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ブラッシュマン

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4部分:第四章


第四章

「本当に御免なさい」
「まあ皆無事だったらよかったようなものに」
「おかげで濡れ鼠だよ。風邪をひかなかったらいいけれど」
「だから僕皆にあげる」
 顔をあげて村人達に告げた。
「服、あげる」
「服をかい」
「そう、皆それに着替えて」
 まずはこう皆に言うのであった。
「そしてもう一つお詫びに」
「お詫びに」
「御馳走ある。皆食べて」
「御馳走が」
「とうもろこしに七面鳥の肉」
 彼等に料理を教える。
「お魚も果物も一杯ある。それ食べて」
「くれるのか、わし等に」
「うん」
 皆に対してこくりと頷いて答えた。
「あげる。お詫びに」
「そうか、それでは」
「後この洞窟も皆にあげる」
「洞窟もか?」
「僕けちじゃない」
 これはブラッシュマンの誇りだった。彼は少なくとも吝嗇ではないのだ。
「だからいいよ。洞窟も皆にあげる」
「いいの?」
 その彼に娘が問うた。彼の顔を見ながら。
「貴方のお家なのに。それでもいいの?」
「いい」
 こう尋ねられても彼の考えは変わることがなかった。
「それでも。僕はいい」
「お家をあげてもって」
「お家はここにあるだけじゃない」
 だからだとも言うのだった。
「他にも一杯ある。だからいい」
「そうなの」
「僕人の笑顔が好き」
 実はそうなのだ。彼は常に悪意はないのだ。ただその行動が結果として迷惑になってしまっているだけで。悪意は全くないのである。
「だからいいんだ」
「そうなの。じゃあ」
「うん、皆使って」
 またこう告げた。
「皆で。それで僕は嬉しいから」
「そう。それじゃあ」
 まずは娘が彼の言葉に頷くのだった。
「皆もそれでいいかしら」
「まあブラッシュマンがいいって言うんなら」
「わし等も別に」
 反論はなかった。何しろ持ち主が言っているのだ。だからここは皆頷くのだった。
「それでいいよ」
「あんたがいいんなら」
「これで決まりだね」
 ブラッシュマンは皆が受けてくれたのを確かめて笑顔になった。
「服も食べ物も洞窟も」
「ええ」
 娘がまた皆を代表して頷く形になっていた。
「わかったわ。使わせてもらうわ」
「それでいい。僕嬉しい」
 ブラッシュマンは満面に笑みをたたえていた。そうしてまた言う。
「皆使って。楽しくね」
「ええ、それじゃあ」
「使わせてもらうよ」
「けれどブラッシュマン」
 ここで村人達は彼に声をかけるのだった。
「何?」
「このまま消えるのかい?」
「まさかとは思うけれどわし等の前から消えるのか?」
「そのつもりだったけれど」
 実はそうだったのだ。村人達に全部渡して自分は別の家に消えるつもりだったのだ。しかしここで。皆はその彼を呼び止めたのである。
「何なの?」
「何なのじゃなくてだよ」
「ここにいてくれるか」
「けれどここは」
 皆にあげた。それでこう言われることがわからなかったのだ。
「皆にあげたから。もう」
「何言っているんだ。土地は皆のものじゃないか」
「そうだよ。洞窟だって同じだよ」
 この土地は皆のものだという考えは北米のネイティブアメリカン特有の考えである。だから後に多くの移民達に土地を奪われることにもなってしまうのだが。しかし彼等は今はこの考えでブラッシュマンを呼び止めたのであった。
「だからさ。残ってくれよ」
「それで時々は村にも遊びに来てくれ」
「いいの?」
 思わぬ言葉を聞いてほぼ無意識に彼等に問い返した。
「それでいいの?僕がいて」
「いいよ。だから皆のものだからな」
「皆で何かあれば祝えばいいじゃないか」
「そう、皆で」
 村人達の言葉を聞きながら呟く。
「祝えばいいんだ」
「何かあればな」
「その代わりね」
 また娘が彼に言う。
「もう迷惑なお節介は止めてね。少しの親切で充分だから」
「うん、じゃあ」
 ブラッシュマンもその言葉を受けた。そうして頷いた彼を皆が受け入れる。皆の友達になったブラッシュマンは以後お節介をすることを慎み小さな親切のみを心掛けた。その彼のトーテムポールが村に作られそれが友情の証となった。誰もが彼を愛するようになった時のことであった。


ブラッシュマン   完


                 2008・9・5
 
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