戦国異伝
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第二百一話 酒と茶その八
「それ故に異質ですが」
「闇のう」
「闇といえばですな」
「気になることがあったな」
ここで信長が言うこととは。
「津々木に一向宗にな」
「我等が戦った、ですな」
「本願寺は灰色じゃ」
彼等の色はというのだ。
「しかし闇の衣の者達の方が遥かに多く」
「しかも強かったですな」
「疲れを知らぬかったわ」
その彼等はというのだ。
「そして比叡山にも高野山にも出た」
「闇の法衣の僧兵達は」
「何故いつも闇じゃ」
こうも言う信長だった。
「我等の前に出るのは」
「言われてみれば」
「確かに、ですな」
「闇が何かと出て来ます」
「黒よりも暗いあの色が」
「何かと」
家臣達もここで言うのだった。
「おかしなことに」
「まさに常です」
「本願寺の時は特に」
「顕如殿も首をかしげておられました」
「考えれば考える程です」
「おかしなことですな」
「天下におるのは何じゃ」
こうも言う信長だった。
「人や鳥、獣や魚だけか」
「鬼、ですか」
「若しくはあやかしか」
「鬼やあやかしならよいが」
信長は家臣達に言うのだった、彼にては珍しく怪訝な顔になり。
「また別か」
「別の存在がですか」
「おると」
「そうも思えてきたがのう」
やはりいぶかしみながらの言葉だった。
「わしの気のせいか」
「鬼やあやかし以上によからぬ者となりますと」
雪斎が言うには。
「最早怨霊かと」
「それか」
「人の心が一番厄介です」
「その怨念がじゃな」
「はい、ですから」
それで、というのだ。
「そこまでになりますと」
鬼や妖怪以上にだ、邪となるとというのだ。
「それしか」
「ふむ、怨霊か」
「はい、殿はそうした存在は」
「最初は信じておらんかった」
かつての信長はそうだった、実際に。しかしそれが変わったのはこれから名を出す者を見てのことだった。
「津々木をこの目で見るまではな」
「あの者ですか。拙僧は会っていませんが」
「急に消えた、妖術を使った様に」
「そして闇の服を着ていたとか」
「大層不気味な者じゃった、勘十郎を惑わしな」
「それですな」
雪斎は確かな声でだ、信長に答えた。
「やはり」
「あの者は怨霊か」
「若しくはそれに近い者かと」
「生きながら怨霊となる」
信長は自分の言葉からこうも言った。
「確かにあるな」
「生霊が」
「そうじゃ、人は死んでも怨霊になるがな」
「生きながらもです」
怨霊になるというのだ。
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