戦国異伝
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第二百五話 支城攻略その十
「織田信長じゃな」
「はい、城の中の和を乱そうと」
「内通の噂をしきりに流しております」
「我等が既に織田に内通しているだの」
「どこぞの門が開いただの」
「火攻めの噂もあります」
「とかく色々流しております」
それが事実ではないにしろだ、信長は色々と仕掛けてきているのだ。
「内通の文の話もありました」
「城の中に既に織田の兵が入り込んでいるとも」
「朝敵になったとも」
「実に」
「それが織田の策じゃ」
全て見抜いている氏康はこう簡潔に言った。
「そうして我等を惑わしじゃ」
「士気をですな」
「落とすのですな」
「それが狙いじゃ。してくると思っておった」
最初からだ、氏康はその時点で読んでいたのだ。
「だから驚くまでもない」
「ではそれには殿がですか」
「殿が当たられますか」
「籠城は中がまとまってこそじゃ」
それではじめて出来るとだ、氏康はこうも言った。
「この小田原城がどれだけ堅固でもな」
「中が乱れていれば」
「それで陥ちる」
「左様ですな」
「その通りだ、陥ちては北条の名折れ」
これが氏康が最も避けたいものだった。
「名を折る、それ即ちじゃ」
「家を滅ぼす」
「そういうことですな」
「だからここは乱させぬ」
この城の中をというのだ。
「わしが全て防ぐ、そしてじゃ」
「織田信長に対し」
「そのうえで」
「北条の家を守る、絶対にな」
山にある織田の城を見て言うのだった。
「降ることになろうともな」
「家は守りますか」
「北条の家を」
「そうする、これがわしの戦いじゃ」
例えだ、負けようともというのだ。
「家を滅ぼさぬな」
「ではここは殿が」
「織田の謀に対して」
「防がれ」
「小田原を守りますか」
「武田も上杉も敗れた」
しかし、というのだ。その彼等も。
「だが最後の誇りは守った」
「そして織田に降り家を守った」
「だから我等もですな」
「この戦は外で戦うものではない」
長篠や川中島でのそれとは違い、だ。
「城に入り戦う、しかしな」
「守るべきものは守り」
「そして生き残る戦ですな」
「そういうことじゃ、だからわしは防ぐ」
信長のそれをというのだ。
「その都度わしが言い動く」
「では殿」
「これより」
「うむ、全てわしに任せよ」
こう言って実際にだった、氏康は自ら動き。
そのうえで家臣の内通の噂や民の不安を自身の言葉で打ち消していった、そうして城の中の不安をその都度打ち消していった。
それをしていっただ、そのうえで。
彼は籠城を続けた、信長はその小田原城を己の城から見て言った。
「ふむ。全くじゃな」
「はい、城の中はです」
「落ち着いています」
幸村と兼続がその信長に答えた。
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