喉
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2部分:第二章
第二章
「夢は願いがそのまま出る世界だから」
「じゃあ僕は本当に」
「彼女を殺したいと思ってるわ。その喉を切り裂いてね」
「どうしてそう思うんですか?」
「彼女が奇麗だからよ」
それでだと答える沙耶香だった。
「奇麗だから切り裂いてね」
「喉をですか」
「奇麗なものをあえて壊す」
沙耶香は倒錯の世界から話した。
「それは人がしたいと。時に思うことだから」
「だからですか」
「ええ。だから貴方はこのままだと」
「彼女を殺す」
「彼女だけでなく貴方自身もね」
人を殺めることによってだ。義春自身も破滅するというのだ。
「そうなってしまうわ」
「あの、それは」
「殺したいかしら。そして破滅したいかしら」
その琥珀の目でだ。義春を見ながら問うた。
「貴方は。どうかしら」
「まさか。そんな」
そんな筈はないとだ。すぐに答えた彼だった。
「人を殺すなんてとても。それに」
「そうよね。楽しく生きたいわよね」
「そうです。絶対に」
「それならね。任せて」
「任せる、ですか」
「報酬は暫くここで無料で好きなだけ飲める」
口の端に笑みを浮かべて言う沙耶香だった。
「それでね」
「僕が人殺しにならないように」
「できるわ。どうかしら」
「あの、本当ですよね」
「嘘だと思うの?」
「何か。信じられないです」
沙耶香の言うことが全てだ。そうだというのだ。
「何ていいますか」
「けれど私は貴方の夢の中まで全部言ったわね」
「はい、それは」
「それが証拠よ。私は魔術師だから」
それでだ。全てわかるというのだ。そしてだ。
「全てを解決させられるわ」
「そうなんですか」
「貴方も。彼女も」
義春だけでなくだ。その彼女もだというのだ。
「助けられるわ。それでどうするのかしら」
「ここで暫くはですか」
「そう。私が好きなだけ飲める」
言いながらだ。沙耶香は自分のカクテルを見る。オレンジとラムのだ。プランターズオレンジである。
それを目にしつつだ。彼女は言うのである。
「どうかしら」
「それで僕が人殺しにならないのなら」
「いい話だと思うけれど」
「はい」
その通りだと答える義春だった。こうしてだった。
話を決めてだ。そうしてだった。
沙耶香は早速動いた。その日にだ。
カウンターで飲みながら待つ。暫くしてだ。
その彼女が来てだ。カウンター、自分の隣に来るのを見た。その彼女を見てだ。
目を赤く輝かせた。するとだ。
急にだ。彼女だけでなく義春もだ。
動きを止めそしてだ。自然にだった。
気付いたその時にはだ。何もない空間に二人きりでいてだ。
義春は手にナイフを持ちそして。
美女の喉を切り裂いた。するとそこから。
禍々しい黒い瘴気が出て来てだ。彼を包み込みそのうえで溶かそうとしてきた。だがその瘴気に対して。
天使、喉を切られた美女そのままの姿の白い翼のそれが出て来てだ。その黒い瘴気をだ。
翼を羽ばたかせその風で消し去った。そうなったのだ。
そしてまた気付けばだ。二人は。
店の中に戻っていた。カウンターにだ。そこでだった。
義春は呆然としてだ。カウンターでカクテルを飲んでいる沙耶香に尋ねたのだった。
「あの、今のは」
「願いは果たされたわ」
「そうですか」
「それでね」
さらにだというのだ。それに加えて。
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