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未来から来た魔王

作者:天野遥
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神の名を切り裂く者

満月北斗が草薙護堂との戦いで倒れこんだとは梅雨知らず、
同じく護堂達も北斗から十分な距離をとった公園で休んでいた。

「大丈夫ですか、護堂さん」

「大丈夫だ。まあ、辛いことはつらいんだけど」

ウルスラグナ第7の権能、鳳。
神速になることができるが使用後は行動不能になる能力。
250年間も使っていたら嫌でも慣れてくるがもう少しどうにかならないかと思う時もある。
まぁ、使い方は上達しているのだが。

「万里谷、霊視のほうはどうだったんだ」

「はい、太陽、海、隕石、貶められた神性……」

そう言う万里谷に続いてリリアナも

「戦闘の途中で出てきた馬はウルスラグナと同質の力を持っていました」

と、答えた。

「ウルスラグナが引っ張る馬車ってことはペルセウスと同じミスラの神格を持っているってことだよな」

「ですが信州にミスラ関連の神が現れたということはやはり日本の神なのでしょうね」

そこが今回の問題なのだ。日本の神がたくさんの外国の神と習合するということはそれだけ多くの神の知識が必要だ。それこそが護堂の神格を切り裂く黄金の剣に必要な条件だからである。

「とりあえず隕石の神といえば天白神なんかが有名ですね。もしかしたら石神の類の神性なのかもしれません」

「石神?石神井とにた感じだな。漢字で書くと」

「そうだよ、石神井の地名は昔に発掘された石の棒に由来するんだ。もともと石神はミシャグジっていう神様から由来する言葉……」

そこで恵那は黙ってしまった。

「どうしたんだ清修院」

「ミシャグジは信州から来たと考えられているんだ。モレヤ神やソソウ神とも関係づけられ、習合した中で一番有名なのは建御名方神」

おれでさえ聞いたことがあるぞ、と呟く護堂。
当然のことだ。日本に居るのなら一度は聞いたことがあるだろう。相撲の開祖であり神風と呼ばれる台風によってフビライ=ハン率いる元を追い払ったとされる神だ。
冶金を司り豊穣神や狩猟神はたまた軍神の面さえ持っている。

「そうか最初にあいつが使ったのは建御名方の能力か!?」

「おそらくそういうことかと」

「まあそうなるとあの神しかいないか」

「そうですね、ただしミスラとの関係性が読めません」

そこにリリアナが口をはさむ。

「私は日本の神は良く知らないんだが海神が関係しているのではないか。岩と関係しているということはもしかすると≪鋼≫に関係しているかもしれないし。そう言えばなのだがどうやって日本に外国の神がやってくるのだ。日本に入ってくる道筋からも権能が分かるかもしれないぞ」

「なるほど、そうなると新羅から来たと思われます」

「新羅って百済と敵対していたあの?なんでなんだ」

「新羅は百済や高句麗とは違って中国の影響をあまり受けていない国でした。その影響でソグド人たちなどの多くの外来人がいたのです。現に新羅にはたくさんのローマ式の建物があります。それもあって日本の法隆寺の柱などはローマの名残が見えると行ったりもします。それに新羅からは天日槍なども日本に来ています。新羅から日本に外国の神格が入ってくるのは不思議ではないかと」

「琉球の海神アラもこの新格に一枚かんでそうだね。特に新羅まで神格を運んできたのはアラっぽいね。あの神は外からやってきた神だし。ところでキスはどうするの?」

恵那以外の3人が凍りつく。

「そ、それはだな。こればっかりは慣れないよな。毎回思うけど」

「そうお考えなら少しは神話のことをもう少し御知り下さい。まあわ、私はぜんぜんかまわないですけど」

「リリアナさん!!」

「そういう祐里だって本当は嬉しいくせに」

そこで真剣な顔つきに戻って、

「じゃあリリアナさんはミスラ関係をお願い、恵那達は日本の神について教授の術をかけるから」

「ほ、本当にするのか?」

「はあ、もう何百年も同じことやってるんだよ。もう慣れたよ」

そう言って護堂の唇に自らの唇を近づける。周りの顔も真っ赤だったが恵那自身のかをも同じく真っ赤だった。

「私の心はあなたのものだってもう何度も言ったんだよ。王様も覚悟決めてさ、ほら」

「そうですよ、これは敵を倒すためには仕方ないことです。やましいことなど……、少しはあるかもしれませんが仕方のないことです」


そう言いながら詰め寄ってくる祐里。

護堂はみんな悪い方向にたくましくなったなと思いながら、顔を赤らめながらもキスをするはめになった。
















場所は移って北斗が倒れていた場所。
ミスラの馬車の権能は使用中激痛が伴う。その影響で先ほどまでダウンしていたのだ。

「この技使いにくいな。まあ使ったことなかったからしかないけど。どうにかして痛みだけでも抑えられたらな」

そう一人つぶやくもあきらめたかのように立ち上がった。


「まあ、それは後で考えればいいか。とりあえずは勝負のことだけを考えるべきですよね、護堂さん」

「ああ、ようやく準備が整ったんでな」


そう言って後ろから祐里さんたちをつれて僕と対峙する護堂さん。
その姿からは長い間に培ってきた王者の貫録だろううか、余裕が見受けられる。護堂さんのほうから来ないなら自分から攻撃を仕掛ける。


