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英雄伝説~西風の絶剣~

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第3話 戦う意味

 
side:ルトガー


「はぁ……」


 リィンと喧嘩して三日が過ぎた。あれからリィンは俺を避けるようになっちまった。覚悟はしていたが流石に堪えるな……

「ルトガー、貴方大丈夫なの?」
「ん?ああ、大丈夫や」
「ちょ、俺の口調やでそれ……」
「先ほどの会議でもどこかうわの空になっていた。団長、本当に大丈夫なのか?」


 マリアナが心配そうに声をかけるが俺は無意識にゼノのような口調で返してしまったようだ、ゼノは少し呆れたようにツッコミを入れレオも心配そうな表情を浮かべた。
 

「ていうか団長がそうなっとる原因はボンやろ」
「まあな……」


 今まで俺はリィンが喧嘩をしたことはなかった、だからどのように仲直りをすればいいか俺は分からないんだ。


「せっかくボンに親友できたっちゅうのに、あんな言い方したらボンも怒るわ」
「まあ今回は、団長の言い方が悪かったようだな」


 ゼノとレオはジト目で俺を見る、自分達も猟兵である以上ルトガーの言い分も理解できないわけじゃない。だがリィンは西風の旅団の一員ではあるが猟兵ではない、小さな子どもだ。そんな直球に言ったら怒って当然だ、という批難の視線がグサグサと刺さってくる。


「その、すまん、リィンの事を考えて言ったつもりなんだが……」


 やっぱり不味かったよな、何で俺はあんな言い方しかできなかったんだ?はぁ……


(ホンマ団長は不器用やな)
(親馬鹿というかなんと言うか)
(でもそんな所が彼の魅力でもあるのよね♪)


 ふと三人を見ると呆れながらも温かいような視線を俺に向けていた。


 
「何で微笑ましいものを見るような顔してんだ?」
「ふふっ、何でもないわよ」
「せやせや」
「ああ」


 不思議そうに自分達を見る俺を見て三人は楽しそうに笑った、何なんだよ一体……


「まあなんや、団長、この依頼が終わったらボンと話し合ったらどうや?」
「今まで団長はリィンとぶつかったことは無かった、だから今みたいにすれ違っている。だが家族なら時にはぶつかり合う事なんて当たり前だと思う、実際俺達も時には意見の対立があるからな、そんな時はお互いに話し合い分かり合ってきたじゃないか」
「ゼノ、レオ……」


 ……そうか、そうだよな。俺達とて最初から分かり合っていたわけじゃない、意見の食い違い、考えの違い、時にはくだらない事でぶつかる事もあった、家族というのは唯仲良くすることじゃない、自分の思いをぶつける事だって必要なんだ。


「だが俺はリィンに嫌われてしまったかもしれん……」
「そんな事ないわ、あの子だってどう貴方に接すればいいか分からないだけよ、貴方が歩み寄ればあの子はきっと答えてくれる、私達は家族なんだから」
「マリアナ……ははっ、そうだな」


 俺は自分を恥じた、いつまでもリィンに歩み寄らなかったのは自分がリィンに嫌われたんじゃないか怖かったからだ、しかしそれはリィンを信じていないことでもあった。
 だが俺は三人に言われて気づいた、家族というのは対立してぶつかり合いお互いを知り絆を深めるものだと。


「ウジウジしちまって悪かったな、俺らしくもなかった、この依頼が終わったらリィンと話し合うよ、ていうかさっさとそうすりゃ良かったんだ」
「それでこそ団長や」
「まあ今更だが本当はリィンに友達ができて嬉しかったんだ、でもあんな言い方をしちまって……」
「それも分かっていたわ、本当に不器用なんだから」
「うるせえよ」


 ……ありがとよ、お前らはいつだって俺を支えてくれる。恥ずかしいから中々言えないが…いつも感謝してるぜ。


「良し、まずはこの依頼をさっさと終わらせてリィンと仲直りする、お前ら気合入れろ!!」
「「「了解!!」」」
「………」


 気合を入れ直す俺だったが、マリアナが何かを感じたかのような思案顔になっているのに気が付いて声をかけた。


「マリアナ、どうかしたのか?」
「いえ、何でもないわ(今扉の裏に誰かいたような?もしかして……まあここは黙っておきましょうか)」








side:リィン



「お父さん…」


 お父さんと喧嘩してから最初はお父さんに怒りを感じていたが段々と悲しくなってきた、思わず嫌いなんて言ってしまった、本気で言ったわけじゃないが僕は後悔していた。もしかしたらお父さんに嫌われたかもしれない、そう思うとお父さんと話すのが怖かった。
 

 でも偶然お父さん達が話していたのを見つけて思わず立ち聞きしてしまった、そして分かったんだ、どうしてお父さんがあんな事を言ったのかを。
 

 お父さんはエレナのことを否定したかった訳じゃない、それどころか喜んでくれていた。でも猟兵の立場としてそれを素直に喜ぶことが出来なかったんだ。父さんはいつだって僕を気にしてくれていたんだ。


(明日ちゃんと話し合おう、お父さんと……)


 ひとつの決意を決めた僕はそのまま眠りについた。




ーーーーーーーーー

ーーーーーー

ーーー




 翌朝になりアジトの外では戦場に向かう為に団の皆が戦闘準備をしていた、武器のチェック、連携の確認、一流ほど準備は万全にするものだってレオが言っていた。
 その中にはお父さんの姿もあった、お父さんは部隊長達に今回の作戦を再確認している、僕は意を決して恐る恐るお父さんに近づいていく。


