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ソードアート・オンライン 蒼藍の剣閃 The Original Stories

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ALO編 Running through to take her back in Alfheim
Chapter-15 紡ぐ未来のその先へ
  Story15-7 鍍金の勇者

Story15-7 鍍金の勇者

キリトside

今……この状況で、誰かが俺に力を貸してくれるなら…………何を代償にしてもいい。アスナを彼女のいるべき場所に戻してくれるなら、何と引き換えになってもいい。


須郷は両手を使ってアスナを触っていた。その辱しめに、アスナは唇を血が出るほど噛み締めて耐えていた。

その姿を視界に映しながら、俺の思考は白く焼き切れていった。怒りと絶望の入り交じった感覚が俺を包む。



剣一本あれば、何でも出来ると思っていた。何故なら……俺は、英雄の片割れだから。一万人の剣士たちの頂点に立つ英雄だから。あの世界の終止符を形作った一人だから。

企業がマーケティング理論に基づいて組み上げたにすぎない仮想世界、ただのゲーム。それをもうひとつの現実と思い込み、そこで手にいれた強さが本物の強さだと錯覚していた。


俺は心のどこかであの頃の力をまだ欲していたんだ。だから……アスナの心が新たなゲーム世界にあると知ったとき、自分の力でどうにか出来ると思い込んでのこのことこの世界にやって来た。再び夢想の力を奮って他のプレイヤーを圧倒し、醜いプライドを満足させていたんだろう。

なら、この結果は当然だ。誰かに与えられた力を自分の力だと思い込み、システム管理権限という壁さえ越えられない。悔恨を手にいれるくらいなら……思考放棄してやる…………


そう思ったときだった。

『逃げ出すのか?』

違う。現実を認識するんだ。

『屈服するのか? システムの力に』

仕方ないじゃないか。俺はプレイヤーで奴はゲームマスターなんだよ。

『それは……君の相棒をけなし、あの戦いを汚す言葉だな。私に、システムを上回る(想い)の力を示し、未来の可能性を示した、君と相棒と私の戦いを』

戦い? そんなものは無意味だ。

『君は……知っている。剣をとれ』

どうしろと言うんだよ…………

『お前は……もう知っているはずだ』


いつの間にか白くなった空間。俺の目の前に……黒の剣士(かつての俺)の姿だ。

『ヒースクリフからの伝言だ。「立ちたまえ、剣をとれ」だとさ。

…………俺はあんな剣に屈しなかった。例え相手がシステムでも、誰かを守るためなら戦った』

俺には……そんなこと…………

『アイツが示してくれた絆をお前は否定するのか?』

そうじゃないんだ、ただ…………

『なら、立って、未来を掴め。黒の剣士。望む未来は……』

……すぐそこにある!!





声が雷鳴のように響き、遠ざかっていた感覚が一気に繋がった。俺は必死にもがいて、立ち上がった。


そんな姿を、須郷はぽかんと見つめたあと、芝居がかった動作で大きく肩をすくめた。

「やれやれ……オブジェクトの座標を固定したはずなのに、妙なバグが残っているなぁ。運営チームの無能どもときたら…………」

須郷が呟きながら振り上げた腕を掴み、唱えた。

「システムログイン。ID《ヒースクリフ》パスワード…………」

頭の中に響く言葉を繰り返す。

背中に装備したエリュシデータが空中に浮き、文字列が浮かびあがる。

「ログイン。ID《kirito》パスワード……」


そのIDが終わると共に、俺の体が光に包まれた。

次の瞬間には、俺の姿は黒の剣士へと変貌していた。
空中に浮かんだエリュシデータを掴む。

次いで、飛び去った須郷よりも早く音声コマンドを放った。

「システムコマンド。スーパーバイザ権限変更。ID《オベイロン》をレベル1に」

瞬時に、須郷の手からウィンドウが消滅した。須郷何もない空間を見つめたあと、再び手を振る。

しかし、もうウィンドウは出てこない。

「僕より……高位のIDだと…………? 有り得ない……有り得ない……僕は支配者……創造者だぞ…………この世界の神…………」

「そうじゃないだろう? お前は盗んだんだ、世界を。そこの住人を。盗み出した玉座の上で独り踊っていた泥棒の王だ」

「このガキ…………僕に向かってそんな口を…………! 後悔させてやるぞ……その首をすっ飛ばして飾ってやるからな…………!

