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骨斧式・コラボ達と、幕間達の放置場所

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番外『有り得ぬ世界』
  交節・月光が求むのは鉄色の刃

 
前書き
コラボ第一弾。

今回はmarinさんのSAO二次からオリジナルキャラクター、刀を振るいし月光の剣士『ジン』が参戦。

もしガトウが現れたのが、ボーンアックス執筆中の世界では無く彼の世界だったら? というIFにて展開されます。
なのでガトウのレベルも違います。
まあ彼等の詳細上(ネタバレの為不記載)、レベルは余り意味無かったりするんですけどね……。



 それではどうぞ。 

 

 
 某日某時刻、とある噂がアインクラッド前線にて流れた。


 ……戦った攻略組のプレイヤー曰く “恐ろしく強い、鉄色の髪と暗銀のメッシュをもった、短剣使いの男性プレイヤーが居る” と。

 それは、今まで何故攻略に乗り出さなかったのか、何故ギルドを率いていないのか、疑問に思う程だったという。

 半信半疑な者が多数なれど、信じる者が居ない訳でも無い。


「恐ろしく強い、か。そりゃ相対してみる価値充分てもんだな」


 黒髪のツンツンに尖った、整えてはいないだろうヘアースタイル。
 細くキリッとした、鋭い瞳。
 インドア派だったのかと思わせる、一般と比べて白い肌。
 血盟騎士団の色違いの様な、蒼色のラインと銀色メインのコート。

 そんな容姿を持った齢十五歳ほどの人物が、噂の男をよく見かけるという層のフィールド、森林地帯に踏み込んでいる。
 彼も、信じている方のプレイヤーなのだろうと窺える。


「しかし、寝てばっかりなんて……有り得ないよな。フィールドのど真ん中でなんて、そりゃ信じられねえ」


 彼の名はジン。
 刀カテゴリに属する武器を扱い、スキルを使いこなすプレイヤーだが、彼の真価は刀そのものよりもまた別にある。

 今しがた彼の言ったように、このアインクラッド……SAOと呼ばれるゲームの舞台である浮遊城は、そこで死んでしまえば現実でも死んでしまうデスゲームの場。
 プレイヤー達を猛獣の折りの中へ閉じ込めているも同義な、死の監獄の中。

 なのにそんな中で寝ているなど、噂に酷いぐらいの尾鰭が付いたので無ければ、いっそ馬鹿としか言いようがない。
 大方余裕で座り込んでいる様から勝手に予想したのだろう、そうあたりを付けてジンは鬱蒼と木々生い茂る中をただ黙々と進んで行く。


 しかしながらここはゲームの中……現実では何にも会わずに目的地へといける事も可能であれど、決められたルールの敷かれた此処でそうはいかない。


「ウォォォオ! オォォオオオ!」
「出たか」


 ポピュラーではあれどもそれなりの体躯を誇る狼型モンスターを前にし、ジンは己の得物である《蒼天》を抜き放つ。
 身を縮めて跳びかかってくる狼に、その動作を如何系統モンスターでうんざりするほど見てきたジンは一歩下がり、体術スキル『弦月』のサマーソルトを顎にぶち込んだ。
 ギャイン! と痛々しげな悲鳴には構わず、ニ回転して後方へと飛び仰向けになった狼へ、ジンは刀の有効範囲まで接近する。

 横倒しに構えた刀が緑色に輝き……刹那目にも映らぬ一閃。
 狼は刀スキル『辻風』の突進居合い切りで、赤い一文字を刻まれ更に吹き飛ばされた。
 流石に一撃でポリゴン破片へと還す事は出来なかったが、それでも体力の三割強を削り取っている分、焦る必要など何処にもない。


「グルルルルル……オオオオオオン!!」


 降りかかる左爪を刀を斜め倒しにして下へ流し、向きを変え右爪が迫る前に横腹へ走り寄る。

 ソードスキル無しで居合いの如く横薙ぎに。
 頭上に構えなおして左から斬り降ろし左方へステップ、再び振り上げ刀を打ち降ろす。
 喰らいつこうと体勢を変える狼に合わせて、ジンも胴抜きの要領で下にあった刃の切っ先を上方へと振り上げる。


