普通だった少年の憑依&転移転生物語
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【東方Project】編
076 向日葵畑の日影
SIDE 升田 真人
「~~♪ ~~♪ ~~~♪」
「えらくゴキゲンだな、また」
「まぁね~」
とある山道。俺の隣をシホは鼻歌を混じりで歩いている。……あまりに上機嫌だったので、その〝ゴキゲン〟な理由を思わず訊くと、シホは笑顔で頷くだけではぐらかされる。……どうやら、まともに取り合う気は無いらしい。
(……ま、楽しそうなら良いか…)
……それでも、明け透けに好意を寄せてくれている相手なだけに、シホが上機嫌だとこちらも機嫌が──もとい、調子が良くなるので、シホの事は生暖かな視線で見守ってやる事にした。……と、そこに空気の読めない蟲型の──まるでムカデの様な妖怪が草群から現れた。
(……ポケ□ンばりにエンカウントするなぁ)
「……鉄砕牙!」
アホな事を考えつつ、妖怪蔓延る時世が故に背負っている“デルフリンガー”を抜こうとするより数秒速く、シホが佩刀していた“鉄砕牙”を抜き放ち、唐竹にて切り捨てる。……一刀両断にされた妖怪は敢えて音にするなら──〝キシャァァア〟とな断末魔を上げて地に臥せて生命活動を止めた。
「うぇえ…。……気持ち悪い…」
「変なところで迂闊だよな。……“コンデンセイション”。……“ウォーム・ブロウ”」
シホは百足妖怪の返り血──体液を浴びてしまったらしく。ハルケギニア式の魔法で〝凝縮〟させた水球をぶつけてやる。……これは当たり前だが──シホは濡れ鼠になったが、汚れは落ちていた。……だがまぁ、濡れたままでは風邪をひかせてしまうので、これまたハルケギニア式の〝風〟と〝火〟の──オリジナルの魔法で乾かしてやる。
「……ありがとう」
「……なに、気にする事はない」
……と、〝某空気王〟の台詞とハルケギニア式の魔法にキチガイ染みた汎用性を感じながら──申し訳程度に舗装されている山道をシホと共に行く。……この一連の出来事は、妹紅と別れて数日の──ある日の事だった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「うわぁ…。……綺麗…」
「……そこは同意だな」
眼前に拡がる花畑。呟くシホに言葉少なに同意する。……シホは目の前の風景に目を取られていて気付いていないかもしれないが──いつもならここで2~3個ほど言葉を足すのだが、今の俺にはそれが出来なかった。……確かにシホが今言った様に〝その風景〟が綺麗で、言葉にし辛いというのもある。
「……なんて花かな? 真人は判る?」
「あー」
(どう答えたものか…。……と云うか、なんで向日葵が存在してるんだ? ……それにこんなにも…)
シホの問いにどう答えるか迷う。今は、季節にしたら〝夏〟に当たるのでこの広大な花畑の花──向日葵が咲いているのはおかしくない。……しかし、寡聞だが向日葵は17世紀くらいに日本に伝来したはずで──つまり、〝現在〟〝日本〟に在るのはおかしいと云うのは判る。……ゆえにシホにどう語るか困った。
(……まぁ、輝夜が俺と暮らしている時点で今更か。そんなことは…)
「ああ、あれな──」
そんな理由で開き直り、シホに向日葵について教えようとした時の事だった。
――「私の〝庭〟に何か用かしら?」
「「っ!!?」」
いざシホに語ろうとしたその時、俺とシホの背後から不機嫌そうな──されど、そこはかとなく冷たさを孕んでいる声音で語りかけられる。その声に冷や水に押し込まれた様な気分になる。……さっきまで気を抜いてい──この様な〝強者〟に、背後を取られるまで気付かなかった自分を殴り飛ばしてやりたくなった。
(シホ──はダメか)
シホに目を遣れば、首を〝ぶんぶん〟、と音が出る様な勢いで横に振っている。……精神がこの声の主──この〝女声〟に屈服していしまった様だ。
(仕方ない、か)
「……すみません。少し連れの者と行脚している最中に、どうやら貴女様の〝領域〟に入ってしまっていた様で…。……直ぐに出ます」
腹を割り、そのまま──声の主と対面する事もいとわず、シホの手を握り共に身体を翻そうとする。……そうなれば、当たり前のごとくさっきまでの位置関係からして、声の主──〝彼女〟と対面してしまう形になる。……あまり見ない様にしても、〝彼女〟が目に入ってしまうのは仕方ない事。
……〝彼女〟の外見を敢えて言うならば、肩に触れるかどうか程度の長さで癖のついたボブカットの様な緑の髪。恐らくは〝E〟に届いていそうな〝一部〟の装甲。向日葵に続いて、〝この時代〟には存在し得なかったであろう日傘。……まるで童話かなにかから飛び出て来た貴婦人の様な出で立ちだった。
