未来から来た魔王
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初めてのママ
前書き
遅くなりました。すみません
目を覚ますとそこは白いなにかだった。言葉に形容出来ない何か。あえて言うとするならば白い、ただ一面真っ白な世界と言うべきか。
上半身を起き上がらせ、傷の有無を確認する。ビルの屋上から落ちたのだ。いくら小父さんの加護があったとしても骨折くらいはしているだろうと傷を負ったところなどどこにもなかった。
少し怪訝に思うもそれよりも不気味な白い世界の方が気になった。
「ここは……、どこ?」
そうつぶやくも誰の返事も帰ってこない。僕は不安にかられた。この不安を言うなれば帰ってきても家にいるはずの小父さんがいないような感覚だ。どうしたら良いのかわからない不安。
さっきまで僕は小父さんと一緒にいたはずだ。僕は神を殺して意識を失った。だけどどうしてこの白い世界に僕はただ一人いるのか。それがわからなかった。
「ここは幽世よ」
そう唐突に言われて僕は振り返った。さっきまではいなかったはずの僕より少し年上に見える女の子がそう言っていた。
「あなたは私の子。あなたは王の中の王、カンピオーネに生まれ変わったのよ。カンピオーネに」
「あなたは誰?カンピオーネって何?」
「私は全てを与える女、パンドラ。カンピオーネとは神を殺してその力を奪い取った者のことよ」
そうとだけ言うとパンドラさんは続けた。
「堅苦しいのはここまでよ。私のことはママって呼んでね」
「ママ?」
「そうよ、あなたはエピメテウスの残した呪法、愚者と魔女の落とし子を生む暗黒の生誕祭、神を贄として成功する簒奪の秘儀によって私の息子になったの」
「ママ、ママ……」
パンドラさんの話を聞くうちに僕は泣いてしまっていた。
パンドラさんは困ったような顔をして、
「え、え。えっと、ごめんね。そんなに嫌だったかな。ごめんね」
「違うの。僕、お母さんが死んじゃってるから嬉しくて、ごめんなさい」
「な、なんだ、そうだったの。てっきり嫌われたんじゃないかと思ったわ。わかったわ、思いっきり私に甘えていいわよ」
「本当?」
「本当よ」
「じゃあ僕にもママができるんだね」
「そうよ」
「やったー、ぼくにもママが出来たんだ。やったー」
ふふ、とママが笑った。
「なんで笑ってるの、ママ?」
「いや北斗君が可愛くてね、つい。そうだ、呼び方を決めましょう。私はママでいいとしても北斗君の呼び方は決めないと、うーん」
「それならそのままでいいよ、愛情がこもってればなんでもいいよ」
そう言って笑うと、
「この笑顔、本当に可愛らしいわね。まるで天使みたい。他のカンピオーネとは大違いね」
何やらブツブツつぶやいていた。
「それよりママ、遊ぼう。僕お母さんみたいな人と遊んだことないから遊ぼう」
「いいわよ、何する?」
「かくれんぼ!!」
ママは若干困ったような顔をしていた。
「かくれんぼってここで?」
「うん!」
「(まぁかくれんぼって言っても隠れるところなんてないしすぐに飽きるでしょ)いいわよ。じゃあ私が探すわ」
2時間後
「もういいかーい」
「……いいわよ」
探し始め、辺りを見渡すと僕は少し離れた場所にママを見つけた。
「あ、ママ見っけ。じゃあ次は……」
「ちょっと待ってくれるかな、北斗君」
「何、ママ?」
「さっきから同じことの繰り返しなんですけど。すぐに発見できるし、発見されるのよ。楽しいの⁉︎」
「うん、ママと一緒に入れるだけで楽しいよ」
「なんて可愛らしい笑顔、そうねもうちょっとやりましょうか」
2時間後
「もうやめよう、やめよ、ね。ママ、そろそろ疲れてきちゃった」
「お願い、ママ」
「う、でも、じゃあ違う遊びにしましょ」
「違う遊びって?」
「うーん、だるまさんが転んだとかは?」
「うん、分かった」
「ほっ(やっとあの無限ループから解放される!!)」
2時間後
「…………だーるーまーさーんーがーこーろーんーだ」
そういい終わった後パンドラは後ろを振り返る。
そこにはスタート時から姿勢が変わらない 北斗君がそこにはいた。
信じられるだろうか。9歳の子供が2時間も同じ姿勢を耐え続ける。
この子は普通のカンピオーネとは違うと思ったがやはりと言うべきか彼も変人の類に含まれるのだろう。
そこでパンドラは諦めた。心の何かが崩れ去ったのだ。もしくはポッキリ折れたとも言う。
「…………私の負けよ。煮るなり焼くなり好きにしなさい」
「何言ってるの、ママ。もっと遊ぼうよ」
「無理よ、もう無理よ。なんで一人でだるまさんが転んだやらなきゃならないのよ。しかも動かないから終わらないし。端から見たら変な人じゃない」
「ごめんなさい、ママ。僕、放課後も修行だったし友達もいなかったからだるまさんが転んだやったことが無いんだ。ごめんなさい」
「……ママもごめんね。勝手に決めちゃって。ごめんね」
「ママーー」
「北斗君ーー」
そんなくだらない遊びを終えた後……。
僕達は話し合っていました。
「じゃああの後小父さんのところにママが行って、僕に伝言をよこしたの?」
「そうよ。自分は旅に出るから一人で生きろって言ってたわよ」
「そんな……、僕どうしたら……」
「それは心配ないわ。お金とか貴重品は置いて行くらしいし」
「でも一人で居るのは寂しいし」
「そっか、じゃあ魔術結社に行ってみるのはどう」
「悪の?」
「いや、悪の魔術結社ではないわ。魔術結社って言うのはね末路わぬ神の情報を集めたり、一般人の記憶を消したりするところよ」
「記憶を消す、え、行きたくないよ」
「ごめんね、言い方が悪かったわ。末路わぬ神やあり得ない現象を見てしまった時に記憶を改竄させるの。むやみにはしないわ」
「そうなんだ、じゃあそこに行ってみるよ」
「じゃあそろそろ現世に帰った方がいいわ。そろそろ丸1日は立つだろうし。じゃあまたね、北斗君」
「またね、ママーー」
「あ、戻ってきたんだ」
そう言って家を見渡してみる。やはり小父さんはいない。長年一緒にいたので居るのが当たり前だ、なんて思ってるといなくなった時辛く感じる。僕は小父さんと一緒に居ることが当たり前だとは思っていなかったけど、それでも実際なってみると小父さんが僕に優しくしてくれた、怒ってくれた、笑ってくれたことは僕にとってかけがいのない宝物だったのだろう。
だから僕はもう一度小父さんと暮らしたいと思った。
小さなほんの小さな夢。だけど僕は必ず叶えてみせる。
まぁとりあえず生活はなんとかなるし、魔術結社に行こ……」
そこで僕は気づいた。重大なミスをおかしていることに。
「ママに魔術結社の場所聞いてなかった……」
後書き
ようやくエピローグ終わります。今後とも宜しくお願いいたします。
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