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転生とらぶる

作者:青竹
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番外編043話 if 真・恋姫無双編 13話

「進めぇっ! 月様を害しようとする者共だ。一切の手加減は必要ない! 殺せ、殺せ、殺しつくせぇっ!」

 華雄が自らの獲物である金剛爆斧を振り回しながら、反董卓連合軍の先頭に位置する軍……即ち劉備軍へと向かって突っ込む。
 劉備軍もそれに対応しようとはするのだが、一連の混乱で立て直す事が出来ずに華雄隊の突撃を止める事が出来ないままに陣の中程まで突破される。
 劉備軍の兵士達全員が、このまま完全に陣を突破されて桃香や一刀のような自分達を率いる者が殺されてしまうのでは? そんな風に思った、その時。

「立て直せ、皆の者! 桃香様とご主人様は私が……この関羽が必ず守ってみせる! お二人に恥ずかしいところを見せるな!」
「そうなのだ! 幾ら向こうが強くても、鈴々がいればどうにでもなるのだ! だから皆、ここで押し返すのだ!」

 そんな2人の声に我に返り、兵士達は混乱を収めていく。
 そうなれば当然華雄を相手にしても対抗出来るようになり、華雄隊の勢いも衰え始める。
 以前の華雄であれば……自らの武に絶対的な自信を持っていた華雄であれば、それでも力押しを続けただろう。
 だが、最初にアクセルと会った時の戦い以降、幾度となくアクセルに戦いを挑み、その度に徹底的に叩きのめされ、無駄なプライドを粉々にされ続けた結果、自分の武はそれ程のものではないと思いしらされる事になる。

『せめて恋程度の力量を備えてなければ、武力自慢は滑稽な道化でしかない』

 そんなアクセルの言葉は、ある意味で華雄を壊したのだ。
 その結果、今の華雄は冷静に――以前と比べればだが――戦場を見回す事が出来るようになっており……

「ふむ、確か関羽に張飛だったな?」

 以前の黄巾党討伐の時の事を思いだしつつ、呟く。

「そうなのだ! ここは絶対に通さないのだ!」

 そんな張飛の言葉に、ニヤリとした笑みを浮かべる華雄。

「ほう? 確かにお前達2人を相手にすれば私に勝ち目はないだろう」
「……では、投降するか?」

 黄巾党との戦いで1人突出して孫呉の軍に助けられていた時の事を思いだし、これが本当にあの華雄か? そう思いつつ尋ねる愛紗へと向けた華雄の返答は、視線を逸らす事だった。そう、劉備軍の左翼へと。そして続けて右翼へと。
 その態度に思わず視線を追う愛紗と鈴々。
 そして、次の瞬間視界に入ってきた光景に背筋を凍らせる。
 そこにあったのは、自軍の右翼に襲い掛かる周の旗、そして左翼に襲い掛かる張の旗。
 即ち、明命と霞が両翼から劉備軍に襲い掛かっている光景だった。
 愛紗と鈴々の登場によって混乱が収まってきたとはいっても、それはあくまでも劉備軍の中央付近のみだ。両翼は未だに混乱したままであり、そこに勢いに乗った明命と霞の部隊が襲い掛かっているのだ。その被害は中央の比ではないだろう。
 事ここに至り、ようやく愛紗は孫呉・董卓連合軍の狙いを意図した。華雄が派手に敵陣中央に突き進んで劉備軍の注意を引きつけ、その隙に左右両翼から包囲殲滅しようとしているのだと。
 本来であれば、劉備軍の背後には味方しかいない。だがそれ故に、現状のように混乱している状態では引く事は出来ない。更に、ジェネシスがシ水関へと続く通路を塞いでいる。
 勿論人や馬が通り抜けられる程度の隙間はあるだろう。だが、それはあくまでも小さな隙間であり、軍勢が一斉に後退出来るかといえば、答えは否だった。
 それらを瞬時に頭の中で考えた愛紗は青龍偃月刀の切っ先を華雄の方へと向ける。

「ならば、ここで貴様を倒してそちらの士気を挫くまで!」
「それも遅い」

 華雄が告げた瞬間、劉備軍に無数の矢が降り注ぐ。
 それを放ったのは、華雄隊の背後から迫ってきていた部隊。黄の旗を掲げる祭の部隊だ。殆どが弓兵で構成されたその部隊から放たれる矢の雨は、華雄の部隊の上空を通り越して劉備軍へと降り注ぐ。

