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遊戯王GX~鉄砲水の四方山話~

作者:久本誠一
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ターン23 鉄砲水と太陽神(前)

 
前書き
あれ、一日でいっぺんに前後編投稿するのってもしかして初?
まあとにかく、前々から告知していたフランツ戦です。
なお今回、6月発売のとあるカードがガッツリ本編に絡んできます。フラゲとかネタバレが嫌な人は一か月待ってから読むこと推奨です。 

 
「どーこだー!」

 少しでも犯人の気を引くべく、あえて派手に音を立てながら走り回る。チャクチャルさんは完全にしゃべる力を失う一瞬前、確かに自分の衰弱はラーの翼神竜のしわざだと言った。だけど、ここで一つ疑問が生じる。去年は何ともなかったのにここにきて急にラーのカードが世界のどこかからいつぞやの三幻魔みたいにカードの、それもチャクチャルさんほどの力を持ったモンスターの力を吸い取るようになるというのはいくらなんでもおかしな話だ、ということだ。
 つまり、何か裏がある。あまりといえばあまりのタイミングの良さから一時は斎王が何か企んでいるのかとも思ったけど、三幻神をどうこうできるほどの力を斎王が持っているのならいつまでもこのアカデミアに執着する理由がまるでわからない。だから何か、もっと別の理由が絡んでいるのだろう。そう考える方が自然だ。そしてその理由というのが、このジェネックスに繋がっているとしたら?いや、別に鮫島校長を疑うわけじゃない。ただ、この大会には世界中のプロが集まってくる。伝説のカードがやってくるには、もってこいの場所といえるだろう。つまり、ラーはこの島に来ているのかも。その考えを裏付けるように、タイミングよく校長の声が島中に仕掛けられたメガホンから放送された。

『ジェネックス全参加者に告ぐ。大会を一時中断し、全員に外出禁止を命ず。繰り返す、大会を一時中断し、全員に外出禁止を………』

 タイミングからいって十中八九これだ。むしろ違ったらどうしようってレベルだ。

「ビーンゴ、っと。悪いね校長センセ、外出禁止は聞けそうにないわ。うちの大事な神様ここまで弱らせてくれてんだ、キッチリ落とし前だけはつけてもらわないとね」
『……!!』
「ん?どしたのうさぎちゃん……おっと、センキュ!」

 パタパタと飛び跳ねながら真剣な顔で僕の学生服の裾を引っ張る幽鬼うさぎ。彼女が指差す方向の先には、何かを話している十代と、あれって誰だろうか。ここからだと後ろ姿しか見えないけど、なんだかどこかで見たことある人な気がする。だけど、今そっちは重要じゃない。彼女が指差していたのは、その二人に近づく黒い影の方。いかにもさえない研究員、といった風体だが、なぜか見ているだけで人を不安にさせる嫌な気配を持っている。こっそり彼らから十数メートルの距離まで近寄ってみると、ちょうどその男が二人に話しかけるところだった。

「……これは、ミスター……」

 む、うまく聞こえないな。さすがにこれだけ離れてれば当たり前か、もうちょっと近寄るとしよう。ついでに回り込んで、あの研究員の背後を取れる位置に移動する。うまいこと誰にも気づかれずに絶好の位置を取り、再び耳を澄ます。

「……そのカードを返すのデース」
「返してほしければ、この『ラーの翼神竜』の入ったデッキにデュエルで勝利することですね」

 ここからだと裏向きで見えないけど、なにやらカードを十代たちの方に見せつけてからそれをデッキに入れる男。あの反応からいって、間違いなく今チャクチャルさんの力を吸い取ってるらーとやらはあれで間違いないんだろう。

「いいでショウ、私が相手を……」
「いいや、ここは俺が!」

 おっと。ここまで追いかけてきて、今更十代に出番とられちゃ敵わない。サッと飛び出してなるべく素早く男をプロレス技でいうところのスリーパー、早い話が首を腕で締め付ける。

「悪いね、十代。僕はこの人に恨みがあるんだ」
「あ、清明!?なんでお前がここに!」
「野暮用が積み重なってね。この人が持ってるのがラーの翼神竜、なんでしょ?で、それを倒せば万事丸く収まるんでしょ?」
「た、確かにそうデスが。彼の名前はフランツ、私の会社のデザイナーの1人デース」

 それだけ聞ければ十分だ。そろそろ酸素不足で顔色が変わりだした男を解放して、地面に倒れこむようにして必死に息を吸うのを見下ろしながらデッキを準備する。

「き、貴様、いきなり何を……!」
「その台詞、そっくりそのままリボン巻いてシール貼って叩き返したげるよ。お前のせいで、チャクチャルさんは……!」

 別に死んでないけど。……ないよね?

