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極短編集

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短編43「時を超えて」

「時を超えて~♪」

 と、中学生の女の子が歌っていると、隣でボーイフレンドが……

「その歌、好きだよね!?時が過ぎても、ずっと愛せるかかあ」

 と、言った。

「出来る?」

 と、女の子は、大好きなボーイフレンドに言った。

『もちろん出来るさ!』

 と、男の子は大好きな女の子に言いたかったものの、言葉には出来なかった。その日の夕方、女の子は交通事故にあった。

◇◇◇

 20××年×月×日の土曜日。14歳の女子中学生が事故で意識を失い、患者として入院した。が、しかし奇跡的に目を覚ました。

「長い間、意識を失っていました。」

 患者の目の前には、白衣を着たお爺ちゃんの医者がいた。

「えっ?今日は何日の何曜日?」

「×月○日の日曜日です……」

 老医師から日付を聞くと患者は、今日が事故に合った日の、次の日の日付と理解した。

「そかっかあ、今日は日曜日かあ。明日には学校にいけるかな?」

 患者に言われた老医師は、困ったような難しい顔をした。

「なんと言えばよいのか……」

 医者はとにかく歯切れが悪い。

「私の身体、どこか悪いの!?」

「いえ、身体は健康そのものです」

 老医師はそう答えた。

「じゃあいったい?」

 老医師は黙っていた。ふと患者は自分の手の違和感に気付いた。自分の両手を見て、そして医師に尋ねた。

「先生、今年は何年?」

 老医師は目を伏せたまま何も言えなかった。患者は自分の顔をさわった。また違和感があった。

「先生、鏡貸して下さい」
 
 老医師は看護師に言って、鏡を用意した。患者に手渡す際……

「決して、気を落とさないで下さい」 

 と、老医師は言った。意を決した患者は、鏡をのぞき込んだ。そこにはなんと……

 老婆の顔があった。

 老医師と同じぐらいの年老いた顔。

「事故で意識不明になられてから、84年の歳月が経ちました」

 老医師がそう告げる。同じ曜日のカレンダー。

「うっ、あっ、あああああ」

 患者は、その場で泣き崩れたのだった。

◇◇◇

 それから数日がたった。

「もう一つ伝えなければならない事があります。その前にまずはこの写真を見て下さい」

 と、老医師は言って患者に何十枚に及ぶ、写真の束を見せた。その一枚目の写真には、女の子が病院のベッドに寝ており、その隣には大好きな男の子が心配そうに座っていた。写真の日付は事故の2年後だった。次はその一年後、その次はと……写真の中で歳をとっていく、二人の姿がそのにはあった。

「私、一人になっちゃった。しかも凄いお婆ちゃん。あと……どんだけ生きれるんだろ……」

「大丈夫だよ。忘れたのかい?」

 そういうと老医師は、とても優しい眼差しを女の子に、いや老婆にむけた。

「先生……えっ!?」

 いつしか写真の中の男の子は、素敵な男性になり、白衣を着ていた。

「君のそばにいたくてね」

 写真の中で、二人は結婚式をしていた。眠れる新婦とタキシードを着た新郎。その周りでは、二人の家族や友達がいた。

「大丈夫、僕らは家族だよ」

 老婆は、写真の束を一枚一枚めくる度に、止まった時間が動きだした気がした。写真の中の男性は、どんどん今の老医師に姿が近づいていった。

「時を超えて~♪」

 老医師は、少し調子の外れた歌を歌った。

「僕は君を愛しているよ。あの時、言えなくてごめんね」

 そう老医師は言うと、老婆の手を握り締めた。そして二人は最期の写真を、一緒に並んで撮った。こうして今、84年の時を越え……



 二人は一緒に、天寿を全うしたのだった。

おしまい


 
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