「ではこちらから行かせてもらいます。我、天を統べ破壊をもたらすものなり。光輪の前触れたる星の化身なり」


そう言霊を紡ぐと両方の手のひらに北斗の身の丈に合わないような大きな銃が現れる。普通なら反動で北斗自身がひっくり返ってしまうだろう。
銃の権能は相手から先に自分に向かって手を出されることが条件なのだ。今回の勝負護堂から先に攻撃を仕掛けている。北斗にとっては絶妙なコンディションだった。

それを護堂に向かって撃つ北斗。それをかがむことでかわす護堂。人間の身体能力と銃、どっちが強いかなど明白なのに運だけで戦う護堂さんに僕は戦慄を感じた。まさに自分と同族、これが神殺しなんだと。


「これは……、重力を自在に操る銃?横から重圧をかけたりなんかもできそうだな」

今はまだ簒奪したばかりだからか制御しきれてないけどもう少し使いこなせるようになったらと考えてみると、やはり油断は禁物だな。
そう自らを戒める。

そう一人つぶやく護堂にさらなる追撃がかかる。

一気に間合いを詰め、最も得意とする近接格闘戦に持ち込もうとする北斗。これを大きく後ろに跳び攻撃をかわす。

「このままじゃ埒が明かないな。俺も、俺たちもぼちぼちいくとするか。『少年』の加護の方はどうなってる?」

「いつでも大丈夫です」


万里谷達の方を横眼で確認した後、ついにウルスラグナ10番目の化身『戦士』、黄金の剣を作り出す。


「我は言霊の業を以て世に義を顕す。これらの呪言は強力にして雄弁なり。強力にして勝利をもたらし、強力にして癒しをもたらす」


ウルスラグナの『戦士』の権能はウルスラグナの鋼の神性を表す化身。
かの草薙王の代名詞ともいうべき黄金の剣。
それは神の神格を切り裂く剣。

……ということは。


「僕の権能を切り裂いて戦局をひっくり返すつもりか!!ならば妨害するまでっ」


そう言って護堂に銃を向ける北斗。


「護堂さん、手加減できませんからね!!」

「させないよ!!」


そこで護堂をかばったのは恵那だった。天叢雲剣に『強風』の権能を吸収させた『風の剣』で北斗を吹き飛ばした。
そこに北斗めがけて矢が飛んでくる。リリアナさんの聖なる殲滅の特権を帯びた矢だ。
そんなことはもちろん知らず、北斗は矢に銃で圧力をかけて速度を緩和する。

そのすきをついて護堂は言霊を紡ぎだす。


「太陽は光り輝き大地に恵みをもたらす。しかし太陽が昇る前に夜空に輝き、太陽が昇った後も輝き続ける金星は災いの印として忌み嫌われる。それは太陽神の堕落した形だからだ。お前が殺した神ももとは太陽神だった。そう日本最古のまつろわぬ神、国譲りに最後まで抵抗した神、そんな神をおまえは殺したんだ!!」













「お前が殺した神には二種類の神が混ざった神性がある。一つ目のルーツは鋼の獅子神アラと蛇の地母神の合成神、つまりギルガメッシュに値する。ギルガメッシュは隕鉄と深い関係があり、天から降ってくる隕石は特別な力を持っているとされる。なぜなら天上の聖性を充填されて地上に落ちる、それは天空の聖性を地に持ち込む惠みを表現しているんだ。スキタイの神話アレースの逸話には天から鉄器が降ってくるというものがある。これは隕石に鉄が入っていることの暗喩だ」

そして護堂は続ける。


「そしてその神話を海神が海に運ぶ。海神はさらに≪鋼≫の神格を強める。ヨーロッパとメソポタミヤと東アジアを結ぶ航路の途中の地で更に神格を複雑なものにしていく。その典型がアーリア人の神である太陽神ミスラを取り込むことになったからだ。それはミスラが石から生まれたことに由来する」


「ミスラは小刀と松明を持って生まれた。これこそまさに空から落ち、火を扱い、岩からとれる鉄を意味する。火の光明神となったミスラ、それが海を渡って新羅、台湾、琉球に渡ったんだ。そして天日槍などと同じく日本に入った」

剣の黄金色が強くなっていく。

「海神アラは各地にその通った跡を残していく。海の神である三宝荒神がその典型だ。各地に存在する荒がつく地はほとんどが海神アラが通った道が残ったものだ。海神アラが通った後は不思議なことに製鉄技術が発達している。それは外国からもたらせられた技術が通った道、鉄を操る技術が通った道であったからだ」

「やがて散らばった神性が集まり一つの神格を作り出した。それがアラハバキだ。塞、蛇、製鉄などを司る強力な神になり、東日本はもちろんのことあちこちにその神格を広げていったのだ。そのアラハバキは元は岩を御神体とする神、そして大地と山を司る神でもあった。これがもう一つのルーツにつながる」