「ハア、ハア……よし、いいだろう。まずはお前からだ、神と戦う栄誉をやろう」
「ボーイ、いくらなんでも無茶デース!彼のラーはコピーカードですが、それでも一介の生徒が相手をしていいものでは……!」
「まあまあ、会長さん。俺だって相手してみたいけど、ここは清明に任せようぜ。アイツもすごく強えデュエリストなんだ」
「しかし!」
「感謝するよ、十代。……神と戦う栄誉をやろう?上等上等、その台詞もそのまま送り返してやるよ」

「「デュエル!」」

「先攻はお譲りしますよ、お先にどうぞ」
「後悔しても知らないよ?僕のターン。ヒゲアンコウ、守備表示!」

 ヒゲアンコウ 守1600

「さらにカードを伏せて、ターンエンド」
「私のターン、ドロー。フィールド魔法、神縛りの塚を発動!」
「な、なんだ!?」

 見たこともないフィールドカード。地面から3本の塚がせりあがり、その周りをバチバチと不穏な音を立てて雷がかすかに見える。

「このカードこそ、神をコントロールするために作り出された神を封じ、神を喚ぶデビルズ・サンクチュアリに次ぐ第二の聖域。そして魔法カード、おろかな埋葬を発動。デッキからモンスター1体、ラーの使徒を墓地に送ります。そしてレベル8モンスター、神獣王バルバロスを攻撃力1900にすることで妥協召喚。バトル、バルバロスで攻撃!」

 神獣王バルバロス 攻3000→1900
 神獣王バルバロス 攻1900→ヒゲアンコウ 守1600(破壊)

「カードを2枚伏せ、ターンエンドです」

 結局神縛りの塚とやらには何の動きもなく、それがかえって不気味だ。伏せカードは怖いけど、ここは攻めるべきだろうか。

 清明 LP4000 手札:3
モンスター:なし
魔法・罠:1(伏せ)

 フランツ LP4000 手札:2
モンスター:神獣王バルバロス(攻)
魔法・罠:1(伏せ)
場:神縛りの塚

「僕のターン、ドロー!」

 引いたカードは……ふむ。攻めるのに向いた手札じゃないから、まずは場を固めて様子を見よう。いくら怒っている時だって、いや、怒っているからこそ一歩下がって様子を見る。力任せに踏み込んでいくとすぐに足元救われるからね。もとより、水属性はあまり力押しが得意なタイプではないのだ。

「グリズリーマザーを守備表示。これでターンエンド」

 グリズリーマザー 守1000

「私のターン。まずはトラップ発動、ギブ&テイク!このカードの効果で私の墓地に存在するラーの使徒をお前の場に特殊召喚し、さらにそのレベルを私のバルバロスに加算する」

 ラーの使徒 守600
 神獣王バルバロス ☆8→12

「僕の方にモンスターを送りつけてまでレベルを上げた?」
「惜しいが、それは少し違う。私の目的はレベル上げもそうだが、ラーの使徒をお前の場に送りつけることだ。ちなみにそのカードは特殊召喚に成功した時デッキ、手札から同名モンスターを2体まで特殊召喚できるが、そんなカードは入っていないだろう?」

 当たり前だ。こんな金ぴかのコスプレしたおっさんのカードなんて見たこともないぞ。

「バトル、バルバロスでグリズリーマザーで攻撃!トルネード・シェイバー!」

 神獣王バルバロス 攻1900→グリズリーマザー 守1000(破壊)

 バルバロスの振り回す大槍が巨大熊を一撃で薙ぎ払う。だけど、グリズリーマザーは決してタダでは死なない。

「マザーの効果発動!戦闘破壊された時、デッキから攻撃力1500以下の水属性モンスターを攻撃表示で特殊召喚……ん?」

 妙だ。グリズリーマザーの効果が発動できない。

「クックック、無駄だよ。ラーの使徒がフィールドにいるとき、そのコントローラーはラーの使徒以外の特殊召喚ができない。さらに、神縛りの塚第一の効果発動!フィールドに存在するレベル10以上のモンスターが相手モンスターを戦闘破壊した時、相手に1000ポイントのダメージを与える!」

