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戦国異伝

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第二百六話 陥ちぬ城その三

「実際そうじゃからな」
「三河の、ですな」
「田舎者達ですな」
「そうじゃ」
 その立場だからだというのだ。
「都のことに疎いのも当然じゃ」
「ですな、所詮は三河の田舎者の集まり」
「それ以外の何でもありませぬ」
「それではですな」
「都のことに疎いことも」
「学んではいくがな」
 これからは、とも言うが今はだった。
「しかしそれは仕方がない」
「今は、ですな」
「そのことは」
「そうじゃ、それならな」
「今は仕方なきことして」
「これからですな」
「そうなる、ではこれから文を書く」
 家康は家臣達に微笑みを浮かべてこうも言った。
「助五郎殿にな」
「折角だからですな」
「こうして氏規殿の城の傍におられるからこそ」
「今は敵味方でも駿府のことは忘れぬ」
 それ故にというのだ。
「だからな」
「ここは、ですか」
「是非共」
「久方ぶりに文を書き送りたい」
 城の中の氏規にというのだ。
「だからな」
「畏まりました、それでは」
「紙と筆を持って参ります」
「墨も」 
 家臣達も応えてだった、そのうえで。
 家康は氏規に宛てて文を書いた、それを城の中にいる氏規に送った。そしてすぐに文はその氏規の手元まで届いた。
 氏規は父である氏康によく似た男だ、その彼が家康からの文を読んでから己の家臣達に笑顔でこんなことを言った。
「竹千代殿が言ってこられた」
「何とですか」
「まさかこれより城攻めと」
「いや、そうではない」
 城攻めではないとだ、氏規は家臣達に答えた。
「そのことについては書いてはおられぬ」
「では一体」
「一体何を書いてこられたのでしょうか」
「徳川殿は今は我等の敵」
「その敵の方が」
「この戦の後は飲もうとじゃ」
 笑ってだ、氏規は家臣達に家康が文に書いてあったそのことを話した。
「書いておられる」
「酒を、ですか」
「共に飲もうとですか」
「徳川殿は殿に書いてこられたのですか」
「その様に」
「そうじゃ、今は敵味方でもな」
 この戦の後はというのだ。
「駿府の時の様に共にな」
「殿はご幼少の頃今川殿の人質でしたし」
「そのことからですな」
「殿にですな」
「そう書いてこられたのですな」
「そうじゃ、ならばわしもな」
 氏規も、というのだ。
「是非にじゃ」
「徳川殿と共にですな」
「酒を」
「飲みたいものじゃ、もっともあの時我等は子供じゃった」
 駿府で人質同士だった時はというのだ。
「しかし今は共に大きくなった」
「そして、ですな」
「そのうえで」
「酒も飲める様になった」
「だからこそですな」
「戦の後は」
「面白いわ、久方ぶりに会い」
 そして、だった。
「酒を飲みな」
「そのうえで」
「また楽しく話をしたいものじゃ」
「全てはこの戦の後」
「その後ですか」
「殿は正しき道を選ばれる」
 父である氏康を心から信頼している言葉だった、彼が北条家を潰さないと確信しているからこそ言った言葉だ。 
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