを付いている生徒まで居た。

 「ひょ、兵藤はあれを体験したのか!!?」
 「そ、そんな!!?」
 「あわわわわわ!!」
 「過ちは・・・繰り返されると言うの!?」

 教室内に居た士郎直々の拷問――――虐待――――教えを受けた生徒達(被害者たち)の悲鳴にも似た言葉はやがてクラス内だけに留まらず、学校中に伝播して被害者たちは戦慄してショックを受けて点数が下がった者が多く出た――――事とは逆に、点数が大幅に上がったと言う。
 しかし、中には士郎の教えを忘れていた者もそれなりに居たため、今回の事で思い出してしまい、士郎の監視など無いにも拘らず勝手に怯えていたと言う。

 因みに一誠は全科目、平均点以上の高得点を取り一週間後に元の人格に戻った。
 その時、兵藤夫婦を含めてリアス達は歓喜したと言うが、本人はテスト前後の記憶すら曖昧だったようで、戸惑っていたらしい。
 しかし、戻ってから拒絶反応でも起きていたのか、士郎に会うたびに終始怯えていたそうな。
 士郎曰く――――。

 『本人からの希望で優しくして欲しいとの事だったから、優しくじっくりとギリギリまで時間を使って試験範囲内を詰め込んだんだ。本来なら、脳細胞が死滅するか否かのギリギリのラインを見極めて突っ込む処だったんだから感謝されこそすれ、恨まれる覚え1ミリたりとも無い!』

 ――――だそうだ。

 如何やら、夜中などに時折聞こえていた悲鳴は、詰め込み作業中だったようだ。
 しかし元はと言えば、一誠をはじめとするリアスと朱乃の3人が、グダグダな勉強姿勢を取っていた事が原因だったので、二度とこんな悲劇を起こさぬ様に固く戒めたそうだ。


 -Interlude-


 イギリス、某所。

 7月のはじめのとある街角に、人の目を引く一人の少女が歩いていた。

 髪型はシニヨンをメインに、赤ひもで金髪をまとめ上げていた。
 格好は、清楚な服装とは程遠い腹部を晒したチューブトップに真っ赤なレザージャケットを羽織っている、美少女だ。
 しかし格好だけでなく、とてもナンパしてゲットできるような雰囲気では無い。
 気安く手を出せば、噛み千切られそうなワイルドなオーラを身に纏わせていた。

 そんな彼女は、ある目的の人物を探す為に街を散策していた。
 とは言え、知り合いからの情報で、目的の人物は元気で暮らしていると言う事も解っているので、見つからなければそれはそれで良いと言う、何とも彼女らしい。

 そんな時、彼女の瞳に目的の人物を捉えた。
 その人物は、顔に疵痕、剃刀のような目つきに、筋骨隆々な強面の男性だった。
 そして彼の隣には、正直不釣り合いなほどの美人な女性がいた。これが所為美女と野獣カップルなのだろう。
 そんな彼女と男性の手を片方づつ握っていたのは女の子だ。
 信じがたい事だが家族なのだろう。

 そんな奇跡の上で成り立っていそうな家族を見やりながら、虚空に向けて彼女は確かにこう言った。

 「良かったな、マスター」

 彼女の正体はとある英霊である。
 生前の事は兎も角、ある平行世界で召喚された時の事を僅かに覚えていたのだ。
 とある戦争のために呼び出された時、敵味方や状況などほとんど覚えていなかったのだが、共に戦場を駆けた召喚者(マスター)との日々は覚えていた。そしてその祈りと、共に果てた事も。
 別の平行世界(此処)とは違うので分かってはいたが、言わずにはいられなかった。
 何せ、あの家族の中心位置にいる女の子の顔は、微かに記憶に残っている平行世界の彼の語った養子の女の子に似ていた。
 それらを理解している上で彼女の呟いた言葉には、どの様な思いが込められていたのかは彼女自身にしか――――もしかすれば、彼女自身にすらも解らない。

 そんな家族風景を見て満足したのか、踵を返して歩き出す。
 そこに、レザージャケットのポケットから着信が鳴り響いたので取る。

 「もしもし?士郎か?あー、解った。何時も通りにな」

 その短い受け答えの後、彼女は電話を切り歩き出す。
 彼女はこの地に降り、何をして何を残すのかは今だ誰にも解らない。 
 

 
後書き
 居候の中で一番の先輩たる彼の者が、空気になりつつあります。 
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