「あ、あの、お父さん……」
「(うお!?)な、なんだリィン?」


 声をかけるとお父さんは驚いたように飛び上がった、ちょっと新鮮かもしれない。


「な、なんだリィン?悪いが今は作戦準備中で忙しくてな、要件は短めで頼むよ」
「忙しい所をごめんなさい、でもどうしてもお父さんにはなしておきたいことがあって……」


 お義父さんに叱られてしまうけどどうしても言いたいことがあったんだ、周りの皆も察してくれたのか少し離れた場所で見守っている。


「お父さん、前に嫌いだなんて言ってごめんなさい!僕本当はお父さんが大好きだから……だから……」


 目を瞑りながら必死で頭を下げて謝る僕、数秒後に頭に大きな手の感触がしたので目を開けるとお父さんが僕の頭を撫でていた。


「俺のほうこそごめんな、お前の大事な友達に酷い事を言って……」
「お父さん……あのね、帰ってきたら僕お父さんと話がしたいんだ」
「勿論だ、俺もお前と話したいことがあるんだ。直に仕事を終わらせる、だから待っていてくれ」


 僕が頷くとお父さんは嬉しそうに僕の頭を撫でた、それを見ていたマリアナ姉さん達も安心したように微笑んだ。


「良し、それじゃ行くぞお前ら!!」
「「「了解!!」」」


 そういってお父さん達達は戦場に向かった。





「……予定どおり西風の旅団本隊は移動を開始した」
「了解、陽動部隊をぶつけ次第作戦を開始する」




ーーーーーーーーー

ーーーーーー

ーーー





 お父さん達が戦場に向かってから数時間が経過した、僕は一人エレナの元に向かっていた。


「……やっぱりお別れは言わないと」


 お父さんがエレナの事を認めてくれたのは良かったが、どの道今回の作戦が終了すれば新たな戦場を求め旅立つことになる、そうなる前にお別れは言いたいと思ったんだ。それに……


 (僕が猟兵の一員だって言うべきかな……?)


 昨日のお父さん達の話を聞いて一つ思ったことがある、それはエレナに本当のことを言わなくていいのか、ということだった。
 家族とはぶつかり合うものだと知った、ならば友達もそうではないか?今まで僕はエレナに嫌われるのを恐れて猟兵については何も言わなかった、だがそれはエレナを信用していないんじゃないかと思ったのだ。
 もしかしたらこれは余計なことなのかも知れない、でも僕はエレナに隠し事をしたくないんだ。


 エレナの家に向かったがどうやらいないようだ、サクラさんの話では思い出の場所に向かったようだ、それを聞いて僕は心辺りがあったので直にそこに向かった。



ーーーーーーーーー

ーーーーーー

ーーー


「……ここにいたんだね、エレナ」
「あ、リィン」


 最初にエレナと出会った花畑、きっとそこにエレナがいると思ったがどうやらあっていたみたい、エレナは花冠を作りながら嬉しそうに僕の傍に駆け寄ってくる。


「もうリィンったら三日も会いに来てくれなかったから寂しかったわ」
「そ、それは……じゃなくて何でまたここにいるの。また魔獣に襲われたらどうするのさ」
「えへへ、その時はリィンが助けてくれるでしょ?」
「もう……でも会いにこなくてごめんね」


 少し呆れたように呟くが実際お父さんとの件でエレナに会いに行けなかったのは事実だ、僕はエレナに謝る。


「でもどうして会いに来てくれなかったの?」
「実は……」


 僕はそろそろこの地を離れなくてはならないことをエレナに話した。


「そうなんだ、寂しくなるな……」
「……ごめん」
「謝ることなんて無いわ、また会いに来てくれるでしょ?」
「うん、それは約束するよ」
「ふふっ、その時はまたお話を聞かせてね」
「……エレナ、実はまだ君に言っていなかったことがあるんだ」
「えっ、なにかしら?」
「実は、僕は猟へ……」


 エレナに話そうとしたその瞬間、遠くからズガァァンと何かが爆発するような大きな音が響いた。


「……今のはまさか!?」


 突然の轟音に僕は驚いた、何故なら今の爆発は猟兵が好んで使う重火器から出る爆発音だったからだ。


「今のは一体?町から聞こえたけど……」
「リィン、あれ見て!」


 エレナが指差したのは町のほうだった、そこからはさっきまで無かった黒い煙が上がっていた。





ーーーーーーーーー

ーーーーーー

ーーー




「こ、これは……!?」


 僕達が見たもの、それはさっきまでの綺麗な町では無く崩れた瓦礫と燃え盛る炎が上がる地獄絵図だった、そんな、さっき来たときは平和そのものだったのに一体何が起きたんだ?


「酷い…町の人達もお構いなしに……」
「そ、そんな……姉さん!!」
「あ、エレナ!」


 姉であるサクラさんの安否を心配したんだろう、エレナは自分の家に向かい走り出した、僕も慌ててエレナの後を追いかける。
 道中目に映る町の光景は酷い荒様だった、建物は瓦礫と化しそこら中に息絶えた人たちが倒れていた。つい数時間前まで普通に生きていた。だがたった一瞬でその命は奪われつくしてしまった、その中に僕達はある人を見つけた、見つけてしまった……


「あ、あれは!」
「姉さん!?」


 倒れていたのはエレナの姉であるサクラさんだった、その身体中からは血が流れ意識も朦朧とした様子だった。


「姉さん、しっかりして!」
「……うぅ、エ、エレナ……」
「酷い傷だ、早く治療しないと!」


 僕は懐から包帯を取り出しサクラさんの傷に巻きつけていく、応急処置にしかならないが何もしないよりはいいだろう。


「サクラさん、この町に一体何が?」
「猟兵が……ま、町に……」
「猟兵が……!」


 サクラさんの話によると少し前に突然大きな爆発が起こり灰色のプロテクトアーマーと重火器を装備した猟兵達が襲撃してきたようだ、僅か数分で町を破壊しつくした猟兵達は今は何かを探しているらしい。


(話に出てきた猟兵達はまさか〈破滅の刃〉か!?おかしい、奴らは今お父さん達と戦っているはずだ、それが何故……?)


