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普通だった少年の憑依&転移転生物語

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【東方Project】編
  075 紅翼天翔 その3

 
前書き
3連続投稿です。

3/3 

 

SIDE 升田 真人

「……強くなった、な!」

「わっ?! ……あー…参りました」

早朝、訓練がてらと久しぶりにシホと剣で打ち合っている時。潮時とするにちょうど良さそうなタイミングだったので、終了とばかりに──シホの木剣をカチ上げる。……たまに息を呑まされる様な剣筋も有ったが、さすがに4~5年鍛えた程度の剣に負けてやるつもりは無い。

(この気配…)

こちらを窺っている気配が1つ。この〝生きているのに死んでいる〟こんな矛盾している──輝夜と似通った気配を、俺は1人しか知らない。

「シホ、汗だくじゃないか」

「……うん。私汗流してくるね? あ、そうそう。真人は覗きに来ても良いよ──〝責任〟を取ってくれるならね」

妹紅の気配。〝昨日の続き〟なのは想像に難くない。……なんだか積もる話になりそうなので、シホにアイコンタクトを送るとシホも妹紅の存在を──鼻がぴくぴく、と動いている事から察知しているらしく、俺の云わんとしている事を悟ってくれたのか、バカな事を(のたま)いつつも滝の方──ではなく、ベースキャンプに向かって行った。空気が読める──〝良い女〟だと思う。

……尤も、シホの居た日生(ひなせ)村では、シホの〝生まれ〟故にその手の能力を磨かざるを得なかったのだろう。……シホは〝混じり〟なので、空気を読み間違えるとどうなるか判ったものじゃなかっただろうし…。

閑話休題。

「居るんだろう?」

「……気付いてたの?」

そう声を掛けると、素直に岩陰から妹紅は出てくる。昨日ぶりの妹紅の顔は、やはりあまり良いとは云えない。

「シン、構え──なくても良いから用意して。一手お願い」

「……? ああ…」

妹紅は先ほどのシホとの打ち合いの時にカチ上げて、そのまま地面に落ちたままだった木剣を拾って、その木剣に螺旋状の──法術での焔を纏わせながら、〝真面目な〟立ち会いを希望してきた。……いきなりの事だったが妹紅の意を汲み、俺も意識を切り替える。さっきシホとやっていた〝遊び〟のそれや〝鍛練〟でななく、〝戦闘〟の思考にシフトさせながら、ついでとばかりに〝武装色〟で木剣を強化しておく。

「………」

「………」

……いつもの事だが〝戦闘モード〟にシフトチェンジすると、次第にとくんとくん、と心音が聞こえる様になり、視界もクリアになっていく。相対している──今現在で云えば、妹紅の一挙手一投足が〝よりよく〟見える様になる。……悪く言ってしまえば1種の脳内麻薬。

「……シンがなぜ自分(シン)を仇敵としている私を弟子として迎え容れてくれたか判らない。……シンがなぜ〝敵〟になる事が判りきっていたはずの私を育てる様な真似をした理由も判らない。……本当は〝こんな真似〟などせずに真正面から訊きたかった。──けれど…」

妹紅はそこで溜める様に言葉止める。

「……その前に、こうして剣で語る為に、シンに立ち会ってもらうことにした!」

「待て、その理屈は──っ!」

妹紅は脳筋な科白(セリフ)を言うや否や、俺のツッコミを聞かずに肉薄して来て、炎を纏わせたままの木剣を袈裟懸け気味に振るってくる。……木剣の周囲に巻かれている炎の事を考慮して、いつもより大きめに避ける。……しかし避けきれなかったらしく。火の粉が一瞬掠り、前髪の先が〝ちり焼け〟したので妹紅の暫定スペックを脳内で上方修正する。

(……やるな…っ!)

しかし、声に出しはしない。……だってこれは〝鍛練〟ではないから。

「……疾っ!」

(右…っ!)

妹紅の技後硬直を(きっさき)で狙う。しかし妹紅は既に残身は解かれていたらしく、俺の突きは空を切る。……が、そのまま右方向に流れた妹紅の身体を──〝突き〟の体勢を保ったまま、体を捻り妹紅に横薙ぎで追撃を与える。……つまり、どこぞの≪壬生の狼≫の“牙突・壱式”──〝擬き〟である。

「きゃっ?! ……くっ!」

俺の横薙ぎは木剣で防がれたので、有効打にこそならなかったものの、妹紅の華奢な身体故に、吹き飛ばすが、妹紅からしての──後方に在った巨木に激突する前に妹紅は何とか受け身をとり、そのままその巨木を足場にして俺に跳躍し木剣の鋒を向けながら突貫してくる。

「甘いっ!」

「がふぅ…っ!」

俺はそんな妹紅の馬鹿正直な突撃をブリッジみたい避け、そのまま両足で妹紅を上に蹴り上げる。……妹紅は目測にして10メートルほど上がり、そのまま重力に逆らわずに落ちて──来ない。妹紅をみ遣れば炎の翼を展開していた。……いつもの事である。

