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マザー=シンプトン

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第一章

                       マザー=シンプトン
「本名はアーシュラ=サウセイルというのだな」
「はい、ですが俗にです」
「マザー=シンプトンと言われています」
「長い間生きている老婆で」
「間違いなくです」
 イングランドの異端審問官達が暗い密室で話していた。
「魔女です」
「これまで裁いたどの者よりもです」
「あの女は魔女的です」
「いえ、魔女そのものです」
「そうとしか思えません」
 こう口々に言うのだった。
「ですから捕まえ」
「そしてです」
「あの者を異端審問にかけてです」
「裁きましょう」
「火炙りです」
「そうだな」
 審問官達の長も部下達のその言葉に頷いた。
「私もあの老婆の話は聞いていたがな」
「はい、魔女としかですね」
「思えませんね」
「まさに魔女だ」
 彼もだ、そうとしか思えなかったのだ。
「それ以外の何者にも思えない」
「では、ですね」
「あの老婆のところに行きましょう」
「是非」
「ここにいる全員で行きだ」
 長は強い声で言った。
「そうしてな」
「あの女を捕まえ」
「そして異端審問にかけ」
「そうしてですね」
「火炙りにしますね」
「魔女は許すな」
 長は部下達に血走った目で言った。
「いいな」
「はい、必ず」
「魔女は捕らえねば」
「そして全員火炙りにしなければ」
「何をするかわかったものではありません」
 部下達も長にやはり血走った目で応える、そしてだった。
 彼等はそのマザー=シンプトンの家に向かった。その途中急に空が曇ったり晴れたりを繰り返していた。しかも。
 夏だというのに霙が降ったりした、彼等はその霙を受けて言った。
「これが魔術だ」
「間違いない、魔女の魔術だ」
「あの女のものだ」
「そうとしか考えられない」
「我等が来るのをわかっているのか」
 先頭を行く長は顔を顰めさせてだ、霙を手の平に受けつつ呟いた。
「それでこうしたことをしてくるのか」
「しかしこの霙こそがです」
「まさにです」
 部下達が彼に後ろから言って来た。
「あの女が魔女である証拠」
「夏に霙なぞ有り得ませぬ」
「予言もしているとか」
「空が逆さになる等」
「そうした怪しげなことも言っています」
「それもまた、です」
「そうだ、その話もだ」
 予言のこともとだ、長は言うのだった。
「あの女が魔女である何よりの証」
「ではやはり」
「捕らえなければ」
「そして厳しく尋問し」
「そのうえで」
 生きたまま火炙りにしようというのだ、これまでの魔女狩り通り。
 彼等は夏の霙の中口々に言いだ、そのうえで。
 シンプトンの家まで来た、その家はごく普通の一軒家だが古くしかも全てが漆黒であった。その漆黒の家の前まで来てだ。
 彼等はまずだ、犬を連れている兵達にこう命じた。 
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