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IS〈インフィニット・ストラトス〉駆け抜ける者

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第29話

海上を進むこと少し、豆粒のような大きさだが、目標と交戦中の篠ノ之達が見えた。篠ノ之以外のISは外見が少し違う。パッケージと呼ばれる換装用装備をインストールしているようだ。

「見えるな、アルファー?」
「視認しました。位置的に攻撃は困難です」

淡々とアルファーが答える。うっかりついてこさせてしまったが、戦力としては計算できる。旅館に帰還した時点でエネルギーの補充は済んでいるので、俺もアルファーも全開で戦える。そんなアルファーが困難と言う距離で、ライフルを構える。狙いは銀色のIS、名称『銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)』。事情はとやかく、銀色なのは、

「宮間さんのISだけで十分なんだよ!!」

大出力の一射を放つ。掠めるだけでも威力抜群の光の奔流は、器用な空中制動で一回転し、射線から逃れた福音に届かなかった。

「敵機回避、損害皆無です」

頭部から生えた一対の翼状のスラスターが、あの機動力を支えているのだろう。あれだけ大きいスラスター、見た事ないな。

「いきなりやってきてどの口で言うのか…」
「丹下さん、真面目にやってくださいまし」

ライフルの一射で篠ノ乃達も俺達の存在に気付いたようで、凰やオルコットに辛辣な一言をいただいた。少しくらいいじゃないか。

「丹下、一夏は?」
「…まだだ」
「そうか…、だが何故アルファーとやらが此処にいるのだ?」
「色々あったんだ。そう、色々…」

全部終われば話しも出来るが、今はそれ所ではない。福音が、スラスターの一部を開く。見えるのは砲口、スラスターは武器でもあったか。一斉に羽のようなエネルギーが飛んでくる。加えて、展開したスフィアに着弾すると爆発。…、ふむ、

「ネタ使われてんぞ、アルファーよ」
「似て非なる物です。この攻撃は、連射、速射に特化しています」

アルファーの羽に近いようだが、アルファーのは確かに高い追尾力があった。だがこれは手数、ばらまくことを重視したものだ。

スフィアで守りに専念していると、上空からの強襲に福音が弾かれる。オルコットの、ステルスモードからの奇襲、弾かれた福音は、オルコット、ボーデヴィッヒ、デュノアの3人の連携に離脱を計り、全方位のエネルギー弾を放った後に、スラスターの全力出で強行突破しようとする。しかし、海面から飛び出した篠ノ之と凰が福音に砲撃する。

だが、それでも福音は止まらない。反撃とばかりに、エネルギー弾の掃射し、受け止めるデュノアの盾を砕く。この間動かず見に徹する俺をアルファーや篠ノ之達が見る。援護に来たのではないのかと。勿論援護はする。だが、

「もう詰みだろうに…」

ボーデヴィッヒとオルコットが左右から射撃で足を止め、凰が、痛手を負いながらも福音の片翼を奪う。そして、篠ノ之が、刀を握られるも、エネルギー刃を生じさせ、もう一つの翼を奪い、海に墜とした。結果、俺の援護は必要無かったように見える。コイツ何しに来たんだと誰かが言おうとしたその時、海面が強烈に光り、爆発した。

───────────

「一体、何が…?」
「マズい!引け!」

唯一反応出来た俺が、ボーデヴィッヒに飛びかかる福音をライフルで牽制する。が、

「なにっ!?」
「ボーデヴィッヒ!」

回りこんだ福音がボーデヴィッヒの足を掴む。そして、福音の頭部から、エネルギーの翼が生えた。

「トモ!」
「言われなくても!」

デュノアと剣を抜き、突撃、しかし、空いた手の指で挟まれ止められる。さらに、退避を促すボーデヴィッヒを翼で抱き、エネルギー弾の零距離攻撃で撃墜。デュノアがブレードを捨て、ショットガンを顔面にぶち込むが、装甲を割って出てきたような小型の翼にショットガンとデュノアを吹き飛ばす。

「アルファー!離脱者の救護、退避を!」
「了解しました」

右手の全ての指からエネルギー弾を連射し、福音の気を引こうとするが、福音はこちらを狙わない。オルコットも福音の瞬間加速で、懐に入られ、翼で脱落。篠ノ之に近付かせないようにウイングで行く先を塞いでようやくこっちを向かせた。互いに急加速で接近、翼のエネルギー弾をスフィアで拒否し、そのまま突進、福音が離れる。加わるように篠ノ之が、斬撃で福音を押し始める。

「丹下、右にライフルの一撃を!続きを私が!」
「乗ったぁ!」
(いける!これなら─)

必殺の確信を持って放った打突は、不発に終わる。

「エネルギー切れ!?篠ノ之!」

福音が篠ノ之を捕まえ、翼で包む。まさに絶対絶命、だが俺には確信があった。

「…へっ、福音さんよ、あんたの負けさ」

無視して出力を高める福音に笑えてくる。やってる事が悪役の定番、ならこのタイミング、

「ヒーロー入場の時間だぜ、一夏ぁ!!」
『ああ!!』

突如、福音を襲った荷電粒子砲が、篠ノ之を解放する。

「あ、ああ…」

戸惑う篠ノ之が、その姿に涙を受かべる。無理もない、ずっと不安だっただろうから。

「待たせたな、箒、トモ。俺の仲間は、誰一人としてやらせねえ!」

待ちに待った一夏は、一歩進んだ白式を纏っていた。

───────────

一夏の無事を喜ぶ篠ノ之を見て、一夏が篠ノ之に渡す誕生日プレゼントに、憎い演出だな。と苦笑しながらも、体制を立て直し、一夏に襲いかからんとする福音を迎え撃つ。無粋だな、銀の福音!

