喉
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3部分:第三章
第三章
「願いの中にあった黒いもの」
「人を殺したいという。奇麗なものを壊したいという」
「その願いに襲われたわね」
「あれですね」
「その恐ろしさはわかったわね」
「一瞬ですけれど」
確かにわかったとだ。義春は答えた。
「何ていいますか」
「溶かされそうになって」
「はい、そうです」
「あれは人の中にある邪な願いよ」
それそのものだというのだ。
「貴方が思っていた。それよ」
「それがあれですか」
「そう。けれどね」
そのだ。願いがだというのだ。
「全て出て貴方を襲い」
「そしてそれが」
「清められたのよ。彼女に」
沙耶香は自分の隣にいる彼女を見る。しかし彼女はまだ動きを止めたままだった。今動け話せるのは沙耶香と義春だけだった。
「天使である彼女にね」
「清められた。彼女に」
「その疚しい思いがね」
それがそうなったというのだ。そのことを話してからだ。
沙耶香はあらためてだ。義春に尋ねた。
「それでだけれど」
「今はですね」
「ええ。まだ切りたいかしら」
義春の目を見て。そのうえで尋ねるのだった。
「それはどうかしら」
「いえ、それはもう」
どうかとだ。彼はすぐに答えた。
「ありません」
「邪念が全部出てそれが清められたからよ」
「それでなんですか」
「ええ。私の魔術で」
まさにだ。それによってだった。
「そうなったのよ」
「有り難うございます」
それを聞いてだ。すぐにだった。
沙耶香はくすりと笑ってだ。こう彼に言った。
「彼女とはどうするのかしら」
「この方とですか」
「ええ。もう邪念は消えたけれど」
「とはいいましても」
実はだ。その邪念以外にはなかった。それではだった。
もうその美女には客として興味はなくだ。それで言う言葉は。
「もう特にありません」
「そう。わかったわ」
沙耶香もその言葉を聞いて頷いた。それでだ。
あらためてだ。義春にこう言った。
「なら約束はね」
「ええ、これから暫くですね」
「このお店で好きなだけ飲ませてもらうわ」
「助けてもらいましたから」
それでだとだ。彼は言ってだ。
そのうえでだ。早速カクテルを一つ作り。沙耶香に差し出してだった。
「はい、どうぞ」
「あら、早速ね」
「そうです。モスコミュールです」
そのカクテルをだ。沙耶香に差し出してだった。
「どうぞ」
「では早速ね」
「飲んで下さい」
笑顔でこう話してだった。沙耶香にそのモスコミュールを差し出すのだった。そして沙耶香もそのカクテルを手に取りだ。
一口飲む。それから言う言葉は。
「美味しいわ。これからもね」
「はい、暫くの間は」
「楽しませてもらうわ」
こう言ってだ。美女の方を一瞥してだ。
くすりと笑う。笑うとだった。
美女も我に返ってだ。こう言ったのだった。
「あっ、何かありましたか?」
「あったわ。少しね」
沙耶香はその笑みで美女に話した。
「貴女が助かったことがね」
「助かった?私がですか」
「そうよ。貴女が気付かないうちにね」
そうなったとだ。彼女に話すのである。
「そうなったのよ」
「気付かないうちにって」
「こうしたことはあるものよ。気にしないで」
「そうですか」
何が何だかわからずにだ。きょとんとする顔になっている美女だった。だが義春は彼女にもカクテルを奢り沙耶香は飲み続け。その美女を見て微笑むのだった。
喉 完
2011・7・26
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