戦国異伝
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第二百六話 陥ちぬ城その七
「東国では密かに言われていたとか」
「その様な者がおったとは」
石田は島の話をここまで聞いて唸った。
「まさかのう」
「思いませんでしたか」
「うむ」
その通りとだ、石田は島にそのまま答えた。
「全くな」
「左様でしたか」
「東国のことも調べていたが」
石田としてもだ、それは怠りなかったのだ。
「そしてそのうえで」
「北条の主な家臣のことも」
「うむ、しかしな」
姫まではというのだ。
「娘のことまではじゃった、甲斐姫はそこまでの者じゃったか」
「その武勇は北条家でも限られた者しか知らなかったそうなので」
織田家でも情報を集めることに秀でている石田でもというのだ。
「風魔と同じだけです」
「知ることが難しかったか」
「佐吉殿でも」
「ぬかったわ、しかしな」
「それでもですな」
「降らぬとならば」
石田はここでも真っ直ぐだった、そしてその一本気のまま言うのだった。
「攻める」
「そうされますか」
「しかし正面からは攻めぬ」
これはしないというのだ。
「水攻めにしようぞ」
「先程話した通りにじゃな」
大谷が石田に言って来た。
「その様にしてじゃな」
「うむ、あの城は普通に攻めては攻め落とせぬ」
石田はそのことを冷静に見抜いて大谷に答えた。
「だからな」
「それで、じゃな」
「堤を作り川から水を引いてじゃ」
「そうしてじゃな」
「水攻めにする」
そうして、というのだ。
「よいな」
「わかった、ではな」
「これより水攻めに入る」
石田はあらためて言った、だが。
ここでだ、島が石田にこう言って来た。
「「ここはです」
「うむ、何じゃ」
「ただ水攻めにしてもです」
そうしてもというのだ。
「危ういかと」
「危ういとな」
「はい、我等が」
他ならぬ自分達がというのだ。
「ですから堤を築くにしてまして」
「我等にか」
「若し堤を壊された時に備えて」
まさにその時の為にというのだ。
「軍は高い場所に逃げられる様に」
「しておくべきか」
「はい、堤を広く大きく持ち」
そして、というのだ。
「いざという時はその上に乗れる様にして」
「いざという時に助かる様にすべきか」
「甲斐姫は尋常な姫ではありませぬ」
島は石田に強い声でこのことを告げた。
「ですから」
「わしもそう思う」
大谷も島に賛成して石田に言った。
「この目で見て思った」
「その甲斐姫はか」
「うむ、只者ではない」
「だからか」
「下手をすればじゃ」
それで、とだ。大谷も言うのだった。
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