ルドガーinD×D (改)
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
五十三話:教師に呼び出されると緊張するよな
「よう、来たか」
「……いきなり、相談室に呼び出すなんてどういうつもりだ? アザゼル」
結局昨日、小猫の誤解を解くのに丸一日を費やしてしまった為に恨みが積もった俺はイッセーを本気で断罪してやろうと意気込んでいたのだが、放課後に無理やり放送で呼び出されてしまったので現在、絶賛不機嫌状態だ。因みに黒歌のおっぱいはミラのよりも柔らかかったです。はい。
まあ、それは置いておいてだ、俺は怪訝そうな様子を隠すこともなくアザゼルにそう問いかける。俺が離れている間にどういうわけかここ駒王学園の教師になっていたのには驚いた。どれぐらい驚いたかというとイリナがこの学園に転校してきた事と同じぐらいに驚いた。三勢力のバランスを取るためらしいけど、俺には大して関係ないな。
「まあ、取りあえずそこに座れ。最初はお前の進路相談だ」
「進路相談?」
取りあえず、言われた通りに椅子に座りながら、聞き返す。別に学生が進路相談を受けることは何もおかしくはない。ただ、時期的に早すぎる。普通なら夏休みがあけて直ぐに、しかも体育祭の前にやるものじゃないだろ。俺は脇目で体育祭の準備で忙しそうに運動場を動き回る先生達や運動部の生徒の様子を見つめながらそう考える。すると、そんな俺の様子に気づいたのかアザゼルがニヤリと笑う。
「進路って言っても裏の方の進路だ。お前―――別の種族に転生する気はないのか?」
そう言われて、俺は目を見開く。以前にも部長に悪魔にならないかと誘われたことがあったけど、最近は色々とあって考えもしなかったな。まだ、数か月しか経っていないけどあの頃が酷く昔の事に感じるな。思わずそんな感傷に浸ってしまうが今はそんな場合じゃないと意識をアザゼルに戻す。
「別に強制するわけじゃないが……お前も嫁さんを置いて死にたくはないだろ」
「……ああ。出来たら同じ時間を歩んで行けたらいいなとは思う」
今まで意識をしてこなかったといえば嘘になるが、今更ながらに俺と黒歌に流れる時間の差を感じる。俺も黒歌を置いて死にたくない。というか、死ぬ時は一緒に死ぬと決めたからその場合だと黒歌が自殺するか、俺が殺さないといけなくなる。勿論そんなことはごめんだ。出来る事なら二人の手がしわだらけになるまで寄り添い続けたい。それで最後は一緒の墓に入って死にたい。だから、一応転生することも視野に入れておいた。
「まあ、仮に転生するとしたら、お前にとって一番身近なのは悪魔か。それと信仰心さえあれば天使だな」
「そう言えば、堕天使には転生させるものはないのか?」
「まあ、作ろうと思えば作れるぜ。ただ、特に勢力を拡大させる気がないから作ってないだけだ。何だ? 堕天使になりたいのか。それなら、特別に作ってやるぜ」
「いや、ただ単に疑問に思っただけだ」
俺のふとした疑問に、アザゼルがそう言ってくるが俺は首を横に振る。俺としては黒歌と同じ時を過ごせるのなら別に種族は何でもいい。天使というのは、今から洗礼でも受けない限りはなれそうにないから確立としては低いか。それに信仰心なんて俺にはこれっぽっちもない。神に祈る暇があるなら、働いた方がいいしな。神は借金を返してはくれない。
「まあ、こうして勧めてはいるが……お前を転生させられる奴なんて殆どいねえんだけどな」
「そうなのか?」
「当たり前だろ。悪魔で言えばお前を眷属にするには最低限でも魔王クラスの力がいるだろうよ」
そう言われてみて、少し驚きを覚える。自分が弱いとは特に卑下はしていないけど、まさかそれ程とは思っていなかった。まあ、よくよく考えてみると俺って結構才能がある方なんだよな。
いつも俺の前に家事以外は完璧な兄さんが立っていたから気づかなかったな……今思うと兄さんがいなかったら俺は傲慢な性格になっていたかもしれない。もしかすると、兄さんはそんなところまで考えて俺を育ててくれていたのかもな……ありがとう、兄さん。
「それにしても、何でこんな時期に、その話を持ち掛けて来たんだ?」
「何もないなら、もっと後でも良かったんだが―――今すぐにでも力を得ないとヤバいんだろ?」
急に真面目な顔つきになったアザゼルの言葉に思わず顔をしかめる。多分、ヴィクトルの事を言っているんだろうな。そう思って顔を見ると案の定、頷いて言葉を続ける。
「お前の過去は聞かせてもらったぜ。直接お前に聞くのが礼儀だったとは思うが時間がなかったんだ、悪いな」
