劇場版・少年少女の戦極時代
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鎧武外伝 バロン編
二人の女
戒斗は白ユリの花束を片手に、市内の集合墓地に向かっていた。
両親の墓参りなど何年ぶりか、もう思い出せない。もしかするとこれが初めてかもしれないとさえ思う。
帰国するシャプールから渡された手紙を、改めて読んだ。
――味方を探し、義父と戦う。それがシャプールが出した答えだった。
「戒斗に会えてよかった」という文で締め括られた手紙には、もう一枚、続きがあった。戒斗はその一枚をめくった。
“追伸”
“うかうかしてると、あの子はすぐ大人になって綺麗になって、他の男に攫われちゃうよ”
“ガンバレ!”
ぐしゃ
手紙を握り潰したのはもはや条件反射だった。
――この時の戒斗はまだ知らない。
彼が思い出した少女が、オトナになることも美しく開花することも、永遠になくなるなど。
「「あ」」
街中を歩いていた室井咲は、ばったり、湊耀子と真正面から出くわした。
「……どこ行ってるの」
「この先の集合墓地」
墓地と聞いて思い浮かぶものといえば、墓参りしかなかった。
「えっと……ごしゅうしょう……じゃない……お、おくやみ、もうしあげ、ます?」
「合ってるわよ、それで。ただ、それは駆紋戒斗に言ってあげるべきね」
「戒斗くん?」
「おとといは彼の両親の命日だったのよ」
両親。命日。咲はこの時初めて、戒斗が孤児だったのだと知った。
「なのに今日?」
「どこかの御曹司とトラブルがあって当日は行けなかったのよ。知ってるでしょう」
咲はシャプールを思い出し、複雑な気分になった。
――最後に会った日。命を狙われているというのに、シャプールは帰国すると言った。
戒斗にとってのチームバロン、咲にとってのリトルスターマインのような味方を探し出し、自分の命を狙う義父と戦う、と宣言し、笑顔で。
湊が歩き出した。
湊の言い方だと、集合墓地にはおそらく戒斗がいる。
他人の家の事情にずかずかと入り込むのがよくないことくらい、小学生の咲にも分かる。分かっているが。
咲は結局、湊を追いかけた。
集合墓地を囲む花垣の前で湊は立ち止まっていた。視線の先を追うと――一つの墓石の前で佇む戒斗の姿。
見ていると、戒斗はおもむろに白ユリの花束を投げ捨て、集合墓地を出て行った。
「不器用な男」
戒斗のことを言っているのだとすぐに分かった。
咲は墓地へ入り、戒斗が投げ捨てた白ユリを拾い始めた。
せっかくあの戒斗が持ってきたのだ。墓前に供えてやらねば花がかわいそうだ。
すると、視界に自分以外の手が入った。
顔を上げると、湊も白ユリを拾っていた。
湊は彼女が拾った花々を咲に差し出した。
「あ、ありが、と」
「どういたしまして」
それだけを答え、湊は墓地を出て、去った。咲はしばらく湊の背から目を逸らせなかった。
「不器用はどっちよ――」
咲は白ユリの束を抱いて、戒斗が立っていた墓前へ行った。
「駆紋家」とだけ刻まれた墓石が一つ。これが戒斗の両親のサイハテ。
「あ」
投げられた白ユリが一輪だけ、墓石の前に落ちる形で供えられていた。
それを見た咲は、湊が戒斗を「不器用」と評した訳をようやく理解した。
集めた白ユリを、墓石の横の花立てに射し、合掌して目を閉じた。
(いろいろお話してあげたいけど、あたしなんかより、息子さんの声のが聞きたいよね)
立ち上がり、墓地を出た。
咲は歩き出した。奇しくも戒斗が去ったのとは反対の道を。
後書き
手紙のシーンで地味に「あんた日本語書けたの!?」と作者がシャプールに思ったのは皆様との秘密ということで(*^_^*)
ある意味、咲と湊の二人で供えた花。戒斗の両親が安らかに眠れるように祈りをこめて。
鎧武外伝、あんだるしあ版、お読みいただきありがとうございました<(_ _)>
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