「待ちなさい」
「……なにか?」
シホの手を引き、その女性に会釈をしつつ脇を抜けようした時──空いていた方の腕が〝ぐわしっ〟と掴まれる。……普通に痛いのだが、顔に出さない様に応答する。……そんな俺の態度が、彼女のどこかともつかぬ琴線にいつの間にやら触れてしまったらしく、彼女はにぃ、と口端を上げる。
「私は風見 幽香。この向日葵──は判らないかしら。……この花畑の主よ。長物を背負っている貴方──ついでに〝混じり〟の方の娘の名前も聞かせてもらえるかしら?」
「升田 真人。……先にも申しました通り、各地を行脚しながら妖怪退治の真似事をしてます」
「シホ。右に同じです」
先に自己紹介をされた手前、礼を失しないよう、順に自己紹介をする。
「〝妖怪退治〟、ねぇ…。……だったら私も退治されちゃうのかしら?」
「……シホ、ちょっと下がっててくれ」
「うん、判った」
風見 幽香が呟くと同時に、〝轟ッ!!〟と強烈な妖気が叩きつけられる。……まだ幸いなのはそのオーラが向かっているのは俺だけ──シホには向かっていないと云う事か。……風見 幽香はシホにあまり興味をしめしていないのか、シホを退避させても文句は言わない。
「……頭が良い男は嫌いじゃない気がするわ。……それにしても良かったわ。〝つまらない真似〟しなくて済んで。……それはさておき、私の〝能力〟からしたら私の方が、圧倒的に〝地の利〟が有るから初手は譲ってあげる。……ついでに敬語は良いわ。意外と年齢も近そうだし」
「……有難い気遣いだ。……久々の〝強敵〟だ。やるぞドライグ! デルフリンガー!」
<応っ! いくぞっ!>
<応っ! いこうぜっ!>
「喋るの…?」
抜き放った〝喋る剣〟と、いきなり現れた〝喋る双籠手〟に驚きを隠せていない風見 幽香をスルーしながら、ドライグに“赤龍皇帝の双籠手(ブーステッド・ディバイディング・ツインギア)”を〝バージョン2〟で顕現してもらい〝その言葉〟を紡ぐ。
「最初からクライマックスだ。……〝禁手化(バランス・ブレイク)〟」
『Welsh Dragon Balance Breaker!!』
〝バージョン2〟の〝禁手(バランス・ブレイカー)〟──“赤龍皇帝の道化の外套(ブーステッド・ディバイディング・ツインギア・クラウンコート)”を、所々赤いラインの入った──龍の意匠が籠められいる白い外套を纏い、背負っていた“デルフリンガー”を脇構えに気味に構える。
……俺はこう見えても、一端の武芸者であると云う自負はあるので、嘗められているというのは些か業腹ではあるが、嘗められているなら最大の攻撃をお見舞いしてやればいいだけ。……幸い、初手が譲られているので勝ち筋はある。
SIDE END
SIDE OTHER
〝妖怪〟風見 幽香と〝人間(?〟升田 真人は風見 幽香の向日葵で立ち合っている。
『BoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoost!!』
「ドライグ、“デルフリンガー”に〝譲渡〟だ!」
<了解した!>
『Transfer!』
その二人の立ち合いは字義通り[一瞬]だった。……二人の立ち合いの初手は、やはり幽香が初手を譲った通り真人だった。……幽香の〝強者〟──はたまた、〝種族〟が故の油断だったもしれない。……その〝油断〟が命取りになるのは幽香はその時は気付いていなかった。
16回の〝倍加〟──6万飛んで5536掛ける、〝真人の性能〟…。……それだけの切れ味が有れば、どんな鈍であろうと、金剛石すらも豆腐の様に割断できる事を真人は知っている。……それで真人は〝“デルフリンガー”の切れ味〟に〝譲渡〟して──瞬動術で一足で幽香の懐へと入り込み、そのまま左斬り上げ気味にデルフリンガーを振るう。
……幽香はその〝必断〟の──〝確実に自分を殺せる〟斬撃を見て脳裏に浮かぶのは、〝嗚呼、死ぬんだな…〟と、その様な締観に似た感覚で──そして何より〝風見 幽香〟と云う妖怪が生まれてからの幾年だった。……元より、人間の様に〝生〟に執着しているわけでも無かった幽香はその〝死〟を享受して、そっと目を瞑った。
――「ちょっと待ってもらえるかしら」
闖入者の声に幽香の命を奪わんとしていた真人の凶撃が〝びたりっ〟と、幽香の目前一寸──3センチメートルほどの位置で止まっていた。
「その決闘、私に預からせてもらえないかしら?」
その闖入者──ぼったくりの導師が着るよ様な服に身を包んでいてウェーブの掛かった金髪な少女は、胡散臭気な笑みを浮かべ──または、胡散臭気な声でそう宣ったのだった。
SIDE END
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