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バイアーナドレス

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第一章

                       バイアーナドレス
 ブラジルバイーア州の州都サルバドル、港町であるこの街も最近は何かと忙しい。それはどうしてなのかというと。
「オリンピックもな」
「ああ、もうすぐだな」
 そのサルバドルの喫茶店ジャガーの店中でだ、カウンターに座っている褐色の肌に短い髪が縮れた中年の男がマスターに言っていた。マスターも肌の色は褐色だが彼は赤毛だ。
 男の名前はファン=ペドロといいマスターの名前はフェリペ=ゴンガーザという。ペドロの仕事は居酒屋の親父でまだ開店前だ、それで喫茶店でコーヒーを飲んでくつろいでいるのだ。
 その中でだ、ペドロはゴンガーザにそのコーヒーを飲みつつ言うのだった。
「いよいよだな」
「リオだけれどな、開催地は」
「ここも色々仕事が増えたな」
「サルバドルもな」
「漁師の兄ちゃん達が随分な」
「ああ、魚獲ってな」
「観光客も呼び込んでな」
 そしてというのだ。
「賑やかになってきてるな」
「リオから随分離れてるがね、ここは」
 ゴンガーザは笑ってペドロに言った。
「ブラジルは広いからな」
「そうだな、けれどな」
「同じブラジルだからか」
「ここも賑わってるるんだよ」
「俗に言うオリンピック景気だな」
「それだよ、本当にな」
 ペドロも笑ってだ、ゴンガーザに応えた。
「だからうちの店も繁盛してな」
「俺の店もだな」
「最近お客さん増えただろ」
「うちのコーヒーは最高だよ」
 この自信からだ、ゴンガーザは答えた。
「最高の豆をこの俺が使ってるんだからな」
「それで、っていうんだな」
「普通に売れるんだよ、けれどな」
「人が金持ってないとな」
「そうだよ、景気が悪いとな」
 どうしてもというのだ。
「お客さんが来ないんだよ」
「金がないと喫茶店には人が来ないからな」
「それは御前さんのところもだよ」
「そうさ、うちだってな」
 ペドロも笑って言うのだった。
「俺が作った料理も俺が用意している酒もな」
「幾らよくてもな」
「景気が悪いとな」
「飲みに来る人が少ないからな」
「景気が悪くても無理して来て欲しいんだがな」
「全くだ」
 二人の本音である、これは。
「それでもな」
「景気が悪いと本当に俺達の仕事はあがったりになるぜ」
「喫茶店も居酒屋もな」
「新聞やテレビもそうした時こそ励まして欲しいな」
「心からそう思うぜ」
 尚日本のマスコミ、特に夜の十時や十一時からはじまる自称報道番組は二十年以上前から景気が悪いばかり言うのが常になっている様だ。尚言っている本人達は年収は億単位だという。不景気で会社が潰れたりして首を吊る人がいるかも知れないがそこはあえて煽ってそうして自分は何億と儲ける、これは現代の吸血鬼であろうか。それも極めて悪質な。
 だがブラジルにいる二人は日本のことは知らない、それで二人で話を続けた。ペドロはゴンガーザにこうも言った。
「で、今この店もお客さんが多い」
「儲かってるな」
「観光客も来るしな、ブラジルの経済自体好転してきたしな」
「これまで無茶苦茶だったけれどな」
「それが今や新興国の一角だ」
「変われば変わるものだな」
「本当にな、それにな」
 さらに言うペドロだった。 
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