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晃とクロ 〜動物達の戦い〜

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6部分:第六章


第六章

「よし、僕達も行こう」
 彼等が雪崩れ込んだのを見て晃も言った。そしてクロ達に顔を向ける。
「いいね」
「ああ。それにしてもさ」
 だがクロはここで気になったことを口にした。
「何でここで花火なんて出したのさ」
「火だよ」
「火!?」
「そうさ。ほら、動物は皆火を怖がるだろ?」
「ああ」
「だからさ。花火を持って来たんだ」
「それで住職さんのところにいる連中を混乱させる為だな」
「うん。かなり上手くいったみたいだね」
「そうだな。けれどこれで全部終わりってわけじゃねえぜ」
 クロは下を見下ろしながら言った。
「大事なのは。これからだぜ」
「わかってるよ」
 それは晃もわかっていた。その言葉に頷く。
「それじゃ今から一気に鉄砲のところまで行くよ」
「ああ。それじゃあ皆いいな」
「うん」
「もう準備はいいぜ」
 そこにいる全ての動物達がそれに応えた。そして晃とクロの後ろについた。
「こっから一気に降りるけどよ、御主人」
 クロは晃を見上げて言う。
「慌ててこけたりするんじゃねえぞ」
「わかってるよ。それじゃあ行こう」
「よし」
 クロは頷いた。そして晃と彼の後ろにいる動物達も一気に裏山を駆け下りた。そしてそのまま銃が隠されている倉庫にまで向かった。
 倉庫まで簡単に行くことが出来た。住職さんの寺にいた動物達は既に混乱状態にあり、そこにシェパード達の攻撃を受け、最早まともに動いてはいなかった。その為晃達もすんありと倉庫に向かうことが出来たのであった。
 倉庫に辿り着くと犬達が扉に体当たりを仕掛けた。そしてそれで扉を無理矢理こじ開けた。
 中に足を踏み入れる。そこには銃があった。
「よし、これだな」
 まだ中学生の晃や動物達から見れば異様に大きな銃であった。黒光りし、禍々しい輝きを放っていた。晃はそれを見て思わず身震いした。
「これが住職さんの手に渡ったら大変なことになってたね」
「そうだな」
 彼の傍らにはクロがいた。そしてその言葉に頷いた。
「そうなってたら俺達は全員」
「それじゃ今のうちに何とかしよう」
 彼は言った。その足下をハツカネズミ達が通って行った。
「君達、迂闊に近付くと危ないと」
「いや、ここはこいつ等に任せよう」
 晃は鼠達を気遣ってこう言った。しかしクロはそれを制止して彼等に任せるべきだと言った。
「どうしてだよ」
「銃を使い物にならなくする為さ」
 クロは言った。
「銃はかなり細かい造りになってるだろ」
「うん」
 晃は答えた。
「だからよ、そうしたものを潰すには連中みたいなのが最適なのさ」
「そうなんだ」
「まあ見てなって、すぐにわかるから」
 クロがそう言うよりも早く鼠達は銃にかじりついていた。そして銃を瞬く間に傷だらけの無残な姿に変えてしまったのであった。これには正直晃も驚きを隠せなかった。
「えっ、もう」
「どうだ、俺の言った通りだろ」
「ああ、その通りだね」
 これは素直に認めるしかなかった。
「まさかこんな簡単に」
「これで銃はなくなったな、何はともあれ」
「うん、それじゃ後は」
「住職さんだけだ。いいな」
「勿論」
 晃は強い顔で応えた。
「それじゃあ今から行こうか」
「そうだな。用心しとけよ」
 それに応じるクロの言葉もこれまでとはうって変わって真剣なものだった。
「住職さんは手強いぜ」
「悪人の脳味噌も。スポーツ選手の脳味噌も食べてるんだよね」
「それだけじゃない。今じゃ生き肝まで食べてる。それで力も半端なものじゃなくなってるんだ」
「鬼みたいだね」
「そう、鬼なんだよ」 
 クロは言った。
「今の住職さんは鬼さ。だから覚悟していけよ」
「わかったよ、それじゃあ」
 既に寺にいる住職さんに従う動物達は皆何処かへ逃げ去ってしまっていた。そして晃の仲間の動物達は寺の本堂を取り囲んでいた。皆警戒し、唸り声さえあげていた。
