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戦国異伝

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第二百六話 陥ちぬ城その五

「しかしじゃ」
「攻めるか」
「囲んだままというのはな」
 それは、というのだ。
「いかん」
「無駄に兵を失うことになるぞ」
「攻め落とせぬ時はな」
 大谷にも返すのだった。
「その時はな」
「そう言うか」
「それに戦はな」
 それも、というのだ。
「すぐに終わらせるべきじゃ」
「囲んだままよりもか」
「うむ、さもないと無駄に兵の士気が下がり」
 そして、というのだ。
「兵糧も金も使う」
「だからか」
「かえってよくない、攻めるべき時はな」
 絶対に、というのだ。
「攻めるべきじゃ」
「その考え変わらぬか」
「相手が降らぬなら」
 やはり真っ直ぐに言う石田だった。
「それならばじゃ」
「攻めるのじゃな」
「途方もない堅城ならわしも攻めぬが」
 しかし、というのだ。
「そうでなければな」
「攻めてか」
「そして落とす」
 必ず、といった言葉だった。
「わしはな」
「わかった、御主はまっすぐな男じゃ」 
 一度決めたら変えない、それが石田だ。
「ならばな」
「考えは変えぬ」
「そう言うな」
「どうもわしはな」
 石田は自嘲めかした口調になった、そしてこうも言うのだった。
「退けぬのう」
「それも曲がったことも出来ぬな」
「何に対してもな」
「政でも戦でもな」
「若し降らぬならな」
「それならばじゃな」
「攻められる城ならばじゃ」
 戦の定石に従いというのだ。
「攻める」
「そうするな」
「ここで羽柴殿の様な方なら」
「うむ、攻めるよりもな」
「言葉でじゃな」
「降る様にされる」
 羽柴なら、とだ。大谷も応えて言う。
「そのお力でな」
「人たらしというが」
「まさにその通りじゃな」
「わしもそれが出来れば」
 しかしだった、石田は。
「どうもそれが出来ぬ」
「まっすぐじゃな」
「そこから外れられぬわ」
「だからこそじゃな」
「忍城もじゃ」
 これから向かうその城を攻めることもというのだ。
「攻めてな」
「陥とすのじゃな」
「そうする、あくまで降らぬのならばじゃが」
 こう言ってだ、そしてだった。
 石田は大谷、島と共に忍城を目指した。その忍城はというと。
 平城だった、周りは沼もある。石田はその忍を見てまずはこう言った。
「沼が堀となっておるな」
「城にある堀に加えてな」
「うむ、平城であるが」
 それでもとだ、石田は大谷に対して言った。
「攻めにくい」
「これを見るとな」
「戦の時はな」
「囲んだままの方がよい」
 そして北条家自体が降るのを待つべきだというのだ、ここでも大谷はこう言うのだった。
「やはりな」
「普通はな。しかしな」
「水か」
「そうじゃ、水じゃ」
 石田はにこりともせずに言った。 
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