「確かに私ではお前達に勝つ事は出来ないだろう。だが……他の部隊が攻撃している間、持ち堪えることは出来る!」

 そう叫び、金剛爆斧を振るう華雄。
 空気その物を砕くかのような一撃だったが、愛紗や鈴々がそれで怯むはずもない。

「愛紗、ここは鈴々に任せるのだ! 愛紗は右か左のどっちかを! でもって、もう片方を星に!」
「……すまん、頼んだぞ鈴々!」

 義妹の言葉にそう叫び、去って行く愛紗。
 だが、華雄はそれを追う事なく自分の前にいる鈴々へと視線を向ける。

「このまま行かせてもよかったのか?」

 全く手出ししない事が気になったのだろう。そう尋ねてくる鈴々に、華雄は苦笑を浮かべて口を開く。

「先程も言ったように、私ではお前達には勝てないからな。それに……既に手遅れだ」

 華雄の言葉に、鈴々は眉を顰める。
 事実、劉備軍の両翼は明命と霞の部隊により、押し切られそうになっていた。
 ……そう。本来であれば、この場の勝負はもう決まったと言っても良かっただろう。愛紗と星の2人が到着した時には既に両翼が瓦解している……その筈だった。
 しかし。

「我が精兵よ! このまま撤退しては私達の背後から迫ってくる相手を受け止めきれない! 故に、今この場は劉備軍に協力して相手を一時的にでもいいから押し返すのよ!」

 曹操の叫び声が周囲に響き、左右両翼と中央へとその軍勢が助力の手を伸ばす。
 曹操にしても、出来ればここで兵力の消耗は避けたかったのは事実だ。だがたった今口にしたように、このまま殿を劉備軍だけに任せて撤退したすると、追撃で大きな損害を受けるというのは明白だった。
 それ故、ここで一旦孫呉・董卓連合軍を押し戻し、その隙に撤退するという選択を取らざるを得なかった。
 華琳の脳裏には一瞬だけ降伏という言葉も過ぎる。だが、それは自らの覇道の終焉を意味する以上、どうしても選ぶ事は出来ない。

「桂花、押し戻すのは左右両翼と考えてもいいわね?」
「はい。中央の華雄は劉備軍の注意を引きつけるのを目的としている為か、人数も多いです。それに背後には黄蓋隊もおり、援護も十分。それならば、機動力の高い左右両翼に攻撃を仕掛けている周泰隊、張遼隊の方が与しやすいかと」
「でしょうね。……他の軍は? こちらに協力できそうな動きをしている者はいるかしら?」
「……いえ。馬超と公孫賛の軍が騎馬を中心にしているだけに機動力が高いのですが……」

 桂花の視線が向けられたのは、ジェネシス。正確にはその向こう側。
 シ水関を攻める攻城戦という配置の関係上、騎兵が主力のその2つの軍は後方にいたのだ。
 そうである以上、道が半ば封じられてはこちらに援軍として向かうのは無理だろうと。
 そんな風に考えていた桂花は、素早くジェネシスの隙間から撤退していく部隊に目を止める。
 列強として名高い劉表軍。特に霍峻という武将が仕えてからは、部隊の精強さに磨きが掛かった勢力だ。
 機を見るに敏と言うべきか、落下してきた建造物の隙間から抜け出しており、既に軍勢の殆どが向こう側に消えているのが分かる。

(華琳様の覇道の邪魔になる候補の1人……さすがね)

 一瞬だけでも男を褒めた自分に気が付き、慌てて頭を振る。

「現状はこのままの状態で対処するしかありません。ただ、向こうの方でも混乱が収まれば援軍を出す可能性も……」
「駄目よ。現状ではお互いに混乱するだけになる。あの落ちてきた奴さえなければ、他の軍と入れ替わる事も出来たんでしょうけど」
「そうですね。では、右翼には春蘭、秋蘭を。左翼には凪達3人を向かわせましょう。向こうの方が勢いはありますが、それでも武将の質ではこちらが上の筈」
「ええ、お願い」

 桂花の言葉に頷き、指示を任せる。
 その様子を見ながら、華琳の視線はジェネシスへと向かう。
 ……そう。悪友である麗羽がいた場所へと。

(麗羽、馬鹿な死に方をしたわね。……いえ、寧ろあの悪運の強さを考えれば、まだ生きているのかしら? ただ、どのみちここまでやってしまっては反董卓連合もおしまい。それを結成した麗羽も……そして袁家も)

 本来であれば、反董卓連合が圧倒的な余勢を持って洛陽を押さえている董卓軍を一層する筈だった。そして、自分の名前もまた大陸全土に広がる筈だったのだ。
 だが、その全てが駄目になってしまった。
 そうなってしまった以上、今はどこまで自分達の被害を抑える事が出来るのかというのが全てだった。
 一瞬そんな風に考えた華琳だったが、すぐに桂花からの声で我に返る。