 僕がそう考えていると、エレナが悲鳴を上げた。意識をそちらに持っていくと、口から血を吐いているエレナさんが目に映った。


「がふっ!!」
「リィン、姉さんが!」
「不味い!血を流しすぎたんだ!」


 吐血したサクラさんを見てエレナが悲鳴をあげた、僕達が見つけた時も身体中から血を流していた、いくら応急処置をしたとしても危険な状態には変わりない。


「はぁはぁ……ごめんなさい……エレナ、私はもう駄目みたい……」
「そんな!諦めないで姉さん!まだ助かる望みはあるわ!」
「貴方には……苦労ばかりかけて……しまったわね……」
「やめて!そんな話聞きたくないよ!」


 エレナは泣きながらサクラさんの手を握る、だがサクラさんの手はどんどん冷たくなっていく。


「リィン君……そこに、いる……の?」
「はい、僕はここにいます」
「貴方には……エレナがお世話になったわね。エレナの……お友達になって……くれて……ありがとう」
「サクラさん……」
「最後にお願いがあるの……エレナを、私の妹を……お願い。子供の貴方に……無茶を言ってるのは分かっているわ……でも不思議ね、貴方なら……信じられるの」
「分かりました……エレナは僕が守ります」
「ありがとう……」


 サクヤさんは力なく右手を上げてエレナの頬をなでた。クソッ!どうして僕は何もできないんだ!!


「エレナ……一人にしてごめんね。でも……忘れないで、いつまでも貴方を……愛してるわ……」
「姉さん……」


 そしてサクラさんは涙を流しながら息絶えた。


「………」
「エレナ……」


 僕はどう声をかけたらいいか分からなかった、僕も猟兵団の一員だから死による別れは知っている…がエレナは一般人、既に親を亡くし続いて姉まで失ったのだ。その心情は計り知れない。


「……ッ!エレナ、こっちに来て!」
「えっ……?」
「早く!!」


 僕はエレナの手を掴んで咄嗟に物陰に隠れる、するとそこに武装した二人の男が来た、灰色の装甲鎧(プロテクトアーマー)を身に付けているからさっきの話にあった猟兵達のようだ。


「ターゲットはいたか?」
「いや、こちらにはいなかった、まさか逃げたのか?」
「いや、さきほど例のターゲットが町に入るのを偵察隊が確認した、奴は必ずこの町にいるはずだ」
「もっと注意深く探そう」
「ああ」


 猟兵達は別の場所に歩いていった。


「例のターゲット?それって何なんだろうか……」
「……」
「エレナ?」
「……もう疲れたわ」
「えっ?」


 エレナはゆっくりと立ち上がりそう呟いた。


「もう疲れたのよ、どうしてあの人たちは私の大事なものばかり奪っていくの?お父さんもお母さんも…姉さんまで……もう生きてるのが辛いよ!」


 エレナは側に落ちていたガラスの破片を拾い首に当てた。


「……ッ!駄目だ、エレナ!」


 とっさに僕がガラスの破片を掴んだ、後一歩遅かったらガラスはエレナの首を切り裂いていた。
 掴んだ手がガラスで切れ赤い血が滴る。


「放して!もう死にたい!もう一人ぼっちなのよ!生きていても意味なんてないわ……!!」
「そんな事はない!」


 僕はエレナを優しく抱きしめた。


「……リィン?」
「ごめん、僕にはこうすることしかできない……」


 最愛の人を亡くしたエレナの悲しみを消すことは出来ない、でも少しでもいい、彼女の心の痛みを和らげたい……僕はそう思った。


「エレナ、君を死なせない。サクラさんと約束したからじゃない、僕が君に死んでほしくないんだ……約束する、何があっても君の側にいる、僕が君を守るから……」
「……本当に守ってくれる?私を一人にしないって約束してくれる?」
「うん、約束するよ、絶対に……」
「リィン……ありがとう」


 少しでもエレナの力になりたい、そんな僕の思いを感じとってくれたのか、エレナは少しだけ微笑んでくれた。




ーーーーーーーーー

ーーーーーー

ーーー




「とにかく今は奴らに見つかる前にここを脱出しよう。行ける?」
「うん、貴方を信じるわ」


 先ほどの抱擁で落ち着きを取り戻したエレナに僕は今すべきことを伝える。敵の狙いは薄々感じていたがおそらく僕だろう。
 

 先ほど奴らが言っていた「例のターゲットが町に入った」という言葉……先ほどこの町に来たのは自分とエレナだ、唯の一般人であるエレナが狙われるとは考えにくい、となれば残る自分こそ奴らのターゲットだろうと僕は考えていた。
 

 養子とはいえ僕はお父さんの息子だ、お父さんに恨みを持つ者からすれば絶好の標的だ。実際前にも一回襲われたこともある。
 大方自分を人質などに利用しようと考えてるのかもしれない。


 「どの道捕まるわけにはいかないな……」


 自分一人を捕まえるために無関係な人たちまで殺すような奴らだ、もし捕まったら自分はともかくエレナが危機に晒されるだろう。
 僕は何とかして町からの脱出を諮った。




(敵がいる……)


 前方に猟兵が立っている、こちらには気づいていないようだがこれでは先に進めない。


「どうしようリィン、回り道する?」
「いや、このままウロウロするのは危険だ」


 今は何とか逃げれているが仮にも相手はプロ、モタモタしていたら見つかるだろう、出来る限り早く脱出しないと囲まれてしまう。


「じゃあどうするの?」
「ん、ちょっと待っていて」


 僕は近くにあった小さめの石を手に取り猟兵の反対側に投げた。


「ん?なんだ?」


 背後で何か音を聞いた猟兵は背後を振り向いた。


(今だ!)