「あそこに住職さんがいるんだ」
「すっげえ殺気がするだろ」
「そうかな」
「人間にはわからねえか」
 クロは晃の素っ気ない返事を聞いて溜息をついた。
「これだけやばそうな気だってのに」
「殺気とかそんなのとは無縁の世界で生きてきたからね」
 晃はそんなクロに対してこう言葉を返した。
「そう言われてもわからないよ」
「じゃあ仕方ねえな。とにかくだ」
「うん」
「今動いてるぜ、本堂の中でな」
「いよいよなんだね」
「そうさ、びびってションベンなんてちびるなよ」
「わかってるよ」
 夕闇が次第に濃くなろうとしている。晃はその中でクロの言葉に頷いていた。
「怖いのは事実だけれどね」
「来たぜ」
 本堂の扉がバリバリと鳴った。
「その鬼のご登場だ」
 住職が姿を現わした。髪の毛一本もない頭にボロボロの法衣と袈裟を着ている。そしてその身体はまずでプロレスラーの様であった。
 顔も若々しい。そこにいるのは晃が知っている住職さんではなかった。禍々しいまでに妖気を漂わせる一人の魔人であった。それが今晃と動物達の前に姿を現わしたのであった。
「誰かと思うたら」
 住職はズシ、ズシという重い足取りで前に出て来た。
「獣達か。それに小童が一人」
 口が開き、そこから彷徨の様な言葉が発せられる。その口にある歯はまるで牙の様に鋭く尖ったものになっていた。
「わしに何の用じゃ」
「それはもうわかってる筈です」
 晃が住職に対して言った。
「住職さん、貴方を止める為に来ました」
「わしをか」
「そうです、貴方のとんでもない行動と計画を止めさせる為にここまで来ました」
「ではわしが脳や生き肝を喰ろうておるのを知っているな」
「はい」
 晃は答えた。
「だからここまで来ました」
「そうか、では覚悟はよいな」
 住職の身体から赤紫の気が放たれたように見えた。朧で、それでいて夕闇の中に蠢くそれはまさに妖気であった。人にあらざる者達だけが放つことのできる気、晃も今それを見た。
「まずいぜ、御主人」
 クロが彼に言った。
「このままじゃあんたやられちまうぜ」
「けれどどうしたら」
「さっきの花火はまだあるかい?」
「花火?」
「最初に投げてたあの小さい玉でもいい。あるか?」
「残念だけれどないよ」
 晃は答えた。
「そうか、じゃあ打つ手はなしだ」
 クロの言葉は諦めたのか素っ気無いものであった。
「皆このまま住職さんにやられちまうぜ」
「困ったな、そりゃ」
「折角ここまでやったってのによ」
 動物達はそれを聞いて残念そうに呟く。
「こんなことならさっさと倉庫にあった蜂蜜食っておくんだったぜ」
 そこで狸が言った。
「おい、こんな時まで蜂蜜かよ」
 それを聞いて狐が元々尖っていた口をさらに尖らす。
「そんなのだから太るんだろ」
「そういう御前だって油揚げには目がないだろ」
 狸もムッとして言葉を返す。
「ったくよお。お互い様じゃねえか」
「お互い様だったらその蜂蜜山分けしな」
「食うのかよ」
「俺だって蜂蜜は好きなんだよ。いいだろ」
「あの住職さんから生き残れたらな」
「ヘッ、生き残れたら蜂の巣も紹介してやるよ」
「それ何処にあるんだよ」
「裏山によ、あるぜ。でっかいのがよ」
「裏山・・・・・・蜂蜜」
 それを傍目で聞いていた晃の心にまたあることが閃いた。
「それだ、それだよ」
「どうしたんだよ、一体」
「逃げても間に合いそうにないぜ」
「違うって。住職さんをどうにかする方法を見つけたんだよ」
 晃は明るい声でクロと烏に返した。
「誰でもいい、倉庫からその蜂蜜を持って来て」
「あ、ああ」
 動物達のうち何匹かが晃の言うままに倉庫に向かった。そして蜂蜜が入った壺を持って来た。
「持って来たぜ」
「これをどうするんだ?」
「最後のお楽しみってわけじゃないだろう?」
「そんな筈はないさ」
 晃はその壺を受け取って会心の笑みを浮かべていた。
 
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