「いや、気にしなくていい。どうせ、話さないといけないことだったんだ。手間が省けたよ」
少し、ばつが悪そうに頭を下げるアザゼルが三勢力会談の時にコカビエルの件について全く悪びれなかった人間と同じに見えずに思わず面食らうがすぐに気にしなくていいと伝える。関係者には話さないといけないからな。特に問題はない。……そう言えば、イリナにも話さないといけないな。今度会ったら話してみるか。
「現実としてお前は十年後の自分に勝たないといけないわけだ。十年の差ってのはそう簡単に埋まるもんじゃねえ。そこで転生して少しでも力の差を埋めようってわけだ」
そう言って、俺の方をジッと見つめるアザゼル。その視線を受けて俺は目を閉じてじっくりと考える。確かにこれはいい考えだと思う。俺が強くなれる上に寿命も伸びて黒歌と一緒に生きていける。まさに、一石二鳥だな。でも―――
「これは人間に下された審判だ。だから俺は人間のままでいるさ」
―――人間として審判を受けることに意味があるんだ。
「審判には関わらないんじゃなかったのか?」
確かに、アザゼルの言うように俺は今回の審判には挑む気なんてないし、叶えたい願いも特にない。今ある幸せだけで十分過ぎるくらいだ。でも、今回の審判はヴィクトルの欲望とエゴが生み出した悲劇だ。俺とあいつは違う存在だ。でも、同時に同じ存在でもある。だから、俺には少なくともあいつを止める義務がある。それに―――
「エルの作る世界を壊させる訳にはいかない」
その為には関わらないまでも審判を確実に終わらせる必要がある。これ以上被害を増やす訳にはいかない。関わらずに審判が終わるならそれにこしたことはないけど終わりそうにないなら俺が終わらせる。俺とエル、どちらの世界も守ってみせる。そう決めたんだ。
「まあ、お前がそう言うなら俺も何も言わねえよ」
「わざわざ、聞いてくれてありがとうな」
「……だがよ、他に力を上げるあてはあるのか?」
「あるさ。とっておきのがな」
そう言って、神器で剣を創りだす。それを見たアザゼルがなるほどと呟く。俺はそれで納得してくれたと思ったので剣を消して、部屋から出て行く。今からなら丁度部活が始まっているぐらいだろうからオカルト研究部にでも行こうかなと考えているとアザゼルに呼び止められる。
「今は行かねえほうがいいぜ」
「どうしてだ?」
「厄介な客人が来ているみたいだぜ。大方、アーシアが目当てだろうけどな」
アザゼルにそう言われていったい誰なのかと考える。アーシアが目当てということは……もしかすると最近部長達がよく顔をしかめながら話をしているアーシアに求婚して振られたにもかかわらず。未だに諦めきれずに女々しくストーカー行為を続けているという変態―――
「ディオドラとかいう変態ストーカーか」
「お前、結構遠慮がない言い方するんだな」
少し呆れたような顔をしながら話すアザゼルだったが、その顔にそれ以外の含みがあるのを俺は見逃さなかった。
男は夢を見た。まだ、幸せは誰にでも訪れると愚かにも信じていた頃の夢を。自分が“ルドガー”であると疑いもしなかったあの時の夢を。突如として借金に追われる生活になったものの自分は幸せだった。“アイボー”である少女に頼れる仲間達。兄とは離れ離れになったがそれでも幸せだった。……あの日が来るまでは。最後の道標を得るために進入した世界。
そこで少女と引き換えに世界を救う選択をした。その時はこれが最善の選択だと思った。いや、そう信じこまなければ己の心が壊れてしまうと分かっていたのだ。己の選択が最善でも何でもなく、最悪の選択であることを心の底ではわかっていたがためにそうして目を背けていた。だが、世界は無情にも彼に真実を突きつけた―――お前の全ては偽物だと。
その瞬間、彼の心は壊れてしまった。今でも容易く思い出せる憎しみの籠った眼と共に送られた“アイボー”の最後の言葉と共に――“ルドガー”の……嘘つきっ!――
嘘つき、嘘つき、嘘つき、嘘つき、嘘つき、嘘つき、嘘つき、嘘つき、嘘つき、嘘つき、嘘つき、嘘つき、嘘つき、嘘つき、嘘つき、嘘つき、嘘つき、嘘つき、嘘つき、嘘つき、嘘つき、嘘つき、嘘つき、嘘つき、嘘つき、嘘つき、嘘つき、嘘つき、嘘つき、嘘つき、嘘つき、嘘つき、嘘つき、嘘つき、嘘つき、嘘つき、嘘つき、嘘つき、嘘つき、嘘つき、嘘つき、嘘つき、嘘つき、嘘つき、嘘つき、嘘つき、嘘つき、嘘つき、嘘つき、嘘つき、嘘つき、嘘つき、嘘つき、嘘つき、嘘つき、嘘つき、嘘つき、嘘つき、嘘つき、嘘つき、嘘つき、嘘つき、嘘つき、嘘つき、嘘つきっ!
