ロンジー
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第三章
「なかったのよ、つい最近まで」
「ミャンマーも貧しかったから」
「お母さんの若い頃まではね」
それこそというのだ。
「暑さはこのままでね」
「扇風機がなくて」
「冷蔵庫もなくて」
それでというのだ。
「あんたみたいに氷を入れたジュースとかお菓子とか」
「全然なかったのね」
「そうよ、そんな頃と比べたら」
それこそというのだ。
「今は天国よ」
「クーラー欲しいわ」
「贅沢言わないの」
母は娘の今の言葉にはむっとして返した。
「クーラーは高いわよ」
「タイじゃかなり安くなったっていうけれど」
「タイはタイ、ミャンマーはミャンマーよ」
それぞれ違う国だっというのだ。
「だからクーラーは高いの」
「やれやれね」
「だから昔は扇風機も氷もなかったのよ」
また言う母だった。
「そんな頃だったらあんたどうするのよ」
「そういえばだけれど」
ここでだ、スー=チーは母に言った。
「昔そういうの何もなくても皆夏を過ごしてたのよね」
「そうよ」
「扇風機も氷もなくて」
「アイスキャンデーも冷やしたジュースもないわよ」
「それでどうやって皆過ごしてたの?」
暑がりなスー=チーはこのことを心から不思議に思った。
「生きていけないでしょ」
「生きていけるわよ」
「無理なんじゃ。暑くて死ぬわよ」
「そんなミャンマー人らしくないことを言わないの」
とてもというのだ。
「あまりね」
「だって私暑がりだから」
「暑がりなミャンマー人ってあんただけよ」
「私だけ?」
「ミャンマーで生まれ育ってどうしてそうなるのよ」
「仕方ないじゃない、とにかく暑くて大変なの」
とてもというのだった。
「本当にお母さん若い頃はどうしてこの暑さやり過ごしてたの?一体」
「まずあんたみたいな暑がりじゃないし」
最初にこのことから言う母だった。
「それに服もね」
「服も?」
「あんたそんな服だからかえって暑いのよ」
「半袖でも?」
「駄目よ、半袖だと手に日差し受けるでしょ」
「ええ」
「それがかえって駄目なのよ」
こう言うのだった。
「帽子も被ってないし」
「帽子もなの」
「被ったら違うわよ」
「そうなのね」
「洋服よりもね」
それよりもというのだ。
「ロンジーの方がずっと涼しいわよ」
「ああ、ズボンよりも」
「そう、ロンジーの方がね」
そちらの方がというのだ。
「大体あんたいつも上着は半袖だけれど」
「そっちの方が涼しいって思ってるけれど」
「柄よ。いつも派手な柄じゃない」
「これがお洒落なのよ」
「お洒落でも暑いわよ、赤とか黄色だとかえって」
それこそとだ、母は娘に言った。
「光を反射させるから白にしなさい」
「上着はなの」
「そう、白にして」
そしてというのだ。
「ロンジーにしなさい」
「そっちの方が涼しいから」
「スカートもよ」
そのロンジーのものにすればいいというのだ。
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