 その一瞬の隙をついて僕はエレナを抱き上げて音も無く走り去る。今のはゼノに習った敵の目を欺く方法の一つだ。習った時はいつ使う事になるのかなと疑問に思ったこともあったが、今はゼノに感謝していた。


「よし、気づかれてはいないな」
「あ、あのリィン……?」
「どうしたの?」
「いえ、この格好は……ちょっと恥ずかしいかな……」
「あ…」


今の二人はリィンがエレナをお姫様抱っこしている状態になっている。


「ご、ごめん……」
「ううん、嫌じゃないの。でも状況が状況だし……」


 僕はエレナを降ろして先を急いだ。




ーーーーーーーーー

ーーーーーー

ーーー




「はぁ、はぁ……何とか逃げ出せたね……」
「うん……」


 猟兵達の目を掻い潜り僕達は何とか町のはずれまで来ていた。


「リィン、この辺には猟兵はいないみたいよ、今なら逃げられるわ」
「うん……(何か辺だ…この辺だけ猟兵が少ないような気がする)」


 ここまで来るまでに猟兵達は結構いたがこの辺に来てから数が少なくなった。


(まさか……)
「リィン、どうしたの?早く逃げましょう」
「あ、待ってエレナこれは……」


 エレナが僕より前に足を踏み入れる、その時突然銃声が響いた。


「エレナ!」


 咄嗟にエレナを突き飛ばす、すると僕の肩から赤い鮮血が吹いた。


「リィン!!」


 僕に駆け寄るエレナ、どうやら肩に銃弾が掠めたらしく血が流れている。


「見つけたぞ、〈猟兵王〉の息子よ」


 そこに現れたのは巨大なブレードライフルを構えた男と武装した数人の男達、おそらくこいつらが破滅の刃の猟兵たちだろう。


「ぐっ、焦ったか。待ち伏せされていることを警戒していなかった……」
「子供にしては中々やったと言うがここまでだ、クラウゼルの息子よ、我らの勝利のために利用させてもらうぞ」
「僕を人質にするつもりか……」
「流石だな、自分の立場を理解しているか」


 やはり敵の狙いは自分か。しかし状況は最悪だ、囲まれている上に僕は負傷してしまった。何か手段はないか……


「リィン、どういうこと……?猟兵王って何の事なの?」
「あっ……」


 そうだ、この場にはエレナもいたんだ、先ほどの会話も聞いていたはずだ。


「何だ娘、お前はこの小僧がどれだけの大物かも知らないのか?こいつは猟兵の中でも最強といわれる『西風の旅団』団長ルトガー・クラウゼルの息子だ」
「リィンが猟兵……?」
「―――ッ……!!」


 自分で話そうとはしていたが結局話せなかった、よりにもよってこんな最悪な形でバレてしまったか……でも今はこの場から逃げないと!たとえ嫌われても僕はエレナを守る……!
 

(どうする、逃げ場は無い……お父さん達は戦場にいる、助けは呼べない状況だ)
「お遊びは御終いだ、小僧を捕らえろ」
「あの娘はどうしますか?」
「任務には必要ない、殺せ」
「はっ!」


 だが状況を変えるような作戦もない。猟兵二人が僕を拘束する、そして残りの猟兵達がエレナに銃口を向けた。


「エレナ!」


 僕は暴れるが子供が大人二人の力には抗えるはずがなかった。


「大人しくしろ!」
「があッ!」


 猟兵が僕を黙らせる為に銃で頭を殴りつけた、額から血が流れる。


(―――くそッ……!僕は…何も出来ないのか!)


 大切な人が危機に晒されても自分は何も出来ない、そんな歯がゆさが胸を締め付ける。


(サクラさん、そしてエレナと約束したんだ。必ず守るって……約束したんだ!)


「リィン……助けて……」
「殺れ」
「「「はッ!」」」


 そして猟兵達が引き金に指をかけたのが見えた、必死でもがくが子供の僕では大人のこいつらを振りほどくことは出来ない。


(悔しい……僕はなんて無力なんだ……)


 空の女神、この際悪魔だっていい、この状況を打破できるなら僕の全部をくれてやる……だから力をくれ、こいつらを倒せる力を……!!








『……イイダロウ、貴様ニ力ヲクレテヤル。ソノ代ワリ貴様ノ全テハ我ノ物ダ』







「ガァァァァァァァッ!!!!!」
「な、何だ!?」

            
 頭の中に突然声が響いたと思うと突然僕から膨大な闘気が流れ出した、辺りが震えるかのような感覚に襲われ僕の意識は薄れていった……







side:??




 何が起きた……?


