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極短編集

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短編36「般若心経」

 僕のお祖父ちゃんは、お寺の住職だったから、遊びに行くといつもお経を唱えていた。

「お祖父ちゃん、かんじざいぼーさつって?」

 僕はお経の意味を聞いた。

観自在菩薩(かんじざいぼさつ)とは、菩薩様が、という意味さ」

「じゃあ、そのあとは?」

行深般若波羅蜜多時(ぎょうじんはんにゃはらみたじ)は、偉大なる知恵を求めて、修行をされている時に」

「それから」

照見五蘊皆空(しょうけんごうんかいくう)、人間の心と体を作っている五つのもの、五感で感じるものは、実は本質的なものではないという事に気づき。度一切苦厄(どいっさいくやく)、すべての苦しみから、解き放たれたのである」

「お祖父ちゃん、もういいや。僕にはちょっと難しいや!」

 そう言って僕は、話を聞くのをやめた。それから家に帰って1ヶ月ぐらいが経った時に、お祖父ちゃんから僕に電話があった。

「お経の事なんだけど、中学生のお前にも、もっと分かりやすくしてみたよ!」

 と、何とも楽しそうに電話口で話していた。そして僕は、お祖父ちゃんの所に行った。

「よく来てくれたね!じゃあ聞いててね」

ポク、ポク、ポクポクポーン。ポク、ポク、ポクポクポーン……

 お祖父ちゃんはリズムよく、木魚をたたき出したかと思うと、ラップを歌いだしたのだった。

「昔、菩薩つー奴が(観自在菩薩) 
 幸せ探しをしていた時に(行深般若波羅蜜多時)
 見たり聞いたり感じる事に、いちいちいちいち、こだわんなければ(照見五蘊皆空)
 もっと気楽に生けれる事を、俺はとうとう見つけた!って(度一切苦厄)
 寝てるシャリシ、たたき起こした(舎利子)

 あるんだけれど、ないってものもある(色不異空)
 無いものだって言葉に出来る!(空不異色)
 たとえば『お化け』なんかがそうさ。分からない事そのもの自体を、言葉にして 理解したんだ!(色即是空)

 たとえば『愛』ってやつもそうさ、心の中にある形さ!(空即是色)
 喜怒哀楽の心ってやつも(受想行識)
 それと同じだって気がついた(亦復如是)
 おい!シャリーシ。寝てんなよく聞け。耳の穴ほじって、よく聞いとけよ!(舎利子)

 話し変わって、デカク行くぜ!全てのものは、感じるから有るんだ!感じ方で姿、変わってくんだ!(是諸法空想)
 元から地球にあったんだから、形をかえて現れただけで、形をかえて見えないだけさ(不生不滅)
 汚れたものも、綺麗なものもなく(不垢不浄)
 元から地球にあったんだから、増えることもなく、減ることもないぜ(不増不減)

 そんな大きな視点でみれば(是故空中無色)
 人って存在はちっぽけで(無受想行識)
 五感や心で感じたことや(無限耳鼻舌身意)
 形や音、匂いや味、触れた時の記憶さえも(無色声香味触法)
 元から地球の中、あったんだ(無限界乃至無意識界)

 分からなければならないこともないし(無無明)
 分かろうとおもっても、分からないこともある(亦無無明尽)
 元からあるって事は、飛躍するけれど年も取ってないし、死んでしまうこともないんだけど(乃至無老死)
 やっぱ現実問題、年は取る訳で、やっぱ人間死んでいく訳で(亦無老死尽)
 苦しいことの原因を、なくす方法はないし、なくしようがない(無苦集滅道)
 だって、原因を外に求めたら、なくす方法は破滅の道!(無知亦無得)
 結局、周りは変えられない(以無所得故)

 求める者は自分を見よ!(菩提薩垂)
 答えは自分の中、あったんだ!(依般若波羅蜜多)
 自分で作った心の(くさり)(故心無圭礙)
 はずしてしまえば、ホントの自由さ(無圭礙故無有恐怖)

 事柄こだわらず、本質を見つめる(遠離一切転倒夢想)
 だから、心はいつも穏やかでいられる(究境涅槃)
 今も昔も、そして未来も(三世諸仏)
 ホントの幸せ、みんな求めてる(依般若波羅蜜多故)
 ホントに追い求める者だけが、ホントの幸せ手にするんだ(得阿耨多羅三藐三菩提)
 だから、絶対分かっておけ(故知)
 一時の感情にこだわるな!(般若波羅蜜多)
 それが真実への近道さ(是大神呪)
 感じ方や(是大明呪)
 受け取り方を(是無上呪)
 コントロールすることが出来れば(是無等等呪)
 苦しみはマジで、なくなってくぜ!(能除一切苦)
 事実とは結局、解釈しだい(真実不虚)

 最後にもう一言、言わせておくれ!(故説般若波羅蜜多呪)
 しつこくて、くどくて、本当にゴメン(即説呪曰)  
 いつかはみんな死んじゃうんだ(羯帝羯帝波羅羯帝)

 だから、楽しくするため生きよう(波羅僧羯帝)

 それが(菩提)
 俺たちの(僧莎訶)
 Hannnya-sinngyou(般若心経)」

チーーーーーン

 お祖父ちゃんは歌い終わった。

「お前に分かるようにと考えてみたが、ありがたみ減ったかな!?」

 と、お祖父ちゃんはウィンクして言った。だから僕は言った……



「祖父ちゃんすげーよ!チェケラッチョッ!!」

おしまい


 
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