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ココロコネクト~六つ目の頂点~

作者:心葉
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ヒトランダム
  隠し事

 
前書き
週一更新予定だったのですが遅れました。やっぱりオリジナルのお話の部分は時間がかかりますね。
 

 
気が付くと目の前にある課題の種類が変わっていた。というか、部屋も変わっていた。
ここは誰の家だ……
と思ったがすぐに特定できた。プロレスのマスクが置いてあるのを発見したからだ。こんなもの置くのは八重樫くらいしかいない。
慌てて八重樫の携帯電話を探す。幸い机の上に置いてあったのですぐに見つかった。
慣れない携帯電話を使い、自分の携帯へと連絡を取る。
ツーコールの後、俺の声が携帯の向こう側から聞こえた。

「武藤か?!俺だ!八重樫だ!」

予想通り俺と入れ替わったのが八重樫だとわかった。

「ああ、俺は武藤だ」

電話の向こうから一つ溜息がこぼれた来た。
現状を把握してひとまず落ち着いたのだろうか。

「にしてもこの部屋、すぐに八重樫の部屋だってわかったよ。このマスク、相変わらずだな」

「それは褒めてるのか?」

「別に……ただ感想を述べたまでだ。それより、何か注意したほうがいいことあるか?この入れ替わりにおいて」

軽口をたたき合っていても入れ替わりが終わるわけではないので、本題を切り出す。
要は入れ替わりの間してはいけないことを聞き出す。稲葉曰くのこのトンデモ現象、率直に言えばプライベートをまる覗きなのだ、配慮くらいはしないと信頼関係総崩れだ。

「いや、特にないよ。強いて言うなら普通にしておいてくれ。あ、後この入れ替わりが長かった時のことを考えると宿題やっておいてくれるとありがたいんだが……」

ちゃっかりしたやつめ……
少し苦笑しながら返答する。

「わかったよ……そのかわり八重樫も俺の宿題やっといてくれよ」

「もちろんだ。そういう武藤は何か要求あるか?」

要求か……言ってしまうべきか、言わないでおくべきか。できれば言いたくないが、ここで言わなくて後々に被害が出るのもたまったものじゃないか。

「……できる限り、家族との会話はなしで。夕飯は九時以降に自分で作ってくれ、風呂は日付変わってからで頼む。理由は……聞かないでくれ」

このセリフが八重樫にはどのように聞こえたのだろう、しばらく無言の時間の後、わかったと返事があった。そして、じゃあまた明日と明るい声で言い電話は切れた。
それにしても、まさか夕方に稲葉がまとめてくれたことがこんなに早く生きてくるとは。
さてと、八重樫になりきるか。
決意したちょうどその時、階下から小学生女子の声が聞こえた。

「おにーちゃーん、ご飯出来たよー?」

これがたまに八重樫が話に出してくる妹の声か。たしか八重樫は二人兄妹だったよな。歳そこそこ離れてるし、きっと仲良いよな?
部屋の扉を開けて階段を降りる。
八重樫家が豪邸じゃなくてよかった、これくらいの家の大きさなら迷わなくて済む。
一階に降りると、扉が三枚あった。どっちだ……
一瞬悩んだ結果テレビの音のする方の扉を開けた。
正解だったようだ。夕食の準備がされおそらく母親と妹と思われる人物がすでに席についている。
俺が開いている席に着くと夕食が始まった。
できる限りぼろを出さないように言葉数は少なめにする。
言葉数が普段より少なかったせいか、妹ちゃんには少し心配された。だが、その程度だった。普段の様子を知らないうえで八重樫になりきったのだ、成果は上々と言えるだろう。
その後、宿題をすると言って居間に残らず自室に閉じこもった。そうしないとどこかでぼろが出そうだったからだ。

そんなこんなをしているうちに三時間程度で入れ替わりは元に戻った。
三時間程度といえども今までの入れ替わり時間から考えればかなり長い方だった。元に戻った後、宿題を確認するとほぼすべてが終わっていたしお腹も膨らんでいたが、髪の毛は濡れていなかったことからちゃんと言ったことは守ってくれたようだ。
それに、日付が変わるまでに元に戻ってよかった……