システムコマンド! オブジェクトID《エクスキャリバー》をジェネレート!!」

だが、システムはもう須郷に答えない。

「システムコマンド!! 言うことを聞けこのポンコツが!! 神の……神の命令だぞ!!」

俺はアスナを見た。驚きの顔とそこに刻まれた涙。しかし、その瞳はまだ輝きを灯したままだ。まだ、折れてはいない。

アスナを見つめて、終わらせる決意を心の中で呟くと、アスナは小さくもしっかりと頷いた。

そこで俺は再び視線を須郷に向け、呟いた。


「システムコマンド。オブジェクトID《エクスキャリバー》をジェネレート」

俺の前の空間が歪み、数字の羅列が流れて一つの剣を形作った。

その剣を須郷の方に放り投げる。須郷は危ない手つきでそれを掴む。

そこで、俺の視界に紫色のアイコンが浮かぶ。右手を振って、SAO時代のメニューを呼び出す。

アイテム欄から、ダークリパルサーを装備する。

「決着といこうか。システムコマンド……ペイン・アブソーバをレベル0に」

「な、何…………?」

仮想の痛みを無制限に引き上げるコマンドを聞き、須郷が後ずさる。

「逃げるなよ……俺の相棒は……そして、あの男は、どんな場面でも臆したことはなかったぞ。茅場晶彦は」

「か……かや…………茅場……アンタ…………また邪魔するのか!?