「海神は各地を渡る神、昼子と習合する。これにより昼女、つまり天照大神の神格を東に運んだ。天照大神は長い間宮中に祀られなかった。これは天照大神が国の外からやってきたことの証明だ。天照大神の力をもらい、外国からやってきた神性とあわさった神、それがお前が殺した神、天津甕星だ!!!!」
















光る何千もの光球が北斗の周りを取り囲む。自分の天津甕星の力が削れていくのを自覚する北斗。
本当に危なくなってきたなと思いながらどうするか必死に頭をめぐらす。
しかし、どうしても妙案は浮かばない。確か昨日聞いたところによると草薙さんは鋼の神とも渡り合える武術を使えるようになる権能もあるらしい。僕の力では鋼の神と武術で渡り合えるわけがない。

そんな絶望的な状況でもなお護堂の黄金の剣は止まらない。

「ヨーロッパでも金星は良くない星とされる。天から落とされたルシファーや金星の女神イシュタルなどといった者たちはその思想によりあまり良くないイメージがついている。天津甕星はそのイメージを受け継いでいる」


「もともと天照大神も元は天から落ちた隕石を太陽の化身として捉えたものだった。つまり隕石と太陽は密接に関係している。天津甕星も同じく隕石を化身とする太陽神。甕という字には光り輝くという意味がある。これは金星のことを指しているとされているが、これは元は太陽のことだ。大和の方から見ると天津甕星が信仰されていたのは東の方角、ゆえに東では先に上る太陽を同じ時刻に大和で昇る金星と同一視したんだ。太陽の化身たる隕石と大地や山の化身たる岩、そのすべてが合わさり、天津甕星という神が構成されたんだ。海も岩と同一視される山も太陽も女神が治めるもの。そのすべてを持つ天津甕星が女神でないはずがない」


「元からあった神性にアラハバキの神性を習合し、天津甕星はさらに力を付けていく。領土はさらに増え豊かになっていく。これは民族の融合があった印、神性はさらに高められた。こうして天津甕星は神格を複雑なものにしていく。しかしそれを妬むものがいた。天照大神だ。自分と同じ神格を持ちながら自分よりも優れた天津甕星を羨んだのだ。これこそが国譲りの原因ともなった。そして武甕槌・経津主神を送り込んだ。しかし天照大神の力を少なからず持つ天津甕星を倒せるはずがない。最終的には和解するしかなかった。しかし天津甕星の信仰が衰えてくるとカガゼオと名前を変え男神として、悪人として貶めた。これはアテナとメドゥーサの関係のように天津甕星と天照大神の関係もまた変わっていったことが言える。かつて広い地域で信仰された女神はこうして貶められたんだ」

「その後に天津甕星が金星であることを強調するためにほかの神と習合されていく。それが妙見菩薩だ。かつての最高位の女神の存在を陥れるために妙見菩薩という違う神格に上書きすることによって大和朝廷は天照大神の力を引く天津甕星を人々の記憶から消していったんだ」


北斗は自分から天津甕星の権能が消えたことを感じた。手元にあった銃も先ほど消えてしまった。
今手元には何も残っていないしリリアナさんや恵那さんを倒して護堂さんに攻撃することさえできなかった。どう考えても僕の負けだろう。


「勝負はついたようね」

だがここであきらめたらカンピオーネにはなれない。カンピオーネたちはあきらめないからこそかあんピオーネ(勝者)たりうるのだ。

僕が最後に使える武器、徒手格闘に無理にでも持ち込む。

全身に強化の魔術をかけると護堂さんの足に回し蹴りする。それを受け止め、護堂もまたそれを足で受け止める。

『駱駝』の化身。重傷を受けることにより格闘のセンスを上げる。

北斗の攻撃は確かに護堂の急所を狙ったものだったが、すべて反らされ、躱される。
ついに北斗は力尽きた。


「まあしょうがないですよ。草薙王は北斗さまの何倍という時間を生きているんですから」

「そうだぞ、あまり落ち込むな」

そういわれてもな、悔しいものは悔しいし。

「じゃあ約束どうりお前の要望をかなえようか。たしか家が欲しいとか」

「そうなんだけど……、もう一つだけお願いしたいことが」

「なんだ?」

「葵さんの両親を殺した犯人を見つけてほしんだ、お願いします」

「北斗様!!私なんかのためにそのようなお願いなど」

そこで護堂は低く唸るように言った。

「そうか、分かった」

「草薙王!!」

葵さんが驚いたように叫んだ。

「この件は正史編纂委員会に問いただして、必ず黒幕を探し出してみせるわ。だから安心なさい」

エリカさんがかがんで視線を合わせるようにしてそう言ってくれた。

見上げた護堂さんたちの顔が僕にはとてもかっこよく映った。
















 
 

 
後書き
北斗が最初に殺した神はカガゼオでした。次回もぜひ神の名を当ててみて下さい。
たぶんまた加筆するとは思いますが一応今回はこれで終わりにします。
ではでは。
 
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