「グオオオッ! ギョオオオオオオ!!」
「シッ!」


 狼の回転攻撃は刀を片手に保持し、二m程を飛び退る事で範囲外へ逃れる。

 攻撃後、すぐさまジンは肉薄。

 突進突きから振り上げられる刀、その刀身を次に包むは赤い閃光―――振り降ろし振り上げ、一拍置く構えなおしから腰を入れての突き。
 刀スキル『緋扇』の三連撃は、相手の残りHPをニ割弱まで削り取る。


「ルルルルルルオオオオッ!!」


 右爪を擡げて左爪を掲げ、牙を剥き出して暴れ出し、狼型モンスターの悪足掻きがはじまった。
 が、所詮一般モンスター。その挙動は情報も地には単なる隙見せの愚行に他ならない。

 右爪は縦一閃で抑え付け次にステップし、《蒼天》を再び斜に構えて左爪を回避。そのまま右へ転がりこんで牙を避け、ジンはトドメのソードスキルプレモーションを取る。
 青紫に瞬く切っ先が二回めり込み一歩後退、引き抜く形で面打ちの格好へ意向。右寄りに振りきった刃を今度は『辻風』の如く横向きに薙いだ。

 四連撃刀スキル『流藤(るとう)』で狼型モンスターのHPは全損、それは間違い無くジンの勝利を示している。

 悲鳴も上げられず四散して、辺りには経験値とアイテム取得の音を知らせるサウンド以外、静寂に包まれている。
 ……もっというなら、ジン意外にそれは聞こえない為、傍からは何も響いてこなかったりもする。


 そこからまた歩き出すが、彼の歩みは不意に止まる。


「居た! アイツか」



 見つけたのだ、お目当てのプレイヤーを。


 髪の毛はかなり短く逆立っており、緑色に黒を混ぜた様な“鉄色”で所々暗い銀色のメッシュが入っている。
 肌はジンと違って浅黒く、現実でも鍛えていたか筋肉もそれなりに付いていて、彼には相手の背の高さも相まって、エギルという斧使い兼商人プレイヤーを思い起こさせた。
 もっとも向こうは少なくとも件の男よりは年上で、スキンヘッドという違いがあるが。

 彼は最低限の鎧を付けた左袖の無い装備のまま胡坐意を書いて座りこみ、腕を組んで下を向き、何かをじっと忍耐強くまっているように見受けられる。
 左腕にがっちりと巻いた包帯が気になるが、恐らく特殊効果付きであるマジックアイテムの類だろう。
 少しばかり右手と比べて長いのは、生まれつきであろうか。


 そこでジンは、卑怯だなとは若干思いながらも、自身のスキル《千里眼》を発動させた。

 発動とはいっても、プレイヤー当人が望んでから本当に発動するまでは一分間待つ必要があり、そして一日一回という制約こそあれども、敵の位置を知りステータスさえ見抜けるこのスキルは、充分過ぎるぐらいリスクに見合う価値のあるものだ。

 一分たっても未だ動きを見せない男に目を向け情報を得て―――ジンは二つの意味で絶句した。


「ス、スキルが……《短剣》、《曲刀》、《細剣》、《両手剣》、《両手槍》、《投剣》、《体術》………………それ “だけ” だとっ!?」


 一つ目の絶句は驚愕、そして呆れの絶句。


 通常ソロで活動するプレイヤーは、デスゲームだという事もあり策敵に隠蔽、場合によっては聞き耳スキルを会得する者が殆ど。
 ……というか全員であり、それは例え中層クラスのプレイヤーでも余り変わらず、意味の重複する武器スキルで貴重なスロットを埋めたりはしない。

