美しき異形達
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第四十一話 夜の熱気その四
その身体を焼いた、薊は怪人の前に着地して左膝をついた状態で屈んだ姿勢で勝利を確信した顔で笑を浮かべて言った。
「ロブスターの姿煮って食ったことないけれどな」
「ちっ、さっきの棒はか」
怪人は己の身体を焼かれながら忌々しげに言った、その背にはもう符号が出ている。
「陽動でか」
「あたし自身がな」
「本命だったってことだな」
「そうさ、もっとも今のがかわされてもな」
「まだやるつもりだったんだな」
「あんたの甲羅を割れないのなら焼けばいいんだよ」
そうして攻めればというのだ。
「それが成功したな」
「そうだよ、今のは読んでなかったな」
「闘いってのは頭とな」
それに加えて、というのだ。
「思いきりだろ」
「ああ、そうさ」
「その思いきりを使ったんだよ」
「それで俺にぶつかったか」
「で、こうなったってわけさ」
勝ったというのだ。
「まああんたを食うつもりはないけれどな」
「そこは普通のロブスターとは違うな」
「ロブスターって美味いって聞いたけれどな」
「何だよ、食ったことはないのかよ」
「今はかなり安くなったっていうけれどな」
それでもだった、薊は。
「孤児院の院長さんがザリガニだと思っててな」
「ザリガニも食えるぜ」
「院長さんはそう思ってなくてな」
それで、というのだ。
「食わなかったんだよ、海老はあるぜ」
「そうか、それは残念だな」
「ああ、だからな」
「ロブスターは食ったことないか」
「学園でもメニューでないからな」
勿論寮でもだ。
「残念だけれどな」
「なら仕方ないな、とにかくな」
「あたしはあんたに勝ったな」
「その通りさ、俺の負けだよ」
忌々しげだが事実を認める口調での返事だった。
「してやられたぜ」
「それじゃあな」
「これでお別れだな、じゃあな」
「心置きなく消えてくれるんだな」
「負けたら仕方ないだろ」
それならと返す怪人だった、そして。
怪人は完全に灰となり消え去った。そうして薊はその何もかもがなくなった中で立ち上がってだった。菊に顔を向けてこう言った。
「今回もな」
「うん、これでね」
「終わったな」
こう言うのだった。
「何とかな」
「そうね、これでまたね」
「じゃあな」
「それじゃあよね」
「帰るか」
「ホテルにね」
「それでお風呂入ってな」
そうしてだとだ、薊は菊に微笑みつつ話していった。
「浴衣に着替えて寝るか」
「そうしようね、ただ薊ちゃんって」
「あたしは?」
「前から思ってたけれど浴衣の時いつも下に半ズボンもはくわね」
「だってな、あたし寝相悪いから」
「あっ、浴衣がはだけて」
「それでショーツが見えるからさ」
浴衣は非常にはだけやすい、だから寝相が悪いとそうなってしまうのだ。薊もそれがわかっているからなのだ。
「それでアンスコみたいにさ」
「半ズボンはいてるのね」
「そうしてるんだよ」
「下着では寝ないのね」
「それだと身体冷えるからさ」
「冬は特に」
菊もその辺りの事情は察した。
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