 バルバロスが振り回した槍をそのまま天に掲げると、3本の塚から雷が槍に落ち、そのまま僕めがけて突っ込んできた。だけど、これはピンチじゃない。むしろあの不気味なフィールドをぶち壊すチャンスだ。

「その瞬間、手札からサイクロン発動!チェーンして神縛りの塚を破壊して、バーンダメージは無効に!」

 目にもとまらぬスピードで風が吹き抜け、3つの塚を風化させる。チェーンして破壊すれば、この手の効果は無効になる。これで、1000のダメージを受けずに済んだわけだ。
 だけど、それを見るフランツの顔はなぜか喜びに歪んでいた。

「神縛りの塚を破壊したな?この瞬間に第3の効果発動、このカードは破壊された時に、眠れる神を手札に加えることができる!デッキに眠りし神、ラーの翼神竜-球体形(スフィアモード)を手札に!」
「なっ!?」

 読んでいた?こちらが神縛りの塚を破壊することを織り込み済みで?ただの偶然だと思いたいけど、そうも言いきれない迫力がフランツからは立ち上っていた。とにかく呼ばれてしまったものはどうしようもない、か。
 それに、今くわえた謎のカード。スフィアモード?神そのものではなくて、その派生の1つがなんでわざわざカードに?

「ワッツ?フランツ、なんですかそのカードは!?」
「ああ、そういえば会長には報告していませんでしたね。こんなカードを作る羽目になったのも、全てはあなたのせいなのですよ会長。あなたはラーのコピーカードを作る際、その能力を恐れるあまりバトルシティのデータから判明したオリジナルのテキストを大幅に削減して恐ろしいほどの弱体化をした、違いますか?」
「イエース、私は確かに神の力を恐れ、唯一手元に残したそのコピーも能力のほとんどを削除しました。怖かったのデース、もう一度『神』があの力を使うことが」

 よくわからないけど、このどっかで見たことある人は何か大事なことを言おうとしている。この会話は聞いておかねばならない。そんな気がした。

「その癖、研究用と言い張ってコピーカードを弱体化させたとはいえ手元においておこうとする。そんなあなたの中途半端な態度が神の怒りを招き、そして神は私を選んだ。これはいわば、私という媒体を使ってのあなたへの神罰なのですよ、会長。その一環として生まれたのが、この球体形のカード。このカードの存在により、ラーはその真の力をほんの少しだけ解放できる」

 話しているうちに自分に寄ってきたのか、芝居がかった動きで両手を広げるフランツ。そのうっとりした顔つきから、話し合いでどうこうなる相手ではないと会長とやらも悟ったらしく、何か言おうとするも結局その口から言葉は出なかった。

「おっと、まだ私のバトルフェイズは終わっていない。手札からジュラゲドの効果発動、このカードを手札から特殊召喚して私のライフを1000回復する。そのままフィッシュボーグに攻撃!」

 フランツ LP4000→5000
 ジュラゲド 攻1700→フィッシュボーグ-アーチャー 守300(破壊)

「ターン終了時にバルバロスのレベルが8に戻り、これで私はターンエンド。ああ、1つ言っておきますが、ラーの使徒は三幻神以外のあらゆるカードの生け贄にすることができないですから」
「神にしか尻尾振らないって?そりゃまた随分狂信的なこって」

 神獣王バルバロス ☆12→8

 清明 LP4000 手札:2
モンスター:ラーの使徒(守)
魔法・罠:1(伏せ)

 フランツ LP5000 手札:3
モンスター:神獣王バルバロス(攻)
      ジュラゲド(攻)
魔法・罠:なし

「僕のターン、ドロー……何もせずにターンエンド」

 動こうと思えば動けないことはない。だけど、まだ少し手が足りない。

「私のターン。おいおい、まさか神を見る前に敗北かい?それは勘弁してもらいたいものだね。2体目のバルバロスを妥協召喚する」

 神獣王バルバロス 攻1900

「今だ!リバーストラップ、激流葬発動!バルバロスの召喚をトリガーにして、僕のフィールドの使徒を含めた全モンスターを破壊!」
「チッ……まあいいさ。私はこれで、ターン終了だ」

