晃とクロ 〜動物達の戦い〜
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3部分:第三章
第三章
「人を驚かせるのが趣味なんだよ」
「そんなの聞いたことないね」
「まあまあ」
「今度やったら本当に霊媒師のところに連れて行くからね」
「まあそっちとは関係ないから無駄だけれどな」
「じゃあ三味線屋」
「っておい、言うにこと欠いてそれかよ」
三味線という言葉を聞くと急に声をあげてきた。
「言っていいことと悪いことがあるだろ」
「じゃあそんなことするなよ」
「ちぇっ、厳しいなあ」
まだ不満はたらたらだったがとりあえず納得することにした。三味線まで出されては納得するしかなかった。それが猫の弱味であった。
「大体まだ三味線屋なんてあんのかよ」
「何か言った?」
「何にもねえよ」
晃の方が一枚上であった。何はともあれこの黒猫は晃の家に飼われることとなった。名前はクロと名付けられた。
「安直な名前だな、それにしても」
「じゃあ何がいいんだよ」
「そう言われるとこれと言って思いつかないな」
不平は人間並なクロであった。だが晃はそのクロから何かと話を聞くこととなった。
「その住職さんだけどな」
「うん」
晃は学校から戻るとクロの話を聞くようになった。彼は街の隅から隅まで知っており何かと知っているのだ。
「最初は凄く真面目な人だったらしいんだ」
「そんな人が何故」
「真面目な人程ってやつさ」
クロは言った。
「何かを求めて、それが極端にいき易いのさ」
「つまり何でも知りたいと思ってそんなことをしてるんだね」
「そうさ。あの寺を見に行けばいいさ。夜中にな」
「とんでもないことしてるんだね」
「墓を掘り起こしてな。そこから死体を暴いて」
「ああ、もう聞きたくない」
クロが何を言うのかわかった。
「それでそこから死体の頭を割って脳味噌をすすってるんだろ」
「よくわかったな」
「ホラー映画の定番だよ。そういうの苦手なんだ」
「何だよ、苦手なのかよ」
「実際にそんなの見て平気な人もいないと思うけれど?」
「まあそうだな」
それには納得した。
「俺も見ていて気分のいいものじゃなかったし」
「だろ?誰だってそうさ」
晃は口を尖らせていた。
「本当の話だってことすら信じたくないのに」
「けれど本当のことなんだぜ」
「嫌だね、本当に」
「本当に嫌なのはこれからさ」
「今度は何?その内臓でも食べてるの?」
「それもあるけどな」
「やっぱり」
いい加減うんざりしてきた。
「けれどそれだけじゃないんだ」
クロは言う。
「その知識を使って何か悪いことを企んでいるらしいんだ」
「悪いことって?」
「最初はそうじゃなかったみたいだけれどな。ただ純粋に知識を手に入れたかっただけで」
「それでどうして悪いことを企むようになったんだい?」
「人間にだっていい奴と悪い奴がいるだろ?」
「うん」
「住職さんは悪い奴の脳味噌も食べたんだよ。それで」
「悪い奴の影響も受けたってことか」
「そういうこと。それで他にも運動神経がいい奴の力も身に着けたから」
「怖いものなしってことか」
「このまま放っておくと大変なことになるよ」
「だろうね」
「で、さ」
クロはここで言葉を一旦とぎって晃に尋ねてきた。
「これ聞いてどう思う?」
「どう思うって?」
「何とかしようとは思わないのかい?人の脳味噌を食べてそのうえ良からぬことを企んでいる住職さんの話を聞いてさ」
「そう言われてもね」
晃は特に何も思わないようであった。表情はこれといって変わらなかった。
「僕だけじゃ」
「このままだと町が大変なことになるぜ」
「具体的には?」
「俺達脳味噌を食べた奴の中には今の住職さんについてる奴もいるんだよ。悪い奴の脳味噌を食べてな」
「同じ穴の何とかってやつだね」
「まあ一言で言えばな。その連中が住職さんの指図で何かと動き回っているんだ」
「町を自分達のものにするつもりとか?」
「具体的に言うとな。まあそんなことを考えているんだと思う」
「若しそうなったら」
「当然俺も御前も唯じゃ済まないだろうな。若しかすると御前も脳味噌を」
「おいおい、止めてくれよ」
その話を聞いて気味が悪くならないと言えば嘘になる。
