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ものがあっても

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第六章

 自分の隣にいる女を見た、見れば黒髪に切れ長の黒い瞳に赤い乗馬服とブーツ、そして白いズボンにだった。
 赤い馬に乗っている、その女を見てだった。
 アンジェリーゼはモモカにだ、馬上から問うた。
「あちらの方は」
「はい、イタリアのサラ=デル=シリアーニ様です」
「シリアーニ家といえばこのエウロパでも」
「有名な家でしたね」
「侯爵の爵位を持ち」
 イタリアのだ。
「数多くの歌劇場や競馬場を経営している」
「資産家でしたね」
「当家と肩を並べるまでのです」
 富を持っているというのだ。
「そしてあの方はそのシリアーニ侯爵家のご令嬢です」
「そうですか」
「あちらではです」
 モモカはアンジュリーナに確かな声で話した。
「文武両道のご令嬢として」
「評判なのですね」
「アンジュリーナ様と同じですね」 
 ここでこうも言ったモモカだった。
「そこは」
「いえ、私は」
 文武両道という言葉にはだ、アンジュリーナは謙遜で返した。
「特に」
「そうでしょうか」
「はい、とにかくです」
 アンジェリーナは謙遜で打ち消してからモモカにあらためて言った。
「あの方はかなりの方ですね」
「馬術においても」
「左様ですか」
「お気をつけ下さい」
 モモカはアンジュリーナに参謀の様に話した。
「あの方はこの大会の優勝候補です、アンジュリーナ様と並ぶ」
「わかりました」
 アンジュリーナはモモカのその言葉に頷いて答えた、そしてだった。 
 レースに出た、アンジュリーナは馬を走らせた。すぐに集団の中から出たがそれは彼女だけではなかった。
「速い!」
「あの馬も速いぞ!」
 着飾った貴族の観客達が叫んだ。
「白馬、エレノアール公爵家のご令嬢か!」
「長女のアンジュリーナ殿だ!」
「そしてもう一頭いるぞ!」
「あの赤馬はシリアーニ侯爵家のご令嬢だな」
「サラ殿か」
「やはりあのお二人か」
 優勝候補の二人だというのだ。
「速いぞ」
「それもかなりの速さだ」
「集団から出てさらにだ」
「二頭だけ進んでいる」
「これはな」
「あの二人だ」
「あの二人のレースだ」
 そうなったというのだ、そして実際に。
 二人はかなりの速さで馬を進めていた、観客席にいるシルヴィアはその姉の走りを観て傍らにいるモモカに問うた。
「モモカさん、このレースは」
「アンジュリーナ様がですね」
「勝ちますよね」
「いえ、わからないです」
 モモカはこうシルヴィアに答えた。
「これは」
「ですが馬術はお姉様が最も得意とされますよね」
「はい、しかし」
「それでもですか」
「サラ様も速いです」 
 だからだというのだ。 
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