〈ふうせんかずら〉が現れてから入れ替わりの頻度が高まった気がする。そう感じたのは数日後だった。
今までは日に一度あっていいところだったのが、日に二、三度、もしくはそれ以上になっていた。
そのせいで常に神経を研ぎ澄まし続けなければならず、疲労も甚だしかった。
とはいえ、放課後は基本的に部室で全員集まっているおかげであまり余計な神経は使うことはなかったのだが。


そんなこんなで一週間あまりを乗り切りやってきた週末、反省会として文研部のメンバー全員で稲葉の家に集合していた。

「それで、奴が現れてから一週間余りが過ぎたのだが……お前ら、注意力がなさすぎる!」

稲葉は俺たちが入れ替わりで犯したミスがあまりにもイージーすぎたためか内心とても怒っているであろうが、みんな大変だと知っているためかかなり押し殺している。それでも押し殺しきれない怒気に俺としては戦々恐々なのだが。

「まず聞くぞ、これは初歩中の初歩だが、入れ替わってる時に男子トイレと女子トイレ間違えたことのあるやつ!」

稲葉以外全員がまるで示し合せたかのように全員が手を挙げる。
俺も一度だけやらかしたから人のことは言えないが、悲惨だ……

「なぜ間違う!注意すべきナンバーワンだろ!」

「いや、ついね~」

全く悪びれる様子のない永瀬。せめて反省くらいはしろよ。
というかこの感じ、下手したら俺になった時もやらかしてそうだな。でかい男が女子トイレに紛れ込んだ時にはさぞ悲鳴ものだっただろう。変な噂になってなければいいが。

「ついねじゃねーよ!これからアタシたち若干トイレに入りにくくなったじゃねーか!」

お怒りモードの稲葉。この怒りを止めるのは至難の業だな……
でもまあ、怒りの矛先を全て青木に集めればいいか。

「あ、それで提案があるんだけど、みんな入れ替わってないときになるべくトイレに行っておかない?」

そう切り出したのは桐山だった。

「今入りにくくなったって話したばかりだろうが」

先ほどの怒りが残ったまま呆れ半分な稲葉。

「だからこそありだろ。入れ替わってる間に行くトイレの回数が少ないほど間違える回数も減るんだから。桐山の提案に俺は賛成する」

ちょっとだけ俺も口を挟んで桐山の援護をする。俺だって女子に入れ替わってる時に好き好んでトイレに行きたいわけではないからな。

「うん、武藤が言うこともそうなんだけど……あたし達女子が男子になってる時にトイレに行きたくなったらそれって必然的に……いやあぁぁぁ!」

桐山の言いたいことは分かったし、とても気持ちもわかるのだが、この拒否反応はちょっとへこむな。

「まあ、桐山が嫌っていうのなら俺たちで気を付けておくよ」

八重樫がいいとこどりをする。これを無意識でやるんだから恐ろしい。

「ちょっと待て太一、唯の好感度上げるのは俺の役割だろ。俺も気を付けるからね」

横から入ってくる青木はとてもみにくい。さっきの八重樫を見ている分余計だ。まったく。

「それよりもだ、まさかとは思うが、私たちの体は大丈夫なんだろうな?」

疑わしそうな目で見てくる稲葉。まあ、入れ替わりの相手が異性の時点で心配すべき内容ではあるだろう。
特に八重樫は永瀬と入れ替わった時の前科があるわけで。

「だ、大丈夫だよ流石に。そんなことはしてない……最初の永瀬の時以外」

さすがに少しは八重樫に罪悪感はあったようだ。ぼそぼそと女子側には聞き取れないくらいの音量で最後の部分を呟いた。

「俺も問題ない。青木も……大丈夫だよな?」

「祐樹、何、今の合間?!俺そんなに心配!?さすがに、あんなことやこんなことやってみたくはなるけど……って、みんなの視線が!ごめんなさい!冗談です!そんなことやってないです!だからその視線はやめて!」

