美しき異形達
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第四十一話 夜の熱気その十五
「広島も暴走族多いのかって思ってるんだけれど」
「どうなのかしらね」
「県全体で多い感じで描いてたけれどさ。、その漫画」
「幾ら何でも県全体はないんじゃないの?」
「そうか?」
「あそこはヤクザ屋さんだけれど」
東映の映画の舞台にもなっている程だ、とかく広島といえばヤクザと言われている。
「あれも呉とか広島だけで」
「県全域じゃないか」
「うん、広島っていっても広いじゃない」
「海沿いもあれば山側もあって」
「地域ごとに様々よ」
「そうなんだな」
「今言ったけれど広島のヤクザ屋さんは呉とか広島だけよ」
そういった地域に多い、向日葵は薊にその理由も話した。
「港があるから人足斡旋で」
「それでヤクザ屋さん多かったのか」
「神戸もそうじゃない」
「ああ、山口組な」
神戸を拠点として日本全域に勢力を持つ暴力団の組織だ。
「あそこもそうか」
「人足斡旋からはじまってるから、山口組も」
「それで呉や広島はヤクザ屋さん多いんだな」
「そう、ここも多いけれどね」
大阪もというのだ。
「あと福岡も」
「それでも大阪はな」
「暴走族、多分横須賀程多くはないし」
「広島もか」
「そもそもその漫画ってどんな漫画?」
「族同士の喧嘩が凄くてさ、殺される奴とかいて」
薊は向日葵の言葉を受けてその広島を舞台とした漫画の詳細な説明をした。
「代々続いているシリーズものだよ」
「暴走族同士の喧嘩で人が死ぬことも」
「滅多にないけれどな、そんなの」
「そうでしょ、幾ら広島にもいても」
「そんなに多くないか」
「全域とかはね」
「そうか。まあ登場人物の一人称男は大抵わしだけれどな」
これは広島弁の特徴と言われている。尚大阪ではこの『わし』が訛って『わい』となる。大阪を舞台とした漫画でこの一人称が出るのはその為だ。
「あとお好み焼き出るな」
「広島焼きね」
「そっちがな」
「まあどっちにしてもね」
「そんな族多くないか」
「うん、横須賀は特別でしょ」
「そうか。あと右翼とかプロ市民も多いんだよ」
薊はある意味暴走族以上に厄介な連中の名前も出した。
「そんな連中もか」
「その連中大阪にもいるわよ」
「ああ、やっぱりな」
「正直嫌な連中だけれどね」
「横須賀なんか休日中央の商店街の大通り歩いてたらほぼ確実にいるよ」
その彼等がというのだ。
「右翼の街宣車がさ、あと自衛隊の基地とか訓練の時には」
「プロ市民なのね」
「絶対にいるよ」
「あの人達ってどうして活動資金得ているのかしらね」
「さあな。金の出処はいいものじゃないだろ」
薊はこのことを直感的に感じ取っていた。
「やっぱり」
「お金の出処がわからないとね」
「やばい感じするけれどさ」
「そうよね、まあそうした人達には関わらない」
「それがいいよな」
「絶対にね」
「本当にな、じゃあ天麩羅も食って」
薊は食べものに話を戻した、本来の目的であるそちらに。話をしたところで急にいい匂いが鼻に入って来た気がした。
「楽しもうか」
「それで大阪が終わったら」
「神戸に戻るんだな」
「先輩にお土産一杯買って送ってるし」
「先輩楽しんでくれてるかな」
「そうなってくれたらいいな」
薊はそのことは心から願った、そうして今は旅の最後の美食を楽しむのだった。夏休みの旅行という高校生の日常を。
第四十一話 完
2014・12・3
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