魔王の友を持つ魔王
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§65 縁
「ん……」
まどろみから意識が浮上する。全身に気怠い感覚が、脳味噌に今までの記憶が押し寄せた。
「っー……」
羅濠教主に意識を落とされた後ベッドの上に戻されたようだ。恵那は戻ってきただろうか?
「知らない天井だ、っと。……天丼しても微妙だな」
「お義兄様!?」
「おわ!!」
呟けば、耳元で突然の大音量。振り向けば、半べそをかいている羅濠教主。
「申し訳ありませんお義兄様!! お義兄様がこんな脆弱になっていることにも気づかないとは一生の不覚でした。お義兄様の事ですから小さいお義兄様になりましても私をあしらうことなど朝飯前かと……」
「そんな超人じゃないから」
腕を軽く回してみる。うん、快調だ。抱きしめられたときは肋骨が全壊した感じがしたが見事に治っている。呪力が低く一般人に戻ってしまったこの肉体が治癒魔術をするりと受け入れた、ということだろうか。
「こういう点は戻ってよかったと思える点だよなぁ」
「はい?」
「ううん、なんでもない」
怪訝そうな顔をした教主に微妙な笑みを浮かべて誤魔化す。この程度、別に話す程度の事ではないし。
「それより僕が落ちてからどのくらいたった?」
お腹のすき具合から考えて、そんなに時間がたっていない気はする。が、気がするだけだ。空腹が一周まわっているだけとも限らない。
「お義兄様を絞ころ……失神させてからだいたい一時間ほどでしょうか」
「おいちょっと待て」
絞殺すって言おうとしたよこの子!!
「僕死んでたの!?」
絶世の佳人に抱きしめられながら殺されるなど「ご褒美です!!」とハッスルする友人が目に浮かぶが生憎、黎斗はそこまで特殊性癖所有者ではない。普通に嫌だ。
「大丈夫ですお義兄様は今生きていらっしゃるじゃないですか!! 死んでおりません!!」
「今はって何よ今はって!!」
「細かいこと気にしたら負けですお義兄様!! だいたいお義兄様に並んだという自負がつくまではお義兄様に挑むなどしません!!」
そんなに頻繁に挑んでいたら一戦毎の重みが薄れます、などと言い放つ魔王サマ。自負がついたら挑んでくるんかい。ツッコミたいが肯定されそうで怖い。いくらなんでもヤンデレすぎるだろう。
「……病んではいないか。ボコデレ? ツンデレ?」
ドニといい教主といいアクが強い、というか戦闘狂しかいない悲しい現実に頭を抱えたくなる。まぁ、体調が戻ったら一回か二回殺されてやるか、などと益体もないことを考えてしまう。その程度でこいつらが満足するはずもないだろうに。
「ってそんなことはどうでもいいんだよ。恵那を探しに行かなきゃ。僕が死んでから一時間って言った?」
冷静に考えれば羅濠教主が一時間、というのが何となく意外だ。てっきり一刻とかそういう表現をするのかと思っていた。
「あぁ。お義兄様にはその方がわかりがよろしいかと。一刻と言ってもお義兄様には馴染みのない単位でしょうし」
なぜわかった!? 読心術のような権能を持っていたのか!!?
「いえ。ですが仰りたいことなど大体は顔を見ていればわかります。武の至尊であるお義兄様を目指すもの、このくらい出来なくてどうしますか」
いや僕出来ないんですけど……
「事情はお義兄様が寝ていらっしゃる最中に聞きました。まったく、お義兄様の端女などという栄誉ある立場にいながらお義兄様の手を煩わせるとはなんとも情けない……」
「事情聞いてたのか。それなら話は早い」
知ってたなら早く言ってよ、と逆恨みと知りながらも若干の非難と恨みを込めた目で睨む。余計なことに時間を費やしたじゃないか。
「どうされました?」
理解されなかった。
「……肝心な所は鈍いやつめ」
ハァ、とため息をつけば。
「……涙目で睨んでくる小さいお義兄様を見ているとゾクゾクします」
ヤバい扉を開けかねない!!
