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ものがあっても

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第七章

「ですから」
「勝負はわからないですか」
「まさに互角です」
 モモカはレースを観つつシルヴィアに強い声で答えた。
「ですから行方はわかりません」
「そうなのですか」
「実力は互角です」
 馬も含めてだ。
「後は」
「運ですか」
「勝負には運も必要です」
 勝負は時の運という、これは馬術においても同じだ。
「ですから」
「後はどちらの方がより運がおありか」
「そのことが重要になると思います」
「だからなのですね」
「この勝負の行方はわかりません」
「そうなのですね」
「ですから」
 それで、というのだ。
「この勝負はわかりません」 
「お姉様なら、とはですか」
 シルヴィアもその顔を強張らせるしかなかった、それでだ。
 レースを見守った、レースは進んでいき。
 そしてだ、最終周に入った。二人は最終周でも凄まじい一騎打ちを繰り広げていた。 
 アンジュリーナもサラも馬を走らせる、二人も二人の乗る馬も必死の顔だ。観客達も固唾を飲んで見守る。
 最終コーナーも曲がった、二人共完全に同じであり鼻一つすら出ていない。その状況で走らせる中で。
 不意にだ、アンジュリーナは右にバランスを崩した、そこから。
 落馬した、身体は大きく右に傾いていき。
 そのまま落ちていく、だがここで。
 サラはアンジュリーナの右手にいたがすぐにだ、その落馬するアンジュリーナを左手で持ってだった。そのうえで。
 アンジュリーナを己の馬に持って行って救った、一瞬のことだった。
 そしてだ、己の腕の中に抱いた状況になっているアンジュリーナのその顔を間近に見てこう問うたのだった。
「怪我はありませんか」
「貴女は私を」
 アンジュリーナは戸惑いながらそのサラに問うた。
「助けて下さったのですか」
「それが何か」
「私は貴女と勝負しているのですが」
「これがスポーツではないのですか?」
 サラは戸惑うアンジュリーナに落ち着いた顔で答えた。
「共にき競う相手の窮地はお救いする」
「スポーツマンシップですか」
「スポーツは勝利も重要ですが」
 それ以上にというのだ。
「スポーツマンシップも必要ですね」
「だからなのですか」
「こうさせて頂きました」
「有り難うございます」
 戸惑いから少し落ち着いてだ、アンジュリーナはサラに礼を述べた。
「助けて頂いて」
「お礼には及びません」
 また答えたサラだった。
「当然のことですから」
「だからですか」
「はい、では」
 ここまで話してだ、それからだった。サラはアンジュリーゼにあらためて言った。
「競技に戻りましょう」
「それでは」
 二人は競技に戻った、だが。
 アンジュリーゼはその落馬、サラはそのアンジュリーゼを救ったことで大きく遅れ共に優勝を逃した。これは二人にとって残念なことだ。
 だがアンジュリーナは競技の後でモモカに強い顔で言った。
「あの方に助けて頂きました」
「本当に危なかったですね」
 モモカも胸を撫で下ろした顔だ、彼女の隣にいるシルヴィアも。
「あの方がおられないと」
「どうなっていたか」
「本当にそうでしたね」
「あの方は素晴らしい方です」
 アンジュリーナは真顔で言い切った。
「これ以上はないまでに。ですから」
「まさか」
「いえ、何か」
「恋愛感情ではないですか」
「あの方だからこそです」
 サラだからだというのだ。 
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