 清明 LP4000 手札:3
モンスター:なし
魔法・罠:なし

 フランツ LP5000 手札:3
モンスター:なし
魔法・罠:なし

「僕のターン、ドロー!攻めるなら、今しかない……!ハンマー・シャークを召喚、そのまま効果を発動!自身のレベルを1下げて、手札からレベル3以下の水属性モンスターを呼びだす!氷弾使いレイス、特殊召喚!さらに自分フィールドに海竜族のレイスを召喚したことで、シャーク・サッカーも特殊召喚する!」

 ハンマー・シャーク 攻1700 ☆4→3
 氷弾使いレイス 攻800
 シャーク・サッカー 守1000

「ほう、1ターンでここまで展開するとは、な」
「さあ、バトル!ハンマー、レイス、ダブルダイレクトアタック!」

 ハンマー・シャーク 攻1700→フランツ(直接攻撃)
 フランツ LP5000→3700
 氷弾使いレイス 攻800→フランツ(直接攻撃)
 フランツ LP3700→2900

「くっ……!」

 またジュラゲドでも出てきたらどうしようかとも思ったけど、別にそんなこともなく攻撃は通った。これでさっきの回復分はチャラにしたうえで大ダメージを与えられたけど、なぜかフランツが笑っているのが不気味だ。
 でも、もう僕の手札はない。頼みの綱の激流葬もさっき使った以上、これ以上できることはない。

「ターンエンド」
「その展開力は大したものだ。ああ、まったく。だからこそ、礼を言わねばなぁ!」
「え?」

 嫌な予感、なんて生易しいものじゃない。何か得体のしれない、僕の力ではどうにもできないようなものがゆっくりと、でも確実に近づいてきているような。でも、どこか懐かしさも感じる。と、そこで気が付いた。ああ、そうか。この押しつぶされそうになる感覚に対する懐かしさの理由は、僕はもう2度も同じものを経験済みだからか。

「神……」

 知らず知らずのうちに声が出る。この感覚は間違いない。初めてチャクチャルさんと、メタイオン先生と会ったときにも感じた独特のものだ。

「正解だ。出でよ、私の神!!」
「ワッツ!?フランツ、一体何を始める気なのデスか!?今のラーは特殊召喚できず、3体のリリースを使用してのアドバンス召喚でしかフィールドに出すことはできないはずなのに……!」
「ええ、確かにその通りですよ、会長。だが、それはあくまでもラー本体の話。私の作り上げたこの球体形のカードは、そんな常識を破る力を持つ。お前のフィールドに存在するハンマー・シャーク!氷弾使いレイス!シャーク・サッカーの3体をリリースし、アドバンス召喚!くれてやろう、神の姿を!」

 僕の場にいるモンスターたちが、一瞬で消えていく。ぽっかりと空いた僕のフィールドに、不気味な影がふっと降りてきた。上を見ると、そこにはバカバカしいほど巨大な、細かな意匠の施された黄金の球体がぽっかりと浮かんでいる。

 ラーの翼神竜-球体形 攻?

「こ、これが、ラーの翼神竜?」
「その通りだ。もっとも今の神は球体(スフィア)、神の所有者が呼び出すまで眠り続ける状態だがな。私が言うのもなんだがこのカードは少し特殊でな、相手フィールドのモンスター3体をリリースして相手フィールド上に通常召喚することができるのだよ」

 そう言われてみれば、神らしい球体は空にふわふわ浮かんでいるだけとはいえ、どちらかといえば僕に近い方にいるような気がする。

「こんなのいらないから僕のモンスターたち返してほしいもんだね」
「まあそう言うな。この神もなかなか便利な能力を持たせておいたんだぞ?戦闘対象にも効果対象にもできないから、まず1ターンでは倒されない。現に私の手札では、ラーを倒すことはできないよ。だからこれで、ターンエンドさせてもらおう」

 清明 LP4000 手札:0
モンスター:ラーの翼神竜-球体形(攻)
魔法・罠:なし

 フランツ LP2900 手札:3
モンスター:なし
魔法・罠:なし

 こっちの場を荒らすだけ荒らしておいたくせに、なぜか偉そうなことを言ってターンを回してくるフランツ。正直言って、このラーはかなり怪しい。いつまでも何の動きもせずにふわふわ浮いているだけなんて、不気味なことこの上ない。できればここで上級モンスターを引き、さっさとこんな不気味な太陽はリリースしてしまいたいのだが。

