シャンタウゼー
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5部分:第五章
第五章
「へえ」
話は終わった。少年達はポップコーンを食べながら老人の話を聞いていたのだった。話を聞き終えて目を少し丸くさせていた。
「そんな話があったのか」
「タンポポに」
「わしの部族の話でな」
話し終えた老人は出店の中で穏やかに笑っていた。その顔で少年達の顔を見ていた。
「古い話じゃ」
「古い話ねえ」
「そうは思えないけれどな」
「何でかのう」
老人は茶髪の少年の言葉に応えた。
「そう思うのは」
「いやさ、はじめて聞く話かも知れないけれどさ」
老人にこう前置きしてから述べる。
「何となくな」
「そうかい」
「いい話だよな」
黒人の少年が述べた。
「二人は結ばれたんだし」
「ああ」
「やっぱりハッピーエンドが一番いいな」
「その通りじゃ」
老人は穏やかな笑みのまままた少年達に応えた。
「だからわし等も今こうして」
「上手いポップコーンも食えるんだな」
「そういうことだな」
「いいことだぜ」
「つまりじゃ」
老人はまた少年達に言った。
「わしはポップコーンに春を入れておるのじゃ」
「春を?」
少年達はまた老人に顔を向けた。何のことを言っているのか興味が沸いたのだ。
「そう、さっきの話は聞いたな」
「あっ」
金髪の少年は今の老人の言葉で気付いた。それで声をあげた。
「そうか。そういうことか」
「どういうことなんだ?」
その彼にヒスパニックの少年が問う。
「春を入れているって」
「だからあれだよ」
金髪の少年はヒスパニックの少年だけでなく他の少年達にも言った。
「タンポポは南風の神様の力で元に戻っただろ?」
「ああ」
「そうだけれどよ」
「だからそれなんだ」
彼は言葉を続ける。
「それで春の花になって。だから」
「あっ、そうか」
「だからか」
他の少年達もそれで気付いた。ようやく納得して頷くのだった。
「俺達は春を食べたのか」
「それで美味かったのか」
「わかったようじゃな」
老人の笑みはさらに穏やかでいいものになっていた。その穏やかな笑みは自然的であると共に目に見えない何かを見ているかのようだった。
「このポップコーンが美味い理由が」
「ああ」
「わかったぜおじさん」
少年達は老人に対して答えた。
「美味い筈だぜ」
「春を食っていたんだからな」
「それでじゃ」
老人はまた述べてきた。
「満足したか?」
「満足か」
「もう腹が膨れたかってことじゃな」
「そうじゃ。何ならもう少しやるぞ」
食べ物を食べている人間に対しては何よりも嬉しい言葉だった。
「金はいらんからな」
「おいおい、マジかよ」
「随分気前がいいな」
「ははは、わしの話を聞いてくれたからな」
老人は少年達に気持ちのいい顔で笑って言う。
「その御礼じゃよ」
「本当にいいんだよな」
「ただで」
老人に対して念を押して問う。
「わしは嘘はつかんよ。何せ」
「インディアン嘘つかないってか」
ヒスパニックの少年が懐かしい言葉を口にした。
「そういうことだよな」
「ははは、まあそういうところじゃ」
ヒスパニックの少年の言葉に機嫌をよくしたのか大きな口で笑う。その笑みは実に屈託がなくそれと共に人に好感を抱かせるものであった。
「しかしあれだよな」
「そうだよな」
少年達は笑顔で話し合う。見れば老人のそれと同じ笑顔になってきていた。
「そんな話聞くと」
「余計にな」
「もっと欲しいのかい?」
老人は彼等に問うた。
「その春が入ったポップコーン」
「ああ」
「もらえるかな、おかわり」
「ははは。勿論じゃ」
老人はまた笑って彼等に応えた。早速袋にポップコーンを入れていく。
「さあさあ食べておくれよどんどん」
「ああ、どんどんくれよ」
「腹一杯になるまでもらうぜ」
彼等はそのポップコーンをまた食べはじめた。それは何処か春の味がした。南風が吹いて彼等を優しく包み込んでいた。
シャンタウゼー 完
2007・9・1
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