「とりあえず外行くよ! 僕を連れてって!!」
慌てて目をふき、外に行こうとベッドから飛び降りる。こちとらドMじゃないのだ。いじめられるのは御免こうむる。「何考えてんだ!!」とティッシュボックスを投げつけようかと思ったが、今の羅濠教主なら「ご褒美ですありがとうございますお義兄様!!」くらい言いかねない。否、絶対に言う。断言してもいい。
「はい、では失礼して……」
そんな意思が通じたのか、恐る恐るといった呈で羅濠教主が黎斗を抱く。
「私も行きますよマスター」
「うぉお!!?」
いざ出発、と思った所で思わぬ声に驚く。そういえばエルの存在を忘れてた。
「エルどこにいたのさ」
「邪魔にならないように隅にいました。恵那さんと良い雰囲気になったと思ったら。……まぁ恵那さんも恵那さんですが。っていうか気づかれてなかったんですね私」
「……ごめん」
エルの気配に気づかないとは。気配察知能力も相当に下がっている。これだと先が思いやられる。
「はぁ。こんなんじゃ先が思いやられるよぅ……」
「ヘタレてないで早く恵那さんを探しに行きますよ」
「そだね」
そんな会話をしながら外へ出る。天気は快晴で、眩しい。雲一つない青空だ。視界を遮るものなど何もなく、羅濠教主が温度調節をしてくれているのか快適だ。下手したら眠ってしまいそうなくらいに。女の子を探しに行くのに、別の女の子に抱いてもらって、挙句に居眠りするのって人間としてどうなんだろう。その想いが黎斗の意思を水際で保たせる。これではいかんと欠伸をして雲を探せば、一つの雲が見えた。雲はどんどん近づいてくる。
「って近づく雲――!!?」
「全く、兄妹の逢瀬を邪魔するとは。器が知れますよ。それとも私に倒されたいので?」
教主の言葉は近づく雲に向けられていて。言葉が終わるころには、雲正体が黎斗の視力で判別できる程度の大きさになっていて。
「あ、アテナぁ!?」
雲は黎斗を見て、その瞳を見開き、絶望に暮れる。
「なんということだ……古の王よ。妾の決意は無駄に終わったか……」
なんだろう。
「貴方に逃げられたあの時といい、どうも妾と貴方の間には縁が無いようだな……」
アテナの気配が、表情が。酒呑童子の最期とダブって見えて。
「……翠蓮、降ろして。ドニ、いるんだろ?」
「あれ? バレた?」
「バレバレだよ」
嘘だ。ドニの気配は掴めなかった。自分の館の玄関に神がいるならすっ飛んで来るだろう、なんて思っただけ。でもここでネタバレは出来ない。アテナを失望させる真似は。
「ドニ、僕を銀の腕で斬って」
「マスター馬鹿ですか!!?」
「……あぁ、なるほど。その手があったか」
一瞬疑問符を浮かべたドニだが、すぐに黎斗の思惑を察する。
「本来だったら、僕が戦いたいんだけどね。僕も悪魔じゃない。ここで出ると教主サマと戦うことになりそうだし。それはそれで面白そうだけど時期じゃない。だから戦士として、君たちの決意を尊重しよう。----僕は僕に斬れぬものの存在を許さない」
一撃必殺の魔剣が黎斗の身体に吸い込まれ――――両断。血飛沫が飛び散り、黎斗の肉体が粉微塵と化す。
「マスター!?」
「お義兄様を信じなさい狐。それとサルバトーレ某、気安く私を呼ぶのではありません」
焦るエルと神妙な顔を崩さない教主。彼女たちの目の前で。
「なんとなくわかったよ。見送り人に僕を選んでくれて光栄だよアテナ。ならばこそ、決着をつけようか」
切り裂く銀の腕で「ナニカ」を切り裂かれた黎斗が復活する。
「細かいことを話しておらず心苦しいが事情を話す時間も惜しいのだ。貴方の察しが良いことを嬉しく思う。後で草薙護堂にでも聞いてくれ」
「あ、護堂は絡んでるのね……」
そこまでは予想できなかった。
「いざゆくぞ、最古の王―――――破魔の主よ!!」
「受けよう。死にゆく女神。死後の水先案内人を承る!!」
今にも尽きそうな寿命のアテナに対し、こちらは時間制限ありとは言え完全状態だ。最初の立場からして不公平ではあるが、この女神様はそれを承知で乗り込んできたのだ。ならば、そこを配慮するのは失礼か。
「ッ!!」