みんなの視線が痛すぎたのか青木はグハッと言う声をあげて後ろに倒れこんだ。まあこんなネタやってるくらいだから大丈夫だろう。

「まあ、実際問題こういうときって信頼関係が大事じゃん?だからそんなばかのことはしないって!」

視線にぶっ刺されて倒れてた青木はすぐに起き上って弁解した。

「そう……だな……」

一瞬稲葉の顔がゆがんだ気がした。
そのことを気にする間もなく今度は桐山が話題を持ち出す。

「ねえ、そういえばこの前夜中に伊織と入れ替わった時、家に誰もいなかったんだけどさ、あれって?……夜、家に女の子一人ってちょっと危ないかなって」

ちょっと聞きにくそうに後半の方はぼそぼそと訊ねた。

「あーそれね、言ってなかったけどうちの両親離婚してて母親と2人暮らしなんだよ。でもって母親も忙しくて。ま、そこいらの男なら催涙スプレーぶっかけてぼっこぼこにしてやればいいから大丈夫――」

「全然大丈夫じゃない!!!そんな風に甘く見てるのが一番危ないんだからね!何かあってからじゃ遅いんだよ!」

桐山は常に感情の起伏は激しい方だとは思っていたが、いきなり雷が落ちたかのような迫力で桐山は怒り出した。この怒りはいつものような照れ隠しとかそういうのではないことはすぐに分かった。しかし、なぜここまで……

「あ、えっと、ごめん……」

桐山の迫力に気圧され半ば呆然としたまま永瀬は謝罪する。それで桐山も落ち着いたのか謝罪し返した。
それで一件片付いたようなので再び主導権が稲葉に戻る。

「他になんか言いたいことある奴いるか?」

はいっと挙手して今度は俺が主導権をもらう。

「言いたいことっていうか話し合いなんだけど、それぞれ家で入れ替わった時の注意事項今のうちに言い合っておこうぜ」

「そうだな、なら言い出したお前から何か言え」

そう言って、稲葉は俺に発言を促す。

「この前入れ替わった時に八重樫には言ったんだが、夕食前なら夕食は九時以降に自分で作ってくれ、入浴はできればしないで欲しい。最悪日付変わってからで頼む。後、できる限り自分の部屋に引きこもっておいてくれ」

これで自分の番は終わったというように稲葉に視線を向ける。

「アタシは……そうだな、できる限り物をいじらないでくれ。あと、今武藤が言った引きこもるっていうのは全員共通でいいよな?それから男共、アタシと入れ替わってる間に風呂入ったらぶっ殺すからな?」

睨み付けてくる視線だけで人が殺せそうだ。恐ろしい……
稲葉の忠告で空気が凍った。誰も続けて発言しない。

「他に何か注意して欲しい奴は?」

特に誰も主張しない。みんな意外に隠し事とかないのか。というか、みんな最低限の節度は守ってくれると信じているから言うことはないのか。
返事なしを意見なしと受け取った稲葉はここで話を切り上げた。

その後は反省会のようでただの雑談が続いたが、しばらくすると家族が帰ってくるとのことで稲葉家を追い出された。俺は最初から乗る電車の方向が違ったため駅で他の四人と別れた。


人生生きているといろいろとタイミングが悪いことがある。
その晩、いつものように日付が変わった後お風呂に入っていた時にそれは起こった。
もう何度目か分からない、慣れてきた視界が暗転するような感覚の後、見たことある部屋にいた。
見たことあるというか今日行ったばかりの部屋だった。
つまりは稲葉と入れ替わったわけだ。今すぐ確認の連絡を取ろうとして止めた。今の今まで俺は風呂場にいたわけだから、つまり俺と入れ替わっている稲葉も風呂場にいるはずだ。どうせ出ないだろう。ならいっそのこと向こうからかけてきてくれるのを待った方が早い。
にしても風呂中かよ……
電話がかかるのが早いか入れ替わりが戻るのが早いか考えながら待つこと二十分、入れ替わりが元に戻った。
もちろん戻った先はお風呂場、ずっと湯船につかりっぱなしだったのか指先がふやけまくっていた。
あまり長湯するのもあれなので、元に戻ってからは早々に風呂場を出た。
自室に戻って携帯を開くとメールが一通。差出人は見る前に想像できた。稲葉からのメールだった。
 
 

 
後書き
読んでいただいた方へ
誤字脱字その他諸々があれば言っていただけると嬉しいです。 
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