| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
次ページ > 目次
 

3部分:第三章


第三章

「願いの中にあった黒いもの」
「人を殺したいという。奇麗なものを壊したいという」
「その願いに襲われたわね」
「あれですね」
「その恐ろしさはわかったわね」
「一瞬ですけれど」
 確かにわかったとだ。義春は答えた。
「何ていいますか」
「溶かされそうになって」
「はい、そうです」
「あれは人の中にある邪な願いよ」
 それそのものだというのだ。
「貴方が思っていた。それよ」
「それがあれですか」
「そう。けれどね」
 そのだ。願いがだというのだ。
「全て出て貴方を襲い」
「そしてそれが」
「清められたのよ。彼女に」 
 沙耶香は自分の隣にいる彼女を見る。しかし彼女はまだ動きを止めたままだった。今動け話せるのは沙耶香と義春だけだった。
「天使である彼女にね」
「清められた。彼女に」
「その疚しい思いがね」
 それがそうなったというのだ。そのことを話してからだ。
 沙耶香はあらためてだ。義春に尋ねた。
「それでだけれど」
「今はですね」
「ええ。まだ切りたいかしら」
 義春の目を見て。そのうえで尋ねるのだった。
「それはどうかしら」
「いえ、それはもう」
 どうかとだ。彼はすぐに答えた。
「ありません」
「邪念が全部出てそれが清められたからよ」
「それでなんですか」
「ええ。私の魔術で」
 まさにだ。それによってだった。
「そうなったのよ」
「有り難うございます」
 それを聞いてだ。すぐにだった。
 沙耶香はくすりと笑ってだ。こう彼に言った。
「彼女とはどうするのかしら」
「この方とですか」
「ええ。もう邪念は消えたけれど」
「とはいいましても」
 実はだ。その邪念以外にはなかった。それではだった。
 もうその美女には客として興味はなくだ。それで言う言葉は。
「もう特にありません」
「そう。わかったわ」
 沙耶香もその言葉を聞いて頷いた。それでだ。
 あらためてだ。義春にこう言った。
「なら約束はね」
「ええ、これから暫くですね」
「このお店で好きなだけ飲ませてもらうわ」
「助けてもらいましたから」
 それでだとだ。彼は言ってだ。
 そのうえでだ。早速カクテルを一つ作り。沙耶香に差し出してだった。
「はい、どうぞ」
「あら、早速ね」
「そうです。モスコミュールです」
 そのカクテルをだ。沙耶香に差し出してだった。
「どうぞ」
「では早速ね」
「飲んで下さい」
 笑顔でこう話してだった。沙耶香にそのモスコミュールを差し出すのだった。そして沙耶香もそのカクテルを手に取りだ。
 一口飲む。それから言う言葉は。
「美味しいわ。これからもね」
「はい、暫くの間は」
「楽しませてもらうわ」
 こう言ってだ。美女の方を一瞥してだ。
 くすりと笑う。笑うとだった。
 美女も我に返ってだ。こう言ったのだった。
「あっ、何かありましたか?」
「あったわ。少しね」
 沙耶香はその笑みで美女に話した。
「貴女が助かったことがね」
「助かった?私がですか」
「そうよ。貴女が気付かないうちにね」
 そうなったとだ。彼女に話すのである。
「そうなったのよ」
「気付かないうちにって」
「こうしたことはあるものよ。気にしないで」
「そうですか」
 何が何だかわからずにだ。きょとんとする顔になっている美女だった。だが義春は彼女にもカクテルを奢り沙耶香は飲み続け。その美女を見て微笑むのだった。


喉   完


                2011・7・26
 
次ページ > 目次
ページ上へ戻る
ツイートする
 

全て感想を見る:感想一覧