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戦国異伝

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第二百六話 陥ちぬ城その八

「だからな」
「ここはか」
「堤の幅を広くし」
 そして、というのだ。
「そのうえでな」
「大きくじゃな」
「そこに陣を敷ける位いしてじゃ」
「そこまでしてか」
「水攻めにすべきじゃ」
 こう石田に言った。
「わしもそう思う」
「そうか、二人共言うのならな」
 それならとだ、石田も言うのだった。
「わしもその様にな」
「すべきと思うな」
「うむ」 
 実際にこう答えた石田だった。
「ではそうしよう」
「そして出来れば」
 島は石田にまた言った。
「逃げられる場所もです」
「そうした場所もか」
「持ちましょう」
 水攻めの際にというのだ。
「そうしましょうぞ」
「そこまで念を入れてか」
「若しもの時にです」
「犠牲を出さぬ様にじゃな」
「しておきましょう」
 念には念を押すという言葉だった。
「そうしてです」
「攻めるべきか」
「ここは」
「まるで攻め落とせぬことがな」
 石田は少し苦笑いになって二人にこうしたことも言った。
「前提じゃな」
「そう言われるとな」
「そうした感じの話にもなっていますな」
 二人もそのことは否定出来なかった。
「あの甲斐姫次第じゃが」
「それがしの知る姫ならば」
 特に島が言うのだった。
「尋常な相手ではありませぬので」
「それでか」
「御主と似ているやも知れぬ」 
 大谷は石田のその強い真っ直ぐにものを見ているその目を見据えて言った。
「甲斐姫はな」
「わしとか」
「御主も一本気、そしてじゃ」
「その甲斐姫もか」
「今思うと同じ目じゃ」
 二人共だ、そうだというのだ。
「やはり一本気じゃ、そして濁りがない」
「濁りは好きではない」 
 石田は実際こう返した。
「どうもな」
「そうじゃな、御主は」
「清濁併せ飲むは出来ぬ」
「だからこの度もじゃな」
「攻めぬ訳にはいかぬ」
 石田の気質故のことだった、忍城を攻める軍勢を率いる彼の。
「どうしてもな」
「だからじゃ、そこがじゃ」
「一本気なところがか」
「甲斐姫と似ておる」
 そうだというのだ。
「それはよいことじゃが」
「それでもか」
「御主の道を狭めておるのやもな」
「わし自身の道をか」
「御主の才はよい」
 石田のそれはというのだ。
「しかし濁ったものを受け入れられずそして誰にも常に言うべきと思ったことを包まず言うな」
「それが言った相手の為になると思えばな」
 そうするとだ、石田自身も答えた。
「わしはする」
「そこじゃ、それがな」
「わし自身にとってか」
「器を狭めることになっておるのやもな」
「そしてわしをこれ以上にせぬというのか」
「御主の智と勇は百万石の値がある」 
 この場合の勇とは相手が誰でも臆することなくものを言いそして易きに決して流れない強さのことである。 
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