 破滅の刃の団長はそう思っていた、目的の獲物を捕らえ作戦は完了したかに見えた。だがリィンから凄まじい闘気が発せられ部下が吹き飛ばされた。そして彼らが目にしたのは全身から赤い闘気を発してそれを纏わせたリィンだった、だが先程と見た目が違う、黒かった髪は白く染まりアメジストの瞳は真っ赤に変化していた。


「何をしている、早く取り押さえろ!」
「「り、了解!」」


 敵団長の男に命じられた猟兵二人は再びリィンを取り押さえようとするが、男は信じられない光景を目にしてしまった。


「な、これは!?」
「ぐううッ!?」


 なんとリィンは左右の腕で猟兵二人の首を掴み締め上げていたのだ、子供が大の大人二人の首を締め上げるなどそれは誰が見ても異常な光景だった。


「ハァァァァァッ!!」
「うごはッ!!」
「げふッ!!」


 リィンは締め上げていた男二人を勢いをつけて頭から地面に叩き付けた、凄まじい衝撃にさしもの猟兵も脳震盪を起こし地面に倒れ伏せる。
 リィンは気絶した二人から手を離し残りの猟兵達を睨みつけた。


 ゾワッ……


「「「!!?」」」


 その瞬間、猟兵達に悪寒が走る。それは生物が危機的状況に陥った時に感じる危険信号だった。


「う、うおおおおッ!!」
「撃つな馬鹿!」


 猟兵の一人が危機的恐怖を感じ本能的にリィンに発砲した、それが引き金となり猟兵達が次々と発砲した。団長の男が止めるよう指示を出す、人質にするはずのリィンが死んだら元も子もないからだ。だが彼らにはもうそんなことも考える余裕がなかった、何故なら……


「銃弾を避けてやがる!!」


 リィンは迫り来る弾幕に恐れることなく歩いていく。そして自分に当たる銃弾だけを回避していた。そんな芸当は一流の猟兵ですら難しい、だが目の前の子供がそれを続行している、とてもじゃないが信じられない光景だった。


シュッ!


「き、消え……うぎゃああああ!俺の腕がぁぁぁぁ!?」


ブシュ!!


 リィンの姿が一瞬消えたと思った瞬間、猟兵の腕から夥しい血が噴出した。リィンがナイフで腕を切ったのだ、猟兵は奇声を上げながら腕を押さえていた。


「化け物がッ!これでも喰らえ!」


 猟兵の一人が手榴弾を取り出しピンを抜いてリィンに投げつけようとしたが……


「ぐあッ!?」


 手榴弾を持っていた腕にナイフが突き刺さる。そのナイフはリィンが投げた物だ、猟兵は痛みで思わず手榴弾を落としてしまった。


「しまっ……!?」


 猟兵は逃げようとしたが一瞬遅れてしまい爆発に巻き込まれた。片足が吹っ飛んで地面に転がっていく。


「う、うわあああ!」
「助けてくれえ!」


 仲間がやられたのを見て残った猟兵達が恐怖のあまり逃げ出した。今回の作戦は唯のガキを捕まえるだけのはずだ、だがあれは何だ!あんな化け物を相手にするなど聞いてない、これでは割りに合わないではないかと全員が思ったのだ。


「何を逃げている!我々は破滅の刃だぞ!」


 団長の男が逃げようとする団員達に叱責するが彼らは構わず逃げる。


「不甲斐無いゴミ達が!」
「ぎゃああ!?」


 すると逃げようとした団員達を後ろから撃ちぬいた。


「破滅の刃を名乗っていたことを恥じて死ね!」


 団長の男は更に銃を撃とうとしたがリィンが横からナイフで切りかかってきたため防御する。


「ぐッ、小僧が!!」
「守ル……僕ガ!」


 ナイフと銃でつばぜり合いをする二人、だが団長の男は素早くナイフを受け流し打撃を叩き込んだ。


「化け物め!こうなったら死なない程度に痛めつけてやる!」


 男は後退したリィンに向けて銃弾を放った。体制を崩したリィンにはかわす術などない、団長の男はそう思ったがリィンはその予想すら上回る行動を起こした。


「ハァッ!」


 リィンはすくい上げるようにナイフを振るった、その一撃は銃弾を真っ二つに切り裂く。そしてそのまま勢いを利用してナイフを団長の男に投げつけた。


「ぐッ、本当にガキか!」


 団長の男は銃でナイフを弾く。宙に浮かぶナイフ……だがリィンはそれを待っていたかのようにナイフ目掛けて跳躍した、そしてナイフを掴み投げつける。


「まさか俺が弾く事を考えて投げてたのか、だが甘い!」


 団長格の男は今度は弾かずナイフをかわした。確かに驚いたがかわせない訳ではない、団長の男はそう思った。


「ふふッ……がぁ!?」


 的団長の男の右目に何かが刺さる。


「これはガラスの破片か……!」


 敵団長の男の右目に刺さったのはガラスの破片だった。先ほどリィンは密かに落ちていたガラスの破片を拾っていた、そしてナイフに注意を引かせ油断した所にガラスの破片を投げて刺したのだ。
 さしもの猟兵も目にガラスが刺さって落ち着いてなどいられない、思わずリィンから目を離す。その隙を見逃さなかったリィンは踵落としの体制に入った。


「砕ケロッ!!!」


 敵団長の男の首に踵落としが決まった、油断していた男は気を失ったのかそのまま倒れた。








side:リィン




「はぁ、はぁ……今のは……一体……何だったんだ?」


 僕の意識が戻り周りを見てみると破滅の刃の猟兵達が地に伏せていた。腕から血を流す者、何かの爆発に巻き込まれたのか足が吹き飛んだ者……うッ!?


「うぶ、おぇぇぇぇぇッ!!」


 凄まじい不快感が体中に走り思わず嘔吐してしまった。何となくだけど覚えてる、自分が自分じゃないみたいになって……人を傷つけた……!!


