マニトー
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1部分:第一章
第一章
マニトー
デトロイトでだ。今不気味な噂があった。
人が次々と襲われている。しかもだ。
その相手が最も嫌いな、苦手な相手に襲われる。そうしたことが続いていた。
「ジョーンズは蛇に襲われたのか」
「ああ、それも二十メートルはある大蛇にな」
こんな話がされていた。
「襲われたんだよ」
「おい、あの蛇嫌いにそれはきついな」
「そうだな」
「それでバーナードは蝿だ」
彼はそれだというのだ。
「蝿に襲われたんだ」
「蝿に?」
「それになの」
「そう、蝿にね」
それだというのである。
「何億もいる蝿の群にな」
「きついな、それも」
「あの虫、特に蝿が苦手な奴にか」
「何億もか」
「身体中にまとわりつかれてな。気付いた時にはな」
こう話されていく。皆固唾を飲んで話を聞いている。
「もう泡吹いて倒れていたらしいな」
「ショック死しなかっただけでもましか」
「だよな」
「それでだ」
さらに話は続く。
「ハドソン婆さんは黒猫に襲われグレゴリー坊やは犬に襲われた」
「誰かが嫌いなものそれぞれにか」
「誰か嫌がらせしてんのかよ」
こんな話も出た。
「だとしたら誰だよ」
「殺人事件じゃないにしろ悪質だよ」
「だよな」
それが新聞やネットにも出て来ていた。とにかく不穏な話がデトロイトに満ちていた。そしてその中でだ。警察も遂に無視できなくなった。
身長二メートルはある黒人の初老の男が警官のスーツに身を包んでいた。その彼が署長の席に座りだ。これまたいかつい感じの二人の黒人のスーツの男達に話していた。
見ればだ。一人の顔には火傷の跡がありもう一人の顔は何かに殴られた様子にグロテスクに歪んでいる。署長でありその大男は二人に対して言っていた。
「君達には一連のこの不気味な襲撃事件の解決を頼む」
「愉快犯の可能性があるからですね」
「それでなんですね」
その二人の黒人の男達が署長に対して応えて言う。
「そうだ、それでだ」
「まあ妖怪だろうが悪魔だろうがです」
「街の平和を乱すならですね」
二人はそれぞれ言う。
「俺達が容赦しませんし」
「このキングコングとフランケンシュタインが」
「その通り名はややこしいな」
署長は一人のあまり上手いとは言えないジョークに真顔で返した。
「少しな」
「じゃあ名前で御願いします」
「それで」
二人は署長の言葉を受けて今度はジョークなしで返した。
「とりあえず何でもいいですから」
「それで」
「ではエド=グリーン警部、ジョーンズ=ブルー警部」
名前で呼んできたのだった。
「これでいいか」
「ええ、じゃあそれで御願いします」
「名前で御願いします」
素っ気無くそれに返した二人だった。
「まあそういうことで」
「呼び名はそれで」
「わかった。ではグリーン警部にブルー警部」
今度は姓での呼び方だった。どちらも色である。
「今回の事件は君達に一任する」
「つまり好きなようになっていいってことですね」
「俺達の」
「そうだ、この署きっての敏腕刑事である君達にだ」
二人のそのいかつい顔を見てだ。そのうえでの言葉だった。
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