 なのに男は使い方がまるで違う五つの武器カテゴリスキルをスロットに入れ、しかも他の目ぼしいスキルはスローイングダガー等を投擲し攻撃できる《投剣》スキルと、拳や脚などで武器が無くとも攻撃を行える《体術》スキルの、補助は補助でも “戦闘時における” 補助スキルのみ。

 戦闘外、探索中に自身の身を守るためのスキルが、全くと言っていい程なかったのだ。
 攻略組クラスとなればレベル自体もそれなりのモノだろうし、まだスキルスロットは三つ以上空いているであろうに、そこすらも埋めていない。

 件の男は一体何を考えているのだろうか。


 だがしかし、それを超える二つ目の絶句がジンを襲った。



「気を取り直して……レベルは、79か、同じぐらいって訳だな。それでステータス――――は……っ!?」


 レベルは確かに表示されている。だからそれに見合った数値のステータスが表示される筈なのだ。


 筈なのに、


(バグってる……いや、“何も分からない” ……!? ど、どういう事だ……!?)



 いっそ清々しい程何も見えない(・・・・・)

 この時点で目の前のプレイヤーが、『ただ強いだけのプレイヤー』ではない事を告げていた。

 警戒心が先に立ち、刀の柄尻に手を添えた……瞬間、男がゆっくり顔を上げた。


「……ん、くぉあ……」
「……はっ?」


 今のは聞き間違えだろうか? ジンはそう思わざるを得なかった。そりゃそうだろう、こんなフィールドのど真ん中で睡眠を取る等あり得る筈が―――


「……スゥー……フゴッ」
「おまっ!? おい寝るなっ!!」
「……ぬ……?」


 有り得ていた。普通に寝ていた。
 如何やら噂は尾鰭が付いたモノではなく、真っ当な事実だったらしい。

 警戒していた端からこれでは気合いも入らず抜けてしまう。


(本当だったのは分かったが……噂が半信半疑っぽい理由が分かった。そりゃ有り得ないだろこんな奴……)


 そもそもこんな戦場真っただ中で寝る理由は一体何なのか。

 ただ寝たいなら宿屋なりプレイヤーホームなり、止むを得ないならせめて安全地帯で、シェルフでも使うなりすればいいだけの話。
 こんな切り株の傍にもたれ掛かり、胡坐をかいて寝座る意味は何処にもない。

 どうにかこうにか眼を覚ました男はジンを見やり、のっそりと緩慢な動作で起き上がった。


「……ああ、アレだアレ、お前は来客……とかいう奴か」
「まあ別に人の元に訪ねてくるのが《来客》って意味だから、あってる事はあってるが……」


 この森の中で来客は無いよなぁ、と言うのがジンの本音である。

「まあ、そうか……それで俺になんの、用事だ?」



 それを読んだのか口頭でそれっぽい返答をしながら、男は頭を掻きながら首を回す。


 まだ寝ぼけているのだろうか……途切れ途切れに言葉を発する男へ、ジンは此処へ来た目的を忘れかけていた事に気が付き、頭を振って少しばかり気分を入れ替えてから口にした。


「お前、強いんだとな。噂だが確かに聞いたぞ」
「……強い、か……つまりは、アレか一戦交えたい、と?」
「そうだな、簡潔に言えばそうなる」


 寝てばかりなれど理解が遅い訳ではなく、寧ろ話が早い方ではあったらしい。

 此処に来るまではワクワクが心を閉めていたが、今ジンの心内では別の感情もわき出ている。……この男は一体何者なのか? と。
 ステータス表示がバグだらけであった事は本人の所為なのか、それともナーヴギアやプロバイダの所為なのかは分からないが、警戒すべき人物だという事に変わりは無い。

 だがアーガスの人間だという事は考えづらかった。
 何故なら《千里眼》のスキルを考案したのは紛れもない彼らだろうし、それを会得したプレイヤーと万が一にもはち合わせる可能性を考えるのならば、極力他のプレイヤーと相違無いパラメータでアバターを作る筈だからだ。