「じゃあ、行ってくる。─まだ終わってないからな。再戦と行くか、トモ!」
「見せ場作りは任せろ!」

あまり動かなかったのは、ヴァンガードの更新の為。勝利の手は揃った!

ウイングの一斉発射を回避した福音を一夏の左手から出現したエネルギーのクローが捉え、装甲を切る。何度目かのクローを回避した福音が、エネルギー弾の掃射で反撃する。

「そう何度も…、」
「一夏、任せろ!」

両足のエッジを射出、エッジの根本が合体し、翡翠色のエネルギーを放出しながら一夏の前で回転、福音のエネルギー弾を防ぐ。

「新しくなっても、燃費は悪いだろ?攻撃に専念しろ、フォローする」
「ああ。頼むぞトモ!」

四機のウイングスラスターで二段瞬間加速を行って福音を追い詰める一夏。速さも攻めも追い付かれた福音は、全方位に嵐のようなエネルギー弾の雨を降らせる。スフィアを、と思ったが、凰の叱咤で思いとどまる。曲がりなりにも代表候補生、それにアルファーもいる。

「さっさと終わらせるぞ!」
「鈴達の為にもな!」

───────────

一夏と福音を攻めるが、途中からどうも違和感を感じる。最初に作戦を聞いた時の、あの感覚だ。疑惑だけだったが、もし、この福音すらも篠ノ之博士の手が入っていたら?篠ノ之の紅椿と、博士の人間性を考えると、一つの仮説が出てくる。

「一夏!」
「なんだっ、トモ!」

零落白夜の光刃で福音を狙う一夏に、俺のやりたい事を伝える。

「福音の暴走、人為的な可能性がある!任せてもらえないか?」
「でも、鈴達が…!」
「失敗したら一夏がやってくれ。消費は押さえた、が、もう心許ない筈だ」

二次移行してもISの根底は変わらないのだから、エネルギーの残りは少ない、3分動けるかどうか程度だろう。無理はさせられない。今は一夏に下がってもらおうと説明しようとしている時に、海面から飛び出して来るISが。あれは、紅椿!?エネルギー切れしていたのではなかったのか!?

「一夏!」
「箒!?お前、ダメージは─」
「大丈夫だ!それよりも、これを受け取れ!」

篠ノ之の手が、白式の手に触れた瞬間、白式のエネルギーがみるみるうちに回復していく。紅椿の能力、か?

「万一の場合は、2人でしとめる。丹下、やるだけやってみろ」
「箒!?」
「ヴァンガードは私達のISとは毛色が異なる。やらせた方がいい」
「迷惑をかける、篠ノ之」

白式を紅椿に託し、福音に対峙する。『銀の福音』、お前も『天才の望み』に巻き込まれたのなら、

「俺に、応えろぉぉ!!」

俺の叫びに、ヴァンガードが光を放つ。角が開く、ハイパーモードの前兆。だが発するのは、威圧する黄金ではなく、柔らかく、暖かい翡翠の光。

翡翠の光が、福音に届く。そして、繋がり伝わる、福音の『意思』。聞かせてくれ、全てを!

──────────

─来ないで、来ないで!

ヴァンガードに入ってくる、福音の声。それを受け取り、言葉を返す。

─大丈夫だ。誰も何も怖くない。
─嘘だ!よってたかってイジメたのに!

頑なな福音だが、ある意味仕方がない。作戦とは言え、複数で撃墜しようとしていたのでは本当だ、だが、

─暴走したんだ。降りかかる火の粉を未然に防ぐのは当然だ。
─そんなの、こっちだってやりたくなかった!でも、皆、皆敵なんだ!『ナターシャ』は『僕』が守らなきゃいけないんだ!
─操縦者を、か。…悪かったよ、勝手に攻撃して。自衛してたんだろう?
─…っ…。

思えば、福音は決して自ら攻めはしなかった。それは全部、操縦者を危険にさせない為の行動。こうして繋がり、意思を伝えあえるなら、理解しなければならない。福音の行動と想いを。

─許されるとは思わない、が、もう、いいんだ、福音。いいんだ。気を張るな。
─でも…っ!ナターシャが!
─一人にはさせないさ。今は羽を休めるんだ。また、操縦者と飛ぶ為に。
─…なら、約束、してくれる?ナターシャとまた、空を飛ばしてくれるって。
─あまりアテにしてくれるなよ?精一杯やってみるけどさ。
─それでいいよ。よろしくね、お節介ISさん。

──────────

会話が終わると、福音が海に堕ちていく。追ってスーツだけの状態になった操縦者をキャッチする。それを見て、一夏達も来た。

「トモ…、今のは、一体…?」
「あまり聞かない方が良い、一夏。…終わったんだな、丹下」
「ああ。…織斑先生、作戦完了、です」

夕闇の朱を見つめながら、織斑先生に事態の終結を伝える。ヴァンガードの光は既に収まり、右手の『銀色の小鳥』が、優しい朱色を照らしていた。




 
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