「(ドライグ。〝翼〟のコントロール、頼んだぞ)」

<(承知した!)>

『Divine Shift!』

制空権を取られたままでは面白く無いので“赤龍皇帝の双籠手(ブーステッド・ディバイディング・ツインギア)”を展開。直ちに〝光翼〟にシフトして、ドライグに飛行のコントロールを委譲。そのまま、飛翔している妹紅と改めて対峙する。

SIDE END

SIDE 藤原 妹紅

(……強い…)

判りきっていたはずの事だった。地上より5間ほど上空で対峙している相手──シンの出方を見ている。シンは〝光る翼〟で飛んでいるだけで、私に攻め入ったりはしてこない。……〝不老不死〟とは云え普通の人間みたいに、〝疲労〟はするので、乱れていた呼吸を整えられるのは僥倖だった。

「がっ!?」

一息出来たのも束の間、文字通りの[瞬間]に──シンの姿が消える。……消えたのを確認した直後、痛烈な衝撃が私の後頭部を襲った。“虚空瞬動”──シンが云うには、確かそんな技術だったはず。……いきなりの衝撃に気を保つ事が出来なくなって、地面が近付いて──或いは、近付いて行ってるのをぼんやりとしている意識で考える。

(……勝てなかったな…)

多分シンは〝真面目〟には戦ってくれたが、〝本気〟では戦ってくれなかった。……それについて悔しくは有るが、シンの〝本気〟を引き出せなかった私の所為という事になる。遠退く意識をそのまま手離す時──気が付けば、シンへと勝手に抱いていた(わだかま)りは消えていた。

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

「……負けちゃったか」

「……ああ、俺の勝ちだな。……清々したか?」

「うん」

目を覚まし辺りを見渡せばそこは鍛練場でシンに膝枕されていた。……それは兎も角──こうやって、変に誤魔化さずちゃんと勝利宣言してくるのがシンらしいと言える。シンに抱いていた蟠りは無くなっているので、シンの膝から頭を離してシンの質問に答える。……確かに清々とした気分だ。

「法術で木剣に炎を纏わせたのは良い発想だった。……空中に上がってすぐ炎の翼を展開させることが出来たのも評価出来る。……まぁ、制空権を維持出来なかった点はこれからだな」

「……シンはどうして私を強くしようとするの? ……私はシンの〝敵〟になるかもしれないんだよ?」

体面を保つ為にだったが、そう訊いていて私の胸がずきん、とした痛みが蝕む。……思えば愚問だった。私の中でもう既に〝答え〟は出ている。

……だがこれは、〝赦す〟とか〝赦される〟とかじゃない。シンは私にとって、今は亡き父上の様な存在で、居はしないが兄上の様な存在で──そして、初恋の相手だった。……思えば簡単な事だった。私はシンと敵対したくない。……ただ、〝それ〟を認めれば良い──それだけの事だった。

「あぁ、ちなみ言っとくが、妹紅に殺されるつもりで鍛えたとかは無いぞ? 殺される可能性を考慮してなかった訳でも無いけどな。……まぁ敢えて云うなれば、妹紅を鍛えた理由は贖罪だな」

「贖罪…?」

いきなりのシンの返答に鸚鵡(おうむ)返しをするしか無かった。……然もありなん。私はてっきり、私に〝殺される〟つもりで私を鍛えていると思っていた。……そして私は、そんなシンを否定するつもりだったし──否定する言葉も考えていた。

「……これも言っとくが、その〝贖罪〟について教えるのは簡単だが、教える気は〝あんまり〟無い。……世の中には知らない方が良いことも有るからな。……〝父親スキー〟な妹紅は特に知らない方が良い」

「……判った」

シンと出逢って、初めてのシンからの──口調こそいつも通りなものの明確な拒絶だった。……私はそのシンの〝拒絶〟に、得体も知れぬ〝恐さ〟を堪えながら──ただ頷く他無かった。

SIDE END

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

SIDE 升田 真人

妹紅を有耶無耶に丸め込んだ日から3ヶ月ほど経過したある日。

「さて、妹紅はこれからどうする?」

「……私、輝夜に会いに行ってみる。輝夜を見定めてみる。……それで私の意に沿わなかったら、その時は──一寸(ちょっと)殺し合いでもしてくるよ」

妹紅には簡単な合気と剣術、炎の法術を仕込んだ。つい数日前に全工程が仕込み終わった。……つまりは、教える事が無くなったわけだ。……それで〝これから〟の問答である。……妹紅は輝夜への──妹紅が抱いている確執を払拭したいらしい。

……だがしかし、〝不死者同士〟の〝殺し合い〟とは如何なものか。……そう思ったのは俺だけでは無い。現にシホは呆気に取られた表情をしている。

「シホは?」

「私は──もう少し、世直しでもしながら旅に出ようかな。……シンに勝てなかったし…」

「……大丈夫。私も勝てなかったから」

落ち込むシホ──それを慰める妹紅。この数ヶ月で、最早見慣れた光景だった。……俺もシホと同じで〝人に仇為す〟妖怪を倒しながら世直し旅をする事を伝えたら、シホも追随する事に。

……こうして、再会を誓いつつも妹紅とは別れる事になった。

SIDE END 
 

 
後書き
明日もう一話投稿します。 
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