死んだんだろう!? くたばったんだろう!?いつまで僕の邪魔をするんだ!? いつも何もかも悟ったような顔して……僕の欲しいもの片っ端からさらって!!」

須郷は不意に俺に剣を向けてわめいた。

「お前に分かるのか!? アイツの下にいるってことが……競わされるってことがどういうことか分かるのかよ!?」

「解るさ。俺もあの男に負けて家来になったからな。でも、アイツになりたいと思ったことは一度もなかった」

「ガキ…………このガキが…………このガキがぁぁぁぁ!!」


俺は決着をつけるべく、身構えた。

須郷が剣を構えて突進してくるが、俺は間合いに入ったとたんにソードスキルを発動した。

撃二刀流スキル27連撃技〔ジ・イクリプス〕が発動し、須郷が悲鳴をあげる時間すら与えない。

俺のダークリパルサーが須郷の右目を貫いた瞬間、須郷が白いエンドフレイムに包まれた。






◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆






軽く剣を薙いだだけで鎖はちぎれ、俺は崩れ落ちるアスナを抱き止めた。

俺の体もエネルギーが尽きたかのように床に膝をついた。腕の中のアスナを見つめる。

「…………うっ…………」

やるせない感情の奔流が涙に姿を変えて俺の両目から溢れだした。

「ごめん……遅くなった…………!」

「信じてたよ……ううん、ずっと信じてる。これまでも、これからも、君は私のヒーロー…………いつでも助けに来てくれるって」

違うんだ……本当は何の力もなくて…………

そんなことを思ったが、口から出たのは違う言葉だった。

「そうあれるように…………頑張るよ。さぁ、帰ろう」

左手を振ると、複雑なシステムウィンドウが出てきた。直感だけで階層を潜り、転送関連のメニューを表示させると指を止めた。

「現実世界は、多分もう夜だ。でも、すぐに君に会いに行くよ」

「うん。待ってる。最初に会うのは、キリト君がいいもの」

アスナはふわりと微笑んだ。澄みきった視線で、どこか遠いところを見つめながら、囁いた。

「ああ……とうとう終わるんだね。帰るんだね……あの世界に」

「そうだよ。色々変わっててびっくりするぞ」

「ふふ……いっぱい、いろんなとこに行って、いろんなこと、しようね」

「ああ。きっと」

俺は大きく頷くと、一際強くアスナを抱きしめ、右手を動かした。ログアウトボタンに触れ、ターゲット待機状態で青く発光する指先で、アスナの頬を流れる涙をそっと拭った。

その途端、アスナの白い体を、鮮やかなブルーの光が包み込んだ。少しずつ、確かに水晶のように透き通っていくアスナの体を、最後の一欠片になるまで抱き締めていた。


アスナが完全に消え去ったあと、俺は体をどうにか持ち上げて呟いた。

「そこにいるんだろう、ヒースクリフ」

『久しいな、キリト君。もっとも私にとっては、あの日のこともつい昨日のようだが』

「生きていたのか?」

「私は、茅場晶彦という意識のエコー……残像だ。生きているともそうでないとも言えない」

「分かりにくいな。とりあえず礼を言うけど…………どうせなら、もっと前に助けてくれてもいいじゃないか」

『それはすまなかったな。実は、システムに分散保存されていた意識が一つになったのがシャオン君のおかげで、先にシャオン君を助けていたのだよ』

「…………あいつは、助けたのか?」

『さぁ……それは本人に聞くといい。私が助けたときには、フローラくんがかなり危なかったがね。

それと、礼は不要だ。私と君たちには無償の善意が通用するような仲ではないだろう。常に代償は必要だよ』

「何をしろと言うんだ」

すると……遥か遠い闇の中から、何か銀色に輝くものが落下してきた。手を差し出すと、卵形の結晶が収まった。

「これは…………?」

『それは、世界の種子だ。

芽吹けばどういうものか分かる。判断は君に任せる。もし、君があの世界に憎しみ以外の感情を残しているのなら…………』

「…………俺はいつか、相棒と共にアンタの世界を復活させるよ」

『ふふ…………そうか。では、私は行こう。いつか、また会える日を楽しみにしているよ、キリト君』


気配が消え去り、俺は思い出したように顔を上げた。

「ユイ、いるか? 大丈夫か!?」

その瞬間、暗闇が割れた。さっと差し込んだオレンジの光が暗幕を切り裂き、同時に風が吹いて、みるみるうちに払っていく。

気がつくとそこは鳥籠の中。目の前に光が凝縮し、ユイが現れた。

「パパ!!」

ユイが俺の胸に飛び込んできた。

「無事だったか。よかった…………」

「はい…………突然アドレスをロックされそうになったので、ナーヴギアのローカルメモリに退避したんです。でももう一度接続してみたら、パパもママもいなくなってるし…………心配しました」

「ママは戻ったよ……現実世界に」

「そうですか……よかった……本当に…………!」

ユイは目を閉じて俺の胸に頬を擦り付けた。その顔に、かすかな寂しさの影を感じて、俺はユイの髪をそっと撫でた。

「また、すぐに会いに来るよ。でも……どうなるんだろうな、この世界は…………」

「わたしのコアプログラムはパパのナーヴギアにあります。いつでも一緒です。

あれ、でも変ですね。なんだか大きなファイルがナーヴギアのストレージに転送されています。アクティブなものではないようですが…………」

「ふうん…………」

とりあえずその疑問は棚にあげておこう。今はやらなくてはいけないことがある。

「じゃあ、俺はいくよ。ママを迎えに」

「はい。パパ……大好きです」

うっすらと涙をにじませて抱きつくユイの頭を撫でながら、俺の意識は現実世界へと浮上していった。















Story15-7 END 
 

 
後書き
シャオン「よし、キリトも助け出したな」
キリト「当たり前だ。まぁ、お前のおかげだけど」
シャオン「あとは迎えに行くだけだな」

ついにキリトも助け出しました。しかし、今後もすんなりといかない。
さぁ、ラストまで突っ走りますよ。

キリト「次回も、俺たちの冒険に!」

シャオン「ひとっ走り……付き合えよな♪」
 
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