 ……けれども、いやだからこそと言うべきか、尚更彼の正体が分からない。注意深く見逃さない様立ち回るのは、ある意味で当然取るべき策だといえよう。


 目の前の男は特に疑問に思う事は無く、腰に付いた鞘から短剣を抜く。
 他攻略組やジンの得物とはかなり違い、『黒の剣士』キリトの所持している片手直剣《エリュシデータ》ですらまだ造型に特徴があったというに、彼の得物は鉄一本から削り出したが如く、一色人繋がりの余りに簡素過ぎる刃物だった。
 青緑色にぬらリと光る短剣は柄と刃の境が少々分かり辛く、持つ方も気を付けなければ手にダメージをうっかり負ってしまいそうだ。

 始まりの街に売っている短剣ですらそこまでデザインに手を抜いてはおらず、今まで見た事の無い剣にジンの警戒心は募るばかり。


 それでもやるべき事を口にした手前引く訳にはいかず、デュエルを申請する。相手の男は直ぐに承諾し、彼の名前が『GATO』―――ガト、ガトウ、ガトーの何れかである事がまず分かった。
 レベルと同じく、名前の欄まではバグ状態に陥っている訳ではないようだ。


「……お前、名前の読みは?」
「あぁ、アレだ……“ガトウ” だ」


 そう判断し、そして名前を聞くと同時、デュエルスタートまでのカウントダウンが始まる。


 デュエルは戦いはじめる前から勝負は既に始まっており、構えから体勢からどのような技が来るのかを読んで、対処するか自ら動くかを決めるのだ。
 カウントダウン中何も考えず、ただ剣を握って立っているだけなのは三流。攻略組と打ち合うのならば愚行と言える。


 ……言えるのだが、ガトウはまるで力を入れずに短剣を握り、ブラブラ腕を揺らしてジンを見ているだけ。
 いっそ清々しいぐらい、構えもクソも無い。

 対するジンは中段受身気味に刀を構え、相手の読みを外すべく少しばかりすり足で動いている。


(……舐めてるのか?)


 脳裏に疑念が強く浮かぶジンだが、相手の思惑を考える間もなくカウントは五秒を切る。


 四―――三―――ニ―――一―――零を指す前にジンは地を蹴り爆進。二、三度ステップを踏み視線を定まらせず、刀の位置を腰溜めへと変えて刀スキル『辻風』を発動させる。


 その瞬間…………何と言ったらいいのだろうか、ガトウを見たジンの背筋に “ゾクリ” とした背向けが走る。


 それがン何のか分からぬままモンスターと相対した時を超える、恐るべき速度で刀がガトウへ迫り―――直後、肘に衝撃が走ったかと思うと、ガッチリと止められた。


「はあっ!?」
「……」


 そう “ガッチリ” と。
 ジンはガトウに、肘近くの下腕を左手で『掴まれ』て、結果ソードスキルを不発と終わらせられたのだ。


 見ると、ガトウは今までとは別人かの様に、細め気味だった目を開いて白黒逆転した目を晒し、此方を睨んでいるかのようにしっかり見据えている。


「シッ!」
「!」


 挙動と変わり様の二度の驚愕から、間髪置かずに顔面へ短剣を右から一閃。
 何とか対処しようと刀を手首で持ちあげると、ソコへ柄の打ち降ろしがきて強引に打ち下げられ、胸部を左へ返した刃で強く斬り裂かれた。

 そこで短剣は後ろに下がり隙と見て刀を袈裟切りに打ち込むが、左腕を添えられて押され、剣線が微妙にずれて、ダンスの要領で体勢低く腰を回し一撃を難なくかわされる。


(まずいっ……!!)