「おえええッ!……はぁ、はぁ……僕が人を……」


 意識がはっきりしてなかったとはいえこの手にはっきり残っている、人を切り裂いた感触が…震える体で呼吸を落ち着かせようとするが……


「……リィン」
「!?エ、エレナ……」


 エレナに声をかけられ僕は狼狽した、先ほど最悪の形でバレた自分の正体…こんな事が起きたのだ、きっと嫌われただろう。


「エレナ、僕は君に本当のことが言えなかった。僕は君に嫌われるのが怖かったんだ、誤っても許してはもらえないと思う。でも本当にごめん……」
「……薄々だけど分かってた」
「えっ?」
「狼の魔獣を倒したときもさっきの猟兵の気をそらした時も貴方は何だか場慣れしているように感じたの」
「あ……」


 僕は確かに場慣れしているためそこまで慌てたことはなかった、だがまだ年端もいかない子供が魔獣との戦いに慣れていたり、戦場でも落ち着いているのを見れば誰が見ても異常だろう。


「……でもそんなの気にしなかったわ」
「!?」
「だって貴方はあの時の猟兵とは違うじゃない。貴方は私を支えてくれたわ、そんな傷を負ってまで……そんな優しい貴方を嫌いになんてなれる訳ないじゃない。貴方は大切な友達なんだから」
「エレナ……」


 ……何だ、もっと早く話しておけば良かった。そんな後悔が心に浮かんだ、でもそれ以上に嬉しかった。たとえ猟兵と知っても自分を受け入れてくれたから……


「うぅ……」
「リィン!」


 僕はフラフラとその場に膝を付く、よく分からない自身の力を使ったため身体がかなり消耗してしまったようだ。


「リィン、大丈夫?」
「ちょっと無茶しすぎたみたいだ、動けそうにないや……」
「肩を貸すわ、ほら掴まって」


 エレナが僕に肩をかして立ち上がる。


「ごめん、迷惑かけて……」
「気にしないで、今度は私が貴方を助ける番よ」
「エレナ……」
「頑張りましょう、二人で生きぬくんだからね」
「……うん!」


 そして僕達が歩き出そうとした。が……


「―――!危ないリィン!」
「……えっ」


ダァンッ!


 エレナが僕を突き飛ばす、その時銃声が響いた。するとエレナの胸に赤い染みが浮かび上がりそこから血が流れる。


「リィン……」
「エレナぁ!?」


 僕はエレナを抱きかかえる、エレナの胸から血がダクダクと流れ僕の手が赤く濡れていく。


「小娘が、邪魔をしやがって」
「お、お前は破滅の刃の……どうして」
「あやうく気を失うところだったが爪が甘かったな」


 どうやら気を失ったフリをして隙をうかがっていたようだ。奴が持つ銃から弾薬の匂いがする。


「お前がエレナを……!」
「ここまでコケにされたのは生まれて始めてだ、まさかこんなガキにここまでやられるとは……こうなったらもはや人質など関係ない、お前ら二人とも殺してやる」
「お前、僕の捕獲が目的じゃなかったのか?」
「もはや作戦続行などできぬ、俺はここでオサラバさせてもらおう」
「なッ!?自分の団員を見捨てるというのか!」


 僕は奴の言葉に驚きを隠せなかった、自分の仲間を見捨てるとこの男は言ったからだ。


「どのみち破滅の刃は御終いだろう。だが俺さえ生きていれば団などまた作れる、お前らさえ殺してしまえばルトガーに今回のことがバレたりはしない」
「だけどお前の陽動部隊がいる、彼らがこのことを吐けばお父さんは決してお前を許さないぞ!」
「問題ない、奴らには今回の作戦は伝えていない、別の作戦として伝えているからな」
「最初から捨て駒にするつもりだったのか!」


 なんて奴だ、仲間を……家族を道具のように使うなんて……西風の皆は決してしない行動をコイツはいとも容易くしようとしているのか!


「今回の作戦が成功したなら俺の名は更に売れるが負けたならリスクはデカイ。相手は〈猟兵王〉だからな、万が一負けた時の保険は必要だろう」
「自分の仲間をそんなことに使うな!それでも猟兵か!」
「なんとでも言うがいい。陽動部隊も限界だろう、そろそろオサラバさせてもらおうか」


 男はあざ笑うように銃口を僕に向けた。


「くそっ、こんな奴に……!」
「クラウゼルを殺れなかったのは残念だがまあお前を殺せば奴は絶望するだろう、愉快なことだ」
「お父さん……皆……ごめんなさい……」
「じゃあな」


 クソッ、こんな所で死ぬなんて……


 目を閉じて死を待つがいつまでたっても銃弾が飛んでこない、恐る恐る目を開けるとそこには自身の右腕が地面に落ちてそれを唖然とした様子で見ている男の姿だった。


「……はッ?」


 僕ですら状況が読めない、腕を斬られた男も一瞬理解が出来なかったんだろう。だが自分の腕が地面に落ちたということは……


「―――――!?ギャァァァァァァァァァァッ!!!!!」


 脳がそれを認識した瞬間想像を絶する痛みが男を襲ったんだろう。訳が分からない、何が起きたんだ?