鎌と鉄棒が打ち合う。十合、二十合。最初は互角。次第に黎斗が有利となる。普段のアテナとは違う。酒呑童子の時よりも、相手の消耗具合が凄まじい。このままではもうもたないのではないか。否。こういう”死にかけ”が一番恐ろしい。ならば、どうすればいい? 考えながらも身体は動く。蹴りを躱したアテナに蜻蛉切を叩き付ける。鎌で受けるアテナを、力任せに吹き飛ばす。雷の呪縛で相手の腕を拘束するも、即座に解かれ、一瞬しか時間を稼げない。海の上を転がるアテナに一足で追いつき、左腕で掴もうとして、失敗。石化の視線と邪眼が交差する。
「―――――勝てばいい、か。我がもとに来たれ、勝利の為に」
唱えるは白馬の聖句。太陽の欠片を天より落とす、超絶火力たる焔の一撃。
「相変わらず器用な真似を。暗黒よ! 妾が愛し、妾と共に在り続けた聖域よ。女王の滅びに立ち合う、忠義の衛士たれ。勅命である!」
闇のドームが、白馬のフレアを拒む。拮抗する光と闇。天と地の覇権をかけてせめぎあう両者を。
「来たれ、色無き輝く御柱」
まとめて黎斗の最大火力が薙ぎ払う。
「消し飛べぇえええ!!」
「――――」
白馬と暗黒を飲み込み、アテナすらも飲み込んで、破壊光線は荒れ狂う。水平線の彼方まで、海を割り、空間を歪め、熱波を周囲に撒き散らし、滅びを世界に体現する。抵抗など微塵も許さず、只々圧倒的な破壊力で。生存など出来るはずもない。
「相変わらず凄まじい威力だな黎斗よ!」
だが、必殺も、当たらなければ意味などない。
「マジか!?」
一瞬、動揺する黎斗。効かない相手が多すぎて慣れてきたともいう。
「はぁ!」
ダーインスレイブと大鎌が交差する。もつれ合い、飛んでいく武具。徒手空拳で殴り合いを始めながらも黎斗の口は言葉を紡ぐ。
「天空よ、我が名の下に裁きを与えよ。未来より迫る滅びを縛れ。左に剣を。右には鎖を。我が腕を贄とし汝を封ぜん!」
「くっ!」
逃げようとするアテナだが、破滅の呪鎖から逃れることは叶わない。捕まえている黎斗の腕ごと、鎖がアテナを拘束する。
「自らも捕えるか!」
「こーすんだよ!」
口に三日月宗近を咥え、自分の左肩から切り落とす。これで、拘束されているのはアテナだけ。
「痛っ……」
新たに再生した左腕で輝くは破壊光線の光。
「……どうやらここまでだな」
何処か清々しさを感じさせるため息と共にアテナが呟く。
「僕の勝ち、かな?」
「そうだな、妾の負けだ。止めを刺せ。いくら妾が弱っている状態であなたの前に現れたとはいえ、もしかしたら権能を簒奪できるかもしれぬぞ」
「別にいいよ。そんなに権能に困ってないし。それに、パンドラも雰囲気をとれっていうと思う。演出とか過程大事にする人だし。……神か」
「ふふっ、違いない」
もっともだ、と言わんばかりにアテナが笑う。
「だが、そうすると草薙護堂には餞別をやったのに貴方にはやる餞別が無くなってしまう」
「……権能を餞別にする気だったんかい」
護堂への餞別が気になったが、問いただすのは少し野暮な気がした。代わりにツッコミを返してやる。
「別れは告げぬ。輪廻の果てに妾が再誕したならば、雪辱の為に再び貴方の前に現れよう。それまでゆめゆめ倒れる出ないぞ。貴方を倒すのはこの私だ」
決意を秘めた美しい笑みと共に、アテナの身体が塵となっていく。
「――――じゃあ、餞別にこれを貰おう」
ワイヤーで、手元に持ってくるのは、先ほど愛剣と共に飛ばした、アテナの鎌。
「質屋というわけじゃないけど。キミが再誕するまで、再び僕の目の前に現れるまで、この武器は僕が記念に頂いておくよ」
黎斗の言葉にアテナは残された片目を見開き、
「あぁ……それはいい。いづれ返してもらうとしよう。あはははは!!!!」
愉快そうに。ただただ愉快そうに笑う。笑い声と共に、アテナだったものが風に吹かれて飛んでいく――――
後書き
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ギリギリ間に合いました、かね
遅くなってすみません(汗
とりあえずギリギリ週末には間に合ったということで……
あ、日記でもちょろっと書きましたが、アンケートやってます。アンケートっていうか投票みたいなもんですが。もしお時間ありましたら、是非お願いします。
実は権能アンケート出した後でチート具合はどのくらいが良いのだろう、とチートレベルについてもアンケートやろうかと思ったのですが項目の作り方が思い浮かばなかったので諦めました(苦笑
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