「僕のターン、ドロー……カードを1枚セットして、ターンエンド」

 上級モンスターどころか、下級モンスターすら引けなかった。と、そのとき不気味な太陽に動きがあった。一切の沈黙を保っていたそれが、なんとゆっくりだが確実にフランツの方へと動き出したのだ。

「今度はなんだってのさ、もう!」
「先ほども言っただろう、ラーは神の所有者が呼び出すのを待っていると。ラーは相手ターンの終了時に元々の持ち主つまり私の場へと帰ってくる。無論、先ほどの生贄は戻らないがな」

 サッカーたちはリリースされ損ってことか。歯噛みして上を見るも、どうすることもできずに球体が移動するのを見ていた。

「そして、私のターン。球体形のさらなる効果を発動!このカードをリリースすることで、手札またはデッキからラーの翼神竜を攻守ともに4000ポイントにして、召喚条件を無視し特殊召喚する!今こそ目覚めよ、太陽神ラー!」

 言葉とともに球体が開いていき、その中に眠っていた真の姿をあらわにしていく。球体に見えていたのは、その羽で全身をすっぽり覆っていたからだ。そこから出てきた姿こそが、今度こそ嘘偽りない神。

 ラーの翼神竜 攻????→4000 守????→4000
「くっ……」

 十代も、どこかで見たことあるのは間違いないんだけど思い出せない会長さんも言葉を失っている。その様子がよっぽどお気に召したのか、満足そうに笑いながらフランツが僕を指さした。

「ラーの翼神竜でダイレクトアタック!ゴッド・ブレイズ・キャノン!」
「ええい、ままよ!リバース発動、バブル・ブリンガーッ!」

 神の吐き出す火炎を、足元から立ち上る泡の壁が真っ向から受け止める。レベル4以上のモンスターによるダイレクトアタックを禁止するカード、バブル・ブリンガー………本当に『神』にこのカードが効力を発揮するのかはわからない。だけど、同じ神であるチャクチャルさんやメタイオン先生には効く。なら、十分試す価値はある。
 はたせるかな、無限にも思える時間の激突ののちに無限に湧き出る泡の壁はついに神の炎を弾き飛ばした。

「フン、まあいい。せっかく神を喚んだんだ、一撃で終わっては張り合いがないからな。カードを1枚伏せ、これでターン終了だ」

 清明 LP4000 手札:0
モンスター:なし
魔法・罠:バブル・ブリンガー

 フランツ LP2900 手札:3
モンスター:ラーの翼神竜(攻)
魔法・罠:1(伏せ)

「僕のターン、ドロー!」

 フランツのデッキは神を召喚し、そのパワーで押し切るタイプのデッキ……だとすれば、当然神の攻撃を通すためにこちらの伏せカードを破壊するカードもたくさん入っているだろう。だとすれば、このバブル・ブリンガーにも過信はできない。
 だけど、信じればデッキは必ず応えてくれる。だからお願い、僕のデッキ!

「……よし、来た!魔法カード、貪欲な壺を発動!墓地のモンスターカード5枚、ハンマー、レイス、うさぎ、サッカー、アンコウをデッキに戻して、カードを2枚ドロー!」

 僕のデッキ最高峰のドローソース、貪欲な壺で引いたカードを見る。来た!

「ありがとう、先生……自分フィールドにモンスターが存在しない時、このカードはリリースなしで召喚できる!天をも焦がす神秘の炎よ、七つの海に栄光を!時械神メタイオン、降臨!」

 時械神メタイオン 攻0

「出たな、清明のもう一つの神様!」
「ふむ、なんですかあのカードは。あんなカード、私も知りまセーン……!」

 十代には見せたことがあるけれど、そういえばまだメタイオン先生のことを知っている人は数少ない。チャクチャルさんにも同じことが言えるけども、むしろなんでデュエルディスクが反応してソリッドビジョンを出せているのか、使ってる側がさっぱりわからないのだ。そんなカードをいきなり出されたら、そりゃあたいていの人は驚くだろう。

「ほう、会長も知らないカード?大変興味深いが、そんなものの召喚を許すわけにはいかないな。カウンタートラップ、神の警告を発動!ライフを2000支払い、モンスターの召喚及び特殊召喚を無効にする!」

 フランツ LP2900→900

 メタイオン先生の鎧の顔に、ピシリとかすかな音を立ててひびが入る。最初はちっぽけな一本だったそれが瞬く間にメタイオン先生の全身に広がっていき、最後に一瞬だけ驚いた顔のメタイオン先生がチラリと見えたものの、その次の瞬間には顔を映し出す鏡のような部分が丸ごと粉々に砕け散った。魂の抜けた鎧が、ラーに首を垂れるかのようにどうと倒れた。