 近寄らせれば思うつぼだ、そう考えたジンは刀を構えず体術スキル『弦月』を実行。サマーソルトキックがガトウを襲う。
 しかし、防御もせずガトウは一瞬止まると、何と同じく『弦月』を繰り出す。

 何が目的なのか……その答えはダメージと共に訪れた。

 ほんの一瞬差でジンの脚の下にもぐりこんだガトウの蹴りが、彼のサマーソルトキックの勢いと合わせ相乗効果を生んだ様に、ジンを後方へ勢い良く弾き飛ばしたのだ。


「う、うおおおっ!?」


 予想外どころの対処方法では無いこの所業にジンは呆然。それでも何とか立て直そうとするが、数回転して地面に仰向けに激突してしまう。


「うがっ!? ぐ、くそ―――っ!?」


 ガトウはもう目の前にいた。吹き飛ぶ彼をそのまま追って来ていたらしい。

 距離が近過ぎるだけにとどまらず、肘を当てられて刀が振れず、咄嗟に体術を発動させようとするも……遅い。
 顎にスナップを利かせた一撃を喰らってしまう。

 現実ならば脳震とうを起こすの打撃は、SAO(ここ)でも数瞬頭がぶれ、視界が定まらなくなる。

 ガトウは織り込み済みだったかスナップから肘打ち、短剣で頭部めがけて突く。


「く、うっ!!」


 その一撃を首を捻って如何にか避けた……が、ナイフが引き戻されたその拍子に斬られ、一瞬気を取られた隙に体術スキル『閃打』の拳が、腹に命中しジンは『く』の字の曲がる。

 耐えきれず横向きで転がったジンは立ち上がり刀を横薙ぎに。それは切っ先を蹴りあげられ、勢いを殺された。


(いや……まだだ!!)


 しかしジンも終わらせる気は毛頭ない。跳ね上げられた位置を逆手にとり、振り降ろしを強行する。

 それに対しガトウは飛び上がって体を捻ると、ナイフを刀と同軌道で叩きつけ体操選手の如き動作で攻撃を回避した。
 ぶっ飛んだ離れ業中の離れ業に思わず停まりかけるも己を叱咤、刀を今度は右下から振り上げる。

 ガトウは低く屈みながら短剣の切っ先を添え、軽く弾いて刀の軌道を慣れた手つきで変える。自ずと振り上げた格好となる短剣が、がら空きとなったジンの腹部へ迫る。


 それでもやられっぱなしではない。
 今度は自身がはめる番だと、ジンはお返しのつもりか『閃打』をガトウめがけて打ち放つ―――のだが、前方に転がられてスカされ、立ち上がりとほぼ同時に斬りはらわれ、逆にダメージを追ってしまった。

 オマケとばかりにそこで攻撃を終わらせず、横薙ぎの体勢を活かして発動した、体術スキル『水月』の回し蹴りを叩き込まれた。
 斬り払おうと体を捻ったせいで、ジンは蹴りにより背中を強打してしまう。


(な……読まれてる、だと……!? こっちの動きは、アイツに全部筒抜けなのか……!?)


 まるで《現実で本当に武器を使い戦っていた》ような、それほどまでに無駄の無い行動と切り替えの早さ。
 背が高くとも体重移動などで瞬時に体勢を変え、時にアクロバットにも近い挙動を、時に手をも利用して迫る行動力。


 更に言えばジンはスピード型の剣士―――つまりジンが遅いから止められ、見切られているのではない。
 対してガトウは遅くは無いが、ジンと比べるとどうしても速度的に見劣りしている……している筈なのだが、全く持ってそのスピードが通用していないのはお分かりだろう。


 動き、武器の扱い方、そして恐らく戦闘経験―――何においてもジンが勝っているモノが無い。
 背が高い所為で、振りの際の先手も取られまともに武器を振る事も出来ない。


 この得体の知れないプレイヤーを放っておく事が出来る筈もなく、此処で勝って強引にでも情報を手に入れなければ、もしかすると仲間に被害が及ぶかもしれない。
 勿論、それはあくまで可能性の話であり、目の前のガトウが良からぬ事を企んでいない可能性とて、当然の事ながらありうる。


 だからこそ……詳細をハッキリさせなければいけないからこそ……ならば彼にとって、行うべきは一つだった。


「おおおっ!!」
「……」


 左袈裟掛け、水平、右振り降ろしの連刃を、二発紙一重で避け、最後は『円の動き』で短剣が刀に衝突。
 刀身の軌道があらぬ方へと向き、何時の間に持っていたかガトウはスローイングダガーを投擲し、蒼紫に包まれた鋭角な物体がジンに迫る。

 
 掠りダメージで済ませたがそれと同タイミングで、ガトウはスキル無しで低い軌道のサマーソルトキックを放ち、刀に掠らせ牽制しながら距離を取る。


 今がチャンスかと踏み込もうとすれば、体勢は重心を落としてあるわ、ナイフはもう構えてあるわで、迂闊には飛びこめない。


(隙無いのかよこいつ……!?)