「よお、俺を呼んだか?」
「!!……そ、そんな馬鹿な、いるはずが無い、何故……何故此処にいるんだ!」


 男に声をかけた者、それは僕がこの世で一番尊敬する人物……


「お父さん……!」


 〈猟兵王〉ルトガー・クラウゼルだった。


「マリアナ!早くリィンとその子を手当てしろ!」
「了解!」


 お父さんだけでなくマリアナ姉さんも駆けつけてくれた。


「姉さん、どうして此処に……!」
「ルトガーが胸騒ぎがするからって向こうはゼノ達に任せて駆けつけたの。ルトガーの勘は信じられないほど当たるから来てみれば……ごめんね。遅くなって」
「姉さん、エレナが、エレナが……!」
「分かってる、すぐに応急処置をするわ!」


 姉さんは戦術オーブメントと呼ばれる道具を使い回復の魔法(アーツ)をエレナにかけた。


「き、貴様はルトガー・クラウゼル!?何故ここにいるんだ!」
「胸騒ぎがしたから駆けつけた、それだけだ」
「そんな非科学的なことがありえるか!」
「んなこたどうでもいいだろ?テメェ……なんも関係ないこの町の人たちを、そして俺の大事な息子を傷つけやがって……」
「ぐッ……ま、待て!落ち着くんだ!」
「ふざけてんのか?ここまでしといて見逃すとか思ってんなよ?」
「思っていないさ、何故なら……」


 敵団長の男は、懐から何かのスイッチを取り出した。


「切り札は最後まで取っておいたからな!」
「!?」


 男が左手で何かのスイッチを押した瞬間お父さんの周りの地面が爆発を起こした。


「お、お父さんッ!?」
「はッ!いざという時の為に爆弾を仕掛けておいたのさ、それもA級遊撃士が対応するような魔獣すら葬りさるほどのな。流石の〈猟兵王〉とて無傷ではいられまい!」


 男はそういって逃げようとするが……


「―――――ぎゃあ!?」


 急に地面に倒れてしまう、よく見ると男の左足が膝からすっぽりと消えていた。


「―――――!あ、足がァァァァァッ!?」


 男の左足が無くなっていた……いや、斬られていたのだ、痛みも感じないほど早く鋭い斬撃で。
 男は腕を失ったときよりも大きな痛みで辺りをのたうち回っている、こんなことが出来るのは一人だけだ。


「逃がすかよ」


 そこに爆発に巻き込まれたお父さんが立っていた……ジャケットが少し焦げただけで全くの無傷だ。


「馬鹿な……大型魔獣すら葬りさるほどの威力を誇る爆弾だぞ!?息子共々化け物か!」
「随分と足掻くじゃねえか、猟兵なら覚悟決めろよ?」
「い、嫌だ……俺は死にたくない……!」
「……」
「た、頼む、助け……」


 男はそれ以上話すことはなかった、お父さんの斬撃でバラバラに斬られたからだ。


「今までの人生で、そんな情けない事を言って死んだのはお前が初めてだ……」


 平和な街を滅ぼした〈破滅の刃〉、それを率いた敵団長の最後は余りにもあっけなかった。


「マリアナ、その子の容態はどうだ!」
「急所を撃たれているわ、これはもう……」
「そんな!?ぐっ、俺がもっと早く来ていりゃ……!」


 カタを付けたお父さんはマリアナ姉さんにエレナの容態を確認する、だが帰ってきたのは非常な言葉だった。


「エレナ……どうして君が……本当なら僕が死ななくちゃならないのに……僕のせいでこんな、こんな……」
「リィン……」
「エレナ!?」


 僕は自分の名前を呼ぶエレナに駆け寄る。


「リィン、貴方は何も悪くないわ。自分を責めないで……」
「全部僕のせいだ!僕さえいなければ奴らは町を襲わなかったかもしれない……全部僕のせいで……」
「そんなことないわ、私は貴方と出会えて…沢山の宝物を貰った。貴方と過ごした時間は……私にとって
何よりも……大切な物だったわ、だから貴方がいなければいいなんて言わないで……」


 エレナは血の付いた右手で僕の頬を触る、僕はその手を取って涙を流した。


「でも僕は君を守れなかった。結局何も出来なかった……サクラさんと君と約束したのに……」
「貴方は最後まで私を守ってくれた……どんなに傷ついても……こうなったのは私が望んでしたこと……」
「……どうして、どうして僕なんかを助けたんだよ?」
「貴方は私の大切なお友達だから……体が勝手に動いちゃった……」
「エレナ……」


 段々と僕の手を握る力が弱くなっていく、嫌だ……こんな結末なんて……!


「ねえリィン……私ね、貴方と旅がしたかった。貴方といろんな所に行きたかった……」
「行けるよ!いくらだって行ける!だから諦めるなよ!」
「ふふっ、そうね……行けるよね……貴方と……いっしょに……」
「エレナ……嘘だろ!目を開けてよ!一緒に旅しようって約束したじゃないか……エレナ、エレナぁぁぁぁぁぁぁッ!!!!!」

 
 僕は動かなくなったエレナの手を握りながら号泣した、お父さんは悔しそうに俯きマリアナ姉さんもまた涙を流していた。
 西風の旅団と破滅の刃……その決着はあまりにも悲しい結末で終わりを迎えた。





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ーーー





 ―――――あの後西風の旅団は破滅の刃を壊滅させ代理戦争に勝利、見事依頼者を勝利に導いた。
 その後僕達は報酬を受け取りそのお金で今回犠牲になった町の人たちの墓を作った、自分達が原因でもある今回の惨劇…決して許されはしないだろう、だが少しでも罪滅ぼしになれば…そう思ってのことだった。 
 そして数日後……



「………」


 森にある花畑…そこには小さな墓が二つあった、エレナとサクラさんの墓だ。僕はエレナが好きだったこの花畑に墓を作った、彼女の大切な家族と一緒に……
 

「やっぱりここにいたか」
「……お父さん」


 そこに現れたのはお父さんだった、僕の隣に立ち手を合わせた。


「今回はすまなかった、俺がもっと早く気づいていれば……」
「いいんだ、お父さん。結局僕は彼女を守れなかった、それは変えようの無い現実だ」
「…………」
「……お父さん、いや団長、貴方にお願いがあるんだ」
「………何だ、言ってみろ」
「僕を猟兵として鍛えてほしい」
「……!」


