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美しき異形達

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第四十一話 夜の熱気その九

「それで杉浦忠さんも最初は苦労されたそうだし」
「ああ、あの南海の」
「そう、日本シリーズで四連投四連勝した」
 そのシーズンも三十八勝四敗という驚くべき記録を残した。日本プロ野球の記録と記憶に残る名選手である。
「あの人もね」
「最初は大阪の暑さに苦労したのか」
「そう、南海での新人時代に」
「プロ野球選手でもか」
「そうだったの、あの人は愛知出身で大学は立教だったけれど」
 言うまでもなく東京六大学の一つだ、先輩として西本幸雄、大沢啓二、そして同級生に長嶋茂雄がいる。
「大阪は知らなかったから」
「最初はその暑さに苦労したのか」
「それで新人のシーズンは後半疲れていたらしいわ」
「あんな凄い人でもか」
「参る位だから」
「大阪の暑さって凄いだな」
「そう、相当のものよ」 
 大阪の暑さについてこう話すのだった。
「だから薊ちゃんもね」
「暑いって思うこともか」
「自然よ」
「そうか、これでも火を使うからさ」 
 このことは笑って言うのだった。
「それにお料理も火を使うやつ作ることが多いし」
「それでもよね」
「ああ、大阪は暑いよ」
 辟易している苦笑いでの言葉だった。
「楽しい街だけれどさ」
「暑くても」
 菖蒲がまた言って来た。
「ここは凄く楽しい街よ」
「だよな。正直これまでの旅行で一番楽しいかね」
「そこまでなのね」
「横須賀より楽しいか?」
 育ってきたその街よりもというのだ。
「あそこも楽しいけれどさ」
「そうなのね」
「勿体ぶってなくてざっくばらんでさ、人情があって」
 大阪についてこう話すのだった。
「一度入るともう出たくないっていう」
「そうした街に思えるのね」
「しかも食いものが安くて美味いしさ」
 このことについて言うことも忘れていなかった。
「滅茶苦茶いい街だよ」
「だから私もなの」
 裕香も薊に言って来た。
「ここにいたいって思ってるの」
「大学卒業したらか」
「こんなにいい街ないから」
「それでなんだな、裕香ちゃんも」
「それでだけれど」
 裕香はさらに言った。
「これからね」
「ああ、何処に行って食うかだよな」
「天下茶屋行ってみる?」
 実際にとだ、裕香は今度は菖蒲に問うた。
「そうする?」
「それなら案内するわ」
「この住吉さんからすぐよね」
「ええ、地下鉄でそれこそすぐよ」
「そんなに近いのね」
「自転車で行き来出来る位だから」
「それじゃあ」
 裕香は菖蒲のその言葉に頷いた、そして他の面々に顔を向けて問うた。
「皆天下茶屋に行ってみる?」
「そうですね、天下茶屋には行ったことがありませんが」
 桜が裕香の問いに答えた。
「いいと思います」
「そうよね、大阪の下町の商店街がどんな場所か」
「観光とは少し違うかも知れないですが」
「それでもね」
「はい、美味しいものを食べられますし」
「美味しいものが多いことはね」
 それは、とだ。菖蒲は桜にも話した。
「間違いないわ」
「それでは」
「ええ、今度は天下茶屋ね」
「そこに行きましょう」
「天下茶屋ね、住吉もそうだけれど」
 向日葵もにこりとして言う。 
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