少年少女の戦極時代・アフター
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After15 宇宙の果ての危機
城乃内と凰蓮は店を閉めてから、ザックとペコとチャッキーは合同ステージが終わってから来ることになったので、それまでの時間は舞が引っ込んでヘキサが表に出ることになった。
呉島邸の広い客間にて。
咲は癖でヘキサの隣の席を陣取った――は、いいものの。
(何話そう。去年までならテキトーなことでも言えたのに。なんかひさびさだから、気まずい?)
「髪、切ったの?」
話しかけたのはヘキサのほうからだった。
「う、うん。ちょっとでもオトナっぽくしたくて。ヘキサは? 伸ばすの?」
「そのつもり。でもちょっとジャマになってきたから、こうやって括ってるの」
「髪長いヘキサ、きっとキレーなんだろーなあ」
それこそ、かつてロシュオが“ジュグロンデョ”と称したように、天使のように美しく成長するのだろう。
そのヘキサと、咲はきっと並べない。この身がいつ成長を止めるか、あるいは若くして没するか、咲自身にも分からないのだから。
(あたしだけ停まったまま、みんなは進む。進まないで、あたしを置いてかないでくれる人は、もう、世界に一人だけ)
咲の視線は自然と、テラスへ通じるガラス戸にもたれて腕組みしている戒斗に流れた。
「何だ?」
「っあ、ごめん、なんでもないっ」
咲は慌てて戒斗から視線を外した。
「――気になるの? 駆紋さん」
「そんなんじゃないよ」
一方的なシンパシーを恋心と捉えるほど、室井咲は馬鹿でも厚顔でもなかった。
「そ、そーゆーヘキサこそ。中学入って好きな人とか出来たりしてないの?」
離れたソファーに座っていたはずの呉島兄弟の肩が、全く同じ調子で跳ねた。
あれは、絶対に聞き耳を立てている。妹に悪い虫が付いていないかを探ろうとしている。
「わたし? ないわよ。告白はたくさんされたけど、結局だれとも付き合ってないし」
「何で? よりどりみどりっぽいのに」
「兄さんたち以上の男子が相手なら考えるわ」
これには、呉島兄弟は二人して小さくガッツポーズをしている。
……この三兄妹、いい加減、兄離れ妹離れさせなければ、全員の将来に関わりやしないか。咲はそこがどうにも心配になった。
「おい」
ずっと黙って立っていた戒斗が、口を開いた。
「来たぞ」
咲が席を立ってガラス戸の向こうを除けば、1台の車がちょうど玄関に横付けされていた。
車から降りて来たのは、運転席から凰蓮、助手席から城乃内、後部座席からザック、ペコ、チャッキー。どうやら全員で乗り合わせてきたらしい。
(戒斗くんはオーバーロードだから、外の車の音が聴こえたんでしょうね)
光実が「迎えに出る」と言って客間を出て行った。
光実は程なくして客間に戻って来て、5人の客人を部屋に招き入れ、最後に自分が入ってドアを閉めた。
「これで関係者は全員揃ったな」
貴虎が立ち上がり、それぞれ適当な席に腰を落ち着けた一同を見渡した。
「碧沙。いいか」
「はい。兄さん」
ヘキサがソファーから立ち上がった。
くるりと一回転。すると、シンデレラの魔法のように、ヘキサの服装が白い祭服に変わった。
「久しぶり。チャッキー。ザックとペコも」
彼女はヘキサの顔で、ヘキサが決して浮かべない種類の笑みを浮かべた。
「ミッチに聞いちゃいたが、本当に舞……なのか?」
「信じらんねえ……」
「舞!」
チャッキーが舞に抱きついた。
「ごめんね。あの時、あたし何にもできなくて。危ない目に遭わせるだけ遭わせて、結局っ」
「チャッキーは何も悪くないよ。あの時のチャッキーやペコや、ヘキサちゃんがした色んな選択があって、今のあたしがある。あたし、後悔なんてしてない。だからチャッキーも自分のせいだなんて思わないで」
「舞ぃ……っ」
チャッキーは一層強く舞を抱き締めた。
舞は笑ってチャッキーの背中を優しく撫でてから、チャッキーと体を離し、笑い合った。
「――全部話す。そういう約束だったね」
部屋の中にいる全員が舞に注目した。
「あたしたちが宇宙へ連れ出したインベスの中には、地球人が果実を食べてインベス化した人たちもいた。その人たちの中でも、地球へ帰ることを強く願った人たちが作ったレジスタンスが、オーバーマインド」
「種族じゃなく、組織の名前だったんですね」
「君たちはその時、どうしていたんだ?」
「紘汰はオーバーマインド構成員の説得を続けました。この星で生きる道があるって。それでも星を出て行こうとするオーバーマインドには、大気圏にバリアを張って出すまいとして。でも、そうしてる内にアイツが現れて、あたしたちを封印したの」
「あのロード・デュークとかいう輩か」
舞はヘキサの顔で痛ましげに肯いた。
「封印って、紘汰くんと舞さん、今どうなってるの?」
「次元の狭間っていうのかな、そういう所に閉じ込められてる。あたしは、意識だけ飛ばすんなら紘汰よりも上手かったから、こうしてヘキサちゃんにコンタクトして、体を借りてる。――ごめんなさい、ミッチ、貴虎さん。妹さんの体、こんなふうに使って」
「いや……仕方ない」
この状況では貴虎とて舞の判断に異を唱えられないようだ。
「――封印されてるって言ったよね。紘汰くんと舞さん。じゃあ助けに行かなきゃ!」
咲はヒマワリのロックシードを胸の前で強く握った。
ヒマワリアームズの機動翼ならば宇宙へ翔けて行くこともできる。宇宙を渡るヘルヘイムの実から造ったアームズなら、宇宙空間にも耐えられる。
「助けに来て、くれるの?」
舞は強い困惑を浮かべている。
「みんなが行かなくても、あたしだけは行く。絶対」
確かにこれは遠い宇宙の果てのトラブルで、地球人の咲が出張らなくてもいいのかもしれない。地球に飛来するオーバーマインドさえ食い止めておけばいいかもしれない。
だが、それでは根本の問題は解決しない。
何より、紘汰がヒトを捨ててまで創った星が、紘汰を欠いたままなど許せない。
「でもどうやって。舞さんたちの星がどこにあるかも分からないのに」
「あたしが案内するよ」
舞が決然と告げた。
「力を貸してくれるなら、あたしが責任持って、咲ちゃんをあたしたちの星に連れてく。ただ、ヘキサちゃんの体は、借りっぱなしになっちゃうけど……」
「ヘキサに聞いてみなよ。きっとオッケーだと思うよ」
「――ありがとう」
舞は泣き笑いの顔で礼を告げた。
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