「華琳様! 右翼、左翼共に敵を押し返し始めました!」
「良くやったわ! けれど必要以上に相手を押し込まないようにしなさい。私達はあくまでも撤退する為に一時的な猶予を作り出すのが目的なのよ! 特に春蘭には言い聞かせなさい!」
「その旨は既に秋蘭に伝えてあります」
「そう、だといいけど……」

 アクセルと初めて会った時に春蘭が行った行動。あの行動のおかげで……しかも、それを諸侯の前で大々的に公表された為、華琳は地味に手痛いダメージを負っていた。
 陳留で善政を敷いているという民の評判こそが華琳の力の源の一つだったのだが、宦官の孫である華琳がそのように民からの評判がいい事を気に入らない者も多い。
 そんな者達がアクセルに対して行った事を陳留へ噂として流し、結果的に陳留にいた商人達も少なからず去って行かれる事になったし、兵士達の中にも華琳や春蘭に対して幻滅したという態度を隠さない者まで現れるようになる。
 そうなれば当然春蘭としては我慢が出来ずに爆発しそうになったのだが、華琳はそれを止めた。
 もしここで春蘭の自由にすれば、華琳自身が噂を認めた事になるのだから。
 それ故に、華琳は以前であればある程度は自由にさせていた春蘭の行動を厳しく制限するようになっていた。
 春蘭の暴走が自分への忠誠や愛情故のものであるとしても……いや、だからこそ野放しにした場合、手痛い被害を受ける事になると思い知った為に。

「……そう、なら今はとにかく一旦撤退よ。確かに反董卓連合軍は敗れた。けれど、私達までもが敗れた訳じゃない。今はとにかく一旦陳留まで戻って、態勢を整える必要があるわ。そうすればここで受けた被害も最小限に……」

 してみせる。
 そう言おうとしたのだろう。
 事実、華琳の力量があればそれは不可能ではなかった筈だ。……そう、この戦場にアクセル・アルマーという規格外の存在がいなければ。

 轟っ!

 そんな音と共に、ジェネシスと曹操軍を隔てるようにして炎の壁が生み出される。
 不運な事に、丁度その炎の壁の生み出された位置にいた諸侯の兵士や武将達は一瞬にして燃やし尽くされ、鎧は溶け、身体は炭と化す。

「っ!?」

 それに息を呑んだ華琳達だったが、次の瞬間に聞こえてきたのはこの惨劇の始まりとなったのと同じ声。

「ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!」

 違うのは、あの時はただ吠えただけだったのが、今回は威嚇の意味が込められていた事か。
 同時に、炎の壁の前にいた諸侯の軍を斬り裂くかのように吹き荒れる真空の刃、カマイタチブレス。
 兵士や武将が身につけている鎧など何の意味もないとばかりに、次々とその身は鎧諸共に斬り刻まれていく。
 あまりの光景に、一瞬周囲が沈黙に満ちた。
 それを待っていたのだろう。周辺に翼の羽ばたく音と共に大質量の物体が上空から落下してくる。
 ……そう。グリフィンドラゴンのグリと、その背に乗ったアクセルが。

「この場にいる全軍に告げる。武器を捨てて降伏しろ。そうすれば少なくてもこの場では生かしておいてやる。だが降伏しないようであれば、あのような最期を迎える事になるだろう」

 その言葉が響き渡ると、途端に劉備軍、曹操軍の兵士達が手に持った武器を地面へと落とす。 
 最初はアクセルとグリ、更には炎の壁やカマイタチブレスを見て心が折れたほんの一部。だが、仲間が降伏したのを見た他の兵士も次第に武器を手放し、それを見た他の兵士も更に……と加速度的に武器を地に捨てる兵士の数が増えていく。
 この兵士達は別に桃香や華琳に対して忠誠心を持っていない訳ではない。いや、寧ろ純粋な忠誠心という意味では大陸屈指だろう。
 桃香はその性格から多くの兵士に好かれ、華琳はその覇気に心酔する。
 だが、その忠誠心そのものを揺るがすような圧倒的な衝撃を与えられた事により、唯々諾々とアクセルの命令に従ってしまったのだ。

「それと、劉備軍、曹操軍の武将も余計な真似をする事を禁じる。既にお前達の主君は俺の手の内にあるというのを宣言しておこう」

 その言葉と共にアクセルの腕が一瞬白炎と化し、巨大な獅子の炎獣となって地を駆ける、あるいは体長3m程もある鳥となって空を飛ぶ。
 数秒後、桃香と一刀、華琳はそれぞれ炎獣により身動きが取れなくなり……それを見て、まだ忠誠心の残っていた兵士が攻撃するも全く効果がなく、寧ろ炎に触れた事により火傷したのを見て、劉備軍、曹操軍は降伏を選ばざるを得なかった。 
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