極短編集
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短編9「シネマスケープ」
ある日、いつもと同じく同じ学生寮に住む、ヤツの部屋に行ってみると……片付けられて、何もなかった。ただ床に、手紙と8ミリフィルムが置いてあった。
手紙の宛名は俺だった。 封を開けるとそこには……
一人の男が一人の女性に恋した経緯が書いてあった。
◇◇◇
僕は、フリーマーケットで一本の8ミリフィルムと出会った。それは、アメリカで撮られた、プライベートフィルムだった。
「どうだい、8ミリモニターとカメラ買わないかい?」
売り子のオジサンが言った。発電機につながれたモニターは、8ミリフィルムの映像を映し出していた。
デモ用に映し出されていたそれは、多分、アメリカ家庭のバースデーの風景だった。 僕はそこで、お祝いされている女性が気になった。
「オジサンこれいくら?」
「おっ!買うかい?カメラとセットで1万はどうだい?」
「カメラはいらないなあ。このデモテープをつけていくらになる?」
「ああ今、映ってるヤツか!いいよつけるよ!モニターだけなら6千円な」
僕は購入した。寮に帰って早速、フィルムを見た。見終わった僕は、フィルムの中の女性に……
恋をした。
僕はその日の内に、フリマの場所にまた行った。この女性の事をもっと知りたかったからだ。フリマには片付けをしている、あのオジサンがいた。
「ああ、あのフィルムかあ。あのフィルムは今から100年前の映像なんだよ」
僕は愕然とした。カラー映像なのに?
「あれは俺の親父が向こうで撮影してきたもんなんだよ。当時アメリカ製のはカラーだったんだ」
僕はその夜、何度もフィルムを見た。モニターの女性が今は、もうこの世にいないのが信じられなかった。あれから、何回見た事だろう……そうそう、僕は途中から、8ミリの画像をパソコンに移した。劣化を防ぐ為だ。パソコンの中の彼女は画像処理をされ、より一層、輝いて見えた。
僕は何度も再生をクリックした。そして、思い付いたのだ!僕があの人に会える方法を!!
◇◇◇
と、ここで手紙は終っていた。俺は呟いた……
「で、この8ミリを俺に、どうしろというんだよ!?」
8ミリは、学校から借りて来たモニターで見る事にした。
スイッチを入れる。フィルムをセットし送り出すと、やがて画像が映し出された。やがて俺は理解した。ヤツは行ってしまったのだ!
モニターの中では、楽しそうに笑う男女が映し出されていた。女は多分、あの例のフィルムの女で、その女の横で楽しそうに……
ヤツは笑っていたのだった。
おしまい
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