極短編集
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短編13「コーティング」
ピンポーン
インターフォンのモニターで、誰が来たのか確認する。一応、セールスお断りの看板を出しているからか、セールスはめっきり減ったのだが、たまにセールスが来るのだった。
『若いな、20代前半か?』
モニターにはセールスレディが映っていた。とはいえまあ、断ろう。
「えーセールスはお断りしております」
「済みません!私、何歳に見えますか!?」
いきなりの質問だった。
「はあ、20代ですか?」
俺は、とりあえず見たままに答えた。
「実は、今年で50なんですよ!嘘みたいでしょ?今ならこの魔法みたいな事を格安で」
「いや結構です」
俺は断った。
「では奥様には?むしろそちらに!」
「いや妻も居ませんから」
「そうでしたか。それは失礼しました。ではポストに広告だけ入れさせて頂きます」
と、言ってセールスレディは消えた。その夜、テレビを見ていると……
「最近の化粧品、コーティの紹介です!これは今、爆発的に売れている商品です。」
俺はふと思い出し、ポストに行った。昼間来たセールスの商品と同じだった。
「このコーティは、顔そのものをコーティングします。その時間はわずか3分!3分後にはこの通り」
テレビで50代のモデルが、見る見るうちに若返った。よく見れば昼間のセールスレディだ!
「私はこのコーティのおかげで人生が変わりました。そして今、私は感動を広めたくこの商品のセールスレディになりました」
テレビでは商品の内容説明に移って行った。
「コーティのコーティングは24時間もちます。24時間経つと、一気に劣化が始まりますのでお気をつけ下さい」
ほお、毎日の化粧感覚で、顔が若返るのか!良く考えたなあ。そうそうコーティングはそのまま燃えるゴミで捨てられる!そして一日単価100円ほど!!本当に凄いアイデアだ。俺は、ほとほと関心していた。それからある日の事だった。
「ちょっと時間ありますか?」
まさかまさかの逆ナンだった。20代半ばのナイスバディだった!まさにまさに、ボンキュボンだ。そして出会ったその日にベッドインした。しかし俺は警戒していた。もしかしたら例のアレかも知れないのだ!
だがしかし、それは杞憂に終わった。ベッドの上で脱がしてみれば、見れば見るほど、超~見事な、ボンキュボン!その夜、俺は燃えに燃えた。
朝になった。横で寝ている女の背中を撫でた。その時だった。指の先に、違和感を感じたのだ!
『えっ!?』
気づくと背中が、日焼けの皮のようにむけ出した。女のむけた皮から、シミの広がる乾いた肌が露出した。
「うわっ!うわあああ」
俺が叫ぶと、女は起き出した。顔を見て俺はまた叫んだ!ボロボロと皮が、はげ落ちたかと思うと、シワシワの顔が現れたのだ!
「うわっ!うわあああ」
「あらあらダメね!試作品は18時間ね」
女は、いや目の前の老婆はそう言った。
「あらやだ、驚かしてごめんなさいね。あなた知ってる?今流行りの化粧品、コーティっていうの?」
俺は、アウアウしながら、うなづいた。
「私、あれの社長なのよ~。ちょっと試作品を試してみたくて、街に出てナンパしたんだけど、あんたあまりに、死んだ旦那に似てて……」
俺の頭の中はグルグルしていた。目の前の女の体はすっかり老いて、張りのあった二つのふくらみは、今ではしなびたヘチマになった。
「そうそう私、何歳だと思う?」
全身コーティングの化粧品だと~!?
「私はもう、85なのよ!」
「ええ~!!」
俺は心の中で叫んでいた!!
『これはもはや詐欺だろ~!?』
と。
おしまい
後書き
おまけ
「あんた激しくて良かったわ!」
と、老婆が俺の体に触れた。
「うわっ!うわあああ」
「どうだい私と……十年も我慢すれば、遺産でガッポリよ!」
「勘弁してくれ~!」
老婆は俺を見るとると、しわくちゃ顔で……
ヒッヒッヒと笑ったのだった。
おしまい
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