 心の中で愚痴るジンへ無言で接近、次いで刃が上方より振りかかる。

 刀を斜めに構えて受け流そうとするが、直前で引かれて火花が散り、反撃封じか《蒼天》の刀身を左腕でぶった叩かれ、短剣の刺突をモロに受けて引っ張られたかのように飛ぶ。

 如何にかチャンスを作れればと―――ジンはその為に三度振るったらしいが、如何やら相手が一筋縄でいかないのを、刹那の時も待ってくれないのを悟ると……彼は己の真骨頂である、そしてジンのみが得ているスキルを発動すべく、技と攻撃を受けて距離を取る。


 違和感にすぐ気が付いたか、ガトウが草花を散らして蹴り飛んでくるが―――運が味方したか、ジンが一歩早かった。


 彼の真骨頂が、今解放される。



「ふうぅぅ……っ!!」


 スキル名《月光神竜》発動状態となった影響で、元の色から変わって黄色と化した瞳を向けられ、僅かながらガトウの顔に驚きの色が浮かぶ。

 スキルの影響で月の光を帯びた刀が、工芸品の如く美しい煌めきを放つ。


「月光石火!」


 脚元が薄ら光り、ジンの姿が消えた。
 これが彼の持つスキル……そして彼の真のスピードだ。

 高速を越えた “光速” とも見紛わんスピードを持ってして、突発的に接近して刀を振りかぶり、一太刀(それ)を短剣でズラされたのを合図とし、フェイントを織り交ぜガトウの背後へと回り込む。


「うおっ?」


 ―――そしていきなり屈まれ足払いをくらう。
 直後、左腕で突き上げるような掌底を打たれ、三度体を折り曲げて転がった。
 今のは間違いなく、ジンの圧倒的速度に対応した、としか言いようがない。

 狼狽するも焦っては相手の思う壺、ジンは空中に居るまま片手を着き、勢いを殺して体勢を立て直す。


 《月光石火》にて大幅に上がった敏捷力をフルに発揮して、ガトウの周りを走り回り撹乱する。最初こそ黄色と変わった瞳に驚いてこそいた様だが、既に元の無表情へ戻っているガトウは、それを見ようとまだ特別警戒している風でも無い。


 ジンは思い切り地草を蹴って、右側に陣取ると見せかけ左側に移動。刀を腰溜めから抜き放った。


「! 消え……だっ!?」


 目を白黒させたジンは、唐突に肩へ掛かってきた重量に耐えきれずよろめき、背中に重い何かが突き刺さって更に斬られた感触を受ける。

 目線の身で確認すれば、ガトウは背後に居り短剣を振り上げていた。

 まさか、先の斬撃にも対応したと言うのだろうか。


「月光……仭裂!」


 武器に宿りし月光が瞬き、剣が幾度もガトウへ襲いかかった。

 左袈裟からの一撃目は左から押して安全地帯へ移動、右からの二撃目をバク転と側転の合わせ技にて皮一枚で回避、三撃目の右袈裟をまたも同方向から(しのぎ)へ振りつけ無効。
 四撃目の突きは短剣を合わせて本人が回転し肉薄。

 五撃目は近過ぎて直ぐに繰り出せず、柄で叩かれて停まる。

 そして肩で行うかち上げのタックルから、体術スキル『穿鉄』のフロントキックで後方へ弾き飛ばされた。


(何故……毎度毎度付いて来れるんだ……!?)