「そんな話」
「けれど今の住職さんだったらわからないぜ」
それでもクロは言った。
「人間の脳味噌食べるような人だからな」
それは御前もだろ、と思ったがとりあえずそれは黙っていた。そしてまた話を続けた。
「けれどさ」
「ああ」
「具体的にはどうすればいいのさ」
「俺に任せな」
クロは顔を上げてこう言った。
「俺に任せればいいから」
「任せればって」
「言ったろ?脳味噌を食べた動物がこの町には一杯いるって」
「うん」
「そりゃ悪い奴の脳味噌食べたのもいるけれどさ。そうじゃない奴もいるんだ」
「そうした動物を集めるんだね」
「そういうこと。けれどこれは内緒にしておきなよ」
「まあそうだね」
晃はそれには納得した。
「住職さんにわかったら大変なことになるしね」
「そういうこと。それじゃあ早速準備をはじめるか」
「今から?」
「思い立ったが吉日ってな」
クロはそう言いながら立ち上がった。そして大きく背伸びをする。
「それに今からはじめとかないとまずいしな」
「勉強みたいなこと言うね」
「残念だけれど勉強なんかめじゃない位やばいことだぜ」
クロはこう晃に対して忠告した。
「命の危険もあるしな」
「よくそんなのに普通の中学生を引っ張り込めるね」
「だってよ、一応は俺の飼い主なんだから」
クロは悪びれずに返す。
「当然だろ。これも拾った縁」
「拾ってもらった恩とかは考えないの?」
「恩!?まさか」
しかしクロは晃のそんな言葉をすぐに笑い飛ばした。
「猫に恩義なんてさ。求めるなよ」
「聞いた僕が馬鹿だったよ」
「じゃあな。ちょっと行って来るぜ」
「気をつけてね」
そんなやり取りの後でクロは窓から外に出た。そしてその日はそのまま帰っては来なかった。晃は暫く待っていたが何時まで経っても帰って来ず、これ以上待っても仕方ないと思いシャツとトランクスだけになってベッドに入った。そしてその中であれこれと考えていた。
「あんなこと言ってるけど」
やはり不安であった。
「そんな危ない人に。何をするつもりかなあ」
それを考えるだけで不安が増す。しかし今からあれこれと考えても仕方ないのでそのまま眠りに入った。その日はそれで終わりであった。
次の日学校での授業と部活を終えた後で家に帰った。部屋に入るとそこにはクロがいた。
「よお」
「帰ってたんだ」
「ああ、とりあえずやることはやって来たぜ」
クロは胸を張ってこう言った。
「やることって?」
「外を見てみな」
窓の方を指差して言う。
「これで。あの住職さんにも負けないと思うぜ」
「うわ」
窓の外の道や家の屋根、そして電線等に彼等がいた。
そこにいたのは大勢の動物達であった。クロと同じ猫だけではなく犬や鼠、狐、狸、蛇、そして烏や鳩、雀達までいた。
「この動物達は?」
「俺の同志さ」
クロは晃に顔を向けて言った。
「俺と同じく住職さんに脳味噌を食わされた連中さ。俺が一日かけて集めて来たんだ」
「こんなにいたんだ」
どれだけいるか一目ではわからない程である。かなりの数であるのは間違いなかった。
「そうさ。けれど住職さんの方にもいるんだ」
クロの言葉が鋭いものになった。
「それは覚えておいてくれよ」
「そっちの方はどれ位?」
「まあこっちの方が多いかな」
クロは少し考えてから言った。
「それも結構」
「じゃあ問題ないんじゃないの?」
「ところがそうも言ってばかりはいられないんだ」
「何で?」
「向こうには住職さんがいるから」
彼は答えた。
「言っただろ、住職さんは脳味噌を食べてるって」
「うん」
「それも何人も。だからもう化け物みたいになってるんだよ」
「化け物」
「今じゃ悪人とか元スポーツ選手とかの脳味噌や内臓まで食べているから。相当な力を持っているんだ」
「そんな人とやらなくちゃいけないんだね、僕達」
「そうさ、だからこそ気をつけなくちゃいけない」
「それでどうするの?」
「それを今から話したいんだけれど」
「わかったよ。それじゃ何処で?」
「ここじゃ駄目かな」
「入られると思う?」
晃はクロを見下ろして言った。
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