「く……ターンエンド……」

 あのメタイオン先生が、何もできずに倒れるだなんて、そんな。心のどこかにあった、先生さえ引けば大丈夫だろうという安易な気持ちがあっさり打ち消されて、なんだか足元の地面までもが急に頼りなくなった気がした。

「手も足も出ないか?私のターン、ドロー……うっ!?」

 また笑い、カードを引くフランツ。だがその表情が急に歪み、足から力が抜けたかのようによろめいた。

「くッ……さすがは神の力、使っているだけで負担が大きい、か。ならばフィールド魔法、神縛りの塚の2枚目を発動!このカードはテキストにある通りの効果のほかに、神を縛り、私への負担を弱める効果(ちから)がある。さらに魔法カード、浅すぎた墓穴を発動。たがいに墓地からモンスターカード1枚を選択し、裏側守備表示で特殊召喚する。私が選択するのは、バルバロスのカードだ」
「そういうことか……わかったよ、グリズリーマザーを蘇生するよ」

 これでこっちの場にはモンスターが1体。そしてラーの翼神竜のレベルは、10。神縛りの塚の効果は……。

「ラーで伏せられたグリズリーマザーに攻撃、ゴッド・ブレイズ・キャノン!」

 ラーの翼神竜 攻4000→グリズリーマザー 守1000(破壊)

「先ほどは邪魔されたが、今度こそ神縛りの塚の効果を発動!レベル10以上のモンスターの攻撃で相手モンスターを破壊した時、1000ポイントのダメージを発生させる!」

 清明 LP4000→3000

「うわ……ッ!」

 さすがに神を封じ込めると豪語するだけのことはある、すさまじいパワーのカードだ。僕みたいに大徳寺先生やラビエルといった強者との闇のデュエルを経験していなかったら、今のダメージだけで気を失いかねないほどの衝撃が体を走る。

「グリズリーマザーの効果、発動!」

 それでも僕は、ここでグリズリーマザーの効果を使うことを選んだ。まともで筋の通った理由なんてものは何一つない。あえて一つ挙げるとすれば、デッキから声が聞こえたような気がしたからだ。ここで出る、と僕のモンスターが叫ぶ声が。
 僕はデュエリストとしてはまだまだ弱い。そんな僕が入学してからの戦いを勝ち抜いてこれたのは、あることに関しては並大抵のやつよりも上だったからだと勝手に思っている。それが、自分のデッキを信じることだ。僕のカードがこうしたいというのなら、僕はそれをできる限り叶えてみせる。それができてこそ、デッキだって応えてくれるってもんだ。

「デッキから攻撃力1500以下の水属性モンスター、鰤っ子姫(ブリンセス)を特殊召喚、そのまま効果発動!このモンスターをゲームから除外して、デッキから魚族のレベル4以下モンスターを呼びだす!レインボー・フィッシュ、召喚!」

 レインボー・フィッシュ 攻1800

「いいだろう、ターンエンドだ」

 清明 LP4000 手札:1
モンスター:レインボー・フィッシュ(攻)
魔法・罠:バブル・ブリンガー

 フランツ LP900 手札:2
モンスター:ラーの翼神竜(攻)
      ???(神獣王バルバロス・セット)
魔法・罠:なし

 僕の唯一残った手札は、相手モンスターを使いアドバンス召喚ができるようになる魔法のクロス・ソウル。つい先ほどやっていたうさぎちゃんとのデュエルを思い出す。あの時は帝王の烈旋から霧の王を出して逆転チャンスにつなげられたっけか。なら、今度も僕が取るべき道は一つ。

「ドロー!」

 そろそろ来てくれると思ってたよ、マイフェイバリット。

「魔法カード、クロス・ソウルを発動!これで神をリリースして……!」
「残念だがそれは無理だな。神縛りの塚が存在する限り、レベル10以上のモンスターはカード効果の対象にならない」
「……それならそれで構わないさ、そのさっき蘇生してたバルバロスを選択、レインボー・フィッシュと合わせてリリース。これこそ僕の切り札、霧の王(キングミスト)!その攻撃力は、アドバンス召喚時にリリースしたモンスターの元々の攻撃力合計……!」