 ジンのスピードに付いて来られる訳―――実は意外と単純なのだ。

 幾ら超スピードを持ちえ携えていようとも、結局動くのは彼自身。即ちガトウはスピードに対応しているのもそうだが、一番は単にジンの狙いを見切っているに近い。

 そこまでの先読みを可能にする為、一体どれほどの戦闘を行いえば良いのだろうか、検討など付かない。

 至近距離で行われる猛スピードの剣檄は、終始ジンが攻撃していれども優位な位置にいるのはガトウだった。


「フ……っ!」


 背後から来た刃を少し前に出て蹴り上げ、そのままスキル無しの水平蹴り。


「っ……! はあっ!」


 ジンはそれを《月光石火》由来のスピードを活かしてやり過ごすも、振り抜いた剣はガトウが “紙一重の位置まで体を逸らした” 所為で当たらない。

 そのまま倒れ込み、体のバネと腕の筋力を使って飛び込み式のキック、そしてそのまま立ち姿勢へ移行。それに対し刀で受け止めて距離を取ったせいで、ジンはすぐさま反撃が出来なかった。

 が、着地した際かかった体重を無駄にせぬと、体重を僅かに移動させ、ガトウが地を猛々しい音を立てて蹴る。


「喰ら……えっ!」


 向こうからの攻撃は此方にとってチャンスか、タイミングを計り剣道の要領で面を打つ……


「……!」


 それよりも早く、ガトウの体勢がより下がった。

 “態と” 扱けたのだと理解する頃には、クラウチングスタートの恰好から滑らかに体勢を変え、短剣を振り上げている。

 それでもまだ剣の位置は《面》を叩き据えられる場にある。
 ガトウの短剣が早いか、ジンの面が早いか―――――その答えはどちらでも無かった。


「シ……!」
「何!?」


 当たる直前、本当に直前の直前でガトウは左肩を前に出し、掌底と半身構えで刀を避けたのだ。

 ジンもまだ終わらせない、さんざ見てきた回避方法を逆手にとり、至近距離から刀を横薙ぎに振るう。


 ……しかし、ガトウの方が一枚上手だった。


「フッ」


 息を軽く吐いて思い切り脚を開くとリンボー、左手をついて主軸に半回転して右足を打ち込んだ。
 そのまま背を向けて立ち上がって裏拳を振るってくる。

 仰け反りそれを避ければ今度は短剣による斬撃。
 ならば此方もと《蒼天》を二度斬りつければ、一度は斬りつけるフリからの短剣の柄でまた打ちすえられ、二度目をと強く握る前に短剣の峰による振り上げでガードを上げられる。


「しまっ……!?」


 此処で初めて、ガトウは短剣をソードスキルもかくやの早さで振り抜き、切り返しから後退を合わせ、ソードスキルによる水平の斬撃で『Z』をジンの腹部に刻んだ。

 選ばれていたのは “半減決着モード” のようで、HPギリギリの値まで追いつめられ、もう迂闊には動けない。
 だが、ジンがスピードを活かそうとも受動的に刀を扱おうとも、防御している時でさえ能動的なガトウに勝るのは至難。


 ならば……今まで以上に、攻めるのみ。


「オオオオッ!!」


 更にスピードを。もっと速度を。ジンはその一心で《蒼天》をも奮わせ刀刃を閃かせ、ガトウは無表情のまま嘲笑うが如く尽く捌く。

 初撃籠手打ち、直前で引っ込められる。二撃の突きは体を揺らされ外れる。体重の偏った体を無理矢理捻り水平に、それにはフリーランランニングのように猛転を合わせた跳び上がり。

 すぐさま打ち放たれる飛び蹴りに、ジンは一歩下がって刹那の俊足移動から連刃を振るった。
 対するガトウは、逆手持ちした短剣に脚を乗っけて構える奇想天外な荒業で、一段目の勢いに任せて吹き飛び他の剣線から逃れる。