 お父さんはじっと僕を見た、今まで見た事もない真剣な表情で俺を見つめていた。


「何故猟兵になりたいんだ?」
「強くなりたいんだ」
「なら悪いことは言わねえ、猟兵だけは止めておけ」


 お父さんはキッパリとそう言い放った。


「猟兵は表で生きていけなくなった人間か戦う事でしか生きていけない異常者がなるモノだ。強くなりたいんだったらエレボニア帝国で剣術でも習えばいいだろう、アルゼイド流やヴァンダール流っていう有名なモンがあるし剣術がイヤなら泰斗流っていう武術もあるぜ。なんなら遊撃士だっていいんじゃねえか?魔獣と戦って実戦もこなせるしな」
「猟兵がいいんだ」
「あのなぁ……分かってるのか?猟兵はミラさえ貰えばなんだってする腐れ外道だぞ?殺しも誘拐もなんだってやるんだ。お前にそんなことが出来るのか?」
「やるさ。それが必要ならば僕は……」
「いい加減にしろ!」


 お父さんの拳が僕の頬を殴りぬいて大きく吹っ飛ばされた。口の中が切れて血の味が広がっていく。


「テメェ、自暴自棄になってんじゃねえぞ!あの子を守れなかったからって自分を苦しめても何も解決しないだろうが!」
「僕は……僕はあの男を殺せなかったんだ!」


 本気でキレたお父さんに僕は必至の形相でそう言い放った。


「もし僕が確実にアイツを仕留めていたらエレナは死ななかった!エレナを死なせたのは僕の甘さなんだ!」
「それは……」
「世界は残酷だ、優しさだけじゃ何も救えない……誰かを守るには誰かを傷つけるしかないんだ。弱気を守る遊撃士や高潔な騎士じゃなくて……相手を殺してでも生きようとする猟兵じゃなきゃ……僕は……」
「リィン……」


 僕は泣きじゃくってそう叫んだ。あの時暴走していたとはいえ僕の頭の中には相手を殺す選択が無かった、話し合いで納得するような人間じゃないって既に分かっていたのに僕は戦闘不能にしかしなかった。その隙を突かれてエレナは死んだんだ。


「……お前の覚悟は分かったよ、よく分かった」
「―――――!それじゃ……!」
「だが一つだけ約束してくれ。自分から死ぬような選択はしないでほしいんだ」


 お父さんはさっきとは違う悲しそうで辛そうな表情で僕にそう言った。


「お前は俺にとって血は繋がっていないが大切な息子なんだ、もしお前に何かあったら俺はきっと立ち直れなくなっちまう。だから自分から死ぬような選択はしないでほしいんだ。俺の心を守るために」
「……分かった。僕は死なないよ、お父さんを悲しませたくないから」
「そしてもう一つだけ約束してほしい、優しさを捨てないでほしいんだ」
「優しさを……?」


 お父さんの口から出たのは優しさという意外な言葉だった。


「お前の言う通りこの世界は綺麗事ですまない事もある、殺さなければならない糞野郎もいるのも確かだ。でもな、その手段だけは安易に選ばないんでほしいんだ。優しさを捨てちまった強さは唯の殺戮だ、猟兵以下の化け物になっちまう。仮にその選択を迫られたとしても最後の最後まで悩んで殺す手段を選んだとしても命を軽んじるようなことはしないでくれ」


 お父さんの目には少しだけ悲しさと後悔の色が浮かんでいた。もしかしたらお父さんも僕と同じように大切な人を失った過去があるのかもしれない。じゃなきゃこんな優しい言葉をかけてくれるはずがないもん。


「……うん、分かった。絶対に命を軽んじたりしないよ……その、さっきはごめんね。お父さんの言う通りちょっとだけヤケになってたと思うんだ」


 お父さんに諭されて頭が冷えた僕はさっきまで戦って死んでもいいと思っていた事を恥じた。


「俺の方こそごめんな、お前の大切な子を守ってやれなかった。お前にそんな選択をさせちまった俺は親として失格だ」
「お父さん……」
「ならせめてもの償いとしてお前の力になろう」


 お父さんはクシャリと僕の髪を撫でてくれた。


「お前にはこれから先猟兵としての特訓を受けてもらう、死んだほうがマシと思うくらい厳しくいくからな。一回でも弱音を吐いたりしたら猟兵にはさせん、心していろ」
「———はいッ!」
「よしそれじゃ行くぞ、いつまでもここにはいられないからな」


 僕達は花畑を後にした。











(エレナ、僕は行くよ。もう君のような悲劇は起こさせないために強くなる……だからエレナ、空の女神様の元で見守っていてくれ)



 
 

 
後書き
次回は修行辺とリィンのデビュー戦を書こうかなっと思っています、因みに相手は…まあそれは次回までの内緒ということで……


ーーー オリキャラ紹介 ---


『エレナ』


 金髪のショートヘアーの女の子でどことなく英雄伝説のレンに似ている。幼い頃に両親を猟兵に殺されて猟兵を恨んでいた。リィンにとっては初恋の人。


『サクラ』


 エレナの姉で金髪をポニーテールにした女性。エレナが幼い頃に亡くなった両親の代わりにエレナを女手一つで育てていた。アップルパイが得意料理。


 キャラのイメージは『Fate/stay night』のセイバー。

 
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