「うあぁぁぁっ! ……ハア…ハア……また、あの夢か」
男、ヴィクトルは跳ね上がるように目を醒ます。ベットリとシャツに染みついた嫌な汗が気持ち悪いが今の彼にそれを気にする余裕はない。脳裏にこびりついて離れない自分の“アイボー”の最後の言葉にうなされるのは一体何度目だろうかと彼は体を震わせながら考えるが直ぐにやめる。数えるのも馬鹿らしくなるほどその夢を見て来たのだ。
それに数えたところで罪が無くなるわけではない。ふと、目を窓の外にやってみると夕日が沈んでいくところであった。どうやら、いつの間にか、まどろんで昼寝をしてしまっていたらしい。彼は嫌な記憶を払拭するかのように服を着替えることもなく外へと出て風に当たる。しばらく風に当たっていると汗が蒸発して体から熱を奪っていくが彼は気にしない。
『そんなところにいたら、風邪を引くわよ。ルドガー』
ふと、妻が生きていた日の事を思いだして鼻の奥がツーンと熱くなるのを感じる。彼女と一緒に寝た夜だけは彼は悪夢を見ることが無かった。酷い時は眠るのが怖くて一睡もしなかった彼を彼女だけは癒すことが出来た。恥も外聞もなく彼女に泣きついた夜もある。でも、いつだって彼女は自分の全てを受け止めてくれた、愛してくれたと、彼は手袋の下に隠された婚約指輪を見ながら思い出す。だが、そんな彼女はもうどこにも―――いない。
「会いたいよ……ラル」
まるで、小さな子供が母親を探すかのような切なげな声を零すヴィクトル。だが、かつてであればその手を取ってくれた愛しい人達はもうどこにもいない。小さい頃は公園のブランコに座って待っていれば帰って来たユリウスがその手を取ってくれた。ラルと会ってからはこうして一人で立っていればいつでもここに来てくれていた。
だが……彼等はもうここにいない。彼がその手で殺してしまったから。何度も死のうと思った。眠っている間に死ねればどんなに楽になれるだろうかと思ったことも一度や二度ではない。だが、彼には残酷なことに希望があった。エルという一人娘が、本物になるという野望が。だから死ねなかった。だが―――今の彼にはエルすらいない。野望だけが彼を生かしている。
「もう一度……みんなと一緒に生きるんだ。今度こそ―――何も失わない」
過去を取り戻し、今度こそは何も失わないと決意を新たにしたヴィクトルは家の中に戻っていく。彼は明日を夢見る幸福論者でもなければ、明日の死を待つ自殺志願者でもない。ただ、在りし日の思い出に縋ることしか出来ない廃人だ。
「もう一度、君をこの手で抱きしめる……それが俺の願いだ。だから、もう少し待っていてくれ―――ラル」
彼にとってラルのいない世界は全て偽物だ。彼女の隣で笑う自分と娘が居る世界こそが本物の世界だと信じて疑わない。彼を止めることが出来る人間がいるとすればそれは彼女だけであろう。だが、彼女はどこにもいない。故に彼は止まることを知らない。自分がどれだけ愚かな行動をしているかを、自分自身が妻への愛を、娘への愛を、妻が自分を愛してくれたという事実を否定しようとしていることを彼は気づくことが出来ない。
「君のいない世界なんて……何もかも―――偽物だ」
全てを偽物だと信じて疑わない彼には。
後書き
最近ヴィクトルさんが好き過ぎてでクロスオーバー物を書いて見たいなと考えている作者です。
なのはの無印で、フェイト側について偽物だと苦しむフェイトを諭すヴィクトルさんを書いてみたい。
ついでにルドガーがなのは側について偽物なんていないと叫んでほしい。
ヴィクトル「君は偽物だったらそこでしゃがんで立ち止まるのか? フェイト」
フェイト「ヴィクトルさんには私の気持ちは分からない!」
ヴィクトル「いいや……分かるさ。誰よりもな」
ルドガー「お前……話すのか?」
ヴィクトル「ああ。そうだ、本物」(仮面を取る)
なのは「ど、どういうことなの…? なんで、ルドガーさんとヴィクトルさんの顔が……」
ヴィクトル「改めて自己紹介しよう。私の名前は―――ルドガー・ウィル・クルスニク。偽物の彼だ」
こんな感じに書きたいなあ。
それと、最近、真・恋姫†無双の二次創作に嵌ったのでそこにヴィクトルをぶち込むという無謀すぎる案も湧いている作者です。
ヴィクトル「生まれ変わったのか? 私は……」
ヴィクトル「何故だ……なぜ、この世界には兄さんがいないんだ!」
ヴィクトル「ラル…エル……どうして君達は私の傍に居てくれないんだ。これも罪だというのか?」
ヴィクトル「……この世界に私の生きる意味は無い―――死のう」
ヒロイン「ダメ!」
こっちはとにかくヴィクトルさんのヤンデレっぷりが上がりそうだ。ヒロインが転生したラルさんとかだと面白いかな。
何はともあれ、今回も読んでくださってありがとうございました。
ページ上へ戻る