「まだだ!」


 空中から手で着地したガトウを見やり、一拍の休息もやらないとジンは跳び込む。
 地を脚で叩いて方向転換し、向きを変えた際の回転そのままに刀身を掬いあげた。

 何時左に持ち替えたかガトウは後ろ向きでナイフを刃の下へ、そして右アッパーを含めて《蒼天》を高々に跳ね上げる。

 初手では防がれた袈裟掛けをもう一度実行、ジンの手により加速した鋼鉄の輝きがガトウへ迫る。
 今度は受け流さず受け止めたガトウ、されど逆手に構えていた事を利用して、軽く力を抜き刃の位置を傾け僅かに崩す。


「シュ……!」


 瞬時に右手持ちに移行して、刃へナイフが触れたままに突進。
 火花を散らしながらガトウが回転して一閃し、脚の力を抜くと頭上を瞬時に通り抜ける刀。
 ガトウはそこからまるで地を這う様な体勢を取った。

 それも数瞬、直ぐに後ろ向けでの蹴りが見舞われる。


「グフッ! ……く、ああっ!」
「………」


 蹴りで終わらず立ち上がったガトウは、まず短剣で刀をいなして体を峰に添え、体重を少し掛けて扱いずらくしている。
 本当に抜け目が無い、ジンは幾度そう感じざるえない。


「……なら!」
「!」


 一度目を閉じ、猛烈な速度でひとっ飛び。生き過ぎな程距離を取ったジンは、己が今取れる一番のスピードを込めて…………爆進した。


「月光―――鷲雷!!」


 刹那繰り広げられるのは、刀を構えたジンが幾十もの分身を従え、それと共に迫る奇術的光景。一つ一つ、一人一人が(いかずち)の如き神速を持って、ガトウを断ち切らんが為猛然と迫りくる。

 それを見たガトウは……防御もせず、待ちもせず、前傾姿勢から刃の嵐に突っ込んで行く。


 行く数もの蒼き陰と、たった一つの鉄色がぶつかり―――交錯した。


「うぶっ!?」
「アレだ……もう、『見切っている』」


 この戦闘で初めて喋ったガトウの左手は、ジンの顔面をしっかりつかんでいた。
 強引に猛スピードでのチャージを止められたジンの脚は、勢い余って前へと延びて重力に従い戻って来る。
 振り子運動を真似た、独自の片手投げで倒れかかりながら草地へ投げつけられ、刀を左足で押さえつけられた。


 抗いようもないその体勢、容赦なく顔面に青緑に薄らと光る刃が、直前でより輝きを増して迫る。


 そして、勝敗は決した。













 winer:GATO

  と、そう書かれたシステムメッセージが消えてから、今までずっと倒れ込んでいた仁は上半身を上げ、また座り込んでいるガトウへ向けた。



「おまえ、何者だよ……」
「……アレだアレ……同じ、プレイヤーだ」
「……そうかよ」


 それ以降会話も無く、ただただお互いに黙り込み、森林には沈黙が走る。

 自身等に危害を加えかねないプレイヤーなのか、この手合わせでは心情の一片たりとも窺えず、見抜く事も叶わなかった。

 願うしかないのだろうか、それとも此処で粘るか。


 ジンが思考を幾つも巡らせ、眼を鋭くして完全に起き上がる。


「ガトウ、悪いがハッキリ―――」
「……フガッ…………スピィ……」
「待て待て待て! また寝てんのかお前!? そりゃないだろ!?」


 大声を出そうともやはり起きない。

 後に何とか聞き出してみれば、前線で寝てみたかっただけだの、個人的に攻略に興味は無いだの、要領は一応得ている答えが、しかし納得のいかない返答が得られただけ。


 こうして、月光の剣士と謎の短剣使い―――否、色黒な寝ぼすけとの一戦は、何とも微妙な形で幕を下ろすのであった。

 
 

 
後書き
と言う訳で結果は、ガトウさんの勝利となりました!


ガトウ「奴はアレだ……なん、だったか?」


 分かんないなら言わなきゃいいじゃないのよ…… 
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