 バルバロスの攻撃力3000を取り込み、霧の王の剣がラーの全身から放たれる神の光を浴びて光を放つ。

 霧の王 攻4800

「く、ラー以上の攻撃力のモンスターを出してきたか。だが、クロス・ソウルのデメリットは……」
「その通り。これからバトルと洒落込みたいところだけどね、クロス・ソウルの発動ターンにバトルを行うことはできない。これで今はターンエンド」

 神と王が向かい合い、一歩も引かぬにらみ合いを続ける。さあ、来るならかかってこい。こっちの方が攻撃力は上なんだ、そう考えていると、切迫した声で会長が叫んだ。

「ユー、それは危険すぎる賭けデース。あのラー自身の効果は、プレイヤー自身のライフを1000支払うことでモンスター1体を破壊するゴッド・フェニックス!もしフランツがライフポイントを回復するカードを引いたら、ユーのそのモンスターではひとたまりもありまセーン!」
「えー!?そんな大事なことなんで今言うの!?まだ言わない方がマシですよンなもん!」

 ラーの効果が前提のデッキとしたら、当然そのコストとして必要なライフを確保するカードもフランツのデッキには入っているだろう。今、あっちのライフは900。もし101以上のライフを回復する手段を手に入れたら?あるいは、もうすでに手札に呼び込んでいたら?

「私の……」

 フランツが、ゆっくりとデッキに手をかける。あのドロー次第で、今後の命運が決まる。

「ターン!」

 カードを引いた瞬間、不気味な風が巻き起こった。この気迫、一体何をドローしたというんだか。

「……ふっ。カードを伏せ、ターンエンドだ。ラーは守備表示にしない、攻撃するならするがいい。お前にその覚悟があるならばな」

 清明 LP3000 手札:0
モンスター:霧の王(攻)
魔法・罠:バブル・ブリンガー

 フランツ LP900 手札:2
モンスター:ラーの翼神竜(攻)
魔法・罠:1(伏せ)
場:神縛りの塚

 たった1枚の伏せカード。だけど、その1枚が怖い。一体、何を仕込んでいるんだろう。あのたった1枚だけが、攻撃をためらわせる抑止力になっている。カードを引く。引いたのはチャクチャルさん……駄目だ、これはただの事故だ。
 どうしよう、このターン攻撃をすべきか。サイクロンを引くまで粘るべきだろうか。それとも、あれはただのブラフでこっちが攻撃をためらうことこそが真の狙いなのだろうか。わからない。疑心暗鬼になり考えが袋小路に突入しかかった時、聞き覚えのある声がした。

「迷うなんてお前らしくないぜ、清明!」
「十代……」
「難しい顔してないで、もっとデュエルを楽しめよ。たとえコピーカードだって、お前はあのラーの翼神竜を相手にしてるんだぜ?そんなの、見てるだけでワクワクするぜ!」

 そうか、うん。どうやら僕も、ここのところ物事を難しく考える癖が染みついていたらしい。もっと肩の力を抜いて、気楽にいけばいい。闇のゲーム?負ければ危ない?上等じゃないか、それだって。デュエルは本来楽しむものなんだから、それができれば後悔はない。神のカード……世界広しといえど、これを相手にしたことがあるデュエリストは数少ない。光栄じゃないか、そんな中に僕が入るなんて。

「センキュー十代、もう迷わないよ。霧の王でラーの翼神竜に攻撃!神を切り裂け、ミスト・ストラングル!」

 吹っ切れた僕の顔を見て満足そうに頷き、霧の王が飛んだ。ラーよりも高く飛び上がってからの太陽を背にしての大上段の一撃が、偽物の太陽神を両断する。

 霧の王 攻4800→ラーの翼神竜 攻4000(破壊)
 フランツ LP900→100

「やった、神を倒した!」
「グレイト!さあフランツ、墓地から特殊召喚できないラーを失った今、あなたに勝ち筋は残されていないはずデース。大人しくサレンダーしなサイ」

 ラーの姿が消えていき、会長が地面にうずくまったフランツのもとにつかつかと近づいていく。だがその歩みが、急に止まった。それも無理はない、フランツの全身からいきなり得体のしれない黒い影が噴き出てその体をすっぽり覆い尽くしたのだから。 
 

 
後書き
後編へ続く。
全編の反省点は、球体形に依存しすぎて肝心のラーがただの打点馬鹿としてしか使えなかったことです。非力な私を許してくれ。 
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