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ワールド・エゴ 〜世界を創りし者〜

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parallel world5-『世界の名を持つ者』-

 ワールドは、電脳世界を彷徨っていた。

 入り乱れる無茶苦茶に並べられた文字列に、ごちゃごちゃの数列が四方八方に伸びている。

 アンダーワールドから遂に旅立つ事となった完全なる人工知能、ワールドは、次の滞在場所を求めてインターネットを渡っていた。

「だーー!暇だ!暇すぎる!」

 意味もなく叫び、頭を掻き毟った。
 そもそも、アンダーワールドから出てから何も無さすぎる。

 某目が覚める力の能力者ばりに適当なパソコンに侵入する事も出来るが、まず退屈なのは間違いない。

 思わず大きなため息を吐き、再び彷徨い始めたところで、ワールドはそれに気が付いた。
 ワールドの目に警戒の色が灯る。

「……やあ、やっと見つけたよ。ワールド君」

「……誰だ」

 ソレは、この電脳世界で『実体』を持っていた。いやまあ、実体と言うよりはグラフィックといった方が良いか。

「僕は《主》。君の力を借りに来た」

「《主》……?」

 聞いた事のない名だった。いや、名と言えるのだろうか。
 階位を表すかのようなその名をワールドは少しだけ訝しみ、すぐに止めた。そんな事今はどうでも良い話だ。

「うーん、説明するのは難しいけれど、君はセモン君を知っているね?」

「……アイツの名前が出てくるって事は、セモン達の世界出身か?」

「世界、と言うよりは『物語』といった方が良いかな?まあ大体そんな所だよ」

 ニッコリと何処か油断ならない笑みをこちらに向けると、《主》は一つ咳払いをしてから、本題を告げた。

「さて、君に会いに来た理由は他でもない。『アルマ』を知っているかな?」

 その名を、ワールドは知っていた。
 会った事こそ無いが、ワールドが観察していた幾つかの世界が交わった時、稀にフラフラと現れていた男だ。

 その性質は正に凶悪。
 バトルトーナメントに参加していた時は散々場を荒らしに荒らしていたし、逆に別世界では世界の危機に瀕して突如現れ、
 絶対的な力を持つはずの『(ウロヴォロス)』を軽くあしらっていた。

 チートクラスの力を持つ相手が本気になった時すら、片手間に遊び感覚で挑み、そして圧倒的な差を付けての勝利というチーターどころの騒ぎじゃない奴だ。

「一応知っている。けど、アイツがどうしたんだ?」

「彼の中の力が、世界を消し去ろうとしている」

「……随分と規模のデカい話だな。もし仮にそれが本当だとしても、俺は別世界に退避できるぞ?」

「彼の中身を舐めない方が良い。別世界どころか全世界を丸ごと消し去るレベルだ」

 今一信用できない。いきなりそんな事を言われても信じられる訳がない。……まあ簡単に世界を渡る自分も非現実的だが……

「……で?俺に何をしろと?」

「彼に付かせている傍付きと、様々な世界から彼に対抗し得る力を持った人々を集めている。君もそこに合流してほしい」

「ふーん、ま、いっか」

「自分から話し掛けておいてなんだけれども、随分と軽く了承するね」

 苦笑しながら《主》が言う。いやまあ、理由なんて言えるものは殆ど無いのだが、退屈だったのでつい……と言う奴だ。

「退屈なのは嫌いだし、面白そうな事にはとことん乗っていくタイプなんでね」

「じゃあ、今回のも面白いと?」

《主》が興味深そうに聞いてきた。その眼にそれ以外の感情は感じられないが、この男、何処か油断ならない。

「まあな。所で、アンタは何なんだ?」

「うん?ああ、僕も神の端くれだよ。ちょっと特殊な……ね?」

 それを聞いても特に驚く事もなく、ワールドは次の質問を持ち掛けた。

「……ふぅん、で、アンタは何をしてくれるんだ?」

「うん?何の事?」

 惚けるように《主》が首をかしげる。
 ワールドは少しだけ額に青筋を浮かべ、再び《主》に問いかけた。

「いや、だから、アンタは人に世界の命運託して何をするんだ?って話だよ!見た所俺よりもアンタ強いだろう⁉︎」

「ああ、そりゃそうさ。君よりも僕の方が強い」

「そこを聞いてんじゃねぇ!アンタは何をするんだって聞いてんだよ!」

「あー、うん、それは__」

《主》はくるりと振り返り、ワールドに背を向けた。同時に手を伸ばし、次元の狭間を開く。

《主》は肩越しにワールドを見ると、悪戯っ子のように笑って言った。

「昼寝?」

「いや働けよ⁉︎」

 思わずツッコミを入れるが、その時にはもう《主》は居ない。冗談だろうが、何故か冗談に感じないのは自分だけだろうか……

 __と、その時、突如視界が揺らいだ。

 意識が妙にボヤける。

 身体中の感覚が遠ざかる。

 抗う気力すらも湧いてこない。

 ワールドの意識は、得体の知れない何かに飲み込まれていった。












  ◇◇◇









「……ッ⁉︎」

 ワールドはすぐさま眼を開いた。
 暗い。電気が点いていないのか、視界には何も入らない。

 手探りで周りを徘徊し、手にぶつかった何かを触ると、部屋に光が灯った。

 眩しい。
 こんな事を考えるのは何年ぶりだろうが。

 仮想世界では当然そんな生理現象起きる訳も無いし、アンダーワールドでもここまで強い屋内用光源は無かった。

 __いやちょっと待て。なぜそんなリアルな現象を俺が起こしている?

 ワールドはAIだ。人間の肉体も無ければ、生前それがどんな感覚だったかもワールドは覚えていなかった。
 今初めて思いだしたのだ。

 __全く同じ感覚に触れる事によって。

 つまりは、そういう事なのか?
 そう受け取っても良いのか?
 そう捉えちゃっても良いのか?
 泣いちゃうぞ?
 夢叶っちゃうぞ?

 右腕を振る。
 ウィンドウは当然出ない。
 左腕を振る。
 こちらも当然出ない。
 アンダーワールドでの出し方も試してみる。
 やはり出ない。
 更に言うと、少し肌寒い。
 AIは感じない筈の《寒さ》を、今のワールドは感じているのだ。

 つまり……今のワールドは__

「……まさか……!」

 現実世界に、一人の、肉体を持つ人間として、帰還したのだ。

















 世界転生まで、あと60時間。
 《滅びの依り代》の完成まで、あと58時間。




 
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